盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~ 作:上山マヤ
不規則に伸びる異形の影。
コンクリートの壁に張り付くように、その輪郭が徐々に明確になっていく。
〈ヤテベオ/闇属性/レベル:11〉
(木のモンスター!?)
でも、属性は木じゃなくて闇だ。
しかも、なんだ……?
数が多い!
通路の奥から、ゾロゾロと蠢いているのが見えた。
「こいつは、モンスターを呼び寄せる性質があるんだ」
カーティスが大剣を構えながら説明する。
(ミスったな)
こういう時は〈インパクト・フレア〉の範囲攻撃が一番効果的なんだけど。
後方支援でパーティに入れてもらった手前、水魔法が使えることしか言ってない。
でも、今のところ先輩たちの顔に焦った様子はない。
(今は支援に徹する!)
「シールドを張ります!」
〈ウォーター・シェル〉
アントンの分厚い体が、揺らめく水の膜で包まれる。
「おう! 助かるぜ!」
アントンが大盾を前に突き出し、豪快に笑った。
カーティスの指揮で、このパーティは滑らかに動く。
アントンが〈タウント〉の赤い光で敵を引き付ける。
イーライの魔法と妖精で敵の足止めする。
カーティスの大剣が確実にトドメを刺す。
バランスの取れた、いいパーティだ。
(カーティスの指揮も的確だと思う)
慣れているというか、彼への絶対的な安心感がメンバーに伝わっている感じがする。
でも、やっぱり全体の指揮を執るのは、後衛の方がいいよな。
(あっ……)
ヤテベオが大きく木の
「まずい! 下がるぞ!」
カーティスが叫ぶ。
(蔓の動きは素早いけど、本体はそれほど速くない)
伸びてくる蔓を、アントンが盾の角度を斜めにして見事に受け流す。
(前衛だと、こういう時に少し全体の対処が遅れるんだよな)
視野の問題だ。
単純に後ろから全体を見ている方が、死角が少ないってだけだ。
アンジェラみたいに、俯瞰して戦況を見れる人もいるけど。
あれは規格外だろうからな。
アントンが盾で蔓を弾き返した瞬間。
別のヤテベオの本体が横から顔を出した。
(今だ!)
〈ウォーター・バレット〉
俺の杖から放たれた水弾がヤテベオの顔面に直撃し、一瞬怯ませる。
「お? よっしゃー! 任せろ!」
すかさずカーティスが大剣を振り下ろし、幹を両断する。
後続の敵は、イーライの妖精が光の粒を連射して釘付けにしている。
見事な各個撃破だ。
けれど、俺の中には小さな不満があった。
〈ファイヤー・アロー〉のクールタイムは1秒。
だから連射が効いて、牽制にとても使いやすい。
対して〈ウォーター・バレット〉のクールタイムは5秒。
たった4秒の差なんだけど、戦闘中だとひどく使い辛く感じる。
火魔法に慣れ過ぎて、水魔法が上手く使えないんだ。
中級魔法に、防御系を選択したのも影響している。
攻撃の手数が足りず、汎用性が低くなった感じがする。
いや、単に俺が水魔法を使いこなせてないだけか。
これは、二種の属性を持ってるのに、片方しか使わないように制限をかけているせいだ。
もう思い切って開き直るか?
出し惜しみをして怪我でもしたら、本末転倒だ。
相反する属性を扱えるということ。
それがこの世界でどれほどの影響力を持つのか、分かってないのが問題なんだよな。
◇ ◇ ◇
「ふい~。やっと休憩できそうだな」
安全地帯らしき開けた場所に出ると、アントンがドカッと床に腰を下ろした。
「ああ、タケル。拾うなら妖精が解体した物だけでいいぞ」
杖を手入れしながら、イーライが涼しい顔で教えてくれる。
(この妖精さん、解体までやってくれるのか!?)
「すごく賢い子なんですね」
「ふっ、私が育てたからな」
イーライが自慢げに鼻を鳴らす。
(すっごいドヤ顔。顔が良いから絵になるな)
「お前の水魔法、いいな。シールドがあるだけで、あんなに楽になるとは思わなかったぜ」
アントンが額の汗を拭いながら、俺に親指を立てた。
「回復を使わない分、私のマナの節約にもなった」
イーライも満足そうに頷く。
「ありがとうございます。まだまだ使いこなせてなくて、俺もすごく勉強になりました」
「やっぱ後衛が2人いると、安定感が増すな」
カーティスが大剣を背負い直し、嬉しそうに笑った。
「なあタケル。王都に来たばっかで何も決まってねえなら、俺たちと――」
「カーティス!!」
カーティスの言葉を、イーライの鋭い声が遮った。
エルフのピンと尖った耳が震えている。
「なんだよ、イーライ」
「マナの……色が変わった」
イーライがダンジョンの奥を睨みつけながら言う。
(マナの色?)
「……何色だ?」
カーティスの表情が一瞬で引き締まる。
「見たことも無い色だ」
「ちっと早いが、黒字にはなってる。引き上げるか」
(なんかヤバイのか?)
俺は〈探知〉には何の反応もない。
イーライのエルフ特有の感覚やスキルで、何かを感じ取っているのか。
「マップに出口までの最短ルートを表示させた。もし、はぐれたらマップの光を信じろ」
俺の視界のマップにも、出口へ向かう緑色の光の線が表示された。
(この使い方はやったことなかったな)
「今回は出会わなかったが、ダンジョンには目くらましや幻術で、こちらのパーティ情報を遮断してくるモンスターもいる」
イーライが足早に歩き出しながら説明する。
「そんなのまで居るんですね」
(だから、"マップのルートを信じろ"か)
その時だった。
突如、巨大なガラスを叩き割ったような高い音が、地下空間に大きく響き渡った。
(……温度が下がった?)
何もない空間にヒビが入り、砕け散る。
割れた虚空の奥から、冷気を纏った人型のモンスターが滑り出るように姿を現した。
足は見えない。
宙を揺らめいて浮かんでいる。
闇のように黒く、異様に長い髪。
浴衣のような和装を身に纏っていた。
〈スノウファントム/氷属性/レベル:15〉
(15レベ……!)
「おい、なんだこいつ!」
アントンが咄嗟に大盾を構える。
しかし、その威圧感にカーティスの顔がさっと青ざめた。
「戦うなっ! 逃げるぞ!」
カーティスは、前に出ようとしたアントンを強引に引き戻した。
「走れ!」
絶望的なレベル差。
けれど、それ以上の畏怖を感じた。
俺たちは振り返り、出口へ向かって全力で駆け出した。