The Hypocrite's Archive   作:Xelphyr

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友人失格

第四次補習授業部模試、結果──

 

 

ハナコ──100点合格

 

アズサ──82点不合格

 

コハル──74点不合格

 

ヒフミ──79点不合格

 

 


 

 

第五次補習授業部模試、結果

 

 

ハナコ──100点合格

 

アズサ──94点合格

 

コハル──90点合格

 

ヒフミ──93点合格

 

 


 

 

第六次補習授業部模試、結果

 

 

ハナコ──100点合格

 

アズサ──91点合格

 

コハル──83点不合格

 

ヒフミ──89点不合格

 

 


 

 

──1日、また1日と、時間が流れていき…ついに、第二次特別学力試験から六日後の夜を迎えた補習授業部一同。

明日の試験に向けて、せめて今日だけはきちんとした睡眠を取ろうと決め、日付変更前にベッドへと横になった補習授業部の面々。久方ぶりのちゃんとした就寝に、ヒフミ、コハルの両名はすぐさま夢の中へと誘われ、そっと寝息を立てている。

そんな中、動き出す影が一つ。

 

 

「………」アズサ

 

 

彼女、アズサはいつもそうしていた様に音もなく起き上がると、同じ場所に用意していた制服と愛銃を掴み、足音を殺して部屋を後にする。皆と交わした「今日はちゃんと休む」という約束を、破る事になると分かっていながら。

 

 

「………」ハナコ

 

 

その背中を、横たわりながら薄目で確認していたハナコ。彼女もまた、同じように起床する。用意していた制服を掴み、端末をポケットに押し込む。そして立て掛けられていた自らの愛銃を見つめると、その表情を僅かに歪める。そして数秒程沈黙を守った後、その手を伸ばし、銃を手に取った。

 

 


 

 

「──アズサ、日程が変わった」サオリ
 
「日程が変わりました。アズサさん」???
              

 

 

「………?」アズサ

 

 

明日の午前中だ、約束の場所で命令を待て」サオリ
 
明日の午前中です。背くことは許しません」???
                 

 

 

トリニティ郊外、廃墟。いつもと同じように報告を済ませたアズサは、しかし常と異なる言葉に身を強張らせる。

 

 

「ま、待ってサオリ、明日は……」アズサ

 

 

「何か問題が?」サオリ
 
「私に何か意見でも?」???
         

 

 

「……まだ準備が出来ていない、計画よりも日程を早めるのは、リスクが大きすぎる」アズサ

 

 

「お前の言葉にも、一理ある、計画を前倒しにするリスクは確かに少なくない」サオリ
 
「確かに、貴女の言う通り前倒しにするにあたってリスクはありましょう」???
                           

 

 

「な、なら……!」アズサ

 

 

「──だが、明日の決行は既に確定事項だ」サオリ
 
「──しかし、そうだとしても既に不可逆なものです」???
                    

 

 

「………っ」アズサ

 

 

「明日になれば全てが変わる、私達アリウスも、このトリニティも」サオリ
 
「命令に従いなさいアズサ。明日、全てが終わり、そして始まります」???
                        

 

 

 

「トリニティのホストたる桐藤ナギサを殺す……その為にお前は此処に居るんだ」サオリ
 
「トリニティのホスト、桐藤ナギサを殺す……それが貴女に授けた仕事です」???
                            

 

 

「……分かっている」アズサ

 

 

「あぁ、お前の実力は信頼している、上手くやれ──」サオリ
 
「えぇ、それでよろしいのです、アズサ」???
                    

 

 

「──了解」アズサ

 

 

頷き、アズサは無言で踵を返す。割れた硝子片を踏みしめながら、薄暗い廊下を歩いて行く。

 

 

「アズサ」サオリ
 
「アズサ」???
     

 

 

「……?」アズサ

 

 

「──忘れていないだろうな、Vanitas Vanitatum(空の空)」サオリ
 
「──あの言葉を、まさか忘れたわけではありませんよね?」???
                      

 

 

「……Et Omnia Vanitas(一切は空である)。どんな努力も、成功も、失敗も……全ては、無意味なだけ──一度たりとも、忘れた時はない」アズサ

 

 

「……あぁ、それで良い」サオリ
 
「それでよろしい」???
          

