The Hypocrite's Archive   作:Xelphyr

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第二次特別学力試験

「し、試験会場は、ここ……?」ヒフミ

 

 

「み、みたいです、ね……」コハル

 

 

 

呟き、顔を上げた先には錆び、罅割れ、ボロボロになった廃屋が一件。夜の闇の中でその輪郭だけが、不気味に浮かび上がっていた。周囲に人の気配は一切なく、静寂だけがその場を支配している。

 

 

 

「って、そうだ、アズサとハナコは!?」コハル

 

 

「まだ到着していない様ですけれど……」ヒフミ

 

 

 

コハルがそう言って周囲を見渡せば、誰かの足音が背後から耳に届いた。咄嗟にコハルが銃を構え、ヒフミが身を強張らせながら身構えれば──。

 

 

 

「──ふふっ、お待たせしました♡」ハナコ

 

 

 

暗がりから、水着姿のハナコが顔を覗かせた。その、予想だにしなかった衣装にヒフミとコハルは声を喪い、更にその奥からガスマスクを装着したアズサが駆けて来る。

 

 

 

「うん、二時四十五分……何とか試験開始前に着いたか、流石に疲れた」アズサ

 

 

「そうですねぇ、まさかこんな真夜中に大勢で鬼ごっこだなんて……体が火照ってしまいました♡」ハナコ

 

 

「えっと……」ヒフミ

 

 

「そ、そっちは何があったのよ……」コハル

 

 

「あら、聞きたいですか?それはですね──」ハナコ

 

 

「や、やっぱり良い、聞かないっ!」コハル

 

 

「それより、試験会場は此処で合っているのか?」アズサ

 

 

「ゲヘナ自治区第十五エリア七十七番街、廃墟一階──座標は此処で合ってますね……あとハナコさんは服を着てください」ミヅホ

 

 

「あら……」ハナコ

 

 

「開放的な気分で試験を受ける機会だと思ったのですが、残念です」ハナコ

 

 

「……一応、受験規定に制服の指定があるので」ミヅホ

 

 

「あら?ですが全裸で受験すればカンニングシートなどは絶対に持ち込めない訳ですし、それはそれで合理的な──」ハナコ

 

 

「ぜ、ぜ、全裸で試験!?え、エッチなのは駄目ッ!何考えているの!?」コハル

 

 

「そんなことよりも中は……ほ、本当に廃墟って感じですね?」ヒフミ

 

 

「でも、一応机はある」アズサ

 

 

「うぅ、暗くて良く見えないんだけれど……」コハル

 

 

「これ、電気も通っていませんね?あら、でも机にライトスタンドが──」ハナコ

 

 

「これで手元を照らせって事でしょうか……あ、試験用紙とかはどうなるんでしょうか?誰か、監督の方が……?」ヒフミ

 

 

「いや、人の気配はないが」アズサ

 

 

 

ヒフミが周囲に目を配るも、それらしい人影も気配もない。そんな彼女達を尻目に、アズサは教卓の裏に屈み込んだ。

 

 

 

「確か、此処に──」アズサ

 

 

 

持参した端末のライトを使い教卓の中を照らせば、そこには几帳面に立てられた、人が抱えられる大きさの榴弾が設置されていた。教卓をずらし榴弾を皆の前に晒せば、全員の視線がそれに注がれる。物々しい存在感に、思わず息を呑む者もいた。

 

 

 

「むっ、これは──」ヒフミ

 

 

「えっと、不発弾……ですか?」コハル

 

 

「……L118、牽引式榴弾砲の弾頭か?」アズサ

 

 

「うん、そうみたいだね」ヒフミ

 

 

「L118──という事は、ティーパーティー……つまりナギサさんからのメッセージの可能性が高いですね」ハナコ

 

 

 

ハナコの言葉に頷き、ヒフミが榴弾へと手を伸ばそうとすれば、寸前でアズサが手を翳し制止を口にする。

 

 

 

「──ヒフミ、トラップがあったらいけない、私が開ける、念の為離れていて」アズサ

 

 

「……分かった、頼むね」ヒフミ

 

 

 

アズサの言葉に従い、皆は爆発を警戒し距離を取った。息を潜め、誰もが固唾を飲んでその様子を見守る。アズサは全員が十分に距離を取った事を確かめ、そっと榴弾に手を掛ける。

 

 

 

「──……うん、大丈夫そう、炸薬も雷管も抜かれている、弾殻だけの張りぼてだ」アズサ

 

 

「そ、そうですか……良かった」ヒフミ

 

 

「となると、完全にメッセージボックスの役割、という事でしょうか」ハナコ

 

 

 

安全を確認した声に、扉越しに中を覗いていた補習授業部はアズサの周りに駆け寄る。その中を覗き込むと、空洞となった榴弾の中には幾つかの紙がテープで括られ収まっていた。

 

 

 

