盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~   作:上山マヤ

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第62話 専門家たち

「そのアルダのシンボル、トーリン商団のキャラバンか」

 

 ジョシュがメモ帳を片手に、冷静に指摘する。

 

「げっ! あんたパーフェクトサークルのジョシュか?」

「ああ。会ったことがあったか?」

「いや、ワシは初めてじゃが、噂では聞いておる。このキャラバン隊の隊長、ノーリじゃ」

 

 ドワーフの商人とジョシュのやり取りを遠目で眺める。

 後ろでは、アンジェラがオークの酒を手にしていた。

 

「ジョシュさんって案外有名なんですか?」

「あのおっさんは、レベックでランク1位クランの顔役だ。色んなところに顔出すのが仕事だ」

 

 アンジェラが酒を(あお)りながら答える。

 

「組織を回すには、ああいうのが必要なんだよ。ま、俺には無理な芸当だがな」

「そうなんですね」

 

(クラン……組織を維持するのにも、色んな苦労があるんだろうな)

 

 ゴブリン族やオーク族たちを見ても、その大変さが伝わる。

 レベックのギドンや、カホンのモーリンも苦労してそうだな。

 今回は特に、俺が頼んじゃったから。

 

 ジョシュがドワーフとのやり取りを終え、こちらへと歩いてくる。

 俺は気になっていたことを聞いた。

 

「そういえば、あのダックスで1日で来れたなら、応援部隊もそのくらいで着くんじゃないんですか?」

「ワンワンを知らんのか?」

「俺も詳しくは知らねえぞ。高速船ってだけしか」

 

(アンジェラも初めて乗った、みたいなこと言ってたな)

 

 隣でユラも興味津々に耳をそばだてている。

 ラクンは、少し怖そうにユラの後ろに隠れたままだ。

 

(ラクンって案外人見知りするんだな)

 

「ワンワンは帰属本能が極めて強い。自分の家だと認識した場所に戻りたがるのだ」

「じゃあ、もう帰ってんのか?」

 

 アンジェラの言葉に、俺は思わずレベックの方角へ目を向けた。

 

「もうレベックに着いているかもな。ワンワンは帰りの方が早い」

「それじゃ尚更、すぐに他の人を乗せてこっちに来れそうですけど……」

「それは不可能だ。ワンワンは一度帰宅すると、一週間は家から出ない」

「なんだそりゃ!」

 

 アンジェラが思わずツッコミを入れる。

 

「変わった動物も居るのね」

 

 ユラが呆れたように言う。

 

「それゆえ、緊急時にしか乗れんのだ。高速で移動するのは、すぐに家に帰りたいからだと言われている」

 

(変な習性の生き物もいるんだな)

 

 というかワンワンって呼ぶんだな。

 ジョシュが真顔で言ってるのが少し面白い。

 

「どうやって飼い慣ら(テイム)したんだよ?」

「教えるわけがなかろう。というか私も知らん。そっちで魔獣使い(テイマー)を育てるんだな」

「なかなか見つからねえんだよな」

 

 アンジェラは頭をガシガシと掻いた。

 

(そういう専門の職業もあるのか)

 

◇ ◇ ◇

 

 アンジェラとジョシュが集落に来てから2日。

 立ち入り場所は制限されてはいたけど、比較的自由に過ごしていた。

 

(俺の時よりも制限がかかっているのは、これから人が増えるせいかな?)

 

 やっぱり種族が違うってだけで警戒はするよな。

 逆の立場でもきっとそうだろうし。

 

 アンジェラは今日、オークたちと狩りに出かけている。

 素手での決闘などを経て、オーク族に認められていったみたいだ。

 

 ジョシュはゴブリンの工芸品に興味があるようだった。

 交易できないか熱心に交渉をしていた。

 

(アンジェラはともかく、ジョシュがこっちの生活に馴染んでるのが意外だ)

 

 俺はトラベルに食事を与えながら考える。

 隣ではユラがラクンの髪を()いてやっている。

 穏やかな光景だ。

 

 危険が迫っている割りに、落ち着いた時間が流れているのが不思議だ。

 今が嵐の前の静けさってやつなのかな?

