The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
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戦闘時間は、ほんの五分に満たない程であった。立ち上る硝煙、刻まれた弾痕。体育館は様変わりし、火薬の匂いが鼻を突く。最後に立っていたアリウスの生徒が、崩れる様に倒れ伏した。
「か、勝った……?」ヒフミ
「──うん、全員戦闘不能」アズサ
最後の一発を撃ち込んだアズサは、倒れ伏した生徒に銃口を向けながら頷いて見せる。倒れ伏す、二十名のアリウス生徒。反し、補習授業部の損害はゼロ。
「わ、私達、生き残ったの……?」コハル
「えぇ、私達の勝利です♡」ハナコ
「あうぅ……ミヅホさんの指揮があって、本当に助かりました」ヒフミ
コハルはずり落ちそうになっていた帽子を慌てて被り直し、倒れ伏したアリウスの生徒を眺めていた。安堵よりも、未だ不安が勝っている様子だった。
「では次のフェイズです、正義実現委員会が到着するまで、時間を稼げば──」ハナコ
「あ、ハスミ先輩には連絡しておいた!直ぐ返事が来る筈!」コハル
「はい、ありがとうございます──ティーパーティーの命令下にある正義実現委員会が動けるとしたら、それはティーパーティーの身辺に問題が生じた時だけ……今頃ハスミさん達は、何かがあったと気付いた筈です」ハナコ
コハルからの緊急救助要請、そしてこれだけの騒ぎだ、正義実現委員会が気付かない筈がない。ナギサを襲撃し、アリウスから身を隠すと同時に、異常事態を悟らせる──これが、ハナコの思い描いた計画であった。
「少なくとも、状況確認には動き出す筈ですから、そう時間は掛からずに……」ハナコ
後は此処で籠城し、持久戦に持ち込めば良い。ハナコがそう告げ、皆を見渡した瞬間──体育館横合いの壁が、唐突に吹き飛んだ。
「っ!?」ヒフミ
「増援部隊……!?」アズサ
爆炎と粉塵が皆の頬を擦り抜ける。壁に大穴が空き、それを切り裂く様にして、アリウスの生徒達が雪崩れ込んで来た。
「馬鹿な、工作部隊まで出ているのか……?元々の作戦は──」アズサ
アズサが呟くより早く、アリウス生徒は補習授業部の前に立ちはだかる。先程の二十人など目ではない、数え切れない程の生徒が体育館に侵入していた。
「これは、数が多い、大隊規模だ、多分、アリウスの半数近くが……!」アズサ
「こ、こんなに沢山の方が、平然とトリニティの敷地内に……!?」ヒフミ
「これだけの爆発、銃声が響いているのに、正義実現委員会は一体何を──」ハナコ
「……いいえ」ミヅホ
その視線は、夜に潜む何かを観ていた。
「最初から、正義実現委員会は動かない……いえ、動けないのです」ミヅホ
「……ミヅホさん?」ハナコ
彼女は背筋を正し──奥に向かって声を響かせた。
「──そういう筋書きですね?
聖園ミカさん」ミヅホ
朦々と立ち上る砂塵を掻き分け、人影が一つ現れる。白い制服を靡かせ、どこか浮ついた空気を纏いながら、彼女は口を開いた。
「──あ~あ、やっぱり……気付いていたんだね?」???
