盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~   作:上山マヤ

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第7話 冒険者の生活

(これめっちゃ楽だな)

 

 道端に咲いた白い花を見つけて、俺は足を止める。

 

(やばい、採取が楽しすぎて前に進めない。町に着かないんだけど)

 

 〈採取〉のスキルとシナジーボーナス〈調査者の才覚〉。

 そのお陰で、木の根元に生えた薬草や植物の実など、あらゆる素材が俺の目に留まる。

 まるで素材の方から「ここにいるよ! 拾って!」と存在をアピールしてくるような感覚だ。

 

 その時、視界の先で小さな影が跳ねた。

 

〈カホンフォックス/木属性/レベル:1〉

 

(この辺はキツネが出るのか)

 

 草むらから飛び出してきたカホンフォックスを、俺は手慣れた動きで軽くいなす。

 剣の腹で軽く叩くような一撃。

 その反応は鈍く、あっけなくキツネは地面を転がる。

 

(ついでに戦ってるから進まないんだよな……いや、それ以前に採取しすぎだろ)

 

 荷物の重さを気にしつつステータス画面を開いた俺は、ある異変に気付く。

 

(あれ、なんか変だぞ?)

 

 経験値バーがピクリとも動いていない。

 俺は再び〈探知〉でモンスターの気配を察知して倒してみる。

 

(やっぱり。キツネの経験値が入ってない)

 

 これはつまり……レベル差補正か?

 俺は今レベル3。

 対してキツネはレベル1。

 昨日倒したレベル2のクモの経験値は入っていた。

 

(……いや、感覚的に分かるな)

 

 今の戦闘に、緊張感も工夫もなかった。

 ただの作業だ。

 命のやり取りをしていないのに、"経験"が得られるはずもない。

 

(-1レベルまでは許容するけど、自分と同格以上と戦いなさいってことか)

 

 この世界のシビアな現実を知りながらも、俺の採取する手は止まらなかった。

 経験値にならなくても、素材(お金)にはなるからだ。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 歩いてはかがみ、また歩いては採る。

 その繰り返し。

 気づけば木陰は長く伸び、空には赤みが差し始めていた。

 

(まさか野宿することになるとは……)

 

 小さな丘のふもとで野営の準備を始める。

 念のためにと思って、カウベルの道具屋で旅に役立ちそうなアイテムを購入しておいて正解だった。

 

 生活魔導具「火の水晶」。

 火の魔石を加工した物らしい。

 防火処理の施されたケースに入っている。

 マナに反応して火がつく仕組みで、ライターのような道具だ。

 

(マナを注入って言ってたよな……。指先に熱を集めて、流し込むイメージ――)

 

 意識を集中してマナを流すと、ボッと大きな火がついた。

 

「うわっ!」

 

 俺は少し慌てて手を離す。

 

(あぶなっ。火加減ムズっ!)

 

 これ、スキルなしでも練習すれば魔法みたいに使えるんじゃないか?

 

 そんな妄想をしながら、何とか焚き火を完成させて、地面に直接腰を下ろす。

 

 ごつごつとした石の感触が尻に伝わってくる。

 夜の闇はどこまでも深い。

 

 焚き火と、風が草を揺らす音だけが耳に届いた。

 寝袋を広げ、いつでも眠れる準備をしておく。 

 

 チーズ入りパンと乾燥肉を取り出す。

 かじりつきながら、スキルツリーを開く。

 

(というか、これ、絶対他にもあるだろ。シナジーボーナス)

 

 戦闘系のシナジーも見つけたい。

 スキルの属性も多いし、組み合わせは無限大だ。

 どういう組み合わせがいいんだ?

 

(攻略Wikiがあったらなあ)

 

 パチッ、と焚き火が爆ぜた。

 その物音にビクっと体が震える。

 

(俺がこんな風に野宿してるなんてな……)

 

 かつての俺を囲んでいたのは、白い壁と規則正しい電子音。

 そして、消毒液の匂いだった。

 夜ですら完全な闇も、完全な静寂も許されなかったあの場所。

 

(けど今は違う)

 

 自分の意志で火を起こす。

 自分の手で寝床を作っている。

 不便で、心細くて、少しだけ怖い。

 でも、それ以上にどうしようもないほどの"自由"が、俺の全身を満たしていた。

 

 誰にも管理されない。

 剥き出しの自然の中で、自分の力だけで夜を越える。

 これこそが、俺が本当に求めていた冒険なのかもしれない。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 翌日。

 昼過ぎになって、ようやく俺はカホンの町へと到着した。

 

(門番とかいないのな)

 

 カウベルの村には一応木の柵があった。

 けれど、この町には柵すら見当たらない。

 

 それだけ平和ってことなのかな。

 あるいは、モンスターが入ってこない結界でもあるのか。

 

