盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~   作:上山マヤ

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第103話 シナジーの力

「今の魔法、マナ消費だけで使えるのかい?」

 

 蒸気が晴れた黒い空間で、エリックが感嘆の声を漏らした。

 

「はい」

「凄まじい威力だった。ユニーク武器並みか、下手をするとそれ以上かもしれない」

 

(これがエリックさんから見た超級魔法の評価か)

 

 王都のトップクランからの称賛に、俺は少しだけ胸を張った。

 

「ユニーク武器の使用には制約がある。触媒が必要な物もあれば、長時間のクールタイムが必要な物まで様々だがね」

 

 エリックが顎に手を当てて分析を続ける。

 

(メイナードの『虹の花』も、制約がありそうだったな)

 

「しかし、君の魔法はマナの消費のみで使えるわけだ。当然その消費量は多いのだろうが、ユニーク武器と比べたら、制約など無いに等しい」

 

 エリックは糸目を細め、俺の杖を見つめた。

 

「ただし、弱点もある」

「弱点?」

「発動に時間がかかりすぎている。あれでは、実戦でカートを捕えることは不可能だろう。まあ、それは君がまだ使い慣れていないだけ、という可能性もあるけどね」

「マナの操作が難しくて……」

 

(一度見ただけで、そこまで見抜いて対策まで考えてしまうんだな)

 

 エリックの観察眼に、俺は冷や汗をかいた。

 

「足止め役とセットで運用しないと、実戦で使うのは難しいよね」

 

 クリスが横から的確なフォローを入れてくれる。

 

「それでも、あの火力は武器になる。単体への影響力だけなら、『星月夜(ほしづきよ)』に匹敵するかもしれないな」

「星月夜?」

 

 聞き慣れない単語に首を傾げる俺に、エリックは静かに答えた。

 

「聞いたことないかい? アステリアの国宝だよ。隕石を降らせるユニーク武器だ。先の戦争でも使用された」

「い、隕石って……」

 

(もしかして、これまでいくつか見たクレーターのような地形は、その武器のせいなのか?)

 

「もっと詳しい話をしたいところだが、今は時間がない。明後日のための行動を始めよう」

 

 エリックの言葉を合図に、カートがスキルを解いた。

 黒い空間が消える。

 見慣れた大空洞の広場の景色へと戻っていった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 大空洞での調査を終え、俺とユラは下級貴族街にあるジャック・ブルトンの屋敷へ帰宅した。

 

「ただいま」

「戻ったか! タケル、遂にラクン先生がやったぞ!」

 

 玄関を開けるなり、ジャックが鼻息を荒くして出迎えてきた。

 

「なになに? 帰ってそうそう――」

「咲いた、花だ」

 

 ジャックの足元からひょっこりと顔を出したラクンが、誇らしげに指差す。

 

 応接室のテーブルに置かれた骨のプランター。

 そこには、見事な水晶花が咲いていた。

 薄いガラスが何枚も折り重なったような、美しく透き通った花だ。

 

「……すごく綺麗だ。やったな、ラクン!」

「うむ。……ユラ?」

 

 ラクンが嬉しそうに頷いた後、不思議そうにユラを見上げた。

 

「ごめん。ちょっと疲れちゃって、私は先に休ませてもらうわ」

 

 ユラの顔色は優れず、声もどこか沈んでいた。

 俺たちと目を合わせることもなく、そのまま寝室へと向かってしまう。

 

「ユラはダンジョンで、マナを使い過ぎちゃってね」

 

 俺はジャックたちにそう説明した。

 

(ただの疲れならいいんだけど……)

 

 ルードの残滓を読み取ってから、ユラの様子が明らかにおかしい。

 

「そうだ、ネームレスとの作戦は上手くいったのか?」

「……ええ、まあ。ちょっと聞いてほしいことが」

 

(ジャックたちには、明後日の危機について説明しておいた方がいいよな)

 

 俺は応接室のソファーに座り、深層で判明したルードの企みについて手短に話した。

 

