盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~   作:上山マヤ

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第100話 人形遣い

 大理石のような大階段を上っていく。

 宮殿型のダンジョンは、あまり複雑な迷路構造にはなっていないみたいだ。

 低層と違って壁に照明が埋め込まれていない。

 

 追尾する照明スキルや、クリスが杖の先に灯した魔法の光が頼りだった。

 

(俺は中層を飛ばしてしまっているから分からないけど、低層はかなり親切な設計だったんだな)

 

 探索班が先行して索敵と(トラップ)の解除を行う。

 モンスターと遭遇(エンカウント)したら、戦闘班が素早く前へ出る。

 組織的なダンジョン攻略が続いていた。

 

 戦闘班は、弓使いのエリック。

 魔法使いのクリス。

 そして、大剣使いのカートだ。

 

(あの3人は、ずっと一緒に組んできた固定パーティなのかな)

 

 息の合い方が尋常ではない。

 

「ユラ、平気?」

「平気よ。大丈夫だから、何回も聞かないで」

 

 ユラが少し苛立ったように答える。

 

「わかったよ」

 

(ユラの尻尾の毛が逆立ってるな……)

 

 緊張しているっぽいな。

 そりゃ、初めてのダンジョン探索が深層だもんな。

 無理もない。

 

「前方、数4! 属性、土!」

 

 先行していた情報班の1人が鋭い声を上げた。

 暗がりから現れたのは、岩石で構成された巨大なガーゴイルのようなモンスターたちだった。

 

「クリス!」

「了解!」

 

 エリックの短い合図で、クリスが素早く支援魔法を付与する。

 相手の数や属性によって、クリスが選択する魔法は瞬時に変わる。

 今回はカートの武器に水の属性を纏わせ、岩の装甲を脆くする算段だ。

 

 エリックが放った矢が、敵の関節の隙間を正確に射抜く。

 敵の動きを鈍らせた。

 何らかの弱体化(デバフ)効果が乗っているようだ。

 

「はっ!」

 

 そこへカートが飛び込む。

 水気を帯びた大剣で岩のモンスターを易々と両断していく。

 アタッカーはカート1人だけでこなしているように見えた。

 

(凄い、無駄な動きが全くない……)

 

 俺が感心している間に、強固なはずの深層のモンスターたちはあっさりと殲滅されてしまった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「よし、ここが最初のポイントだ。罠が無いことは確認できている。ユラ、頼む」

 

 エリックが弓を下げて振り返った。

 そこは、大広間の中央でも端でもない、中途半端な場所だった。

 壁際には古びた長椅子がいくつか並べられている。

 

「……わかったわ」

 

 ユラが静かに前に出る。

 

(上手くいくのか?)

 

 ヘグムで電気柵の残滓を読み取った時は、対象に触れずに〈残香読(ざんこうよみ)〉を使えていた。

 でも今回は、目標になるものが何もない。

 ただの空間だ。

 

 ユラはゆっくりと両手を広げ、目を閉じた。

 

 少しして、彼女の鎖骨に朱痕(しゅこん)が浮かび上がった。

 欠けた月のような紋様が、鼓動に合わせて赤く明滅し始める。

 

「……この声……は」

 

 不意にユラの体が揺れ、膝から崩れ落ちた。

 

「ユラ!」

 

 俺は急いで駆け寄った。

 

「来ないで!」

 

 ユラが片手を突き出して俺を制止する。

 膝をついたまま、彼女は荒い息を吐きながら続けた。

 

「……まだ、王都を……はっ……」

 

(鼻血が!?)

 

 ユラの鼻から、赤い筋が流れる。

 マナの許容量を超えかけている証拠だ。

 

「ユラ! もうやめろ!」

 

 俺は制止を振り切ってユラを抱きかかえた。

 彼女の体はひどく熱く、息は途切れ途切れになっていた。

 

「……見つけたわ。間違いない、ルードよ」

「ルード!?」

 

(あいつが、この場所に居たのか!?)

