盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~ 作:上山マヤ
石畳の路地を抜け、俺は冒険者ギルドの扉を押し開けた。
朝のまだ人の少ない時間帯。
磨き上げられた木のカウンターが並ぶ。
実用的でありながら装飾も施された内装が目を引いた。
(なんか明るい)
これがレベックの冒険者ギルドか。
カホンとは全然雰囲気が違う。
クエスト完了報告で、マナ認証の板に手を置く。
「お疲れ様です。配達クエスト、完了ですね」
女性職員が丁寧に頷き、
「こちらが報酬です。そして……おめでとうございます。
「昇格?」
「はい。ギルドでは本人のレベル、クエスト達成数や達成率などを基準に評価されます。ランクは
「へえ……」
(モーリンからそういう話全然聞かなかったな)
「さらに銅級からは、クランの設立や加入が可能になります」
「クラン!?」
目の端に新しいアイコンがアンロックされた。
クランの項目だった。
(そういえば……そういう世界だったな)
そんなやりとりをしている間に。
気付けばギルドは、朝の冒険者たちで賑わっていた。
掲示板にはびっしりとクエスト札が貼られている。
受付を通さずとも、そこからクエスト一覧にアクセスできるようだ。
(こっちのやり方が主流っぽいな。カホンじゃカウンターに行列なんて見なかったけど)
俺も彼らを真似て、札に触れる。
視界にウィンドウが展開される。
フリークエストの項目とは別の、新たに解放された「銅級」タブを開く。
そこに並んでいたのは、見慣れない"パーティ募集"の文字だった。
(パーティ募集……?)
背後から冒険者たちの声が耳に入る。
「銅級《ブロンズ》からは人手が要るクエストばかりだ」
「デルミ討伐なんて1人じゃ無理だろ」
「採取も魔物の巣の近くばっかだしな」
(銅級クエストのほとんどがパーティ向けなのか)
俺は腕を組み、考え込むように天井を見上げた。
(今、ユラとパーティ入ってるけど、どうなるんだ?)
一旦解散して、別パーティに入れてもらう感じなるのかな?
いきなりパーティ解散されたら、ユラが驚きそうだな。
ふと、募集の中でも魔法使い枠の需要が目立つことに気づく。
(前衛職とは需要が段違いだな)
杖とマントを新調して、魔法寄りにすると食いっぱぐれないか。
魔法使いならローブだよなあ。
でも、この皮鎧気に入ってるんだよな。
◇ ◇ ◇
午前の市場通り。
陽光と人の熱気で輝いていた。
露店の布地は鮮やかに揺れる。
香辛料や焼き肉の匂いが、風に乗って流れてくる。
屋台の親父が串を返しながら声を張る。
「焼きたてデルミ! デルミの串焼きだよ!」
(デルミ屋がそこら中にあるな)
そういえば昨日の宿の食事も、デルミ煮って言ってたっけ?
「ひとつ下さい」
手にした串からは、香ばしい皮の焦げと、甘く脂が溶ける匂いが立ち上る。
噛めば、外はパリッと、中から肉汁が溢れ出す。
濃いタレが舌に絡みつく。
(甘いタレだ!)
照り焼き、みたいな?
……これもうまいな。白米が欲しくなる。
この世界にはお米はないのかな。
旨味を噛みしめながら、足は自然と武器屋へと向かっていた。
◇ ◇ ◇
レベックには武器屋といっても複数存在していた。
今回は、魔法具専門の店を選んだ。
杖やローブ、魔道具、装飾品まで多種多様な品が並ぶ。
「魔法職は今、
(舞台を見ただけで魔法使いに憧れるのか?)
案外ありそうだな。
俺も子供の頃に特撮を見てヒーローに憧れたしな。
というか何だよそのタイトル、気になるじゃん。
マントは迷った末に深緑を選んだ。
落ち着いた色味が、新しい自分の方向性を形にしてくれる気がした。
皮鎧の上にローブは無理だった。
マントなら動きも邪魔しない。
《見習いのマント/防御力:+5/魔法耐性:+10/耐久:50/50》を手に入れた。
杖の棚から、小振りで軽いものを選ぶ。
《オークの杖/魔力:+10/INT:+1/耐久:30/30》を手に入れた。
(パラメータの変化っていまいち体感しづらいんだよな)
剣は腰に、杖は背に。
ベルトからすぐに抜けるよう調整する。
(なんかクラスチェンジした気分)
杖はこのくらい小振りの方が使いやすそうだ。
でもやっぱ高いよな、装備って。
◇ ◇ ◇
魔法使いスタイルの準備が終わり、再びギルドの掲示板前へ。
銅級の中から、魔法使い枠を募集していたデルミ討伐を選ぶ。
(あんだけ屋台が並んでるんだ。需要しかないだろ!)
募集要項に触れて、参加申請を送る。
――パーティに加入しました。
(は!? いきなりかよ)
視界の端にパーティメンバーの情報が追加される。
ユラとのパーティ表示はそのままに、別のタブで管理されるようだ。
(パーティって重複できんのかよ)
ギルド公式のクエスト用パーティと、個人間のパーティは別枠扱いなのか?
これなら、ユラの安否確認もできるし好都合だ。
マップに仲間の位置が表示され、1人の剣士が手を挙げた。
「お、やっと
「タケルです。よろしく」
差し出した手を、チャールズが力強く握る。
「よろしくね」
ヒラリーが笑顔で挨拶する。
デイヴは軽く手を上げただけだった。
「なんだ? 剣も持ってるのか?」
「練習中なんだ。メインは魔法だよ」
「いいじゃん。剣も魔法も使えるのって面白い」
ヒラリーは楽しそうに言った。
「パラメータのバランスが悪くなるだけだよ」
デイヴがぼそりと呟く。
「人の装備やスキルにケチつけるのは無しだ。悪い、今のは好奇心で聞いただけだ」
チャールズが俺の肩を軽く叩く。
(この人、リーダー気質だな)
「3人はパーティ組んで長いの?」
「そんなに長くはないよ。でもアカデミー生だから、付き合いは長いの」
ヒラリーが答える。
(アカデミー?)
「学生なんだ?」
「ギルド評価を上げると単位になるんだ」
チャールズが補足する。
(そういえば、3人とも身なりが良い気がする)
「アカデミーの評価が上がれば、出資してる貴族の地位も上がるってわけ」
ヒラリーは得意げに話す。
「王都からあぶれた貴族だけどね」
デイヴがまたぼそっと言う。
「色々事情があるんだね。レベックに来たばっかりで、全然知らないから助かるよ」
「時間がもったいないし、行くか」
チャールズの一声で全員が立ち上がる。
こうして、俺の初めてのパーティ戦が幕を開けようとしていた。
ユラが無茶をしてないか心配だけど、信じるしかない。
この新しい出会いが、自分の旅を大きく変える予感を、俺は静かに感じていた。