盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~   作:上山マヤ

11 / 51
第11話 特異特性

 翌日。

 カホンの冒険者ギルドでクエストを探していると、職員から呼び出しを食らった。

 

 案内されたのは二階の、革張りのソファーがある応接室だった。

 

「冒険者ギルド、カホン支部のモーリンと申します」

 

 対面に座った女性は、受付にいた愛想の良い職員とは違った。

 眼鏡の奥にある瞳は鋭く、事務的で冷たい。

 

「タケル様ですね。ライトエイプ討伐時の詳細について、お話を聞かせて頂けますか?」

「……はい」

 

 尋問のような空気に、背筋が伸びる。

 

「死体を検分したところ、実質2撃で仕留められています。外傷は背中への斬撃と、胸部への斬撃のみ」

「そう……だったかな」

 

 モーリンは手元の資料に目を落とす。

 

「高レベルの戦士が力で捻じ伏せた、なら分かります。あるいは、強力な装備を手に入れた新人が、武器の性能差で倒した、というのもたまに聞く話です」

 

(あ、これは……もしかして)

 

「しかし、タケル様、あなたのレベルは4」

 

(討伐時は3レベでした)

 

「そして武器は、その鉄の剣だけですよね?」

 

 モーリンは、俺の腰の剣を指差す。

 

「あの、ソロ討伐のことを疑われてるようですが……」

「いえ、疑ってはいません」

「俺は本当にソロで――え?」

「疑っていません。カホンの冒険者の(ほこら)は、パーティー毎に入場できる仕組みになっています」

 

 彼女は淡々と言った。

 

「詳しくは言えませんが、祠のフィールド内に結界が張ってあります。入場するとパーティ毎に別の空間へ転送されているんです」

「転送?」

「あなたのパーティは、タケル様お一人のパーティ、ということは確認が取れています」

 

(ログみたいなものが残るのか?)

 

「それなら、俺が倒したというのは確認が取れてそうですが?」

「もちろんです。私共が知りたいのは、"どうやって倒したか"という、戦術的情報です」

 

(……なるほど)

 

 誰々のパーティが冒険者の祠に入った。

 ボスを倒した。

 というログは見れるけど、その内容まではわからないのか。

 

(別に隠す必要はない……よな)

 

 変に隠して怪しまれるよりは、正直に話した方がいいか。

 SPが2倍であること以外は。

 

「……分かりました」

 

 俺は霧で視界を奪い、隠密スキルで背後を取って、身体強化で一気に畳み掛けたことを説明した。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「なるほど、〈フォッグ・クラウド〉と〈ステルス〉。それに〈フィジカル・ブースト〉ですか」

「はい、使ったのはその三つです」

「……」

 

 モーリンの手が止まった。

 さらさらと書類にペンを走らせていた音が途切れる。

 重苦しい沈黙が落ちる。

 

(……なんだ? 嘘はついてないぞ?)

 

 彼女はゆっくりと眼鏡の位置を直した。

 そして、得体の知れない生物を見るような目つきで俺を見た。

 

「〈フォッグ・クラウド〉は『水魔法』のスキルボード。〈ステルス〉は『盗賊』のボード。そして〈フィジカル・ブースト〉は『戦士』のボードにあるスキルです」

 

(スキルボード?)

 

「これらは、才能の系統樹が完全に異なります。一人の人間が適性を持つボードは基本一つ。二つ持つ者もそれなりにはいます。しかし、三つは聞いたことがありません」

 

(……あ、そういうことか!)

 

 これは俺の特性、〈天賦の才〉の効果か?

 それとも俺がこの世界の住人ではない、いわゆる"プレイヤー"だからなのか?

 

 魔法使いは魔法しか覚えられない。

 戦士は剣技しか覚えられない。

 

 それがこの世界のルール。

 それを俺は、平然と三つまたいで使ってしまっていたのか。

 

 モーリンの眼差しには、称賛よりも困惑と警戒の色が混じっていた。

 俺は愛想笑いを浮かべながら、内心で冷や汗を拭った。

 

「珍しい、という言葉では片付けられませんね。理論上、習得自体が不可能なのですから」

 

(これ……やらかしたか?)