「あ、中に紙が……これが試験用紙という事ですね!」ヒフミ

 

 

「その様だが……むっ、こっちは通信機か?」アズサ

 

 

 

アズサは紙束をライトで照らしつつ、奥底に何か端末が入っている事に気付いた。榴弾を引っ繰り返し、中身を全て取り出す為に軽く振る。すると用紙と、四角い端末らしきものが床の上に転がった。アズサは転がった端末を隅々まで観察した後、危険はないと判断し電源を入れる。すると、端末は立体映像を補習授業部の前に投影した。

 

 

 

──これを見ているという事は、無事に到着されたようですね」ナギサ

 

 

「な、ナギサ様!?」コハル

 

 

「………」アズサ

 

 

「え、じゃあこの方が、ティーパーティーの……?」コハル

 

 

 

映像越しとはいえ、ナギサの姿を目の当たりにした一同の間に、緊張が走る。冷ややかな微笑みは、離れた場所からでも十分な圧力を伴っていた。

 

 

 

ふふっ……恨み辛みの声が聞こえてきそうですね──まぁこれは録画映像なので、リアルタイムでの意思疎通は不可能です、今の私に何を訴えても無意味ですよ?」ナギサ

 

 

──一先ず試験会場に辿り着けた事は認めましょう、しかしあなた方にとってはこれからが本番です、第二次特別学力試験は……今より始まるのですから」ナギサ

 

 

「っ……!」ヒフミ

 

 

約束の時間までに試験を終えて戻って来て下さいね?一応引き続きモニタリングはさせて頂いておりますので、その事をお忘れなく……幸運を祈ります、補習授業部の皆さん」ナギサ

 

 

──どうかお気を付けて」ナギサ

 

 

 

最後に、彼女は妙に力強い言葉を残し、ホログラムを消失させた。その余韻だけが、廃屋の中に重く残る。まるで、何かを暗示するかの様な、含みを持った言葉だった。

 

 

 

「うぅ……」コハル

 

 

「何だか、含みのある言い方でしたね──」ハナコ

 

 

「気にならないと言えば嘘になるけれど……兎に角今は時間がない、早く席につこう」アズサ

 

 

「そ、そうですね……すぐ、第二次特別学力試験の筈ですから……!」ヒフミ

 

 

ナギサの言動に疑問と不安を抱いた補習授業部だが、兎にも角にも今は時間がない。時計を見れば既に、第二次特別学力試験は五分後に迫っていた。各々席を決めライトを点灯させた事を確かめると、ミヅホは教卓に立つ。テープで括られていた用紙を広げ、枚数や内容に問題が無い事をさっと確かめる。

 

 

 

「問題用紙は……こっちか──良し、皆さん、筆記用具だけを出して下さい」ミヅホ

 

 

 

告げ、ミヅホは解答用紙と問題用紙を配って歩く。全員の体調、精神状態はお世辞にも万全とは言い難い──それでも、その瞳に諦めの感情は見えなかった。

ヒフミは教卓の上に置いた端末を覗き込み、時計を確認する。

試験開始──一分前。

 

 

 

コハルが小さく体を震わせ、歯を食いしばっていた。ハナコとアズサは平然としている様に見えるが、やはりどこか表情が硬い。廃屋の中に満ちる緊張感は、誰の目にも明らかだった。ヒフミはそんな彼女達を見渡し、強く、断言する。

 

 

 

「──大丈夫、みんなでなら乗り越えられます、私はそう信じていますから」ヒフミ

 

 

「──えぇ♡」ハナコ

 

 

「──うん」アズサ

 

 

「とっ……当然っ!」コハル

 

 

 

ヒフミの一言に、僅かに、ほんの僅かだが──補習授業部全員の強張りが抜けたような気がした。

目の前に聳え立つ壁は高く、困難で、理不尽だ。けれどアズサが言った様に、嘆く事は後でも出来る。兎に角今は、全力で、今まで学んだことを、努力して来た全てをぶつけるのだ。

この一時間に、全部──!

 

 

 

補習授業部、皆の手がペンを握り締める。時計の針が、十二を指した。タイムキーパー役のミヅホが片手を挙げた。

 

 

「それでは、第二次特別学力試験──開始!」ミヅホ

 

 

全員の手が、一斉に問題用紙を裏返した。ペン先が紙に触れる、その刹那。何もかもが順調に進む──そう誰もが思った、まさにその瞬間だった。

 

 

その瞬間、補習授業部の居る建物は──廃墟諸共、吹き飛んだのである。

 

 


 

 

第二次特別学力試験、結果

 

 

ハナコ──試験用紙紛失不合格

 

アズサ──試験用紙紛失不合格

 

コハル──試験用紙紛失不合格

 

ヒフミ──試験用紙紛失不合格

 

 

補習授業部、第二次特別学力試験──

 

 

 

 

 

 

 

 

全員不合格

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