盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~   作:上山マヤ

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第8話 草原の竜

 カホンの町、初日。

 俺は町の見物もそこそこに、調査クエストへと乗り出した。

 

 (ほこら)に行けばSP(スキルポイント)が手に入る。

 町をぶらついている暇なんてない。

 

 クエストを受領するとマップが更新されて、祠の位置が表示される。

 内容は、冒険者の祠で「調査水晶」を使用すること。

 

 カホンとカウベルを繋ぐ街道の周囲は、豊かな自然に溢れていた。

 カウベル側には整然とした畑や牧場が広がっていた。

 カホン側は目に眩しいほどの草原が続いている。

 草原には二つの水路が清らかに流れ、陽の光を反射してキラキラと輝いていた。

 

(なんか……気持ちのいい場所だな)

 

 マップには〈採取〉ポイントがいくつか点灯している。

 

(今は我慢だ。どんなモンスターがいるか、分かってからじゃないと)

 

 俺は誘惑を断ち切り、〈探知〉を絶やさぬよう慎重に歩く。

 

(あとで絶対回収してやるからな)

 

 ◇ ◇ ◇

 

(……近い。2体)

 

 草原を滑るように飛ぶ、細長い影。

 俺はすかさず〈鑑定〉を飛ばした。

 

〈羽ドラゴン/風属性/レベル:2〉

 

「……ドラゴンって、トンボじゃん!」

 

 思わずツッコミを入れた。

 見た目は完全に巨大なトンボだ。

 

 クモの時も、地を這う気持ち悪さがあったけど……。

 虫って大きいだけでキモさが倍増する気がする。

 

 〈剣マスタリー〉身体への馴染みが心地よい。

 頭の中にある"こう動けば"という動きが、そのまま反射神経として腕に伝わっていく感覚だ。

 

 羽ドラゴンが空で弧を描き、鋭い羽音を立てて突進してきた。

 もう1体も、わずかな時間差を置いて追随する。

 

(そういう攻撃か)

 

 俺はほんの一瞬、呼吸を止めた。

 横へ跳んで初撃を回避。

 

 左足を軸に半回転し、振り返りざまに一閃。

 切っ先が風を切り裂き、1体目の胴体を正確に捉えた。

 

(よし、対応できる!)

 

 続けざま、2体目が上空から急降下してくる。

 俺は地面を踏みしめ、タイミングを計る。

 

〈フィジカル・ブースト〉

 

 加速する意識の中で、一歩前へ踏み込む。

 振り抜いた剣が敵の首元を寸分違わず断ち切った。

 

 倒した羽ドラゴンを回収しながら、俺は新たな気配はないかを確認する。

 静寂が戻った草原に、微かな羽音の残響だけが漂っていた。

 

(……それにしても、なんでこいつらはこんなに自然に連携してくるんだ?)

 

 まるで誰かに操られているか、あるいは高い知能があるのか。

 不安と高揚が入り混じる中、俺は祠を目指して森の奥へと足を踏み入れた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

(今ってトンボが飛ぶ季節なのかな?)

 

 ホントに巣が近いようで、何度も羽ドラゴンとエンカウントする。

 

(あった……あれか)

 

 慎重に息を潜め、茂みの陰から目的地を伺う。

 ようやく目的地である冒険者の祠が姿を現す。

 

 けれど、その周囲には複数の影があった。

 

(左右に3体ずつ。さすがに6体はキツそうだな。気づかれる前に片方いけるか?)

 

 風の流れを確認する。

 俺は左手の3体に向かって、足音を殺して近づいていく。

 足元の枝葉に細心の注意を払い、神経を集中させた。

 

(この距離なら……)

 

 一気に距離を詰めようと、地を蹴った。

 その瞬間。

 

 俺に気付いた羽ドラゴンたちは、こちらには向かって来ない。

 右手側の3体のもとへと飛んでいった。

 

「は……!? マジかよ!」

 

 6体すべてが空中で合流する。

 そして、一斉に俺を睨みつける。

 

 羽ばたきが巻き起こす風圧で、周囲の草木が激しくざわめいた。

 

(逃げずに合流を選んだのか? 野生動物の動きじゃないぞ……!)

 

 冷や汗が背を伝う。

 1対6。

 まともにやり合えば、空中からの波状攻撃でなぶり殺しにされる。

 

(だったら、これだ!)