「なるほどな。それで王都に危険が迫っていると」

 

 ジャックは腕を組み、いつになく真剣な表情を作った。

 

「それなら、明日にはギルドや騎士団から王都全体へ通達が着そうですね」

 

 使用人のルネが、紅茶を注ぎながら冷静に状況を分析する。

 

「タケルはネームレスと共に、その作戦に参加するのだな」

「はい。それでなんですけど……俺がいない間、ユラとラクンのことを」

「任せたまえ! ユラとラクン先生のことは、このブルトン家が全力で守ろう!」

「ありがとうございます!」

 

(ルネさんの結界魔法もあるし、ここは2人に任せるしかない)

 

「ケル、これを、読め」

 

 話が一段落したところで、ラクンが古ぼけた本を差し出してきた。

 俺はパラパラとページをめくる。

 

「絵本?」

「泥に浸かった、本と、同じ、作者だ」

「マジ!?」

 

 俺は思わず身を乗り出した。

 

 ゴブリンの村で、ラクンが読んでいた本。

 泥にまみれて読めなくなっていた本。

 ユラの〈残香読(ざんこうよみ)〉によって部分的に解読することで、水と火のシナジーのヒントを得た。

 

(同じ作者の本なら、また何かのヒントが隠されているかもしれない!)

 

「『ヤーコプの絵本』か。絵柄は子供向けなんだが、難解な内容な物が多くてな。それもあって、子供よりも大人のファンが多いらしいぞ」

 

 ジャックが横から覗き込んで解説する。

 

「ジャックさんもファンなの?」

「俺は絵本など読まん。が、たまに高値が付くことがあるからな。市場で見かけたら購入しているのだ! がっはっは!」

 

(転売屋かよ!)

 

 それにしても、ラクンがずっと書斎に籠っていたのは水晶花を調べるためだと思ってた。

 それが、俺のためにこんな本を見つけ出してくれていたなんて。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 俺は『ヤーコプの絵本』を手に取った。

 可愛らしいタッチの絵が、ページをめくるごとに目に飛び込んでくる。

 

 内容は、1人の踊り子の話だった。

 激しい争いの中で、平和を祈りながら彼女は踊り続ける。

 しかし、その祈りに込めた想いは戦士たちには届かない。

 そして、遂には力尽きて倒れてしまう。

 

 "死"という直接的な言葉は使っていないけれど、そう連想させるような悲しい物語だった。

 たしかに、どう読んでも子供向けじゃない。

 

 俺はこの絵本の文章の中から、スキルに繋がりそうなキーワードを探し出す。

 

(霧?)

 

 濃霧を発生させる〈フォッグ・クラウド〉なら持ってる。

 〈ステルス〉を連想させる隠密の描写もある。

 あと、物語の中盤に出てくるこの"雷の剣"って……。

 

 俺はスキルツリーの中を検索してみた。

 

(あった! 雷属性のスキル。……剣技か)

 

 エリックさんに「剣技は選択ミスだ、魔法に専念しろ」とダメ出しされたばっかなんだけどな。

 でも、他の二つは既に取得済みだ。

 これ一つを取るだけでシナジーが発生するなら、儲けモンだろ!

 

 俺はSPを消費して〈サンダー・ブレイク〉を取得した。

 

 視界のウィンドウが小さく光る。

 ステータス欄に新たな項目が浮かび上がった。

 

(おっしゃあ!)

 

 シナジーボーナス:〈悲壮の踊り子〉

 条件:雷の剣技、盗賊スキル、水魔法を取得。

 効果:暗殺スキルを取得可能。

 

(暗殺!?)

 

 物騒な文字面だ。

 スキルツリーに新しく暗殺ボードが表示された。

 あんまり俺向きのスキルじゃなさそうだけど……。

 

 でも、詳細な説明を読む限り、幻惑系か?

 このスキル自体に直接的な殺傷能力は無さそうだな。

 

 ルードとの決戦は明後日。

 とにかく、今用意できる手札は一つでも多く増やしておくしかない。

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