盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~   作:上山マヤ

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第105話 王都陥落

 ルードが闇魔法を展開する。

 

 エリックが即座に矢を放つ。

 しかし、ルードの周囲に展開された闇の障壁に阻まれ、矢は弾き落とされた。

 

 空間にいくつもの亀裂が入る。

 異音と共に裂け目が広がる。

 そこから、モンスターたちが次々と這い出してきた。

 

「この数は……異常だ」

「この部屋だけじゃない、他の場所にもあの箱を置いていたのか!」

 

 ネームレスのパーティメンバーたちからも、焦燥の入り混じった声が上がる。

 

 さらに空間が大きく歪む。

 光の柱に触れた時のような感覚。

 

(俺たちやモンスターごと、強制的に転送する気か!)

 

 一瞬、視界が真っ暗に塗り潰された。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 不意に光を感じて目を開ける。

 すると、見慣れた石造りの建物と青空が目に飛び込んできた。

 王都アステリアの市街地、そのど真ん中だ。

 

「地下の大空洞じゃない! 直接地上に転送されたっていうの!?」

 

 周囲を見渡したクリスが、信じられないといった顔で叫ぶ。

 

「きゃあああああっ!」

「化け物だ! 逃げろぉぉ!」

 

 平和な昼下がりだったはずの王都は、一瞬にして地獄絵図と化していた。

 急に湧き出たモンスターに屋台が潰され、荷馬車が横転する。

 買い物客や商人たちが悲鳴を上げ、パニックに陥って逃げ惑っていた。

 

(……マズい!)

 

 俺は咄嗟に杖を構えようとして、ハッと動きを止めた。

 

『市街地で戦闘になった場合、二次被害を発生させるような魔法やスキルは禁止とする』

 

 ダンジョン突入前、エリックが下した厳命を思い出した。

 彼は、万が一王都にモンスターが現れた場合に備え、各ギルドを通して冒険者たちにこのルールを徹底させていた。

 

 つまり、俺の最大の武器である〈スチーム・バースト〉はおろか、中級の〈インパクト・フレア〉すら、周囲の建物や民間人を巻き込む危険があるため使えない。

 

「落ち着け! 民間人を背中にかばえ!」

「二次被害を出すな! 魔法使い(ソーサラー)は単体魔法か支援に絞れ!」

 

 怒号が飛び交う。

 エリックの事前通達とギルドの待機命令が功を奏していた。

 

 街中に残っていた冒険者たちが迅速に武器を取る。

 防衛線を構築し始めていた。

 銀色の鎧を着た騎士団も駆けつけ、民間人の避難誘導とモンスターの迎撃にあたっている。

 

 俺の目の前にも、次々とモンスターが姿を現した。

 

〈クロオオアリ/土属性/レベル:6〉

〈ヤテベオ/闇属性/レベル:11〉

 

(低層のモンスターまで!?)

 

「どうやら、本当に全階層にあの箱を仕掛けていたようだね」

 

 エリックが糸目を細めて冷静に分析する。

 

「カート! 上層モンスターを最優先で処理しろ!」

 

 エリックの鋭い声が響く。

 普段の優しげな口調は一切なく、冷徹な指揮官の声だった。

 

「了解だ」

 

 カートが獰猛な笑みを浮かべ、巨大な大剣を引き抜く。

 

「クリスはカートの支援に徹しろ! 機動力を限界まで上げろ!」

「……了解!」

 

 クリスが真剣な表情で杖を振る。

 カートの身体が青い光に包まれた。

 

(これがエリックさんの判断!)

 

 乱戦で最も被害を拡大させるのは、高レベルの大型モンスターだ。

 だからこそ、最強の矛であるカートを万全の状態にする。

 遊撃として暴れさせるのが一番だと考えたんだ。

 

「タケル、君の魔法の規模は街を壊す。今は低層モンスターの処理にかかれ」

「はい!」

 

 俺は杖をベルトに戻した。

 代わりに灰の古剣を抜き放った。

 

 〈フィジカル・ブースト〉を発動させる。

 

「そこ!」

 

 襲い来るクロオオアリの甲殻を斬り裂く。

 

 周囲の状況を横目で確認する。

 

〈リビングアーマー/鉄属性/レベル:17〉

〈ライカンスロープ/土属性/レベル:15〉

 

 上層のモンスターたち。

 ライカンスロープについては、ダンジョン探索の際に説明を受けていた。

 満月の夜には無類の強さを発揮する。

 逆に新月の今日なら弱体化しているはずだ。

 

 リビングアーマーの分厚い鋼鉄の装甲は、俺の剣撃じゃまともなダメージは通らないだろう。

 そもそも格上すぎる。

 

 カートが飛び込み、その大剣の重い一撃を入れる。

 頑強なリビングアーマーが紙屑のように真っ二つに両断された。

 

(あの人、本当に人間かよ……!)

 

 その間にも、エリックは弓を構えることなく、両手を石畳の地面にピタリとつけていた。

 

「さあ、王都の防衛を手伝ってもらおうか」

 

 エリックを中心に、巨大で複雑な魔法陣が青白く輝く。

 地面から泥が盛り上がるようにして、次々と黒い戦士の影が生み出されていく。

 

(10体? いや、もっと!?)

 

 喚び出された影の戦士たちは、逃げ惑う民間人の壁となる。

 溢れ出るモンスターたちを的確な動きで押し留めていく。

 その全てを、エリックが制御していた。

 

(これが『人形遣い』の本気か!)

 

 街の被害を最小限に抑えながら、圧倒的な制圧力で戦線を維持していく。

 俺は王都のトップクランの底力に戦慄しながら、目の前の敵を斬り伏せるため再び剣を振るった。

 

 遠くで火の手が上がっているのが見えた。

 

(これ、他の場所はどうなってる? 対応できてるのか?) 

 

 俺はマップで、ユラとラクンの位置を確認する。

 

(無事だな。ジャックの屋敷に居る)

 

 何とかあそこまで行かないと。

 絶対に、助けるから。

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