 

「どうやら、当たりのようだね」

 

 エリックが顎に手を当てて静かに呟く。

 その時だった。

 

「ん? 何の箱だ? 前にこの階層の調査に来た時に、こんなのあったか?」

 

 離れた場所を調べていた情報班の1人が、壁の窪みに置かれた黒い箱を指差した。

 

「トラップの可能性が高い。〈解析〉してみろ」

 

 別の情報班の男が指示を出す。

 それを聞いたユラの目が、見開かれた。

 

「ダメ! その箱は――」

 

 ユラが喉が裂けるような声で叫んだ。

 しかし、すでに情報班はスキルを発動させていた。

 

 空間が弾けるような異音が響いた。

 突如として、広間のあちこちの空間が歪む。

 マナの渦が巻き起こる。

 次元の裂け目から、モンスターたちが溢れ出してきた。

 

「タケルさん! 下がって!」

 

 後方待機班のチャドが、俺とユラの前に勢いよく飛び出してきた。

 

「〈アイアン・スキン〉!」

 

 チャドが丸い盾を構えると、彼の身体が鋼鉄のような輝きを帯びる。

 迫り来る数体のモンスターの爪牙を、小さなドワーフの青年が鉄の壁となって完全に押し返した。

 

「数、20以上います! 空間の歪みから、どんどん増えていきます!」

 

 情報班が血相を変えて報告する。

 

「やっかいだね。調べると発動するタイプの(トラップ)だったみたいだ」

 

 エリックが冷静に状況を分析する。

 

「クリス、敵の数が多い。支援に徹しろ」

「了解!」

 

 クリスが杖を天に掲げ、広範囲の支援魔法を付与する。

 青白い強化の光が、カートの屈強な身体を包み込んだ。

 

「はっはは!」

 

 カートが獰猛な笑い声を上げ、巨大な大剣を掲げて敵の群れへと突撃する。

 一振りで数体の変異モンスターを巻き込んだ。

 圧倒的ななぎ払い。

 

(シャンデも戦闘中にあんな風に笑ってたな……)

 

 まさに竜巻のような突破力。

 この数の敵を前にしても、全く恐れる様子がない。

 

(それにしても、異常な数だ! まだ増えてるぞ!)

 

「エリックさん! 俺も手伝います!」

 

 俺はユラを安全な壁際に寝かせ、ベルトから杖を抜き放った。

 

「タケル、君の仕事は待機だ。スキルの使用を許可するのは、ユラを守る時だけだ」

 

 エリックの冷たく、有無を言わせない声が俺を縫い留める。

 

「……っ!」

「まあ、たしかにちょっと数が多いね」

 

 エリックはそう呟くと、正確無比な矢を数本連続で発射し、前衛の敵の目を射抜いた。

 しかし、彼はそのまま弓を背中に回し、素手で地面に手をついた。

 

「僕たちのスキルは、他言無用でお願いね。まあ、知ってる人も多いけど」

 

 エリックが静かにそう言うと、彼の足元から淡い光が走った。

 大理石の床に複雑な魔法陣が浮かび上がる。

 そこから、人型の影が数体、すっと立ち上がるように現れた。

 

(召喚魔法!?)

 

「……いけ」

 

 エリックが短く告げると、召喚された影は迷いなく前方へと駆け出した。

 その手には、両刃の斧など、様々な武器が握られている。

 

「〈サモン・パペット〉って言うんだ。結構レアなスキルでね。思念を形にするスキルだよ」

 

 影の戦士が敵陣に飛び込み、武器を振るう。

 それを見届けながら、エリックは再び弓を構えた。

 

(思念と結ぶ?)

 

 前衛となる影の戦士を召喚して敵を抑え込む。

 本体は安全な後方から弓で致命傷を与える。

 エリック1人で、前衛と後衛の役割を完全に両立させている。

 1人で敵パーティを完封できる戦術だ。

 

 これが、彼が『人形遣い』と呼ばれる所以。

 俺は、底知れない王都の深淵を垣間見た気がした。

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