The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
誤字脱字報告も同じく励みになります
「キキキッ!ようこそ、シャーレ顧問にしてトリニティ生徒会長の天音先生!」マコト
「ハハッ、ほぼ初対面の人間に対し小言が多いぞマコト?」隆一
「あぁ!このマコト様はいつだって万全だとも!」マコト
ゲヘナ自治区──
「こんばんは、か?」隆一
「はぁ……どうも、先生」イロハ
その隣に立つ、いつも通り気だるげな態度を隠さない戦車長、
ソファに座りながら上機嫌に肩を揺らしていたマコトは、隆一をじっと見つめながらふと口を開いた。
「しかし先生、漸くこの万魔殿の議長であるマコト様に協力の申し出をする気になったのだな!」マコト
「うん、そ──……うん?」隆一
「キキキキッ……シャーレと万魔殿、そしてトリニティ、この三つが力を合わせれば、ゲヘナの風紀委員会如き簡単に壊せる筈だ、至って論理的な判断だと言える──いや、ゲヘナどころかキヴォトスすらも手中に出来るだろう……!」マコト
椅子に腰かけ、かなり邪悪ではあるが満面の笑みを浮かべたマコト。不意に飛び上がる様にして立ち上がると、朗々と歌い上げる様な声でそう告げる。その表情からは高揚と期待がありありと感じられ、隆一を見つめる視線には熱がこもっている様に思えた。
「計算は完了した、さぁ、直ぐにでも計画を実行しようではないかッ!先生!」マコト
「……あの、そういう会話は、せめて私達が居ない所でやって頂けませんか?」アコ
横合いから、呆れたような声が響いた。議事堂に隆一と一緒に入室していた、ゲヘナ風紀委員会所属のアコである。笑みを浮かべたまま、やや怒気を漏らし言葉を吐き捨てる彼女の姿に、イロハは天井を仰ぎながら息を吐いた。
「マコト議長、話を変な方向に捻じ曲げないで下さい」アコ
「あ?」マコト
「先生が今回私達に会いに来たのは形式的な問題です、先生はエデン条約にも参列されますので、顔合わせとしての訪問ですよ」アコ
「……なら、我々との協力話は?」マコト
「そんな話は元々ありません」イロハ
イロハの淡々とした発言に、マコトは顔を顰めて数秒程沈黙を守る。広げていた手を組み直し、指先で顎を撫でつけた彼女は隆一とアコ、そしてイロハを順に眺めた後、何かを悟ったような表情でほくそ笑んだ。
「……ふっ、成程、そうか──まぁ、楽しみは後に取っておくとしよう」マコト
「うっわ、これまた絶対面倒くさい事考えていますよ」イロハ
気取ったようにコートを靡かせ、マコトは踵を鳴らして扉へと足を進める。
「よし、帰るぞイロハ」マコト
「えっ、あ、はい?もう良いんですか?」イロハ
「あぁ──キキッ、今日は先生の顔を見れただけで十分だ」マコト
告げ、マコトは颯爽と部屋を後にする。一瞥すらせずに退出して行ったマコトの姿にアコは額に青筋を浮かべ、口元を引き攣らせた。
「全くあの人は……すみません、先生」アコ
「全くだ、寧ろ噂通りの人間で安心したよ」隆一
「あぁ、そうですか、そうですよね、先生はそういう人でした」アコ
「では、また調印式の会場で……先生」イロハ
扉を後ろ手で閉じる寸前、イロハはどこか普段と異なる雰囲気で、そう告げた。
扉が閉じる音が、議事堂に静かに響いた。
先生の足音が廊下の向こうに消えていくのを待ち、マコトはそれまで被っていた愉快げな表情を、すっと消し去る。
「……キキッ、さて」マコト
ソファに深く腰掛け直し、マコトは隣に立つイロハを見上げた。
「イロハ、お前から見て、あいつの印象はどうだった?」マコト
「……あいつ、というと」イロハ
「あの男の事だ」マコト
「あぁ、先生の事ですか」イロハ
面倒くさそうに手帳を捲りながら、イロハは小さく溜息を吐く。
「はぁ……そうですね、カリスマと威厳に溢れていて、聡明かつ洽覧深識な人、という印象ですけど」イロハ
