「─────ぐへぇ」
1人、殴り飛ばされて宙を舞ったスケバンが、路駐のセダンのボンネットに落ちて大きく凹ませる。
「─────おぶっ」
「─────どわっ」
複数人が蹴りに巻き込まれ、土煙をあげて転げ回る。それぞれ勢いよく電柱へぶつかるものや、及び腰ながらなんとか銃を構えるものの足元へ転がり込むもの、そのまま力なく地面に伏せて動かないものに別れた。
「おら、次はどいつだ?」
「な、なんだよこれ」
「ばけ、もの……」
「なんなんだよ、こいつっ」
なんとか立つものたちも後ずさり、震える銃口をなんとかこちらへ向けようと両目ををかっぴらき汗をダラダラ垂らして踏ん張っていた。
「仕方ねぇ、か」
左手で掴んでいた銃を持ち直す。ポンプアクション式散弾銃の
街路樹に銃口を向け、両手でグッと握り込み、トリガーを引いたままポンプアクションを繰り返す。2秒で5回、銃声が響いた。
「ひ、ひぃぃ」
2割ほどの細さになって倒れる街路樹にひとりが悲鳴を漏らす。スラムショット、ポンプアクションと同時に連続で発射された散弾は街路樹をあっという間に打ち砕く。通常なら反動で照準がブレるそれも、俺のパワーでねじ伏せれば大した問題ではない。
そして、ヒナでさえモロに喰らえばたまったものではないだろうと零すそれは、確実に相対する相手の心をへし折った。
「にっ、にげろぉ!」
「なんだよ、空崎ヒナに負けて牙抜かれたんじゃなかったのかよ!」
「つえぇよ!おぼえてろぉ!」
撤退だ、そいつ運んでやれ、私は逃げるぞ。蜘蛛の子を散らしたように走り去るスケバンの群れの背中を眺め、乱れた髪をかきあげる。
「ったく、なんだってんだ、おい」
未だ熱を持った愛銃にショットシェルをリロードし、そして。
「っと」
銃声とほぼ同時に頭部へと着弾する弾丸を何とか左手でキャッチする。手のひらがじんじんと痺れた。
熱を持った銃弾を
「おいおい、随分な挨拶じゃねぇか
「……久しぶりの再開、そのちょっとした余興じゃない。それともお気に召さなかったのかしら?」
「おう、そりゃもちろん。あんな雑魚並べて俺が喜ぶと思ってんのか」
「それもそうね」
ロングコートの女が目を細めニヒルに笑う。クール気取って高所から俺を見下すとは、ずいぶんといいご身分なこって。内心でそう毒づいた。
「満足させてくれるのなら、ヒナかアビドスのチビ連れてきな」
「ふっ、それは無理な相談ってものよ」
「無理なら来んな。二度とツラ見せんじゃねぇ」
「それこそ無理。だって、今回ばっかりはなんとしても貴方を捕まえなきゃならないんだから」
だから、そう前置いて彼女、陸八魔アルはコートを翻し叫んだ。
「─────今よ、ハルカ!」
「はい、アル様……っ!」
△
「─────アル様ぁ……」
「ったく、小賢しいことしやがって」
イライラとした様子でタバコに火をつける彼は、あっさりと殴られて気を失った鉄砲玉、ハルカを肩に担いでこちらに歩いてくる。
「はぁ、どうするの社長」
「……ど、どうしましょう」
「…………」
ガタガタと震える社長を横目に、重たいため息がこぼれる。
─────だから
今回の依頼主は、ブラックマーケットに
あの空崎ヒナの手によって平定される前の彼は、邪魔をするものや気に食わないものがあればその全てを破壊していた。そして大人しくなった現在も、彼から被害を受けたことのある者たちはこぞって復讐の機会を求めているのだ。
「あの化け物を捕まえて欲しい。そんな依頼で傭兵へのギャラも弾薬も経費で向こう持ち、前払いもそこそこで達成報酬もかなりのもの。いやぁ、アルちゃん。ちょーっと見積もり、甘かったんじゃない?」
「う、うるさいわねムツキっ」
「くふふっ」
ダラダラと冷や汗を流す社長をニマニマと笑うムツキ。たしかに、いくら気前が良くてお金も手に入る依頼だったからと言って、
前払いのお金で食べられた柴関ラーメンが久しぶりに一人一杯だったことが嬉しかったのか、そんな忠告は気にもしていなかったようだ。そのツケが回ってきたか。
「……でも、実際そうとしか言えないよ」
「カヨコまで……。だって、あの人ってヒナに負けるくらいだから何とかなるかなって……」
「ちがう。
現に、風紀委員会と“万魔殿”の合同演習で無双したという彼の噂だって流れてきている。普通じゃないのだ、彼は。
「聞いてなかったよねぇ、昨日カヨコっちが教えてくれたこと」
「……えぇっとぉ」
「あの人、“万魔殿”の重戦車も殴って壊すし、空崎ヒナと真っ向から殴り合うんだって。それにすっごい頑丈なんだっけ」
