盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~   作:上山マヤ

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第6話 シナジーの兆し

「……疲れた」

 

 大きく息を吐き出し、俺は森の入り口で膝をついた。

 

 肺が焼けるように熱い。

 足は鉛のように重い。

 だけど、この疲労感がたまらなく心地よかった。

 

(そう思っていた時期が俺にもありました)

 

 一日中狩り続けようかと思っていたけど。

 

 体が悲鳴を上げている。

 ステータスの表示では、HPやマナは残っているのに。

 

 俺自身の集中力や体の疲れはまた別の話らしい。

 何より、足元の「モンスター袋」がパンパンだ。

 

(これだけ狩ったのに……)

 

 レベルはまだ上がらない。

 次のレベルまでの経験値の要求量が意外と多い。

 ちょっと舐めてたな。

 

(荷物も重いし、いったん整理するか)

 

 俺は鉄の剣を〈鑑定〉してみる。

 

〈鉄の剣/攻撃力:+10/耐久:46/50〉

 

 一日の狩りで耐久が4減か。

 予備の武器も用意するべきか?

 でも、鉄の塊を何本も背負って歩くのは現実的じゃない。

 重量制限は俺自身の筋力次第って感じだ。

 

(アイテム重量については、一生悩むことになりそうだな)

 

 帰り道は、〈探知〉に映るモンスターの反応を避けながら移動する。

 戦闘を"選べる"というのは、生存率に直結する。

 

(マジでこのスキル取ってよかった!)

 

 ◇ ◇ ◇

 

 カウベルの村へと帰還した。

 夕暮れの村は、朝とはまた違った表情を見せている。

 

 いつも同じ場所に突っ立っているだけのNPCなんて居ない。

 畑仕事から帰る人。

 家路を急ぐ子供。

 軒先で談笑する老人。

 それぞれの生活のために、村の人たちは動いている。

 

 ふいに鳥の影が目に映る。

 

 このあまりにも現実的な光景が、本当にゲームの世界なんだろうか?

 

 俺は視界の端のUIを確認して小さく笑った。

 この非日常(UI)が、俺の日常になりつつある。

 

 そのままギルドへと足を運んだ。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「解体費用を差し引きまして、合計で銀貨1枚と銅貨10枚ですね」

「ぐ……ぎぎ。ありがとう……ございました」

 

 血を吐きそうな悔しさを滲ませながら、俺は代金を受け取った。

 魔石が出ない。

 あれだけ狩って、ゼロだ。

 

(運が悪いだけか? それとも……)

 

 ふと、受付の女性が書類に何か書き込んでいるのが見えた。

 "素材破損"という項目にチェックが入っていた気がする。

 

(もしかして、俺の倒し方が雑すぎて、魔石ごと砕いてるのか?)

 

 そんなことってあるのかな?

 どちらにせよ、今のままじゃジリ貧だ。

 

(戦闘以外のお金の稼ぎ方も、試してみた方がいいな)

 

「すみません。俺に受けられるクエストはありますか?」

「はい、こちらがクエスト一覧になります」

 

 受付の女性が答えると、ウィンドウがポップアップ表示された。

 

(こんな風に出てくるのか。あっちの掲示板に貼られてる内容と同じなのかな?)

 

 俺は内容に目を走らせる。

 

 配達クエストに、収集系もある。

 これなら戦闘不要でこなせそうだ。

 

「この"目薬の材料集め"を受けてみたいんですけど……」

「はい、採取クエストですね。アイザックさんの手伝いです」

 

 俺は場所を聞き、採取人がいると言われている南の森へと向かった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

(あれかな?)

 

 森の穏やかな木漏れ日の中、しゃがんで作業している人影を見つけた。

 

「こんにちは、クエストを受けてきたんですけど」

「やあ、こんにちは。僕はアイザック。助かるよ。人手が足りなくてね」

 

 アイザックと名乗る青年は、人懐っこい笑顔で答えた。

 俺も自己紹介を済ませて、仕事内容を詳しく聞く。

 

「目薬の材料って聞いたんですけど……木なんですか?」

「正確には、この『目洗いの木(めあらいのき)』の樹皮(じゅひ)が素材になるんだ」

 

 アイザックから借りたヘラのような道具を、木の表面に差し込む。

 "てこの原理"でグッと持ち上げる。

 樹皮がパリリ、と気持ちいい音を立てて剥がれた。

 

「おおっ」

 

 けっこうきれいに剥がせる。

 俺は〈鑑定〉で剥がした樹皮を見てみる。

 

〈目洗いの樹皮/品質:C〉

 

(これが目薬の材料に……)

 

 目薬は〈クリアサイト〉と同じく状態異常を解除するアイテムだ。

 

〈クリアサイト〉

 効果:対象の「盲目」状態や「幻覚」状態を解除する。

 

(こういうのって重要だな。状態異常って厄介そうだし)

 

 SPを使ってスキルを取得しない代わりに、アイテムを準備しておきたい。

 でも戦闘中に目薬なんて差せるのか?

