The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
誤字脱字報告も同じく励みになります
「……こんな任務、本当にやる意味あるのかな?」隊員A
「今更何を言ってんだよ」隊員B
「意味も何も、任務なんだから受けるだけだろう」隊員B
深夜、アリウスの部隊が合宿所へと向かう道中。フルフェイスのヘルメットを被った隊員達が、隊列を成しながら小声で言葉を交わしていた。夜闇に紛れる様に、彼らの足音は極力抑えられていた。
「いや、そうじゃなくてよ、あのアズサって奴、結局は元同志な訳じゃん、それを私達が拘束して、始末しろって話でしょ?」隊員A
「……それが、任務だ」隊員B
「何も思わないの?アリウスの為に、って言われれば何でもやるつもり?」隊員A
「当たり前だろう、それがアタシ達の誓いだ」隊員B
「思うも思わないも、あいつは裏切者だ、それだけの話だろう」隊員B
「割り切るのが早いよ……」隊員A
「だとしても、たった六人相手に、これだけの人数を割くって、上も本気って事だよね…」隊員A
「戦力を出し惜しみして、逃げられでもしたら本末転倒だろう」隊員B
「余計な事を考えるな、任務に支障が出る」アリウス隊長
「隊長……」隊員A
「良いか、我々アリウスは長年トリニティに、いや、キヴォトス全体に見捨てられ続けてきた、その恨みを晴らす好機を、内側から潰そうとする者を許す訳にはいかん」アリウス隊長
「元は同じ理想を掲げていた仲間だからこそ、裏切りは決して許されん」アリウス隊長
「アズサの実力は知っている、だからこそ、今回は数で押す、油断せず、確実に仕留めろ」アリウス隊長
「一人一人が単独で対処しようとするな、必ず複数人で連携しろ」アリウス隊長
「……了解」隊員A
アリウス隊長の一言に、隊員達は表情を引き締め、再び足を進める。合宿所は、既に目視できる距離まで近付いていた。窓明かりの一つも灯らないその建物は、まるで何かを待ち構えるかの様に、静まり返っていた。
「ターゲットはこの合宿所の中に逃げ込んだとの報告が──」隊員C
「間違いないんだろうな」アリウス隊長
「はい、複数の情報源から確認が取れております」隊員C
「信頼度は?」アリウス隊長
「高いかと」隊員C
「良し」アリウス隊長
暗闇の中、アリウス部隊は補習授業部が詰めている筈の合宿所へと足を進めていた。
「侵入経路は正面玄関と、食堂の勝手口のみ……内、勝手口の方は溶接され、バリケードも積まれている様です」隊員C
「随分と念入りだな」アリウス隊長
「隠密を捨てて、専守防衛に切り替えた、という事でしょう」隊員C
「窓は?」アリウス隊長
「既にシャッターが降りています、合宿所の防衛システムが作動したのかと」隊員C
「ふん、警戒されているのは百も承知だ」アリウス隊長
「絞られたか──バリケードの突破に時間はどれ程掛かる?」アリウス隊長
「爆破許可があれば一分、爆薬を用いない突破であれば三分」隊員C
「そんなに掛かるのか」隊員A
「……手で抉じ開けろ、爆薬の使用許可は出さない」アリウス隊長
「了解」隊員
「隊長、爆薬を使わない理由をお聞かせ頂いても?」隊員A
「単純な好奇心か」アリウス隊長
「はい、少し気になりまして」隊員A
「──中に生存者がいるかもしれない、標的以外への被害は最小限に留める、それがアリウスの、いや、私自身の方針だ」アリウス隊長
「……それは、隊長の温情、ってことですか」隊員A
「温情ではない、合理的判断だ、無関係な人間を殺せば、それだけ我々の名分が損なわれる」アリウス隊長
「今、我々に必要なのは決して恐怖ではない」アリウス隊長
「はっ……了解っす」隊員A
「こちらチームテュポーン、チームクラトスと合流完了、食堂の勝手口にてバリケード撤去作業に入る、作業完了予定時刻は三分後」隊員(テュポーン)
「了解した、慎重に進めろ」隊員
「了解──先に此方から攻勢を仕掛け、注意を引く、可能な限り急げ、アウト」アリウス隊長
