盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~ 作:上山マヤ
王都の至る所から黒煙が上がり、空を覆っていた。
破壊された建物の瓦礫が道を塞ぐ。
巻き上がった土ぼこりが視界を遮る。
(酷い……)
街中には招集された他クランの冒険者たちが入り乱れる。
地獄から溢れ出したようなモンスターたちと血みどろの戦闘を演じていた。
その中心で、大剣を振るうカートだけが、台風のように周囲のモンスターを引き裂いて回っていた。
「エリックさん、俺はユラたちを助けに行きます!」
俺は影の軍勢を操るエリックへ、叫ぶように告げた。
「僕はまだここを動けない。すぐに第二班を向かわせるが、それまでは決して無理はするなよ!」
エリックは険しい表情のまま、上層モンスターへ向けて矢を放つ。
「はい!」
俺は踵を返し、背後から迫るモンスターを斬り伏せながらジャックの屋敷へと疾走した。
〈ヤテベオ/闇属性/レベル:11〉
建物の隙間から這い出してきたヤテベオが、鞭のような蔓を伸ばしてくる。
俺はそれを紙一重で
灰の古剣にマナを流し込んだ。
「そこッ!」
刀身がマナを吸って青白く発光する。
切り裂く速度を増す。
一閃。
抵抗を感じさせぬまま、ヤテベオの本体を両断した。
(クソッ、範囲魔法さえ使えたらもっと楽に対処できるのに……!)
街を壊すわけにはいかないという制約が、もどかしくてたまらなかった。
◇ ◇ ◇
ジャックの屋敷の近くまで辿り着いた時、周囲の空気が一変した。
心臓を直接掴まれるような圧迫感。
(息が……苦しい。なんだこれ?)
視界の先。
複数のモンスターたちが吸い寄せられるように一箇所に集まる。
肉を捏ね合わせるようにして巨大な塊へと変化していた。
(合体……いや、融合しているのか!?)
それは、見る間に膨れ上がる。
数メートルの巨躯を持つ
巨大な六つ足。
虎のような怪物に見えた。
俺は咄嗟に〈鑑定〉を発動させる。
〈縺ゅ 撰シ托シ抵シ/繝シ繝ウ/遐皮ゥカ〉
(……なんだこれ? 文字化けしてる!?)
ステータス画面がノイズのように乱れ、まともな情報が表示されない。
「これもルードの仕業か……ッ!」
その時、ジャックの屋敷の門が視界に入った。
(よし、まだ壊されてない!)
安堵したその瞬間。
屋敷の庭から飛び出してきたラクンの背後から影が伸びる。
しぶとく生き残っていたヤテベオの木の
(ラクン!?)
「先生だけは、死んでも私が守る!!」
絶叫と共に飛び出してきたのは、ジャックだった。
ルネの展開した結界魔法がキメラの余波で弾け飛んだ。
ジャックは無様に、しかし必死の形相でラクンの身体を覆うように庇った。
「ジャックさんッ!」
蔓がジャックの背中を激しく打ち据える。
「……助かった、ジャック」
ラクンがジャックの服を掴み、静かに告げた。
「せ、先生……」
ジャックが痛みに顔を歪めながら、ラクンに振り返る。
ラクンは俺の姿を認めると、骨のプランターをこちらへ差し向けた。
「ケル、これを使え」
「水晶花!? ラクン、これ……」
(マナを吸って育つとは聞いたけど)
これであのキメラのマナを吸い取る気か?
マナが枯渇すると動けなくなるのは人間もモンスターも同じ。
……それでも。
「やりたいことは分かる。だけど――」
「我を、信じろ。……仲間だ」
「……わかった」
もう、その言葉を疑う余地はなかった。
暴れ狂うキメラの影が俺を飲み込もうとする。
俺はラクンたちから離れてキメラを誘導する。
水晶花を懐にしまった。
(どうにかして
その時。
木の蔓が足に絡みつく。
「は?」
ヤテベオが、遠くから木の蔓を伸ばしていた。
キメラが、前足を振り回すように叩きつけてくる。
「かはっ!」
壁まで吹き飛ばされてる。
(くそ、衝撃で息ができない!)
なんとか呼吸を整える。
(皮鎧が割れた!?)
胸元の違和感に手を伸ばすと、皮鎧の一部が粉々になっていた。
隙間から中に装備していたボーンアクトンがはみ出していた。
俺は新しく手に入れたシナジーボーナス、〈悲壮の踊り子〉のスキルを起動した。
(使うならここしかないだろ!)
〈ファントム・ダンサー〉
一瞬で、周囲に俺の分身が生み出される。
キメラの周囲を舞うように駆け抜ける。
キメラが苛立ち、分身の一つを叩き潰した瞬間――。
激しい雷光が走った。
破壊された分身から放たれた強力な電撃が、巨躯の動きを完全に封じる。
「今だ!」
俺はその隙を突いてキメラの背に乗った。
マナが渦巻く中心部へと、ラクンから託された水晶花を深々と突き刺した。
「ラクン!!」
ラクンは、俺の叫びに呼応する。
天を仰いで旋律を口ずさみ始める。
空気が震える。
原始の響きが戦場を満たす。
(これって……ノクスの歌?)
すると、キメラに植え付けた水晶花が、化け物の血肉を苗床にして爆発的に咲き誇った。
メイナードが使った『虹の花』みたいだ。
けれど、それよりも遥かに神々しい。
凄まじい吸収の力。
ラクンの歌声に共鳴するように、花は一気に巨大化する。
純白の結晶となってキメラの身体を内側から突き破っていく。
パラパラと、水晶花が砕け散る。
同時に、依り代となっていたキメラの身体もまた、マナを完全に吸い尽くされて塵へと変わっていった。
「マナを……残らず吸いきったのか」
(これが本当の水晶花の使い方?)
静寂が戻った庭で、俺は砕け散る水晶の欠片を呆然と見つめていた。