「タフだよあいつ。小隊の最大火力の集中砲火くらってもケロッとしてるし。そこでいえばヒナ以上で、小鳥遊ホシノとタメ張れるくらいには凄い」
「そ、そこまでなの、彼……?」
「うん」
もう少し、交戦相手の情報を調べておいて欲しいものだが、まぁ仕方がない。今はとにかく、目をギラつかせる彼をどうにかしなければならない。
「ムツキ、爆薬は」
「カヨコっちの言う通り、ブラックマーケットで仕入れといたよ。こっちのバッグにたーんまり」
「おっけ。社長は援護射撃よろしく」
いつものカバンともうひとつ、少し質素で使い込まれた黒いバッグを自慢げに持ち上げるムツキ。それを確認した私は“デモンズロア”からサイレンサーを取り外し、のチャンバーをチェックする。
「んじゃちょっと行ってくるから、ムツキは打ち合わせ通り準備して息殺しといて。社長、大丈夫?」
「おっけー!」
「えっ、ええっ!」
「……そう」
若干挙動不審ながらも“ワインレッド・アドマイヤー”を構えた社長を確認し、ゆったりと歩くゴウを見据える。
「おっ、なんだ。やんのかカヨコぉ」
姿勢を低くする私を見た途端、吸いきったタバコを藻掻くハルカのおしりに押し当てる。そのままハルカを放り投げると、ショットガンを右手にニヤリと笑った。
今だ。背後から聞こえたムツキの走り出す足音と同時に、私は低い姿勢のまま駆け出した。
「さぁ、こいっ。受け止めてやんよ……っ」
「─────っ」
右手でショットガンを突き出す。ギリギリと引き金に指をかけるが、しかし。
─────それはブラフでしょっ。
距離おおよほ100m。見ていた限り、新しく装填していたのは全てショットシェル。彼はケチだ。当たらない距離で無駄な弾は撃たない。
それに、私に集中している限りゴウは。
─────社長の狙撃なんて警戒
「っな!?」
かんだかい金属音と共に彼の右手からショットガンが弾かれる。あんな社長でも狙撃の腕は一流だ。彼の手のうちが緩んだ瞬間に彼の銃だけを撃ち抜くことなんて簡単にやってのける。
後方でドヤ顔をしているであろう社長に心の中で感謝しつつ、目をかっぴらく彼へと急接近し。
「カヨコォ!」
「うっさい、なぁ!」
私目掛けて振り下ろされる左の拳に、再び社長の放った銃弾が刺さる。続けて“デモンズロア”が空間を引き裂く雄叫びをあげた。
─────効かないか。
止まる様子のない彼の血の吹き出す拳が、咄嗟に翻した私の身体を掠めていく。銃弾は彼の腹部2発、モロに入ったのだが、応えた様子はない。
「っるせぇなぁ。やかましいのは好きじゃねぇんだよ」
「へぇ、いい
しゃがんだ私の頭の上を、右拳が空気を割いて飛んでいく。おかえしに無防備な彼の脛へとローキックを放つ。
「……硬っ」
「へっ、優しいなぁ!」
弾き返された左足がジンジンと痛む。だが、ここで折れない。低い姿勢はそのまま、“デモンズロア”を彼の足の付け根、股間目掛けて振り上げる。
「1年もたちゃあ、趣味も変わるんだ─────がっ」
「ほら、これは効くでしょ……っ」
見上げれば、そこを狙われると思っていなかったのか目をひん剥いて愕然とした彼の顔。 どうやらダメージは確かに通ったようで、あの彼が数歩よろめいた。
「ふぅん、結構効いてるじゃん」
「おま、そこは反則だろ……っ」
「知らないよ、反則なんて。喧嘩にルールなんてないって言葉、誰が言ってたっけ」
「くっそぉ……っ」
見たことの無いくらい冷や汗を流す彼を正面に見据えながら、視界の端に大きく手を振るムツキの姿を見た。
─────ダメ押しに、もう1発っ。
体勢を立て直す彼に向けて3発打ち込むと、若干内股ながらも易々とそれをキャッチする彼。おかげで再び、彼の股座を守るものはなくなった。
「そこねっ」
「─────なぁ!?」
「ナイスショット、社長っ」
再び股間を抑え、そして今度はガクりと膝をついた彼。これで、蹴りやすくなった。
私の左足が彼の顎を砕きにかかり、鈍い音と共に直撃する。みしり、と嫌な音を立てて熱を持ち始めた足。それも気にせず、私はムツキにハンドサインを送る。
隣の建物の屋上。バチりとウィンクするムツキが、バッグを振りかぶり、投げた。
「っあだ」
「ハルカっ」
「はっ、はいっ」
ぼんやりとするうちに頭頂部へバッグの直撃をくらうゴウ。よろめいた彼を他所に、痛む足に鞭打ってハルカを回収して距離をとる。
そして、ドカン。
「う、うぇぇぇぇっ!?」
「よしっ」
「クリティカルでしょこれっ」
