盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~   作:上山マヤ

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第107話 復讐の刃

 粉々になった水晶花が、日の光を反射しながら雪のように舞い落ちていく。

 その幻想的な光景に、肩から血を流しながらもジャックが感嘆の声を漏らした。

 

「素晴らしい……」

「ラクン、こうなるって分かってて使ったのか?」

 

 俺が呆然としながら尋ねると、ラクンは落ちてくる光の欠片を小さな両手で受け止めながら、誇らしげに胸を張った。

 

「我が神なら、答える、と、思った」

「……そっか」

 

(彼女の信じる(ノクス)……か)

 

 この力は、底知れなくて少しヤバい気がするけど……。

 それを考えるのは後回しだ。

 

「じっとしててください」

 

 俺はジャックの傷口に手をかざし、〈ヒール〉を発動させる。

 温かな緑の光が傷を塞いでいくのを見て、ジャックが目を丸くした。

 

「タケル、君は回復魔法まで使えたのか!?」

「あっ……」

 

(しまった。何も考えずに使ってしまった。まあ、いいか)

 

「水魔法を……あれ? どういうことだ?」

 

 ジャックが狐につままれたような顔で首を傾げる。

 

「デュアルなんですよ。デュアルデュアル」

「そんなアッサリと……。全く、ネームレスに目を付けられるわけだ」

 

 俺が適当に手を振って誤魔化すと、ジャックは呆れたように息を吐いた。

 

(ネームレスに熱烈に勧誘されたのはユラの方だったんだけどね)

 

「そうだ! ユラは?」

 

 俺はハッとして、パーティのマップを確認する。

 ユラの位置は、ジャックの屋敷の敷地内にはいるみたいだけど……。

 

「屋根の上だ」

 

 マップの光点は、建物の高い位置でピタリと止まっていた。

 

「タケルのことが心配で、安全な上から戦況を見てたんじゃないのか?」

 

 ジャックが気を利かせたように言う。

 

(その割には、戦闘が終わったのに降りてこないな……)

 

「無事ならいいんです。この辺りの魔物は落ち着いたみたいなので、俺は他を見てきます」

「ああ、気をつけろよ」

 

 俺はジャックたちを残し、ネームレスがルードを追っていた方向へと足を向けた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 大通りに出ると、戦いはすでに決着がついていた。

 

 マナを完全に使い果たしたのか、ルードは石畳の上に座り込んでいた。

 拘束されているようだ。

 その肩には、エリックのものと思われる銀色の矢が深々と刺さっている。

 

(エリックさんたちが、ルードを捕らえていたのか!)

 

 俺が駆け寄ろうとした、その瞬間だった。

 マップ上のユラの光点が、尋常ではない速度でルードのいる場所へ急接近してくるのが見えた。

 

(ユラ!?)

 

 見上げると、屋根を伝って駆け抜けてきたユラが、音もなくルードの背後へと飛び降りてきた。

 その手には、鋭く光るナイフが握られている。

 普段の彼女からは想像もつかないような、冷たく暗い殺意が瞳に宿っていた。

 

「よせ!!」

 

 俺は喉が張り裂けるほどの声で叫んだ。

 彼女のもとへ全力で駆け出した。

 ナイフを振り下ろそうとしたユラの腕を、俺の手が間一髪で掴む。

 

「離して!」

 

 ユラが獣のように牙を剥き、俺の手を力いっぱい振り払おうと暴れる。

 

(ずっと……屋根の上で、ルードの隙ができるこの機会を窺っていたのか!)

 

「ユラが手を汚すくらいなら、俺がやる!」

 

 俺は彼女を背後に庇うように立ち塞がり、ルードを睨みつけた。

 

 その瞬間――。

 足元から冷たい水流が蛇のように這い上がり、俺とユラの身体をきつく締め上げた。

 

(なっ!?)

 

「水魔法!?」

 

 俺とユラは、クリスの放った水魔法の鎖によって、背中合わせに拘束されてしまった。

 

「悪いけどルードは僕たちが引き取らせてもらうよ」

 

 静かな声と共に、黒いローブの男が進み出てきた。

 その胸元にはフクロウの徽章(バッジ)が鈍く光っている。

 

「アリソンさん!?」

「騎士団を動かして防衛に当たらせる代わりに、ルードの身柄の引き渡しを魔法協会と約束していたんだ。悪かったね、黙っていて」

 

 弓を下げたエリックが淡々と告げた。

 

「どうして俺たちに……」

「タケルはともかく、ユラの目からは、復讐に対する強い決意のようなモノを感じていた。殺意と言い換えてもいい。だから黙っておくことにしたんだ」

 

 エリックの視線が、拘束されてなおルードを睨みつけるユラへと向けられる。

 

(エリックさんは、ユラの復讐心に気付いていたのか)

 

 俺は、それに全く気付けなかった。

 

「それに……こいつには、まだ聞きたいこともあったからね」

 

 エリックがルードを見下ろす。

 ルードが少し顔を上げた。

 

「なぜ手加減をした?」

 

 エリックの鋭い問いかけに、俺は思わず息を呑んだ。

 

(手加減……?)

 

 そうだ、違和感はあった。

 どうして新月だったんだ?

 満月に力を増すモンスターが居たのに。

 

「くくく、言っただろう。試練だと。達成して貰わないと困る。……君たちの力量を、少々侮っていたようだがな」

 

 ルードが血に汚れた口元を歪め、不敵に笑う。

 俺たちを殺すためではなく、乗り越えさせるための災害?

 

「本気で進化のためにやっていたと?」

「……偽りの心で、進化など訪れはしない」

 

 そう狂信的な言葉を残して、ルードは魔法協会の職員たちに連行されていった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「私たちは後処理が残ってるからね」

 

 クリスがそう言って杖を振る。

 俺たちを拘束していた水魔法の鎖が弾けて解かれた。

 

「今回の働きには、ギルドと国から相応の報奨金(ボーナス)が出ることになるだろう。しばらく、心と体を休めるといい」

 

 エリックが労うように声をかけてくる。

 その言葉に、俺は無言で頷くしかなかった。

 

「ユラ、帰ろう」

「……うん」

 

 ナイフを取り落とし、俯いたままのユラの手を引く。

 その手はひどく冷たかった。

 俺は彼女の手をしっかりと握りしめ、静かに歩き出した。

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