The Hypocrite's Archive   作:Xelphyr

111 / 113
お気に入りとコメントは励みになるので皆さんお願いします
誤字脱字報告も同じく励みになります


異常事態発生

ナギサの居場所を突き止めるべく、補習授業部の一行は特別棟を後にし、トリニティ本校舎方面へと駆けていた。息を切らしながらも、誰一人として足を緩めようとはしない。

 

 

 

「せめて、何か手掛かりが……!」ヒフミ

 

 

「うん、まだ分からないけれど、とにかく動くしか──」アズサ

 

 

「こういう時こそ、足を止めたら負けだよ!」コハル

 

 

 

気丈にそう言い放つコハルだったが、その声はいつもよりわずかに上擦っていた。

 

 

 

「コハルちゃん、無理してない……?」ハナコ

 

 

「無理なんてしてないよ!むしろ、こういう時に頼りになるのが正義実現委員会ってものでしょ!!」コハル

 

 

 

コハルは胸を張ってそう言ったが、握りしめた拳の白さが、彼女の本音を物語っていた。

 

 

 

「とにかく、第十九分館に急ぎましょう。ナギサ様が心配です」ミヅホ

 

 

「うん、私達が動けば、少しでも状況は変わるはずだから」アズサ

 

 

 

その、時だった。

 

 

 

 

 

 

 

遠く、中心部の方角から重い爆発音が響き渡る。続けて、遠目にも分かる程の爆炎と、突き抜けるような爆風の余波。

 

 

 

「な、なにっ!?」コハル

 

 

「うそ……!?」ヒフミ

 

 

「──ッ!」ミヅホ

 

 

「い、今のは……」ハナコ

 

 

 

ハナコは声を震わせながら、爆炎の上がった方角を見つめる。中央(ミンスター)区…生徒会本部やトリニティ中央駅が集う、まさにトリニティの中枢だ。誰もが、その場に立ち尽くした。

 

 

 

「まさか、ティーパーティーが狙われたんじゃ……!」コハル

 

 

「落ち着いてください、コハルさん。まだ、そうと決まった訳ではありません」ミヅホ

 

 

「で、でも、あの方角って……ミンスター区…ですよね?」ヒフミ

 

 

 

ヒフミが指差した方向を見て、アズサの表情が僅かに強張る。アズサは即座に足を止め、その音の方向を鋭く見据えた。何かが、彼女の脳裏で引っ掛かっている。

 

 

 

「……おかしい」アズサ

 

 

「アズサちゃん?」ハナコ

 

 

「ど、どうしたの、急に……」コハル

 

 

 

コハルが恐る恐る声を掛けると、アズサはゆっくりと口を開いた。

 

 

 

「アリウスの計画は、あくまでナギサの拉致、及び暗殺であって──爆破テロなんて、計画には無かった」アズサ

 

 

 

その言葉に、皆の表情が険しくなる。

 

 

 

「という事は……」ミヅホ

 

 

アリウスでも、トリニティでもない、第三者──或いは、第三勢力による犯行、という事になる」アズサ

 

 

「第三勢力って……一体、どこの誰が」ハナコ

 

 

「私にも、分からない。ただ、確かなのは──今、キヴォトスは私達が思っている以上に、危うい均衡の上に立っているという事」アズサ

 

 

「そんな……一体、誰が」ヒフミ

 

 

「ゲヘナの美食研究会とか……?あそこなら、力任せに何かやってきても、おかしくない気がする」コハル

 

 

「可能性は否定出来ない。だが、決めつけるのは危険だ」アズサ

 

 

「アズサさんの言う通りです。今、憶測だけで動くのは極めて危険です」ミヅホ

 

 

「考えても、今は答えが出ないよ!そんなことよりも、早く先生に確認した方が早いんじゃない!?」コハル

 

 

「そう、だな」アズサ

 

 

 

混乱と不安が広がる中、アズサは端末を取り出す。

 

 

 

「──ヒフミ、先生に連絡する」アズサ

 

 

「そ、そうですね、お願いします」ヒフミ

 

 

「私も心配です……先生、ご無事でしょうか」ミヅホ

 

 

「大丈夫です。きっと先生の事ですし…」ハナコ

 

 

 

ハナコは努めて明るい声でそう言ったが、その表情には隠しきれない不安が滲んでいた。

通話ボタンに指を伸ばした、その刹那──アズサの端末が、着信を告げて震えた。

 

 

 

「……ッ!」アズサ

 

 

「せ、先生から!?」コハル

 

 

「早いですね……こちらから掛けようとしていたのに」ヒフミ

 

 

 

画面には、隆一の名前が表示されている。アズサは息を呑み、通話ボタンを押した。

 

 

 

「こちらアズサ、先生──」アズサ

 

 

──アズサ、聞こえるか」隆一

 

 

 

電話口から響く声は、いつにも増して硬く、緊張感を孕んでいた。

 

 

 

「はい、皆、揃っています……先程、中心部の方角で爆発が──」ヒフミ

 

 

あぁ、その事だ」隆一

 

 

「やはり、あれと何か関係が?」アズサ

 

 

──ティーパーティーで、異常事態が発生している」隆一

 

 

 

その一言に、皆が息を詰める。

 

 

 

「異常事態……とは?」ハナコ

 

 

「先生、もう少し詳しく……!」コハル

 

 

 