 

 どうする?

 「たまたまです」で済む話じゃない。

 ここで答えを間違えて、研究所送りなんてごめんだ。

 

「……マナ認証でしたっけ? あれで確認はできないんですか?」

「本人のスキルボード……才能の形を確認できるのは、本人のみです」

 

(よっしゃ)

 

 一応聞いてみたけど。

 マナ認証で確認できるなら、わざわざ問いただしたりしないよな。

 

「モーリンさん、"特性"については?」

「はい。可能性があるとしたら、タケル様の特性なのだとは思っていました」

 

 特性の存在は知っている。

 つまり、この世界の住人にも特性があるってことだ。

 

 俺は覚悟を決めて、嘘と真実を混ぜて告げる。

 

「その通りです。俺の特性で全てのスキルが取得可能みたいなんです」

「全てですか!?」

 

 冷静だったモーリンが、ガタリと椅子を鳴らして立ち上がった。

 

「全ての職業のスキルを、自由に取得できると!?」

「あ、いやっ、全てかどうかは分かりません! 条件があるものもあるでしょうし!」

 

(スキル書がないと取れないやつとかな!)

 

「それでも! 既に三つのボードがあるんですよね!? 他には!?」

 

(めっちゃ食いついてくるな、この人)

 

「まあ……あといくつかは……あったような」

「はっ、失礼しました」

 

 モーリンは荒い息を吐き、しばらく俺を凝視していた。

 やがてドサリと椅子に座り直した。

 そして、眼鏡の位置を直しながら、独り言のように呟く。

 

「……それにしても、水魔法の視界阻害と、盗賊の隠密、戦士の強化。この三つを組み合わせる発想。単にスキルが取れるだけでなく、それを使いこなす戦術眼も備わっているとは」

 

(……あれ、褒められてる?)

 

「モーリンさんは、俺の言っていることを信用するんですか?」

「正直……信じられない話ですが、現にソロでライトエイプを狩っています。現象が理論を上回っている以上、認めるしかありません」

「俺が心配しているのは、俺の立場がどうなるかです」

「あなたのことを知りたいと、思う人は多くいるでしょう」

「じゃあ、このことは?」

「報告書には便宜上『特異特性(ユニーク・ビルド)』として処理し、詳細はギルドマスター権限での閲覧制限をかけます」

 

(助かった……のか?)

 

「ありがとうございます。あまり目立って面倒なことになるのが怖くて」

「国や魔法協会がタケル様のことを知れば、きっと欲しがるでしょうね」

 

 さらりと言われた言葉に、俺の笑顔が固まる。

 色々調べられるのか?

 病院みたいに?

 

「それって、ギルドが国に逆らうことになりませんか?」

「ギルドは中立です。国に逆らうことはしませんし、冒険者の個人情報を漏らすこともありません」

 

(信用してもいいのかな?)

 

 SPが2倍になる話をしたらどうなっていたんだろう?

 それでも庇ってくれてたのかな?

 

「……ですので、タケル様。ギルドはこの情報を守ります」

 

 モーリンはにっこりと笑った。

 事務的ではない、商人のような笑みで。

 

「その代わり――ギルドからの『指名依頼』は、断らないでいただけますね?」

 

(……なるほど、そういうことか)

 

 弱みを握られたわけじゃない。

 これは"取引"みたいなものだ。

 

 ギルドはギルドで俺のことを知りたがっている。

 悪い扱いは受けないだろう。

 

「内容によりますけど、善処します」

「ふふ、期待していますよ。"規格外"の新人さん」

「さっきさらっと聞き流しちゃったんですけど、モーリンさんの役職って……」

「カホンのギルドマスターです」

 

(マジかよ)

 

 こうして俺は、ギルドという後ろ盾と、ちょっとしたしがらみを手に入れた。

 

 まあ、病院で研究されるよりはマシな取引だ。

 俺は一つため息をついて、応接室を後にした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。