盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~ 作:上山マヤ
入り口には、話に聞いていた通りブロンズ製の盾が飾られていた。
マナ認証を受けて入場する。
「初めてですね。どうぞ、お通り下さい」
受付の職員に丁寧に案内され、重厚な扉が開く。
(ここが、王都のギルド!)
……あんまりレベックと変わらないな。
いや、十分広いのか。
ここに居るのって、全員が銅級なわけだし。
館内は多種多様な種族で溢れ返っていた。
気持ち、人間の方が少ないかもしれない。
「さて、えーと……」
カウンターに並ばなくても、掲示板からクエストが見れるんだったよな。
周囲を見渡す。
(あれか)
壁際に並ぶ掲示板のパネルにアクセスする。
視界にクエスト一覧がポップアップされた。
(これ全部、銅級のクエストか。えらい量だな)
ざっと目を走らせると、ダンジョン攻略系が圧倒的に多い。
無限ダンジョンがあるからか。
レベックで、チャールズたちが言っていたのを思い出す。
王都は、無限ダンジョンの資源があるからこそ栄えたのだと。
募集要項を見ると、王都でもパーティ募集に魔法使いの需要が高いのは同じみたいだ。
『踏破クエスト』という名目が多い。
要はダンジョンを探索してこいってことなんだろう。
(王都に来たんだ。無限ダンジョン、挑戦するしかないよな!)
俺は手頃な募集要項に触れて、参加申請を送った。
――パーティに加入しました。
視界の端のマップに、パーティメンバーの位置が表示される。
(さて、どんなパーティなんだろう)
◇ ◇ ◇
「タケルといいます。よろしくお願いします」
合流地点で声をかけると、軽装鎧を着た短髪の男が振り返った。
(みんな結構年上っぽいな)
「おう、俺はこのパーティリーダーのカーティスだ。変わった格好してるな?
「はい。杖は後ろのベルトに付けてるんです」
俺は腰の後ろから短いオークの杖を取り出して見せる。
「水の水晶は持ってるか? ダンジョンでは水資源が少ない。階層によっては、全く水が手に入らない場合も多いからな」
「あ、俺はエナックの魔導具機能で水を出せるので――」
俺が懐から黒い石板を取り出した瞬間だった。
「エナック持ち!?」
カーティスが目をひん剥いて素頓狂な声を上げた。
(あっ……)
しまった。エナックは高価な品だった。
「おい、カーティス。このガキ、絶対金持ちのボンボンだぜ。面倒臭いことになるから追放しようぜ」
身の丈ほどある大盾を背負った大男が、カーティスに耳打ちしていた。
「まあ、待て。焦るなアントン。ボンボンが全員使えないわけじゃない」
(そういうのは聞こえないところでやって欲しい!)
耳打ちしているつもりかもしれないけど、丸聞こえだ。
このままだと、追放モノが始まってしまう。
カーティスは腕を組み、ジロっと値踏みするように俺の全身を凝視した。
「お前、貴族……じゃないよな。アカデミー生か?」
「いえ、王都へ来たばかりで」
「出身は?」
(日本です。なんて言えないよな)
「か、カウベル」
俺が最初に降り立った村の名前を口にすると。
「へえ! マジかよ! 俺の親父の出身もカウベルなんだよ!」
強面だったカーティスの顔が、パッと花が咲いたように明るくなった。
「カウベルの人間に悪い奴はいねえ! 採用だ!」
「おいおい。カーティスの親父さんって、たしか酔っぱらって暴れてたよな?」
大盾のアントンが呆れたようにツッコミを入れる。
「飲まなきゃ良い親父なんだよ!」
カーティスが胸を張って言い返す。
「低俗な会話は終わったかな?」
隣にいた、もう1人の物静かな男が冷ややかな声で口を開いた。
尖った耳。
淡い金髪。
エルフだ。
「君は稼がなきゃいけないのだろう? 食っちゃべっている暇があるのかい?」
「わかってるよ!」
エルフの冷たい視線に、カーティスが慌てて仕切り直す。
「実のところ、俺たちのパーティは完成している」
「そうなんですか?」
「アタッカーの俺。タンクのアントン。そして、回復と攻撃魔法のイーライだ」
(イーライさんの負担が大きそうだけど……)
アントンが「おう」と大きな盾を掲げて見せた。
イーライと呼ばれたエルフの男が、俺をじっと見据える。
「エルフのイーライだ。君はエルフに会ったことは?」
(エルフって……霧橋の宿で見たくらいか?)
「一度だけあります」
「ほう、強かったか?」
「いえ、朝からずっと酔っぱらっていたので、そこまでは……」
「ちっ、エルフの面汚しめ」
イーライが忌々しげに舌打ちをする。
「はははっ。エルフにも色んな奴が居るんだな!」
アントンが豪快に腹を抱えて笑った。
「王都に来たばっかだってな。なら、無限ダンジョンに入ったことも無いのか?」
アントンが笑いを収めて尋ねてくる。
「はい、全部初めてです」
「タケル、お前の役割は後方支援だ。まずは俺たちの戦いを見て学んでくれ」
カーティスが一歩前に出て、俺の肩をポンと叩いた。
「最近はダンジョンに異変が起きてるらしい。低層じゃあまり聞かねえが、中層辺りから階数に合ってない強力なモンスターと
カーティスの声に熱が入る。
「絶対に無茶をするなよ! 無事に帰ってくることが最初の仕事だと思え!」
「わかりました!」
熱血漢らしい真っ直ぐな言葉に、俺は力強く頷いた。
「誰がどれだけ活躍しようが、報酬は均等に分配する。それがパーティってもんだ!」
カーティスが白い歯を見せて笑う。
(悪い人たちじゃなさそうだ。開始早々、追放されそうになったけど)
俺はホッと胸を撫で下ろす。
王都での初めてのパーティ戦だ。
レベックの時のようなやらかしはしない。