盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~ 作:上山マヤ
「
オーク族の族長シャンデが、低い声で問いかける。
族長の部屋には重苦しい沈黙が満ちていた。
焚き火の爆ぜる音だけが、緊張感を煽るように響く。
「祠の場所を教えて下さい。そこで得られるSPがあれば、あの氷壁を砕くことができるかもしれません」
「ふむ……」
顎に手を当てたシャンデは、値踏みするようにじっと俺を見据える。
「人間のお前が、我らオークやゴブリンのために力を得ようとするのか?」
「それだけじゃない。俺自身も強くなれます」
(知った以上は、絶対に祠でSPを取る!)
俺の返答に、シャンデは口の端を吊り上げた。
「いいだろう。我らに害をなすようには思えんしな。ただし、私も同行する」
「……はい?」
「お前の力を見てみたい。もっと魔法の力を見せろ。我らオークは生まれつきマナが少なく、魔法は不得手だ」
(対魔法使いの経験を積みたいって感じがするな)
どう見ても筋肉ゴリゴリの戦士タイプだ。
魔法への対策を考えているのかもしれない。
(あれ?)
「えっと、力が見たいということは……」
「当然モンスターどもがいる。まあ、大した奴らではない」
シャンデが獰猛に笑う。
周りに控えていたオークたちも力強く頷いた。
(……ホントかな?)
「ゴブリンと、獣人の娘はどうする?」
シャンデの視線が、俺の後ろに向けられる。
「あの2人は――」
「私も行く」
遮るように声がした。
振り返ると、ユラが入り口に立っていた。
昨夜の消耗が嘘のように、その瞳には強い意志が宿っている。
「ユラ、もう起きたのか」
「平気よ。戦えないけど、経験値が欲しいからそばで見てるわ。SPが空っぽなの」
(なかなか言えない感じのことを、堂々と言ったな)
昨日のスキル取得で使い果たしたんだろうな。
彼女にとっても切実な問題だ。
「我も行く。オークの村で、1人は、嫌だ」
ラクンも俺の足元にぴたりと寄り添って主張する。
(2人とも超個人的な理由だな)
「くっははは! いいだろう。普段なら追い払うが、人間の力と貴様らの素直さに免じて連れて行ってやろう!」
シャンデが豪快に笑い飛ばす。
すると、視界にウィンドウが表示された。
──シャンデからパーティ申請が届きました。
(急に来るから心臓に悪い……)
これ冗談で拒否ったら殴られそうだな。
俺は承諾ボタンを押す。
──パーティに加入しました。
こうして、オーク族の女族長シャンデをリーダーとするパーティが結成された。
ゴブリンのラクン。
マヌルネコの獣人のユラ。
そして人間の俺。
異色のパーティが並び立った。
(……なんだこのパーティ、ハーレムかよ)
俺は小さくため息を吐く。
けれど、その奇妙な組み合わせに不思議と一体感を覚えていた。
◇ ◇ ◇
俺たちは冒険者の祠を目指して雪原を進む。
距離はそれほど遠くないらしいけど、足場は悪い。
「おい、人間」
「はい」
先頭を行くシャンデが、背中越しに声をかけてくる。
(パーティ情報に俺たちの名前が表示されてるはずなのに)
「貴様らのレベル。よくここまで来れたものだな」
「あ、……も、もうすぐ上がりますよ」
(まてよ?)
シャンデは20レベルだ。
対して俺たちは、6レベルと5レベル。
道中のモンスターのレベルはどうなんだ?
シャンデからしたら大したことなくても、俺たちからしたら即死級のレベル差になってたりしないか?
「あの、もし祠の周りのモンスターのレベルが高いようなら、やっぱりユラとラクンは帰したいんですけど」
「言っただろう、大したことはない。貴様らと、そう変わらんさ」
(本当かな?)
俺はチラリと後ろを見る。
ユラは寒さに強いとはいえ、昨日の疲れが残ってる。
ラクンは平然としているけど、レベルはユラと同じだ。
モンスターを見つけたら速攻で〈鑑定〉する。
やばいレベルだったら2人をすぐに帰らせよう。
俺が考えているのを察して、シャンデが鼻を鳴らす。
「疑り深い人間だ。我らの生活圏のそばに、高レベルなモンスターがいるはずがないだろう。人間どもの町も、同じのはずだ」
「たしかに、その通りですね」
納得しつつ、俺の視線はシャンデの背中に釘付けになっていた。
彼女の体躯に見合うほどの巨大な剣。
独特の装飾が施され、雪の中でも鈍く輝いている。
背負われているだけで圧倒的な圧力を放っていた。
(こういうの、聞くのがマナーだったりするのかな?)
「その武器、〈鑑定〉していいですか?」
「好きに見ろ」
〈オルクスの大剣/攻撃力:+50/STR:+10%/〈ブレイブ〉/耐久:∞〉
〈ブレイブ〉
効果:対象の攻撃力が増加する
(当然のことのようにレジェンダリー武器だな。それよりも……)
「いや、強すぎでしょ! 攻撃力盛りまくりで耐久無限?」
「素材やエンチャントまでは見られんか」
(エンチャント? そんなのまであるのか……)
「〈鑑定〉スキルでそこまで詳細に見えるんですか?」
(スキル説明には「詳細情報が見れるようになる」、としか書いてないんだよな)
「スキルの開花だ。〈鑑定〉は熟練が溜まると自然と開花すると聞く」
「なるほど!」
(そういえば、開花で効果が強化されるのもあるって聞いたな)
熟練度っていうからには回数が決まってるのか?
俺の反応を見て、ユラが小声で聞いてくる。
「そんなにすごいの?」
「ああ、一生モノの武器だよ」
ユラが感心したように大剣を見上げる。
「パーティにそういう仲間が1人いると便利だ。まあ、オークたちは〈鑑定〉なんぞにSPを振りたがらんがな」
「まあ、それは想像がつきます」
脳筋……いや、純粋な戦士たちだからな。
「これは先代の族長の剣だ。死者の武器は、子や仲間へと受け継ぐ。オークは"武器に魂を宿す"のだ」
(魂の継承……特殊な力でも宿ってるのか?)
「もしかして、耐久が無限になってるのって……エンチャントの影響ですか?」
「これはシェーレ鋼だ。シェーレ鋼で作られた装備は損傷しないと言われている。たしか人間の技術だぞ? いや、ドワーフだったか?」
「そんな技術が……」
(折れない、壊れない武器)
それが永遠に受け継がれていくのか。
ロマンがあるな。
「ラクンも何か持ってるの?」
ユラが何気なく尋ねる。
「ゴブリンは、骨を使う。これだ」
ラクンは胸元から、小さな骨をつなぎ合わせた首飾りを取り出して見せた。
粗削りだけど、どこか温かみのある光沢を帯びている。
「見てもいい?」
ラクンはコクリと頷いた。
〈妖精のアミュレット/「幻惑」「魅了」無効〉
「状態異常が2つ無効!?」
(これ、普通に冒険者ギルドで高値で取引されそう)
「ほう」
シャンデも興味深そうに覗き込む。
(確かにオークは精神系に弱そうだし……。いや、それは人間もか……)
ラクンは「ふふん」と小さく胸を張った。
死者の武器を受け継ぐオーク。
死者の骨を飾るゴブリン。
人間には、どういうものがあるんだろう。
種族も価値観も違う。
それでも今は、同じ場所を目指している。