 

 俺は〈フォッグ・クラウド〉を発動させた。

 瞬く間に濃密な霧が辺りを覆い尽くし、世界を白く塗りつぶす。

 

「こうすれば、そのデカい目でも見えないよなあ!」

 

 クモ戦で学んだ"一方的な狩り"の再現だ。

 

「そこっ!」

 

 霧の中で狼狽する敵影を〈探知〉で捉える。

 俺は死神のように静かに、そして確実に1体ずつ仕留めていった。

 

 最後の1体を倒し、霧が晴れていく。

 剣を収め、深く息を吐き出す。

 

 張り詰めていた緊張が解ける。

 どっと疲労が押し寄せてきた。

 

(マナがキツい……。気軽には使えない。"奥の手"だわ、これ)

 

 ◇ ◇ ◇

 

 カホンの祠は、カウベルの祠と同じ建物だった。

 異質な存在感を放ち、ただそこに存在していた。

 中央の石板にそっと手を触れると、板はうっすらと光を放つ。

 

(よっしゃ!)

 

 これでSPが2つ増えた。

 町ごとに祠があるなら、もうちょい積極的にスキル取ってもいいかもない。

 

(そうだ、祠って〈鑑定〉できるのか?)

 

 ふと思いつき、スキルを発動した。

 

〈冒険者の祠/アーティファクト/スキルポイント付与〉

 

「アーティファクト……」

 

(って……貴重なもの、みたいな感じだっけ?)

 

 詳しいことは分からないけど、この世界にとって極めて重要な施設であることは間違いなさそうだ。

 

(さて、ここからが本題だ)

 

 ギルドから渡された「調査水晶」を取り出す。

 手のひら大の不思議な物体。

 金属のようでも石のようでもない。

 何か全く別の素材で作られたような質感をしていた。

 

 これにも〈鑑定〉を試してみる。

 

〈調査結晶/共鳴触媒(きょうめいしょくばい)

 

(共鳴って、どう使うんだ? マナを注入するのかな?)

 

 祠の中央へと近づく。

 ほんのりとマナが引き込まれるような感覚が伝わってくる。

 

「うおっ、勝手に……!」

 

 結晶が淡く発光する。

 呼応するように、祠全体が重低音を響かせて震え出した。

 

 次の瞬間。

 祠の背後、本来ならただの岩壁だった場所が、滑るように左右へと開かれた。

 

「……嘘だろ。隠し通路?」

 

(こんなの……映画みたいだ)

 

 開かれた道の先には、整然とした石造りの通路が続いていた。

 その奥からは、冷ややかな風が吹き抜けてくる。

 

(いや……これ、絶対ボスいるだろ)

 

 今の俺で倒せるのか?

 慎重に一歩を踏み出しながら、ふと疑問が浮かぶ。

 

(クエストは"調査"だったよな。ボスを倒して来いとは言われてない)

 

 風で木々が揺れる。

 そのわずかな音にビクリ、と肩を揺らす。

 

(恐らくさっきの水晶を使った時点でクエストは達成された、はずだ)

 

 好奇心はある。

 でも、慎重になって損はないはずだ。

 

 少し悩んだ末、俺は決断する。

 

(……一旦、帰ろう。装備の不安もあるし)

 

 ◇ ◇ ◇

 

 ギルドへ戻り、調査結晶を提出する。

 

「……確認いたします」

 

 そういって受付の女性は、調査結晶を手にしたまま奥へ引っ込んでしまった。

 

 思ったより待たされる。

 もしかして、あの隠し部屋まで見てこないとダメだったとか?

 

 しばらくして女性が戻ってくる。

 

「お待たせしました。クエスト達成です」

 

(おお、よかった!)

 

 思わず安堵の息が漏れる。

 

「報酬はどれを選びますか?」

「皮の鎧で!」

 

 迷う余地はなかった。

 

武器は持っているけど、防具はなかったからな。

 

〈カホンの皮鎧/防御力:+20/光耐性:+20/耐久:30/30〉を手に入れた。

 

(うほー、初めての防具だ!)

 

 革の匂い。

 丁寧に(なめ)された表面を撫でる。

 装備してみると、不思議なほど体に馴染んだ。

 

(こんなに硬いんだ)

 

「……守られてる感じがする」

 

 戦うための、生きるための装備。

 

 悦に浸っていると、受付の女性が淡々と告げた。

 

「冒険者の祠の調査達成により、新たなクエストが解放されました。ご覧になりますか?」

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