The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
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ある日のトリニティ。
彼に逆らえる者は、既にどこにも存在しなかった。
ナギサは牢の中、幽閉されたまま日々を過ごしている。ミカは休養と称し、政務からは距離を置いていた。ティーパーティー最後の一人、百合園セイアは未だ容態が安定せず、救護騎士団の蒼森ミネはその看護に付きっきりで、政務どころではない。シスターフッドの歌住サクラコは、そもそも政治の実務に乏しい。
三者鼎立を謳う合同生徒会、その実態は──既に形だけのものとなっていた。
そんな不安定な状況で、トリニティの舵取りを担うには、相応のカリスマと実務能力を兼ね備えた「超人」が必要不可欠だった。
その役目を担う者は、既に決まっていた。
「──今週の各部活への予算配分について、ご確認をお願いします」書記モブA
「了解、目を通しておく」隆一
「シスターフッドから物資の追加要請が来ています、こちらも合わせてご確認を」書記モブB
「分かった、優先度は高めておいてくれ」隆一
「承知しました、他には──パテルの生徒から、分派間の会合を早めて欲しいとの申し入れも」書記モブB
「あぁ、それは俺が直接対応する、日程だけ押さえてくれ」隆一
「畏まりました」書記モブB
「追加で、シスターフッドの歌住サクラコ様から、来週の合同会議についてご相談が」書記モブC
「あぁ、それも聞いておく。日程の調整だけ、先にこっちで進めておいてくれ」隆一
「承知しました、では手配いたします」書記C
次々と持ち込まれる案件に、隆一は淀みなく指示を出していく。かつてなら三者の合議を経なければ決まらなかった事柄も、今では彼の一存であっさりと処理されていく。
合同生徒会本部、その執務室。積み上げられた書類の山を前に、隆一は淡々と決裁を進めていた。爆破テロ未遂後の混乱を、彼はほぼ完全に収拾させていた。分派間の対立を巧みに調整し、負傷した生徒への手厚い補償を即座に実行し、崩壊しかけたインフラの復旧を陣頭指揮する──その一つ一つの行動が、生徒達の心を確実に掴んでいった。
「先生、いつもありがとうございます……先生のおかげで、私達安心して学校に通えます」トリニティモブα
「ただの仕事だ。そんな感謝される事じゃねぇ」隆一
「そんな……先生がいなかったら、今頃トリニティはどうなってたか分かりません」トリニティモブα
「大袈裟だなぁ、お前ら生徒達が頑張ってるからこそだろ?」隆一
「いいえ、先生だからこそです」トリニティモブα
すれ違い様に頭を下げる別の生徒の姿も見える。
「隆一先生、この間はありがとうございました、あんな迅速に対応して頂けるなんて」トリニティモブβ
「大した事はしていない、困った時はお互い様って奴だ」隆一
少し離れた場所では、救護騎士団の腕章を付けた生徒が、深々と頭を下げていた。
「先生のご配慮のおかげで、負傷者の治療も滞りなく進められています、本当にありがとうございます」救護騎士団モブ
「それは良かった、引き続き、何かあれば遠慮なく言ってくれ」隆一
「はい、皆、先生には感謝しかありません」救護騎士団モブ
廊下ですれ違う生徒達は、皆一様に彼へ感謝と信頼の眼差しを向ける。かつてのティーパーティーが持っていた権威、その空白を埋めるように、隆一への支持は日を追う毎に厚みを増していった。
誰かに、或いは彼自身によって強制された訳でもない。他でもない生徒達自身の手によって、彼の地盤は着々と、盤石なものへと固められつつあった。
「──全て、閣下の思惑通りに進んでいますね」"老紳士"
夜、合同生徒会本部の最奥。隆一と"老紳士"は、静かに向き合っていた。窓の外に広がるトリニティの夜景を見つめながら、"老紳士"は恭しく頭を垂れる。
「閣下は、トリニティを抑え、我が物とされました」"老紳士"