 

 

「では明日……準備を怠るな」サオリ
 
「それでは明日、怠らないように」???
             

 

 

そう言ってサオリは踵を返す。アズサは去り行く彼女の背中を暫く見つめ、やがて自身も身を翻した。割れた窓硝子から差し込む月明かりだけが、静まり返った廃墟に残された。

 

 

 


 

 

 

「ミヅホさん……」ヒフミ

 

 

「どうしました?もしかして、眠れないのですか?」ミヅホ

 

 

「は、はい、その……緊張と不安で、へへ……」ヒフミ

 

 

「ふふっ、私も来ちゃいました♡」ハナコ

 

 

「あ、ハナコちゃん……」ヒフミ

 

 

「──ん、皆、何しているの……?」コハル

 

 

「こ、コハルちゃんまで?」ヒフミ

 

 

「明日は試験なのに、何しているのよ、休む事も大事だって言ったのはそっちでしょ……?っていうか、起きたら部屋に誰も居ないし……まあ、緊張する気持ちは凄く分かるけれど」コハル

 

 

「……す、すみませんコハルちゃん、どうしても寝付けなくて」ヒフミ

 

 

「実は先程、シスターフッドの方々と少し会って来たんです、色々と調べたい事がありまして……」ハナコ

 

 

「調べたい事?」ヒフミ

 

 

「はい、明日、私達が試験を受ける予定の第十九分館についてなのですが……」ハナコ

 

 

「ま、まさかまた場所が変わって……!?」コハル

 

 

「いえ、そうではありません、ただ──」ハナコ

 

 

「ただ?」コハル

 

 

「この後、第十九分館には大規模な正義実現委員会の派遣が決定されていて、建物全体を隔離するとの事でした」ハナコ

 

 

「えっ、は!?」コハル

 

 

「建物を、隔離……?」ヒフミ

 

 

「はい、昨今相次ぐテロからエデン条約に必要な重要書類を保護する──という名目で、建物全体を正義実現委員会として守る厳戒態勢に入ったとか」ハナコ

 

 

「な、なにそれ……」コハル

 

 

「それから、どうやら中央街区の方にも戒厳令が出ている様です。尤も、毎日のように乱闘騒ぎが起こっているのであまり意味はないですが」ハナコ

 

 

「か、戒厳令……?そんなの、初めて聞きました……」ヒフミ

 

 

「恐らく、誰一人あの建物への出入りは許されません──エデン条約が締結されるまで、ずっと」ハナコ

 

 

「ちょ、ちょっと待って!それなら私達の試験はどうなるの!?」コハル

 

 

「つまり、こういう事でしょう──もし、試験を受けたいのであれば、正義実現委員会を倒せ、と」ミヅホ

 

 

「え……──」ヒフミ

 

 

「そ、そんな……!わ、私がハスミ先輩に事情を説明して……!」コハル

 

 

「……いや、それはやめた方が良いでしょう、ナギサさんはハスミさんに裏側の理由を知らせていないでしょう。それに仮にハスミさんが私達を幇助した暁には、それはティーパーティーに対する明確な離反行為と取られかねず、もしその場合、コハルさんのみならずハスミさんも正義実現委員会、最悪トリニティを追放されてしまう可能性があるでしょう」ミヅホ

 

 

「なっ、う、ぁ──うぅ……そ、そんな……!」コハル

 

 

「全く──第二次特別学力試験の時も思いましたが、どうやらナギサさんは、本気で私達を退学させようとしているようですね」ハナコ

 

 

「ど、どうして、そこまで……」ヒフミ

 

 

「──私のせいだ」アズサ

 

 

「あ、アズサちゃん!どこに行っていたんですか……!?」ヒフミ

 

 

「………」アズサ

 

 

「えっ、あ──は、ハナコちゃん……?」ヒフミ

 

 

「──アズサちゃん、私達に言うべき事があるのではありませんか?」ハナコ

 

 

「……ハナコの言う通りだ、皆も、聞いて欲しい──話したい事が、あるんだ」アズサ

 