コハルが堪らず声を上げるが、電話口からはわずかな沈黙が返ってくるだけだった。

 

 

 

恐らく、先程の爆発もそれ絡みだろう」隆一

 

 

「やっぱり……!じゃあ、犯人の目星は……」コハル

 

 

……今は、まだ何とも言えない」隆一

 

 

 

歯切れの悪い返答に、コハルは唇を尖らせつつも、それ以上食い下がる事は出来なかった。

 

 

 

「詳しく、教えて頂けますか」ハナコ

 

 

……悪いが、それは出来ない」隆一

 

 

「え……」ヒフミ

 

 

「先生でも、把握しきれていないという事か」アズサ

 

 

それもあるが、この電話自体情報局の連中に盗聴されててもおかしくはない」隆一

 

 

 

その声には、確かな苛立ちと焦りが滲んでいた。

 

 

 

「せ、先生……」コハル

 

 

「先生も、大変な状況にいらっしゃるんですね」ミヅホ

 

 

そりゃそうだ。それに──」隆一

 

 

 

一拍置いて、隆一は続ける。

 

 

 

俺は今、解放されたとはいえ……依然として予断を許さない立場にある」隆一

 

 

「予断を、許さない……?」アズサ

 

 

「先生、まさか、また危険な立場に……?」ヒフミ

 

 

 

ヒフミの声には、隠しきれない心配の色が滲んでいた。

 

 

 

特定の勢力の神輿(棟梁)として担がれ、利用される可能性がある……この状況下では、迂闊な事は口に出来ない」隆一

 

 

「そんな……先生、私達に何か出来る事はありませんか」ミヅホ

 

 

……今は、アンタらが己の役目を果たしてくれる(しっかり試験を受けて合格する)事が一番の助けだ」隆一

 

 

 

その一言に、ミヅホは唇を噛みしめた。役目とは、恐らく試験の事、そしてナギサの事だろう。分かってはいても、何も出来ないもどかしさが、胸の奥に重くのしかかる。

 

 

 

「先生……無茶だけは、しないでください」ハナコ

 

 

……分かってるさそんなこと」隆一

 

 

 

その返事は、いつもよりほんの少しだけ、柔らかく聞こえた。その言葉に、電話口の向こうの緊張が伝わって来る様だった。

 

 

 

これ以上の事は、今は伝えられない──すまない」隆一

 

 

「先生……分かりました。どうか、お気をつけて」ハナコ

 

 

 

そして、一方的に通話は切れた。

 

 

 

「……」アズサ

 

 

 

端末を見つめたまま、アズサは暫し沈黙する。何かを、先生は知っている。あるいは、その可能性がある。だが、それを口にする事すら許されない状況にあるという事もまた、理解出来た。

 

 

 

「──先生は、何か掴んでいるのでしょうか」アズサ

 

 

「うーん……」ハナコ

 

 

 

ハナコは腕を組み、少し考える様な仕草を見せる。

 

 

 

「先生も、忙しい身でしょうし……先程仰っていた『予断を許さない状況』を鑑みると、迂闊に動けず、身を潜めていてもおかしくはありません」ハナコ

 

 

「そう、なのでしょうか」アズサ

 

 

「私は、先生が仰った事を信じたいです。きっと、私達には言えない理由があるんだと思います」ミヅホ

 

 

「ミヅホちゃんの言う通り…今は、先生を疑うよりも──私達に出来る事を考えないと」レイナ

 

 

 

レイナの言葉に、ヒフミは小さく頷いた。

 

 

 

「でも、正直、不安がないと言えば嘘になります……先生が、一人でどこかに囲われているんじゃないかって」ヒフミ

 

 

「それは、私だって同じ。かといって、ヒフミちゃん──不安になってばかりいても、事態は良くならない」ハナコ

 

 

「ハナコちゃん……」ヒフミ

 

 

「ハナコさんの言う通り、私達が今やるべき事をきちんとやる、それが結局、先生の助けにもなるはずです」ミヅホ

 

 

二人の言葉に、皆はそれぞれの胸に去来する不安を、一旦飲み込む様に息を吐いた。

 

 

 

「今は、先生を信じて、私達が出来る事をしましょう♡」ハナコ

 

 

「……そう、だな」アズサ

 

 

 

アズサは一度目を閉じ、深く息を吸い込んだ。不安を振り払う様に、頭の中を切り替える。

 

 

 

「弱気になっている暇は無い、か」アズサ

 

 

「その意気だよ、アズサちゃん」コハル

 

 

 

アズサは端末をポケットに仕舞い、頭を切り替えるように一度深く息を吐いた。

 

 

 

「先生から先程明確な指示はありませんでしたが……」ヒフミ

 

 

「試験のこと、そしてナギサ様のこと、どちらも捨てる訳にはいきません」ヒフミ

 

 

「うん」アズサ

 

 

「私も、同じ気持ちです。ナギサ様を、一人にはさせられません」ミヅホ

 

 

「よし、それじゃあ決まりだね。今度は私達が、誰かを助ける番よ!」コハル

 

 

 

コハルの声には、先程までの震えはもう無かった。不安を押し殺し、前を向こうとするその姿に、ヒフミは小さく微笑んだ。

 

 

 

「向かいましょう、第十九分館へ」ヒフミ

 

 

「ええ。今度は、…私達の番ですよ♡」ハナコ

 

 

「はい……ナギサ様、どうか、ご無事で」ミヅホ

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。