The Hypocrite's Archive   作:Xelphyr

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後片付け

後ろ盾を失ったアリウスの動揺は早かった。ミカが投降した事を知るや否や、統率を失った生徒達は次々と銃を降ろし、その場に膝を突いていく。先程までの猛々しさが嘘だったかの様に、体育館には次第に静寂が戻り始めていた。

 

 

 

「う、嘘でしょ……ミカ様が、降参……?」アリウスモブA

 

 

「もう、駄目だ、続けたって──」アリウスモブB

 

 

「お、私達は、これからどうなるんだ……」アリウスモブC

 

 

「知らないよ、そんなの……」アリウスモブD

 

 

 

誰かが銃を捨てれば、その動揺は瞬く間に伝播する。抵抗を続けようとした一部の生徒も、シスターフッドと自警団の圧に飲まれ、程なく武装を解除した。

 

 

 

「武器を捨てなさい、抵抗する意思がないのなら、手荒な真似はしません」サクラコ

 

 

「く、くそ……」アリウスモブE

 

 

「終わりだ、もう、こんなの続けられないよ……」アリウスモブF

 

 

「静かに、両手を頭の後ろに」サクラコ

 

 

 

歌住サクラコの声に応じるように、次々と銃声が止み、代わりに金属が床に転がる音が響いていく。トリニティ自警団のスズミもまた、周囲を固めながら投降者を一人一人確認していった。

 

 

 

「──守月スズミ、これより投降した生徒の確保に移ります」スズミ

 

 

「怪我人がいれば、優先して手当てを」スズミ

 

 

「軽傷者は自力で歩かせて構いません、重傷者を優先して下さい」スズミ

 

 

「よろしくお願いします」ハナコ

 

 

 

補習授業部、シスターフッド、自警団が入り乱れる体育館は、戦場の緊迫感から一転、慌ただしくも静かな熱を帯びていく。負傷したアリウスモブには応急処置が施され、拘束を終えた者から順に、隊列を組んで外へと運ばれていった。中には、まだ状況を飲み込めていない様子で、呆然と座り込んだままの生徒もいた。

 

 

 


 

 

 

夜が白み始める頃には、体育館とその周辺は正義実現委員会の管理下に置かれていた。ハスミ率いる部隊が到着し、拘束されたアリウスの生徒達が次々と連行されていく。物々しい光景ではあったが、そこに漂う空気には、確かな安堵も混ざっていた。夜通しの緊張から解放され始めた誰の表情にも、僅かな疲労と共に、安堵の色が滲んでいた。

 

 

 

「これだけの人数……正義実現委員会だけでは、収監施設が足りませんね」ハスミ

 

 

「予想を遥かに超える規模でした」ハスミ

 

 

「これほどの人数を動かせるとは、正直、想定していませんでした」ハスミ

 

 

「アリウスの結束力、恐るべしですね」ハスミ

 

 

「シスターフッドの方でも、一部お預かりしましょうか?」サクラコ

 

 

「行けるなら、俺のとこ(独立連邦捜査部)でも預かれるぞ?」隆一

 

 

「助かります、ありがとうございます」ハスミ

 

 

「お互い様です、こういう時こそ、協力するべきですね」サクラコ

 

 

 

負傷者の手当て、証拠の確保、アリウスの生徒達の身柄引き渡し…その全てが粛々と進んでいく。ヒフミとコハルは疲れ切った様子で壁際に座り込み、互いの無事を確かめ合うように顔を見合わせていた。手にはまだ、僅かな震えが残っていた。

 

 

 

「お、終わった……のかな、私達……」ヒフミ

 

 

「うん、本当に……無事で、良かった」ヒフミ

 

 

「終わった、と思う……多分」コハル

 

 

「多分って、何それ」コハル

 

 

 

コハルは力の抜けた様に笑い、そのままずるずると壁に背中を預ける。

 

 

 

「お疲れ様です、二人とも」ハナコ

 

 

「ハナコちゃんも、お疲れ様……本当に、色々あったね」ヒフミ

 

 

「ミカさんが、あんなあっさりと折れるなんて、思ってもいませんでした」ハナコ

 

 

「最後まで、諦めずに戦うと思っていました」ハナコ

 

 

「うん、私も、正直驚いたよ」ヒフミ

 

 

 

声を掛けながら歩み寄るハナコの制服にも、硝煙の匂いと僅かな血の跡が滲んでいる。それでもその表情には、確かな安堵の色が浮かんでいた。

 

 

 

「ミヅホさんは、まだ現場の方に?」ヒフミ

 

 