 

◇ ◇ ◇

 

 そして3日目。

 20名近くの冒険者がレベックから派遣されてやってきた。

 

「ぞろぞろと来た割に、あまり強そうには見えんな」

 

 シャンデが鼻を鳴らし、見下ろすように言う。

 

 オークの中でもひと際巨体のシャンデの迫力。

 到着したばかりの冒険者たちが息を呑む。

 

「まずは情報収集と設営の部隊だ。戦闘が得意なのは後から来る」

 

 アンジェラが割って入って説明する。

 

「設営?」

「本格的にボーンイーターを迎え撃つなら、これからもっと、ぞろぞろとやってくる。詳しい数は分からねえがな」

 

 続いて、ジョシュが事務的に交渉を進める。

 

「それまでの生活もある。給仕場や寝床、その他必要な施設を設置したい。集落の外側に立てるので、許可をもらえるか?」

「許可する。ただし、こちらから見張りはつけるぞ」

「もちろん、構わない」

 

(揉めずに話が進みそうでよかった)

 

「とりあえず2か月は、物資の補給が切れないように届く手配をしておいた」

 

 1人のリザードマンが、巻物を広げながらアンジェラに報告する。

 

「さすがだな、アヤド。じゃあ、さっそく調べるとするか」

 

(……経験が全く違う)

 

 彼らは、これから必要なことが全部分かっているみたいだ。

 何度もこういった場面を越えてきたという証拠だ。

 

 俺とユラ、ラクンは、ただその手際の良さに圧倒されていた。

 

◇ ◇ ◇

 

 オーク族の族長の部屋。

 この部屋はいつの間にか作戦準備室となっていた。

 

 俺たち3人も末席に座らせてもらっている。

 飛び交う専門用語にラクンは目を回しそうだ。

 ユラが背中をさすって落ち着かせている。

 

「では、説明させていただきます。パーフェクトサークル情報部、リードルと申します」

 

 リードルと名乗る女性は、ハキハキとした口調で話し始める。

 

「ボーンイーターは環境や食料によって、その生態を変えるのが特徴です」

「生態を変えるって……」

「種として根本的な部分は保たれているでしょうが、過去4件のデータを比べると、4件とも属性が違い、攻撃種類の違いも見えます」

「なんだそれは。つまり、何も分からんということか?」

 

 シャンデが苛立ちを隠さずに言う。

 

「なので、まずは基本に返って情報収集から始めましょう」

「具体的になにをするのだ?」

 

 ゴブリンの族長が問いかける。

 

「ボーンイーターを捕まえて調べます。構造、弱点を調べて、一番嫌がる方法を考えます」

「ふん、人間らしいやり方だ」

 

 シャンデが皮肉っぽく笑う。

 

「他にも具体的な数、こちらまでの到達時間などの予測も立てたいと思います」

 

 専門家たちの議論が進む中。

 ユラがずっと下を向いて何かを考えていることに気づいた。

 その手は膝の上で強く握りしめられている。

 

(ユラ……?)

 

 不意に、ユラが顔を上げた。

 その瞳には決意の色が宿っていた。

 

「……あの、いいですか?」

 

 会議の空気を裂くように、ユラが手を挙げた。

 全員の視線が集まる。

 

「ボーンイーターを捕まえるなら……私にも見せてもらえますか?」

「ええ、別に構いませんが……」

 

 リードルが不思議そうに答える。

 

「私なら……もっと深い情報を読めるかもしれません」

「あっ」

 

(そうか!?)

 

 俺は驚いてユラを見る。

 

「私のスキル〈残香読(ざんこうよみ)〉で、ボーンイーターの情報を読み取る。そうすれば、女王の居場所や、弱点もわかるかもしれない」

 

 ユラの提案に、ジョシュが眼鏡の奥の目を光らせた。

 

「ほう……サイコメトリーの一種か。精神汚染のリスクはあるが、確実な情報源にはなるな」

「やります。私にも……できることがあるなら」

 

 ユラは俺の方を見て、力強く頷いた。

 

 守られるだけじゃない。

 ユラは、自分の足で戦場に立とうとしていた。

 

 俺は黙って、彼女の決意を支持するように頷き返した。

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