盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~ 作:上山マヤ
装備の完成を待つ数日。
俺は、ずっと気になっていたことを確かめるために、族長たちのもとを訪ねた。
レーイマニの族長室。
そこには、シャンデとゴブリンの族長が揃っていた。
(この2人、最近よく一緒に居るな)
でも、ちょうどいい。
「ノクスとは……死の神の名ですね」
俺が単刀直入に切り出す。
2人は顔を見合わせ、静かに頷いた。
「その通りだ。人間に名乗ることはなかったようだが、我らゴブリンには創造主の名として伝わっている」
ゴブリンの族長が答える。
「ノクスは夜、そして死。だが、我らオークにとっては始まりの神でもある」
(やっぱり……)
ゴブリンの歌にあった。
『ノクスは、朝の名であり、土地の名であり、世界の名である』
それは、彼らにとっての創造主を指していたんだ。
(つまり『ノクスの核』とは、死の神の魔石のこと……!)
俺の心臓が早鐘を打つ。
手記に残された言葉が、現実味を帯びてくる。
死の神の魔石。
それが、この世界のどこかにある。
日本へ戻るための、キーアイテムとして。
「探しているのか?」
シャンデが俺の表情を読み取ったように問う。
「……はい。俺の旅の目的の一つです」
「ならば、王都へ行け。死の神が討たれた地だ。何かが残っているかもしれん」
王都。
チャールズも勧めてくれた場所。
全ての道は、王都へと繋がっているようだ。
◇ ◇ ◇
その日の夕方。
広場の隅で、ラクンが1人で空を見上げていた。
俺とユラは顔を見合わせ、彼女に近づく。
「ラクン」
「ケル、ユラ……」
ラクンは振り返り、何かを言いたげに口を開いては閉じる。
「どうしたの? 元気ないじゃない」
ユラが優しく声をかける。
ラクンは意を決したように、小さな手を握りしめた。
「我を……。我も、連れて、行って、欲しい」
その言葉に、俺たちは驚きはなかった。
なんとなく、予感はしていたから。
「ラクンは、いいの? 村を離れて」
「ここは、好きだ。でも……外を、見たい」
ラクンは顔を上げる。
その瞳は、戦場の時と同じように真っ直ぐだった。
そこに、ゴブリンの族長が現れた。
話を聞いていたみたいだ。
「1人で洞窟に籠って、歌の練習をするだけのラクンは、もう居ないのだな。あの臆病だった子が、ケルたちを連れて来た時は、本当に驚いた」
穏やかな笑みを浮かべて、ラクンの頭に手を置いた。
「ケル、そしてユラよ。ラクンをお前たちの旅に連れて行ってはもらえないか?」
「族長……」
「この子は変わった。お前たちと出会って、外の世界に触れた。その歌声は、もはやこの村だけに留めておくには惜しい」
シャンデもやってきて、腕組みをして頷く。
「我らがこうして生きているように、まだ生き残りのオークやゴブリンが居るかもしれん。世界を見て回るのも悪くないだろう」
シャンデはラクンを見下ろす。
「居場所のない同胞がいたら、この地を知らせろ。我らが面倒を見てやる」
「我が、探そう」
ラクンが力強く答える。
「その地を捨てられなくとも、こちらから金銭的な援助は可能だ。ドワーフとの交易で、これからは潤うはずだからな」
ゴブリンの族長が目尻を下げた。
「……頼んだぞ、ラクン」
「わかった」
俺はユラを見た。
ユラは満面の笑みで頷いた。
「歓迎するわ、ラクン!」
「よろしくな、ラクン」
「……うん」
俺たちは3人で、手を合わせた。
小さくて温かい手が、そこにあった。
◇ ◇ ◇
出発の朝。
シャンデが布に包まれた何かを持ってきた。
「完成したぞ。アグラマとベルカジの魂だ」
俺は、かしこまってそれを受け取る。
(……軽い?)
包みを開くと、そこにあったのは武器ではなかった。
「……服!?」
白く、滑らかな素材で作られたベストのようなもの。
骨と魔石を加工して作られた、独特の光沢を放つ防具だった。
それが3着分。
〈ボーンアクトン/防御力:+30/魔法耐性+5/STR+5/耐久:90/90〉
(骨製……だよな? すごい性能だ)
「驚きました。武器に魂を宿すと言っていたので……剣か斧かと」
「ふん。奴らは最期まで、お前たちを守ろうとしていたのだろう?」
シャンデは少し照れくさそうに顔を背けた。
「ならば、防具の方が奴らの望みだと思ったのだ。これなら鎧の下にも着れる。それに、骨の剣なら既に持っているようだからな」
(シャンデさん……)
オークらしい、不器用だけど温かい心遣い。
インナーとして着込める防具は、旅において何よりも貴重だ。
(それに……軽い?)
袖を通した瞬間。
じんわりとした温かさが胸を包んだ。
まるで、あの2人の分厚い背中のように。
「ありがとう、シャンデさん。大切にします」
「ああ。行ってこい!」
ユラとラクンも、それぞれのサイズのアクトンを着る。
「あったかい……」
「守られてる、気がする」
俺たちは新しい防具を身に着けて、トラベルの手綱を引く。
見送りに来たオークとゴブリンたちが手を振る。
かつては敵対し、今は手を取り合う二つの種族。
その新しい国の夜明けを背に、俺たちは王都への道を進み始めた。
アグラマとベルカジの魂と共に。
そして、新しい仲間と共に。