 

「アズサちゃん……?」ヒフミ

 

 

「アズサ、ど、どうしたの……?具合でも、悪いの?」コハル

 

 

「そんなに、震えて……よ、良く分かんないけれど、寒いなら──」コハル

 

 

「──ずっと、隠していた事があった」アズサ

 

 

「でも、ここまで来たらもう、これ以上隠しておけない……いや、隠しておきたくない」アズサ

 

 

「わ……──わたし、は……」アズサ

 

 

 

声が、震えていた。皆の視線が、彼女(アズサ)ひとりに集まる。その刹那だった。

 

 

 

「私が、補習授業部の裏切者です。」ミヅホ

 

 

「「「!?」」」補習授業部一同

 

 

 

アズサの言葉を遮る様に響いた、その一言。誰もが、告白しようとしていたのはアズサだと思い込んでいた。だからこそ、その名乗りは尚更、皆を混乱させた。

 

 

 

「ミ…ミヅホちゃんが!?」コハル

 

 

「理解できません。事情の説明を求めます。」ハナコ

 

 

ハナコが先程より強い口調でそう口にすると、ミヅホは懐からメガネを取り出す。二次試験の際に破損した方のメガネだ。今はスペアパーツを使っている。

 

 

「ミヅホさん…それは?」ヒフミ

 

 

「これはこないだの二次試験の際、爆破で破損したメガネです。今つけているものはスペアなので、生活に支障はありません」ミヅホ

 

 

「その…割れた方のメガネが何か?」ヒフミ

 

 

 

ヒフミの発言に、彼女はメガネへ右手を伸ばす。そしてある部位を親指と人差し指で摘み、それを引き出すと…

 

 

 

「!?」コハル

 

 

「何よそれ…」コハル

 

 

「一週間前、ここに小型のカメラが仕掛けられているのを発見しました。非常に小さく、私でも発見には一苦労しましたから。」ミヅホ

 

 

「ミヅホさん、カメラはどこに…」ヒフミ

 

 

「カメラは既に踏み潰しました。そして…その後、メガネのモダンの部分、ちょうど、ここにマイクが仕掛けられているのも確認し、こちらも同様に処分しました」ミヅホ

 

 

「嘘でしょ、それって…」コハル

 

 

「私が先生不在時の代理として立ち回ったのが災いしました。補習授業部試験での皆さんの健闘も、好成績も、そしてその他活動の多くも、否、その全てがティーパーティーに筒抜けになっていたのでしょう」ミヅホ

 

 

「じゃあ、試験のボーダーが上がったのも範囲が広がったのも…」ヒフミ

 

 

「…はい。私がここでの活動を、意図しない形とは言えどその全てをティーパーティーに明け渡したからです。意図しなかったとは言え、仲間を裏切り、信頼を餌にされ、そして先生も、皆さんも危険に晒してしまった…こんな私は、もう友人失格です。」ミヅホ

 

 

 

淡々と語っていたはずのその声が、最後の一言だけ、僅かに掠れた。そしてその言葉を最後に、彼女は背嚢を背負い、どこかへ行こうとする。

 

 

 

「待ってください!」ヒフミ

 

 

「ど…どこ行くつもり!?」コハル

 

 

「…私はトリニティを去ります。せめてD.U.なら…不良としての醜態を晒す事ぐらいは出来るかもしれな…」ミヅホ

 

 

パァン!

 

 

「ふざけた事を言わないでください!」ハナコ

 

 

「え…?」ミヅホ

 

 

 

頬を押さえるミヅホの前で、ハナコの手は僅かに震えていた。叩いた本人の方が、痛みを堪えている様にも見えた。

 

 

 

「ミヅホさんは自分をなんだと思ってるんですか!裏切り者?寝言でも言ってはいけないことがありましょう!」ハナコ

 

 

「そ…それは…」ミヅホ

 

 

「貴方は補習授業部のメンバーではありませんが、私達の大切な友人です!それなのに…なのに……ここでトリニティを出て言ったら、本当に許しませんからね!!」ハナコ

 

 

 

その言葉を最後に、ミヅホの頬を、一筋の涙が流れたのだった。

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