 

「そういえば、この辺りにはモンスターは出ないんですか?」

「南側は比較的安全なんだ。特にこの辺りは村も近いし、滅多に現れないよ」

 

(なるほど。村の近くは安全地帯ってわけか)

 

 俺は順調に仕事をこなす。

 次々と樹皮を剥がしていった。

 

「いや~、ありがとう。すごく助かったよ。これ、ギルドで見せてね」

 

 アイザックは、小さなカード状の物を取り出して手渡す。

 受け取ったカードは、ギルドでマナ認証に使われた板と同じような材質だった。

 

(なんか……本当に喜んでくれてるみたいだ)

 

「はい、こちらこそ勉強になりました」

 

 ◇ ◇ ◇

 

「これを渡すように言われたんですけど」

 

 ギルドに戻り、カードを提出する。

 受付の女性がカードを認証板に置く。

 すると、何かを確認するような仕草をした。

 

「採取クエスト達成ですね。お疲れ様です」

 

(どういう仕組みなんだ……?)

 

 その瞬間――。

 ウィンドウが小さく明滅する。

 

(まじか!?)

 

 レベルが上がった!

 クエスト達成でも経験値が入ってたんだ。

 

「こちらが報酬になります」

 

 手渡されたのは、銀貨2枚。

 

(えっ、こんなに? さっきのクモ退治の倍じゃん!)

 

 自然と顔がほころぶ。

 戦闘で命を削るより、安全に作業した方が儲かるなんて。

 

「ちなみに採取クエストって、どうやって報酬が決まるんですか?」

「多くは採取量で決まります。場合によっては、品質が関わることがあります」

 

(予想はしてたけど、やっぱりそうか)

 

 生産スキルの影響が、そのまま報酬に直結するんだ。

 

 ギルドの椅子に腰を下ろし、ひと息ついた。

 

(なんにしてもお金は要る)

 

 昨日みたいな、豪華な食事を毎日食べるつもりはないけど。

 宿代だって装備のメンテナンス代も必要になる。

 それに〈採取〉スキルがあれば、クエストがない時でも素材を集めて売れるかもしれない。

 

(取っておくか)

 

 俺はUIを開いて、〈採取〉を取得した。

 

〈採取〉

 効果:採取量、品質が上昇する。

 

(……ん? まだウィンドウが光ってる?)

 

 ステータス画面に見慣れない文字が並んでいた。

 

「マジか……」

 

 シナジーボーナス:〈調査者の才覚〉

 条件:〈鑑定〉、〈探知〉、〈採取〉の同時習得。

 効果:探知できる範囲内で、採取可能アイテムがマップ上に表示されるようになる。

 

(シナジーボーナス!?)

 

 こんなシステムがあったのか。

 

 マップを確認してみる。

 

 おお……マジで採取ポイントが見える。

 

(これはデカい!)

 

 どこに"金になる素材"があるか丸わかりってことだ。

 もしかすると、俺の〈天賦の才〉がこうした隠し要素の発見にも一役買っているのかもしれない。

 

 生産系のスキルは他にも色々ある。

 〈採掘〉〈釣り〉……魚、食い放題じゃん。

 そうなったら〈料理〉も欲しいよな。

 夢が広がっていく。

 

(そうだ!)

 

 他のクエストも一覧に載ってたな。

 〈採取〉の効果を試したいし、ついでに受けておこう。

 

「すみません。配達クエストを受けたいんですけど」

「はい。カホンの町への配達クエストがございます」

 

(カホン? 別の町!)

 

 そこに行けば、この村にはない情報があるかもしれない。

 「ノクスの核」の手がかりや、もっと強い装備も。

 

 クエストは、3日以内に木箱をカホンの町のギルドへ届けるという内容だった。

 俺は木箱を受け取る。

 少し重いけど、持てないほどではない。

 

(中身は……開けられないか。まあいいや)

 

 木箱をバックパックに詰め込む。

 俺は新しい世界への旅路を歩み始めた。

 

 村から町へ。

 次の物語が始まるような気がした。

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