 町の入り口らしき広場は開けていた。

 建物の造りはカウベルよりも明らかに整っている。

 

(それに……広い)

 

 カウベルの建物は丸太小屋風だった。

 それに対して、カホンでは製材された角材で建てられている。

 文明レベルが一段階上がった感じだ。

 

 通りを歩くと、腰を曲げた年配の女性とすれ違った。

 彼女の優しい眼差しに、俺の表情も自然と和らぐ。

 

「こんにちは。ギルドに行きたいんですけど、教えてもらえますか?」

 

 俺はひざを折って、目線の高さを合わせて尋ねた。

 

「あら、こんにちは。ギルドならあそこよ」

 

 柔らかく微笑んだ女性が指差す先には、年季の入った木造の看板が揺れている。

 大きく「冒険者ギルド」と刻まれていた。

 

(この町も、いい人が多そうだな)

 

 お礼を言って、俺はギルドへと向かった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 ギルドの扉を開ける。

 木の匂いと少し埃っぽい空気が、ふわっと流れてきた。

 

 中には年季の入った木製の机と椅子が並ぶ。

 騒がしくはないけど、人の気配は絶えない。

 カウベルのギルドよりも活気があった。

 

「いらっしゃいませ」

 

 受付の女性が、丁寧な声で俺を迎え入れる。

 

「配達クエストでカウベルから来たんですけど」

「はい、確認いたします」

 

 女性は木箱を受け取ると、例のカード型アイテムをかざした。

 

(なんか……QRコードを読み取ってるみたいだな)

 

「配達クエスト達成ですね。お疲れ様です。こちらが報酬となります」

 

 手渡された報酬は、カウベルでの採取クエストよりもやや少なかった。

 でも、移動しただけなので悪くない。

 

(やっぱうまいな。こういう"ついで"クエストは積極的に受けるべきだな)

 

 〈採取〉で見つけたアイテムを清算してもらう。

 その間に、俺はギルドの掲示板を眺めていた。

 一覧のスクロールしていく。

 すると、気になる単語が目に飛び込んできた。

 

(この"(ほこら)の調査"って、あの祠のことか?)

 

 胸の高鳴りを覚えながら、俺は尋ねる。

 

「この調査クエストのことを聞いていいですか?」

「はい。冒険者の祠の調査ですね。こちらは祠で『調査結晶』を使うことで達成されるクエストです」

 

(おつかいクエか?)

 

 そして、次の女性の一言が俺の目を釘付けにした。

 

「報酬はこちらになります」

 

〈カホンの剣/攻撃力:+20/木属性:+20/耐久:30/30〉

〈カホンの弓/攻撃力:+10/木属性:+20/耐久:30/30〉

〈カホンの盾/防御力:+20/光耐性:+20/耐久:30/30〉

〈カホンの皮鎧/防御力:+20/光耐性:+20/耐久:30/30〉

 

(なんだこのクエスト? うますぎないか!?)

 

 今の鉄の剣(攻撃力+10)の倍だ。

 しかも属性付き。

 同時に、ある違和感に気づく。

 

(あれ? 〈鑑定〉使ってないぞ。報酬リストだと情報が見れるのか)

 

「こちらの中から一つお選びいただけます」

 

(え、選択型の報酬かよ! 全部もらえるのかと思った)

 

 そうはいっても、どれも魅力的だ。

 ただ、気になる点もある。

 耐久値が30と低い。

 強いけど壊れやすい。

 特殊な素材で作られてるとか?

 

(それに、ただのおつかいでこの報酬……なんか裏がありそうだよな。道中めっちゃ大変とか)

 

 結局、俺はクエストを受領して「調査結晶」を受け取った。

 マップを開いて祠の場所を確認する。

 すると、近くにいた筋骨隆々の男が声をかけてきた。

 

「よお、カホンの祠へ行くなら気をつけた方がいいぜ。あそこは羽ドラゴンの巣の近くだからな」

 

(ドラゴン? やっぱり行くのが大変なパターンか)

 

 思わず、俺の表情が引き締まる。

 

「それって、強いんですか?」

「まあ、ドラゴンったって虫みたいなやつらだ。群れで来ることもあるから気をつけな」

 

(群れ……)

 

 脳裏に、あの漆黒のクモの群れとの戦闘が蘇る。

 

「ありがとうございます。気をつけます」

 

(群れで来るってことは、個々だとそんなに強くないってことか?)

 

 俺はギルドの扉を開ける。

 新たな冒険への期待と、未知の強敵への緊張が入り混じっていた。

 

(さて、次はドラゴン退治か)

 

 小さく息をつき、カホンの町の新鮮な空気を深く吸い込む。

 

「勇者にでもなった気分だ」

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