轟音、風、そして熱。ハルカと共に咄嗟に身を伏せると、それらと共にいくつかの破片が飛んできた。
想定していたよりも大きな爆発に若干冷や汗をかくも、流石のゴウもこれにはダメージが通るはず。久しぶりにやれた予算度外視の発破の出来に喜ぶムツキ。彼女が着地したその横で、駆けつけた社長がドヤ顔で立っていた。
─────あ、不味いかも。
「やったわね!さぁみんな、今日の晩御飯は豪勢にいくわよ!」
土埃をはらう私とハルカの元にに、爛漫とした笑顔を浮かべた社長がそう言って歩いてくる。手遅れだった。
晴れていく煙の中、ひざまづいたまま動かなかった彼が、立ち上がる。
「─────だぁれを、やったってんだァ……?」
「社長、それ言っちゃダメなやつだって」
「……え?」
「うそぉ」
「そんな……」
立ち上がるとは思ってもみなかったのだろう。私以外の全員が驚いて彼を見ている。
「美味いもん、食いに行くんだろ?混ぜろよぉ」
バカで愚直で考えなし。トラップも不意打ちも何でも簡単に食らう彼。そんな彼がここまで強い理由の1つ。
─────絶対に、倒れないんだよね……っ。
ミレニアムの“ダブルオー”なんてのとやり合うと千日手だなんて話も聞いたことがある。面倒なことこの上ないと新しい弾倉を叩き込み、再び彼へと向き直る。
「カヨコ……」
「みんな、せっかくここまで来たらやりきるしかないよ。中途半端に終わらすとあのバカ、根に持つから」
「ヤル気だねぇ。カヨコっちに策ありって感じ?」
「ない」
「な、ないんですかぁ!?」
オロオロとするハルカの肩に手を置いて、ニマニマと笑うムツキとそっと目を伏せる社長を見る。
「何してんだよお前らァ!楽しぃお話なら混ぜてくれよぉ!」
「……社長、あれもうやるしかないよ」
「そう、ね」
「てか、正気じゃないよね、あれ……?」
「カァヨォコォちゃぁん!」
「ふ、普通じゃないですよあれ……っ」
「あっ、陸八魔だァ!」
「なんで苗字なのよ!?」
大きく手を振って残っていた土煙を吹き飛ばすと、白目を向いたままの彼はにんまりと笑って歩き出す。
「便利屋ぁ、何しに来たァ」
「…………え、全部忘れてない!?」
「流石にキャパオーバーだったのかなぁ」
「頭にダメージくらいすぎたんでしょ」
「あ、あれ以上おかしな人に……」
「ちょっとハルカちゃん、笑わせないでよぉ」
「笑ってる場合じゃないから」
再び重たいため息がこぼれる。
「社長」
「えぇ、便利屋68、今度こそあいつを倒して、美味しいものを食べに行くわよ!」
「はいっ、アル様っ」
「いいねぇ、気張ってこー!」
「本気でいくよ」
社長の声とともにすぐさま突撃して投げ飛ばされるハルカを尻目に、限界を超える足に力を込めて銃弾を叩き込んだ。
△
「ただいまぁ」
「おかえりー。って何があったの!?」
「うわっ、全身ボロボロじゃん。火薬臭いし、なんかに襲われた?」
「おう、便利屋にな」
「便利屋かぁ。あっ、コロッケあるけど食べる?エリカちゃんが買ってきてくれてさぁ」
「駅前の肉屋のが安くなってたからついね」
「おっ、前のデートで寄ったとこか?」
「……そうだけど、デートじゃないし」
「なにそれ、あたし知らないんだけど!呼んでよ2人ともぉ」
「下校中に寄っただけだって。てかゴウちゃん先風呂入ってきて。くっさい」
「あいよ。……一緒に入るか?」
「狭いからやだ」
「つれねぇなぁ」
△
「へいお待ち。……で、嬢ちゃんたち、昨日の今日で随分やつれたな……?」
「そうね、ちょっと、依頼達成のために頑張ってきちゃったから……」
「まだ、座るとおしりが痛いです……」
「ハルカちゃん、ずっとおしり狙われてたもんねぇ」
「ムツキも、お腹んとこに手入れられて変な声出てたじゃん」
「うぐっ。……まぁ、がっつりパンツ見られてたカヨコっちにそんな事言われてもなぁ」
「うっさい。今日のは見せパンだからいいの」
「ちょっと、私なんておっぱい揉みしだかれたのよ!?もうお嫁にいけないわっ」
「……いったい、何を相手にしてきたんだ……?」
「うん、すごく儲かるけど心底面倒臭いヤツ、かな」
「あっそうだ。さっきニュースで流れてきたけど、例のマフィア残党、壊滅したってー」
「……え、それって」
「はぁ……。結局、タダ働きってこと」
「な、な、な」
「何ですってぇーーーーーー!?」
頑張ってみたけど戦闘シーン苦手かも。
感想とかお気に入りとか高評価とか誤字報告とかまぢ感謝です。
あとゲヘナの評価いっぱいになったらもういっこピンクやって4作品体制で回します(?)