The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
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彼女の傍を、赤白色の極太のビームが掠めた。夜の帷を切り裂く様なその光跡は、一瞬にして戦場の空気を塗り替えていった。
「──ッ!?」ミカ
轟音と共に、体育館の壁がまた一つ、粉塵を巻き上げて崩れ落ちる。ミカは咄嗟に身を捩り、直撃こそ免れたものの、頬に走る熱を確かに感じ取っていた。あと僅かでも判断が遅れていれば、今頃どうなっていたか分からない──そんな悪寒が、背筋を這い上がる。
「な、なに、今の……!?」ヒフミ
「い、今の光……何かが、爆発したの……?」コハル
「ま、まさか、また敵……?」ヒフミ
「あの威力……レールガン……?」アズサ
「あんな出力、一体どこから……」アズサ
「電磁投射兵器……誰がそんな物を……」ミヅホ
「あんな物、一体何処で……」ハナコ
補習授業部の面々が声を揃えて困惑を露わにする中、砂塵の向こうから一つの人影が姿を現す。肩に担がれた、異様に長い銃身。青白い照準器の光が、闇の中で静かに明滅していた。
「──もしかしてッ……!?」ヒフミ
「閣下……!」ミヅホ
「せ、先生、来てくれたの……!?」コハル
驚愕に染まる補習授業部の視線の先、そこに立っていたのは、紛れもなく隆一その人だった。白い外套の上から、更に黒いローブを纏った姿。肩に構えた愛銃──レーヴァテインの銃身が、未だ余熱を帯びて薄く光っている。
「……脱出した、と聞いてはいましたが、まさかこのタイミングで──」ハナコ
「間一髪、というやつでしょうか」ハナコ
「悪い、待たせた」隆一
「遅くなった分は、今から取り返す」隆一
短くそう告げ、隆一はレーヴァテインの銃口を、再びミカへと向ける。
「せ、先生……今のは、威嚇、ですか?」ヒフミ
「あぁ、次は外さない」隆一
そう口にし、再び銃口に赤白色のエネルギー波をチャージし始める。
「今度は、頬を掠める程度じゃ済まさないぞ?」隆一
その一言に、ミカの纏っていた余裕の笑みが、僅かに固さを増す。
「──あはは、やるね先生、ちょっとチリチリしちゃったよ」ミカ
「本気で当てるつもりだったなら、今頃私、消し炭だよね?」ミカ
「それとも、まだ手加減してくれてるのかな?」ミカ
焼け焦げた毛先を指先で払い、ミカは苦笑いを浮かべる。しかしその瞳の奥には、隠しきれない緊張の色があった。彼女はゆっくりと後退り、愛銃──
「──だけど、悪いけど私も退くわけにはいかないんだよね」ミカ
「ここで退いたら、今までの全部が無駄になっちゃうもん」ミカ
「引くに引けない、って訳か」隆一
その動きに呼応し、周囲を固めるアリウスの生徒達が一斉にアサルトライフルとグレネードランチャーの照準を合わせた。かちり、かちりと、安全装置の外れる音が重なる。息をするのも憚られる程の緊張が、その場を支配していた。
「……ッ」アズサ
張り詰めた沈黙。誰かが一歩でも動けば、その瞬間に火蓋が切られる──そんな空気が、崩れかけた体育館を満たしていた。息を潜め、誰もが次の展開を待つ中、時間だけが異様にゆっくりと流れていく。その刹那。
──ドォンッ!
