盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~   作:上山マヤ

37 / 50
第37話 相反する属性

 宿までチャールズたちが送ってくれた。

 部屋に戻ると、これまでの騒ぎが嘘のように静寂が訪れた。

 

 ランプの灯りだけが揺れる部屋。

 ユラはベッドの端に座り込み、うつ向いていた。

 

「ユラ、大丈夫?」

 

 声をかけた瞬間、ユラは俺に抱きついてきた。

 華奢な体が震えている。

 

「ミヤビとツナは、一緒に育ったの……」

「……うん」

「なのに、私は怖くて……」

「うん」

「何も……できなかった」

 

 俺は彼女の背中に手を回し、ゆっくりと撫でた。

 ずっと、苦しんでいたんだな。

 

「ユラが名前を呼んだ時、絶対に止めなきゃって思ったんだ。だから……戻ったんだ」

 

 ユラは俺の胸に顔を埋める。

 服が少しずつ濡れていくのが分かった。

 

「魔石を取り返せなかったのは悔しいけど……これ以上、ユラの悲しむ顔を見たくなかったから」

「……バカ」

 

 ユラは小さく呟き、腕に力を込めた。

 

「俺の方こそ、無茶して心配かけてごめん」

「ホントよ……心配したんだから」

「……ありがと」

 

 ランプの炎が、静かに揺れていた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 翌日。

 レベックの冒険者ギルドの最上階にある応接室。

 

 3度目ともなると、この高級ソファーにも慣れてくる。

 もはや、自分の家のソファーのようなものだ。

 

 正面にはギルドマスターのギドン。

 そして、その斜め後ろには相変わらず無言でペンを走らせる妻の秘書。

 さらに、部屋の隅には魔法教会のアリソンの姿もあった。

 

 俺とユラは定位置に座る。

 

「まず、何から話せばいいやら」

 

 ギドンは頭を抱えるような仕草をする。

 厄介事を抱え込んだという顔だった。

 けれど、その瞳の奥は少し楽しそうにも見えた。

 

 スッ、とギドンの妻が無言で書類を渡す。

 

「ああ、そうだな。これから片付けるか」

 

 そう言って、足元の木箱をテーブルに置いた。

 

「今回の礼だ。ユラ君の協力がなければ、アジトを見つけることはできなかった」

「これ……」

 

 箱の中には、深緑色の上質な服が収められていた。

 

「その昔、勇者ラクレスに仕えた亜人、テューデウの旅装束だ。レプリカだがな」

「私……に?」

「鎧もあるが、身軽さを活かすユラ君には、こちらの方がいいだろうと思ってね」

 

 俺はそっと〈鑑定〉してみる。

 

〈エルフの旅装/防御力:+25/魔法耐性+30/耐久:60/60〉

 

(俺の皮鎧より普通に強いんですが……)

 

 布に負けるなよ、皮鎧さんよ。

 

 ユラが戸惑ったようにこっちを見る。

 

「正当な報酬だと思うよ。ユラに似合いそうだ」

「……分かった。ありがたくいただくわ」

「隣の部屋で試着して、サイズの調整をしてくれ」

 

 ギドンの妻がユラを促して部屋を出る。

 バタン、と扉が閉まる音が響いた。

 

「俺とユラを離すために、わざわざ用意したんですか?」

「タケルの言う通り、正当な報酬だよ。彼女のお陰だ」

 

 ギドンの言葉に、嘘はなさそうに思えた。

 

「……ユラ君は、タケルの能力について、どこまで知っているんだ?」

「全部話してますよ。隠し事はしたくないんで」

「……そうか」

 

(案外気を回す人なんだな)

 

 ギドンはチラっとアリソンを見る。

 

「私はタケルを、水魔法の使い手だと思っていた」

「素晴らしい炎の使い手だったと聞きました。僕も見たかったです」

 

 アリソンが横から口を挟む。

 

(あんた腰抜かしてたからな)

 

「『火を灯せる者は、決して水を操れない』。私が若い頃、アカデミーで教わった言葉だ」

「2属性持ちは珍しくありません。『デュアル』などと呼ばれもしています。しかし、相反する属性を操れるものは、そうは居ません」

 

 付け加えるようにアリソンが言う。

 

「あの〈フレイム・ランス〉は見事だった。あれは紛れもなく、上級魔法だ」

「いや、たまたまトドメが俺だっただけで、えっと、スチュアート?さんの魔法で、ほぼ勝負はついていました」

「そういうことじゃない……レベル6で、上級魔法を行使したという事実だ」

 

(う……やっぱり、そこを突っ込まれるよな)

 