「──だと思った」アズサ
ピン、と何かを引っ張る感覚があった。扉を押し開けた生徒が見たのは、薄らと闇の中で光る一本のワイヤー。爆発が巻き起こり、爆炎と衝撃に呑まれながら扉ごと吹き飛ぶ。
「ッ……な、何だ!?」アリウス隊長
「爆破トラップ──!」隊員
「くそっ、まんまと引っ掛かったか……!」隊員
「入り口が限られている上、元は隠密行動……壁を爆破する量の爆薬何て携行していない、なら入り口から馬鹿正直に攻めるしかない筈、違う?」アズサ
「ちっ……!」アリウス隊長
「隊長、状況は!?」隊員
「見りゃ分かるだろう、初手からやられたんだ!」アリウス隊長
呟き、アズサは柱から身を乗り出し射撃を敢行する。
「……被害報告!」アリウス隊長
「即答しろ、状況が分からんぞ!」アリウス隊長
「チームへパイトス、負傷者四名……!爆発で二名、射撃で二名、やられました!」隊員
「負傷者を下がらせろ、動ける者は続け、彼奴を追う」アリウス隊長
「無理に前へ出るな、隊列を崩すなよ!」アリウス隊長
「チームテュポーン、チームクラトス、どうした!?」アリウス隊長
「チームテュポーン、バリケード撤去中にクレイモアが起爆、負傷者三名……っ!」テュポーン隊員A
「くそっ、何時の間にこんな……!」テュポーン隊員B
「チームクラトス、同じく三名負傷……何だこれは、ビニール袋──いや、即席爆発装置──……」クラトス隊員A
「チームクラトス、連絡途絶……チームテュポーンも、恐らく全滅です」隊員
「馬鹿な……たった数分で、二個小隊が……」隊員
「信じられん……」隊員
「たった一人に、このザマか……!」アリウス隊長
「まさか、これ程の腕とは……」隊員
「これは、帰還したら大目玉だな」アリウス隊長
「いえ、しかし相手は元スク──」隊員
「関係ない、今は裏切り者だ」アリウス隊長
「情に流されるな、任務を遂行しろ」アリウス隊長
「はっ!」隊員
「前進する、後衛チームを呼び戻せ、所詮はひとり、数はこちらが上だ、このまま圧し潰す」アリウス隊長
「怯むな、押し切るぞ!」アリウス隊長
「……了解」隊員
「ッ、グレネ──」隊員
「伏せろ!」隊員
「……これで、残りは二十人」アズサ
「っ、ちょこまかと……被害報告!」アリウス隊長
「ろ、六名負傷!」隊員
「装備の損耗も、決して軽くはないですね」隊員
「後続の部隊に回収させる、動ける者は追撃を続行!」アリウス隊長
「無理は禁物だぞ、確実に、着実にいけ」アリウス隊長
「く、応戦しますか!?」隊員
「馬鹿を言え、下手に散開すればそれこそ各個撃破されるぞ!」アリウス隊長
「っ、何……?」アリウス隊長
「──成程、大分減りましたね、流石はアズサちゃん、お疲れさまでした」ハナコ
「思ったより、上手くいったよ」アズサ
「うん、それなりに頑張った」アズサ
「残りは二十人、と言った所でしょうか?」ハナコ
「あぁ、他の小隊は全滅させた、後はこの部隊だけだ」アズサ
「随分と、余裕そうですね」ハナコ
「余裕という程でもないけど、状況は悪くない」アズサ
「想定よりもずっと少ない、これ位ならば対処は可能でしょう」ハナコ
「……おい」アリウス隊長
「スパイ、ターゲットは何処に匿った?」アリウス隊長
「ターゲット……桐藤ナギサの事か、言うと思う?」アズサ
「ふん、強情な奴だ」アリウス隊長
「早いか遅いかの違いに過ぎない、既にこの建物は包囲されている──全ては無意味だ、増員の到着も、間もなくだろう」アリウス隊長
「増員……?」アズサ
「あぁ」アリウス隊長
「随分と自信満々じゃないか、それとも、はったりか?」アズサ
「はったりに聞こえるなら、それでも構わん」アリウス隊長
「……言葉を返すが、言うと思うか?」アリウス隊長
「口を割らないのならば、割れる様にするまでだ──射撃開始!」アリウス隊長
「了解……!」隊員
命令一下、部隊は一斉に銃口を構える。硝煙の匂いが立ち込める中、戦いの幕は、まだ終わっていなかった。