「はい、証拠の確保に立ち会って下さっています、あの方の観察眼は、この後の調査でも役に立つでしょうから」ハナコ

 

 

「現場の痕跡から、色々な事が読み取れるんだって、以前教えてもらった事があります」ヒフミ

 

 

「靴跡一つで、人数や動きまで分かるそうです、凄いですよね」ヒフミ

 

 

「相変わらず、頼りになる人だよね」コハル

 

 

「えぇ、本当に」ハナコ

 

 

「ミヅホさんがいなかったら、もっと大変な事になっていたかもしれません」ヒフミ

 

 

「本当に、そう思います」ヒフミ

 

 

「同感です、彼女の冷静さには、何度も助けられました」ハナコ

 

 

「今度、皆でちゃんとお礼を言わないとね」コハル

 

 

「賛成です、私も、そう思っていました」ハナコ

 

 

「はい、そうしましょう」ヒフミ

 

 

「アズサちゃんは……」ヒフミ

 

 

「大丈夫、でしょうか……色々あった後だから、心配で」ヒフミ

 

 

「向こうです、正義実現委員会への事情説明に付き合ってもらっています」ハナコ

 

 

「一人で、大丈夫かな……」コハル

 

 

「私も、少し気になっていました」ハナコ

 

 

 

視線の先、アズサはハスミと何事か言葉を交わしていた。その表情は硬く、けれど以前の様な怯えは薄れているように見える。

 

 

 

「アズサさん、裏切り者の汚名を着せられていた事について、正義実現委員会としても、正式に調査を行います」ハスミ

 

 

「これまでの、あなたの功績もきちんと記録し、名誉の回復に努めます」ハスミ

 

 

「……感謝する」アズサ

 

 

「あなたの行動が、結果として多くの生徒を救った事は、既に把握しています」ハスミ

 

 

「私は、ただ……」アズサ

 

 

「無理に、今語らなくても構いません、時間はまだ、たっぷりありますから」ハスミ

 

 

「感謝する、それと……巻き込んで、すまなかった」アズサ

 

 

「いいえ、あなたの行動がなければ、被害はもっと大きくなっていたでしょう」ハスミ

 

 

「それに、罠を張ったのも、時間を稼いだのも、全てあなたです」ハスミ

 

 

 

ハスミの言葉に、アズサは小さく頷いた。

 

 

 

「……セイアちゃんを襲撃した件、彼女にも色々と、聞かなければならない事があるでしょうね」ハナコ

 

 

「アリウスに唆された経緯、ミカさんとの関係……全部、明らかにしないといけません」ハナコ

 

 

「複雑な事情が、色々と絡んでいそうだもんね……」コハル

 

 

「アリウスとの関係、ゲヘナへの反感……根っこは、深いのかもしれません」ハナコ

 

 

「でも、今は……少しだけ、休ませてあげたいです」ヒフミ

 

 

「そう、ですね……私も、同意見です」ハナコ

 

 

「今日の所は、皆さん、ゆっくり休んで下さい」ハナコ

 

 

「先生が戻られたら、皆で改めて報告に上がりましょう」ハナコ

 

 

「うん、そうだね」ヒフミ

 

 

「久しぶりに、ゆっくり寝られそうです」ヒフミ

 

 

「今回の件、先生にも、色々と負担を掛けてしまいましたね」ハナコ

 

 

「先生も、無理してないと良いんだけど……」ヒフミ

 

 

「あ……そういえば、先生は、今どちらに?」コハル

 

 

「ミカさんの身柄について、正義実現委員会と話をされているそうです」ハナコ

 

 

 

ハナコは小さく頷き、体育館の外に広がる朝焼けの空を見上げた。長い夜が、ようやく明けようとしていた。

 

 

 

「本当に、長い夜でしたね」ハナコ

 

 

「振り返ると、あっという間だった様な、それでいてとても長かった様な、不思議な感覚です」ハナコ

 

 

「うん……でも、皆で無事に迎えられた朝だから、良かったなって思う」ヒフミ

 

 

「あぁ……本当に」コハル

 

 

「こんな朝が来るなんて、昨日の夜は思えなかったな」コハル

 

 

「これから、色々と大変な事もあるだろうけど……今だけは、この朝を、ちゃんと味わいたいな」コハル

 

 

「同感です」ハナコ

 

 

「うん」ヒフミ

 

 

 

三人は暫くの間、言葉を交わす事なく、昇り始めた朝日を眺めていた。それぞれの胸に去来する想いは違えど、共に困難を乗り越えたという確かな実感だけは、誰もが等しく抱いていた。そして全ての後処理が片付く頃には、既に日は高く昇っていた。

 

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