「俺の特性で、といえば納得して頂けますか?」

「ふむ、実際それしかないだろうな。スキル書の可能性もなくもないが、タケルのこれまでの記録から見てドロップするとは思えん」

 

(そうか、マナ認証のログで、俺の行動記録はギルドで把握できるのか)

 

 ギドンは深くため息をつく。

 

「火と水のデュアル。少なくとも私は聞いたことがない。……ん? まさか水属性の上位魔法も使えるのか!?」

「いえ、使えません!」

 

(今はまだ、だけど)

 

「あ、いや、そうだな。そもそもSPが足りんか。忘れてくれ、私も動揺しているようだ」

 

(「実はSP2倍なんですよ~」、なんて言ったらどうなるんだろうか)

 

 一息ついてギドンが口を開く。

 

「ルードという男の行方についてだが」

「……はい」

「いつの間にか、あの場から消えていた。召喚のドサクサでまんまと逃げられた」

 

(スパルトイが召喚されてから、ルードのことを考える余裕はなかった)

 

「何者なんですか? あいつは」

「私にも詳細は分からんが、知ってそうな人物に心当たりがある」

 

 そう言ってギドンは、アリソンを睨むように見る。

 

「……僕の知っていることを話します。だからギドンさん、この〈石の鎖〉を解除してください。逃げませんって」

「聞いてから解除しよう」

「こんなのが公になったら、困るのはあなたなんですからね!」

 

(なんだ石の鎖って?)

 

 俺には何も見えない。

 ギドンのスキルでアリソンを制約しているのか?

 不可視の拘束魔法か何かだろうか。

 

「ルードという男はですね。……恐らく過去に魔法協会で"管理"していた男です」

「やはりか」

 

(管理?)

 

「そもそも僕は医学研究者で、専門も違います。資料で知った情報だけですよ」

 

(この人、医者だったのか)

 

「もしかして、サライの? トリ族の女の子をカウンセリングに?」

「ええ、彼女だけではありませんがね。この街には心のケアが必要な人が多い。ギドンさんにも、おすすめしておきます」

「私は遠慮しておこう。それで続きは?」

 

 アリソンは肩をすくめ、話し始めた。

 

「ルードが協会に確保されたのは今から約30年前。彼がまだ幼い頃、10歳になるかどうかくらいだったようです」

「そんな子供を?」

 

 思わず口にしてしまった。

 アリソンは黙って頷いた。

 

「光と闇のデュアル。それが、その少年の特性でした」

「……ッ」

 

 ギドンが息を呑む。

 火と水以上に、ありえない組み合わせだということか。

 

「貴重な闇属性でかつ、子供ならこちらの思想に染めやすい。協会にとっては"金の卵"だったんです」

 

(協会は、その子供をどうするつもりだったんだ?)

 

「しかし、誤算が起こった」

「……戦争か」

「はい」

 

(そうか!)

 

 カホンに来る途中、御者(ぎょしゃ)のムスターが話していた。

 30年前にあった戦争。

 

「協会が管理していた者たち、僕たちは『被観測者』と呼んでいます。戦争の混乱で協会内部でも衝突が起こり、逃げた被観測者もいた」

「連れ戻せた者もいましたし、始末された者もいたようです。しかし、たった1人だけ、ついには見つからなかった」

「それがルードというわけか」

 

 アリソンは頷いた。

 

 俺は疑問を口にする。

 

「どうして魔法協会は、その被観測者を捕えるんです?」

「相反する属性を持つ者の多くは、自身のマナに精神を侵食され、廃人になりやすい。20歳になる前に亡くなる者も多いんです。保護、という名目もありました」

「しかし、お前たちは研究材料にしてるだけじゃないのか? それで何人の被観測者を救ったんだ?」

 

 ギドンの口調が厳しい。

 

(あまり魔法協会をよく思ってないのか)

 

「僕に怒らないでください! ……当時の協会ですよ。今は少しだけ変わったんです」

 

 アリソンはバツが悪そうに視線を逸らす。

 

「その逃げた少年が、あのルードだと?」

「確証はありません。しかし、ルードという名と闇魔法を使った事実。これだけで協会は動きますよ」

 

 結局ルードについては、過去の断片しか分からなかった。

 

 けれど、危険な存在であることには変わりない。

 そして、きっと彼は止まらないだろう。

 

「そうそう、ギドンさん。あれを渡さないと」

 

 思い出したようにアリソンが言う。

 

「ああ、そうだな」

 

 ギドンはまた足元から、今度は装飾の施された小箱を取り出してテーブルの上に置いた。

 

「レイドモンスターのドロップには優先権がある」

「レイド?」

 

(そういえばスパルトイを〈鑑定〉した時にそんな表記があったな)

 

「その一つがラストヒットボーナスだ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。