「大袈裟な言い方をするなよ恥ずかしい」隆一
「いいえ、事実を申し上げているまでです、この状況を作り上げたのは、他ならぬ閣下ご自身でございますから」"老紳士"
「もはや、生徒会長などという些末な肩書きに収まる必要はございません」"老紳士"
「──『トリニティ帝国の皇帝』として、『即位』される事すら、今の閣下には容易い事でございましょう」"老紳士"
恭しく告げる"老紳士"の言葉に、隆一は僅かに目を細める。
「……皇帝、ね」隆一
その響きを、彼はどこか他人事の様に呟いた。
「興味ない、そういうンは」隆一
「──閣下?」"老紳士"
「意外か?」隆一
「些か、意外ではございます。これだけの実権を握られたのです、相応の地位を求められたり、或いは担がれるのが自然かと」"老紳士"
「普通はそうかもな。だが、俺は別に、承認欲求を糧に動いてる訳じゃない」隆一
「では、何の為に」"老紳士"
「さぁな、強いて言うなら──性分、って所か」隆一
「地位なんて飾りだろ、実権さえあれば、それで十分だ」隆一
「肩書きなんてどうでも良い、俺がやりたいのは、このキヴォトスの舵取りをする事だけだ」隆一
淡々と告げる隆一の言葉に、"老紳士"は僅かに沈黙する。
「大層な地位も、仰々しい称号も要らない、そんなものがあった所で、やる事は変わらないからな」隆一
「……ふむ、しかし、閣下ほどの実力があれば、その気になればどんな地位でも手に入るでしょう」"老紳士"
「手に入る事と、要る事は別だ」隆一
「それに、部外者が皇帝を僭称しようものなら──不要な反発を招くだけだろう?」隆一
窓の外を見つめたまま、隆一は続ける。
「今の生徒達は、俺を信頼してくれている、けれどそれは、俺が『独立連邦捜査部の顧問』として、この混乱を収めているからだ」隆一
「肩書きが変われば、その信頼の質も変わる、下手に大仰な地位を求めれば、それこそ──余計な野心を疑われかねない」隆一
「野心を疑われる、ですか」"老紳士"
「あぁ、今はまだ、俺は『トリニティの為に働く協力者』という立場だ、その方が、余程都合が良い」隆一
「なるほど、権威よりも、今は信頼を選ばれた、という事ですな」"老紳士"
「そう言い換えても構わないさ」隆一
「表舞台に立たず、裏から全てを動かす、という訳ですな」"老紳士"
「その通りだ、目立つ玉座より、見えない手綱の方が、余程強い」隆一
冷静に、しかし確かな読みを持って語る隆一の言葉に、"老紳士"は静かに頷いた。
「……成程、流石は閣下でございます、浅慮でございました」"老紳士"
「いや、気持ちだけ受け取っておくよ」隆一
軽く笑い、隆一は椅子に深く腰を沈める。
「それより、本部の方はどうだ、何か動きはあったか」隆一
「特には。ただ、蒼森ミネと歌住サクラコについては、引き続き監視を続けております」"老紳士"
「あの二人か……セイアの容態次第だが、大きく動く事はしばらく無いだろうな」隆一
「油断は禁物かと。特にミネ嬢さんは、セイア嬢を守る為なら、手段を選ばない気質と見受けられます」"老紳士"
「油断はするなよ、ミネは特に、
「承知しております。何かあれば、即座にご報告差し上げます」"老紳士"
「今のままで、十分だ」隆一
「肩書きなど無くとも、トリニティは既に──俺の手の中にある」隆一
「畏まりました、閣下の仰る通りかと」"老紳士"
「それより、他に報告はあるか」隆一
「いえ、本日のところは以上でございます」"老紳士"
「そうか、なら今日はここまでにしよう」隆一
「畏まりました、それでは私はこれで」"老紳士"
その言葉に、"老紳士"は深々と一礼した。
「畏まりました、閣下の御心のままに」"老紳士"
窓の外、月明かりに照らされたトリニティの敷地を、隆一は静かに見下ろす。
誰にも気付かれる事なく、誰かに強要される事もなく──その手は、既に学園の全てを覆い尽くしていた。
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