The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
誤字脱字報告も同じく励みになります
「……とにかく、手掛かりを探しましょう、時間はまだ、あるかもしれません」ハナコ
その一言に、皆は改めて気を引き締め、屋根裏部屋の捜索を再開する。テーブルの下、クローゼットの中、床板の隙間まで──僅かな痕跡でも見逃すまいと、目を光らせながら。
「……何も、出て来ませんね」ヒフミ
「メモの一枚も、ないな」アズサ
十数分の捜索の末、めぼしい手掛かりは何一つ見つからなかった。焦燥が再び皆の胸に広がり始めた、その時──ヒフミのポケットの中、端末が着信音を鳴らした。
「──ッ!?」ヒフミ
「な、なに……!?」コハル
全員の視線が、ヒフミの手元へと集まる。ヒフミは震える指先で端末を取り出し、画面を確認した。
「……表示、されていません、番号非通知です」ヒフミ
「……出るべきでしょうか」ミヅホ
「念の為、スピーカーにして下さい」ハナコ
ハナコの指示に頷き、ヒフミはスピーカー通話に切り替えると、震える声で応答した。
「……はい、もしもし……?」ヒフミ
「──ヒフミ?」???
その声に、その場にいた全員が息を呑んだ。
「──せ、先生!?」ヒフミ
「せ、先生って、あの先生!?」コハル
「そんな……どうして──」ハナコ
端末から響くその声は、紛れもなく──囚われの身であった筈の、先生からのものであった。
「皆、無事か!?」隆一
「先生、その、一体どういう事ですか!?先生は、ティーパーティーに拘束されていた筈じゃ……!」ヒフミ
困惑を隠せないまま、ヒフミは矢継ぎ早に問い掛ける。しかし、返って来た声には──先生自身の困惑もまた、色濃く滲んでいた。
「……それが、俺自身にもあんまし良く分かんネェんだよこれが」隆一
「分からない、とは……?」アズサ
「さっき、突然監禁されていた部屋の鍵が開いて……ティーパーティーの連中が、何・故・か俺を釈放したんだよ」隆一
「しゃ、釈放……?」ヒフミ
「あぁ、拘束は解かれて、おまけにネームタグに外套まで返された、結局何をすればいいかもわからず、そのまま部屋を出て行ったって具合だ」隆一
その説明に、補習授業部の面々は互いに顔を見合わせた。
「……意味が、分かりません」ハナコ
「拘束されていた先生が、突然解放される……その理由が、まるで見えて来ませんね」ミヅホ
ミヅホは眉を寄せ、腕を組んだまま考え込む。ハナコもまた、思案するように視線を落とした。
「私も、色々と考えているんだが……ナギサが心変わりでもしたのか、それとも──」アズサ
「──ナギサさんの事なんですだけど」ヒフミ
アズサの一言に、電話口の先生の声が僅かに強張った。
「せ、先生……実は、ナギサ様のセーフハウス、もぬけの殻だったんです」ヒフミ
「……何だって?」隆一
「争った形跡はないんですが……忽然と姿を消していて」ヒフミ
電話口の向こうで、先生が息を呑む気配が伝わった。
「……そう、か」隆一
「先生の解放と、ナギサ様の失踪……何か、繋がっているのでしょうか?」ヒフミ
「正直、俺にも分からない」隆一
その言葉に、部屋の中に沈黙が落ちた。誰も、その因果関係を紐解く事が出来ずにいた。ミヅホとハナコ、この場で最も聡明な二人をしても、答えは見えて来ない。
「……幾つか、可能性を考えてみましょう」ハナコ
ハナコが静かに切り出す。
「一つ、ナギサさんが自身の行いを悔い改め、先生を釈放した──しかし、それならば何故、彼女自身が姿を消す必要があるのでしょう」ハナコ
「二つ目、ナギサさんの身に何らかの不都合が起こり、それが原因で先生を釈放せざるを得なくなった」ミヅホ
「三つ目は……ティーパーティー内部で、何か大きな出来事が起きた可能性ですね」ハナコ
「──しかしいずれも、決定打に欠けます」ミヅホ
「うぅ……」コハル
三つの可能性、どれも辻褄が合うようで、しかし決定打には至らない。あくまで推測の範疇でしかなかった。
「……取り敢えず、今は落ち着いて考えよう」隆一
「そう、ですね……」ヒフミ
「皆は今、どこに?」隆一
「ナギサ様のセーフハウスです、この後どう動くべきか……」ヒフミ
「分かった、こっちも状況を整理する、また連絡する」隆一
通話が切れた後も、部屋には重い沈黙が残った。誰も、次の一手を口にできない。刻一刻と過ぎていく時間だけが、彼女達の焦りを煽っていた。
「……時間が、ないですね」ハナコ
「試験開始まで、あとどれくらいだ」アズサ
「あと、僅か……」ヒフミ
誰もが、答えの出ない問いを抱えたまま、次の行動を模索し続けるのだった。