盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~   作:上山マヤ

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第106話 神の歌

 王都の至る所から黒煙が上がり、空を覆っていた。

 破壊された建物の瓦礫が道を塞ぐ。

 巻き上がった土ぼこりが視界を遮る。 

 

(酷い……)

 

 街中には招集された他クランの冒険者たちが入り乱れる。

 地獄から溢れ出したようなモンスターたちと血みどろの戦闘を演じていた。

 その中心で、大剣を振るうカートだけが、台風のように周囲のモンスターを引き裂いて回っていた。

 

「エリックさん、俺はユラたちを助けに行きます!」

 

 俺は影の軍勢を操るエリックへ、叫ぶように告げた。

 

「僕はまだここを動けない。すぐに第二班を向かわせるが、それまでは決して無理はするなよ!」

 

 エリックは険しい表情のまま、上層モンスターへ向けて矢を放つ。

 

「はい!」

 

 俺は踵を返し、背後から迫るモンスターを斬り伏せながらジャックの屋敷へと疾走した。

 

〈ヤテベオ/闇属性/レベル:11〉

 

 建物の隙間から這い出してきたヤテベオが、鞭のような蔓を伸ばしてくる。

 俺はそれを紙一重で(かわ)した。

 灰の古剣にマナを流し込んだ。

 

「そこッ!」

 

 刀身がマナを吸って青白く発光する。

 切り裂く速度を増す。

 一閃。

 抵抗を感じさせぬまま、ヤテベオの本体を両断した。

 

(クソッ、範囲魔法さえ使えたらもっと楽に対処できるのに……!)

 

 街を壊すわけにはいかないという制約が、もどかしくてたまらなかった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 ジャックの屋敷の近くまで辿り着いた時、周囲の空気が一変した。

 心臓を直接掴まれるような圧迫感。

 

(息が……苦しい。なんだこれ?)

 

 視界の先。

 複数のモンスターたちが吸い寄せられるように一箇所に集まる。

 肉を捏ね合わせるようにして巨大な塊へと変化していた。

 

(合体……いや、融合しているのか!?)

 

 それは、見る間に膨れ上がる。

 数メートルの巨躯を持つ変異種(キメラ)へと姿を変えた。

 巨大な六つ足。

 虎のような怪物に見えた。

 

 俺は咄嗟に〈鑑定〉を発動させる。

 

〈縺ゅ 撰シ托シ抵シ/繝シ繝ウ/遐皮ゥカ〉

 

(……なんだこれ? 文字化けしてる!?)

 

 ステータス画面がノイズのように乱れ、まともな情報が表示されない。

 

「これもルードの仕業か……ッ!」

 

 その時、ジャックの屋敷の門が視界に入った。

 

(よし、まだ壊されてない!)

 

 安堵したその瞬間。

 屋敷の庭から飛び出してきたラクンの背後から影が伸びる。

 しぶとく生き残っていたヤテベオの木の(つる)

 

(ラクン!?)

 

「先生だけは、死んでも私が守る!!」

 

 絶叫と共に飛び出してきたのは、ジャックだった。

 ルネの展開した結界魔法がキメラの余波で弾け飛んだ。

 ジャックは無様に、しかし必死の形相でラクンの身体を覆うように庇った。

 

「ジャックさんッ!」

 

 蔓がジャックの背中を激しく打ち据える。

 

「……助かった、ジャック」

 

 ラクンがジャックの服を掴み、静かに告げた。

 

「せ、先生……」

 

 ジャックが痛みに顔を歪めながら、ラクンに振り返る。

 ラクンは俺の姿を認めると、骨のプランターをこちらへ差し向けた。

 

「ケル、これを使え」

「水晶花!? ラクン、これ……」

 

(マナを吸って育つとは聞いたけど)

 

 これであのキメラのマナを吸い取る気か?

 マナが枯渇すると動けなくなるのは人間もモンスターも同じ。

 ……それでも。

 

「やりたいことは分かる。だけど――」

「我を、信じろ。……仲間だ」

「……わかった」

 

 もう、その言葉を疑う余地はなかった。

 暴れ狂うキメラの影が俺を飲み込もうとする。

 

 俺はラクンたちから離れてキメラを誘導する。

 水晶花を懐にしまった。

 

(どうにかして水晶花(こいつ)を植え付けないと)

 

 その時。 

 木の蔓が足に絡みつく。

 

「は?」

 

 ヤテベオが、遠くから木の蔓を伸ばしていた。

 キメラが、前足を振り回すように叩きつけてくる。

 

「かはっ!」

 

 壁まで吹き飛ばされてる。

 

(くそ、衝撃で息ができない!)

 

 なんとか呼吸を整える。

 

(皮鎧が割れた!?)

 

 胸元の違和感に手を伸ばすと、皮鎧の一部が粉々になっていた。

 隙間から中に装備していたボーンアクトンがはみ出していた。

 

 俺は新しく手に入れたシナジーボーナス、〈悲壮の踊り子〉のスキルを起動した。

 

(使うならここしかないだろ!)

 

〈ファントム・ダンサー〉

 

 一瞬で、周囲に俺の分身が生み出される。

 キメラの周囲を舞うように駆け抜ける。

 

 キメラが苛立ち、分身の一つを叩き潰した瞬間――。

 激しい雷光が走った。

 破壊された分身から放たれた強力な電撃が、巨躯の動きを完全に封じる。

 

「今だ!」

 

 俺はその隙を突いてキメラの背に乗った。

 マナが渦巻く中心部へと、ラクンから託された水晶花を深々と突き刺した。

 

「ラクン!!」

 

 ラクンは、俺の叫びに呼応する。

 天を仰いで旋律を口ずさみ始める。

 

 空気が震える。

 原始の響きが戦場を満たす。

 

(これって……ノクスの歌?)

 

 すると、キメラに植え付けた水晶花が、化け物の血肉を苗床にして爆発的に咲き誇った。

 

 メイナードが使った『虹の花』みたいだ。

 けれど、それよりも遥かに神々しい。

 凄まじい吸収の力。

 

 ラクンの歌声に共鳴するように、花は一気に巨大化する。

 純白の結晶となってキメラの身体を内側から突き破っていく。

 

 パラパラと、水晶花が砕け散る。

 同時に、依り代となっていたキメラの身体もまた、マナを完全に吸い尽くされて塵へと変わっていった。

 

「マナを……残らず吸いきったのか」

 

(これが本当の水晶花の使い方?)

 

 静寂が戻った庭で、俺は砕け散る水晶の欠片を呆然と見つめていた。

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