盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~ 作:上山マヤ
ルードが闇魔法を展開する。
エリックが即座に矢を放つ。
しかし、ルードの周囲に展開された闇の障壁に阻まれ、矢は弾き落とされた。
空間にいくつもの亀裂が入る。
異音と共に裂け目が広がる。
そこから、モンスターたちが次々と這い出してきた。
「この数は……異常だ」
「この部屋だけじゃない、他の場所にもあの箱を置いていたのか!」
ネームレスのパーティメンバーたちからも、焦燥の入り混じった声が上がる。
さらに空間が大きく歪む。
光の柱に触れた時のような感覚。
(俺たちやモンスターごと、強制的に転送する気か!)
一瞬、視界が真っ暗に塗り潰された。
◇ ◇ ◇
不意に光を感じて目を開ける。
すると、見慣れた石造りの建物と青空が目に飛び込んできた。
王都アステリアの市街地、そのど真ん中だ。
「地下の大空洞じゃない! 直接地上に転送されたっていうの!?」
周囲を見渡したクリスが、信じられないといった顔で叫ぶ。
「きゃあああああっ!」
「化け物だ! 逃げろぉぉ!」
平和な昼下がりだったはずの王都は、一瞬にして地獄絵図と化していた。
急に湧き出たモンスターに屋台が潰され、荷馬車が横転する。
買い物客や商人たちが悲鳴を上げ、パニックに陥って逃げ惑っていた。
(……マズい!)
俺は咄嗟に杖を構えようとして、ハッと動きを止めた。
『市街地で戦闘になった場合、二次被害を発生させるような魔法やスキルは禁止とする』
ダンジョン突入前、エリックが下した厳命を思い出した。
彼は、万が一王都にモンスターが現れた場合に備え、各ギルドを通して冒険者たちにこのルールを徹底させていた。
つまり、俺の最大の武器である〈スチーム・バースト〉はおろか、中級の〈インパクト・フレア〉すら、周囲の建物や民間人を巻き込む危険があるため使えない。
「落ち着け! 民間人を背中にかばえ!」
「二次被害を出すな!
怒号が飛び交う。
エリックの事前通達とギルドの待機命令が功を奏していた。
街中に残っていた冒険者たちが迅速に武器を取る。
防衛線を構築し始めていた。
銀色の鎧を着た騎士団も駆けつけ、民間人の避難誘導とモンスターの迎撃にあたっている。
俺の目の前にも、次々とモンスターが姿を現した。
〈クロオオアリ/土属性/レベル:6〉
〈ヤテベオ/闇属性/レベル:11〉
(低層のモンスターまで!?)
「どうやら、本当に全階層にあの箱を仕掛けていたようだね」
エリックが糸目を細めて冷静に分析する。
「カート! 上層モンスターを最優先で処理しろ!」
エリックの鋭い声が響く。
普段の優しげな口調は一切なく、冷徹な指揮官の声だった。
「了解だ」
カートが獰猛な笑みを浮かべ、巨大な大剣を引き抜く。
「クリスはカートの支援に徹しろ! 機動力を限界まで上げろ!」
「……了解!」
クリスが真剣な表情で杖を振る。
カートの身体が青い光に包まれた。
(これがエリックさんの判断!)
乱戦で最も被害を拡大させるのは、高レベルの大型モンスターだ。
だからこそ、最強の矛であるカートを万全の状態にする。
遊撃として暴れさせるのが一番だと考えたんだ。
「タケル、君の魔法の規模は街を壊す。今は低層モンスターの処理にかかれ」
「はい!」
俺は杖をベルトに戻した。
代わりに灰の古剣を抜き放った。
〈フィジカル・ブースト〉を発動させる。
「そこ!」
襲い来るクロオオアリの甲殻を斬り裂く。
周囲の状況を横目で確認する。
〈リビングアーマー/鉄属性/レベル:17〉
〈ライカンスロープ/土属性/レベル:15〉
上層のモンスターたち。
ライカンスロープについては、ダンジョン探索の際に説明を受けていた。
満月の夜には無類の強さを発揮する。
逆に新月の今日なら弱体化しているはずだ。
リビングアーマーの分厚い鋼鉄の装甲は、俺の剣撃じゃまともなダメージは通らないだろう。
そもそも格上すぎる。
カートが飛び込み、その大剣の重い一撃を入れる。
頑強なリビングアーマーが紙屑のように真っ二つに両断された。
(あの人、本当に人間かよ……!)
その間にも、エリックは弓を構えることなく、両手を石畳の地面にピタリとつけていた。
「さあ、王都の防衛を手伝ってもらおうか」
エリックを中心に、巨大で複雑な魔法陣が青白く輝く。
地面から泥が盛り上がるようにして、次々と黒い戦士の影が生み出されていく。
(10体? いや、もっと!?)
喚び出された影の戦士たちは、逃げ惑う民間人の壁となる。
溢れ出るモンスターたちを的確な動きで押し留めていく。
その全てを、エリックが制御していた。
(これが『人形遣い』の本気か!)
街の被害を最小限に抑えながら、圧倒的な制圧力で戦線を維持していく。
俺は王都のトップクランの底力に戦慄しながら、目の前の敵を斬り伏せるため再び剣を振るった。
遠くで火の手が上がっているのが見えた。
(これ、他の場所はどうなってる? 対応できてるのか?)
俺はマップで、ユラとラクンの位置を確認する。
(無事だな。ジャックの屋敷に居る)
何とかあそこまで行かないと。
絶対に、助けるから。