二度目の閃光と爆風が、ミカと分館内を襲った。彼女の背後に立っていた生徒が、為す術もなく吹き飛び、壁に叩きつけられる。ミカ自身も爆風に煽られ、髪の一部が焼け焦げた。
「きゃっ──!」ミカ
「ミ、ミカ様ッ……!」アリウス生徒
「大丈夫ですか、ミカ様!」アリウス生徒
悲鳴と怒声が入り混じる中、爆煙が晴れていく。そこに立っていたのは、既にレーヴァテインを再チャージし終えた隆一──その姿だった。
「な、何度も……!」ミカ
「これで、二度目だ、次は避けられると思うなよ」隆一
「聞いてくれ、ミカ」隆一
銃口を下げぬまま、隆一は静かに──しかし、有無を言わさぬ声で告げる。
「あんたは、騙されている、ナギサに」隆一
「……え?」ミカ
その言葉に、ミカの表情から笑みが消えた。その場にいる他のメンバーも同じく、驚きの感情を隠せない。
「な、何を言ってるの、先生……騙されてるのは、私じゃなくて──」ミカ
「ナギちゃんだよ、私は、ナギちゃんの出しゃばりを止める為に──」ミカ
「その『企み』とやらを、誰から聞いた?」隆一
「それは……」ミカ
言葉に詰まるミカ。改めて問われると、その情報源はいつも曖昧だった。誰かに聞いた、噂で流れてきた──常にそんな、輪郭の曖昧な形で、都合よく情報は舞い込んできていた。
「本当に、そう思うか?」隆一
「公私混同の人事で、優秀な生徒を排斥し」隆一
「セイア襲撃、その首謀者を仕立て上げた」隆一
「その一件だけでも、どれだけの人間が疑心暗鬼に陥ったか分かるのか?」隆一
「それだけじゃない。カイザーCo.からの巨額の収賄、学園予算の私的流用…どれも、茶会の連中が中から流しただろ?」隆一
「そう、だけど……」ミカ
「そして、独立連邦捜査部の権限を私的に利用した、数々の工作」隆一
「君に流された『情報提供』も、その一つだ」隆一
「私に流された、情報……?」ミカ
淡々と、しかし一言一言に重みを込めて、隆一はその罪状を並べ立てていく。ヒフミやコハル、そしてハナコまでもが、言葉を失ったまま隆一を見つめていた。
「な、なに、それ……そんなの、私は──」ミカ
「知らなかった、で済む話じゃない、というのは分かっているだろう」隆一
「知らなかったなら、猶更だ、利用されたと知る事から始めるしかない」隆一
「さっき言った鬼畜の所業の数々も、これら全部、君が『やった事』になっている──誰の差し金かは、もう分かるだろう?」隆一
「──ッ」ミカ
ミカの表情が、初めて大きく揺らいだ。反ゲヘナの感情、そしてアリウスへの親近感──その全てが、まるで見えない糸のように操られ、利用されていたのだとしたら。
「そんな……嘘だよね……?アリウスとの和解だって、ちゃんと、私自身の意思で──」ミカ
「本当に、そう言い切れるか?」隆一
「…えっ?」ミカ
「意思そのものは、確かに本物かもしれない、だが、その方向付けをしたのは誰だ?」隆一
「──ッ」ミカ
その問いに、ミカは答えられなかった。振り返れば、いつも都合の良いタイミングで、「アリウスが内部協力者を探している」だとか都合の良い情報が舞い込んできた。それが偶然でなかったとしたら──自分が積み上げてきたと思っていた確信は、一体何だったのか。
「アズサも勿論の事、補習授業部も、正義実現委員会も……なんなら、ここにいる全員が」隆一
「気付いていないだけで、皆──同じ
「チェスボード……」ミカ
「全部、ナギサの
「……そんな、まさか……」ミカ
「信じられない、と思うのも無理はない、けれど、事実だ」隆一
「証拠、証拠はあるの……?先生の、言葉だけじゃ……!」ミカ
「私は、信じられない……信じたく、ないよ……」ミカ
「信じたくない気持ちは分かる、だが、既に告発された書類だけで数百ページもある。目を逸らせば逸らす程、深みに嵌まるぞ」隆一
ミカの声には、縋る様な響きがあった。信じたくない、という感情が、その声の震えに滲んでいる。
「証拠なら、既にユヅキが押さえている、後で見せてやる」隆一
「……ユヅキ?」ミカ
「あぁ、お前が知らない所で、色々と動いている人間がいる」隆一
「その気になれば、いつでも見せられる、逃げも隠れもしない」隆一
「──むしろ、これから見せる証拠を見た後に、お前がどう動くか、それが問題だ」隆一
愕然と立ち尽くすミカ。彼女がその真実を、心の底から理解するまでに掛かった時間は──決して、短いものではなかった。