彼女の名前は──聖園ミカ。ティーパーティー、パテル分派首長。月明かりに照らされた姿は神秘的で、正に絵画の如く。
「正義実現委員会は動かないよ、私が改めて待機命令を出しておいたから、今日は学園が静かだったでしょう?邪魔になりそうなものは、事前に全部片づけておいたんだぁ」ミカ
「ミカさん……!」ハナコ
「ティーパーティーの届く限り、色んな理由をつけて……ね?此処には正真正銘──私達アリウスとあなた達補習授業部だけ」ミカ
「ふふっ、黒幕登場☆ってところかな?」ミカ
両手を広げ、月光を浴びながらミカは嘲笑う。
「私が本当の、トリニティの裏切者だよ」ミカ
「──という訳で、ナギちゃんを何処に隠したか教えてくれるかな?私も、時間が無くってさ~」ミカ
補習授業部は固唾を呑んだ。彼女の背中に立ち並ぶアリウスの生徒は百人か、それ以上の数で、補習授業部はたったの四人。
「……ミカさん」ミヅホ
ミヅホが一歩前に出る。背後のアリウスが銃を構えかけたが、ミカが一瞥すると素早く逸らした。
「なぁに?」ミカ
「どうして、こんな事を?」ミヅホ
「理由はね、そんな難しい事じゃないんだよ?私はね、ゲヘナが──大っ嫌いだからよ!」ミカ
「げ、ゲヘナ……?」ヒフミ
「……だから、エデン条約を阻止しようと?そのために、ナギサさんを──」ハナコ
「あぁ、思い出した、浦和ハナコじゃん!礼拝堂の授業に水着で参加して追い出された、あの……あははっ、懐かしいねぇ?」ミカ
「………」ハナコ
「その通りだよ、ナギちゃんがエデン条約だなんて変な事しようとするからさぁ……ゲヘナと同盟?和平?あんな角が生えた奴らと平和条約だなんて、冗談にもほどがあると思わない?」ミカ
「──絶対裏切られるに決まっているじゃんね?まぁ、そんな事、私がさせないけれど」ミカ
薄らと口元を歪め、目を細めるミカ。心底そうである筈だと確信している瞳だった。けれど、ハナコはその瞳に僅かな欺瞞を感じ取った。
「──で、ナギちゃんの事、返してくれる?大丈夫、痛い事はしないよ、まぁ、残りの学園生活は全部檻の中かもしれないけれど!」ミカ
「……ミカさん、あなたは」ミヅホ
「私達を、騙したのですか」ミヅホ
「あの時はごめんね、あそこで語った内容は殆どが嘘、エデン条約は本当に平和条約だよ、ナギちゃんに武力同盟として活用するなんて事、出来っこないからね──でも、全部が全部、嘘って訳じゃないんだよ?」ミカ
彼女は背後のアリウスを見せつける様にして回る。
「──私がアリウスと和解したかったっていうのは、本当の事」ミカ
「……和解?」ミヅホ
「彼女達は同じゲヘナを憎む仲間だもん、アリウスだって元々トリニティの一員だったんだから……この子達こそ、純度の高い憎しみを持っていると言えるかもしれない」ミカ
「だから、手を差し伸べたと?」ミヅホ
「そう!志を共にして、ゲヘナと平和条約を結ぼうとする悪党たちをやっつけない?って具合にね!ティーパーティーのホスト、桐藤ナギサに正義実現委員会がいるなら、次期ホスト、聖園ミカにはアリウスが付く──これは、そういう取引なんだよ」ミカ
その場の空気が、どんどん昏く、淀んでいく。見かねたアズサが一歩踏み出す。
「待ってくれ、ならアリウスは、最初からクーデターの道具だったのか……!?」アズサ
「確かにそうかな?最終的にナギちゃんを失脚させて、私がホストになるんだから」ミカ
「あなたの事は良く知らないけれど、私にとって大事な存在であることは変わらない、今までも、これからも」ミカ
「……何?」アズサ
「──だってあなたには、ナギちゃんを襲った犯人になって貰わないといけないからね!」ミカ
口の前に指先を立てるミカ。その口元が、三日月を描く。
「スケープゴートって言った方が良いかなぁ?罪を被る生贄がいてこそ、皆がぐっすり安心して眠れるの、だからあなたには、とっても感謝しているよ」ミカ
「ッ──!」アズサ
最初から、そのつもりで──!と言わんばかりに、アズサの視線が怒りに塗れる。今にも飛び出しそうな肩を掴んだのはミヅホだった。アズサはその瞳を見上げ、そっと口を噤み、退く。
「ミカさんは、ホストになる為に、この計画を立てた──それで、合っていますか?」ミヅホ
「そうだよ、あぁでも、誤解して欲しくないかな?私はゲヘナをキヴォトスから消し去りたい──本当に、ただそれだけだから」ミカ
彼女の至上命題は、ゲヘナの殲滅。ホストの地位に固執するつもりはなかった。
「トリニティの穏健派を追いやって、その空席をアリウスで埋める、多分フィリウス分派が一番反対しそうかなぁ?」ミカ
「本当に、貴女はなんてことを!?」ミヅホ
「なら、今度からはパテル、サンクトゥス、アリウスの三大分派にしてー……新しい連合が出来て、必要なら新しい公議会も……そして新しい武力集団を得て再編された、私率いる新トリニティが、ゲヘナに全面戦争を仕掛ける──うん、これが私の──」ミカ
彼女がそう言いかけた、その瞬間。
──ドォンッ!
彼女の傍を、赤白色の極太のビームが掠めた。