「それだけか?」マコト
「それだけ、とは」イロハ
「もう少し、踏み込んだ感想は無いのかね」マコト
「……強いて言うなら、底が見えない人、って感じですかね。何を考えているのか、掴めないっていうか」イロハ
「──それだ」マコト
ぴたりとマコトの指先が止まる。先程までの大言壮語とは打って変わり、その声には落ち着いた、しかしどこか探るような響きがあった。
「……それだ、だけで分かる訳ないじゃないですか、マコト先輩。先生の何が、そんなに引っかかっているんです?」イロハ
気だるげに問うイロハに、マコトは帽子の鍔を指先で押し上げる。その瞳に、先程までの浮ついた色は欠片も無かった。
「カリスマと知性と統率力、そして威厳──これら全てを兼ね備えた人間というのはな、イロハ、
「……はぁ」イロハ
「だが、もし何かの出来事がトリガーとなって、あの男がゲヘナに牙を剝いたら──何が起こるか、分かるかね?」マコト
「……」イロハ
イロハは一瞬、言葉に詰まる。先程見た先生の姿を思い起こせば、その問い掛けの意味する所は、確かに理解出来ない訳ではなかった。
「……未知数、ですね」イロハ
「そうだ、未知数だ」マコト
「考えすぎじゃないですか?先生、少なくともそういう人には見えませんでしたけど」イロハ
「見えないだろうな。それが恐ろしい所なのだ」マコト
「見た目で判断出来るなら、苦労しないんですけどね」イロハ
「その通り、だからこそ警戒するんだよ」マコト
愉快そうに笑いながらも、その瞳の奥には確かな警戒の色が宿っている。
「
「言われてみれば、確かに」イロハ
「でも、それだけで、そこまで警戒するんですか?」イロハ
「いや、それだけではない」マコト
「他にも何かあるんですか先輩?」イロハ
マコトは身を乗り出し、声を低くした。
「何よりも昨今、ゲヘナで不審な現象が多く起きている」マコト
「……不審な現象?」イロハ
「あぁ」マコト
「また温泉開発部か美食研究会の面々が、変な実験でもやってるだけじゃないんですか」イロハ
「違う」マコト
即座に否定され、イロハは眉を寄せた。
「あいつらの悪戯なら、私も見慣れている。ただ、これは、質が違う」マコト
「質が違う、とは?」イロハ
「ゲヘナでもトリニティでもない連中の仕業だ。目撃証言はいくつもある」マコト
マコトは指を折りながら、淡々と述べていく。
「黒いローブを纏った存在が現れた瞬間、煙のように消えた、だとか」マコト
「どこからともなく謎の徒党が押し寄せ、風紀委員の生徒を軽々と倒していった、だとか──そういった類のものだ」マコト
「それだけじゃない、弾薬庫の中身が丸ごと消えていた、なんて報告も上がっている」マコト
「物盗りの線は?」イロハ
「調べたが、鍵も、警備システムも、何一つ破られた形跡が無かった。まるで、最初から何も無かったかのようにな」マコト
「……それは、確かに奇妙ですね」イロハ
「……」イロハ
段々と、イロハの表情から気だるさが抜けていく。真剣みを帯びたその顔は、普段の彼女からは珍しいものだった。
「……それ、まさか本当の話ですか?」イロハ
「嘘だと思うか?──極め付けは、これだ」マコト
告げ、マコトは懐から小さな袋を取り出す。中から摘み出したのは、小豆大ほどの、青色の宝石だった。窓から差し込む月光を受け、その表面が妖しく煌めく。
「それ……宝石ですか?それが、今の話とどう関係あるんです」イロハ
「同様の現象が観測された現場から回収した物だ」マコト
「現場に落ちてた、って事ですか」イロハ
「あぁ、それも一つや二つの話じゃない。似た様な物が、複数の現場で見つかっている」マコト
「それで、結局何だったんですか?」
「鑑識に回したらな、サファイアではあったんだが……通常の鉱石ではあり得ない、未知の物質が含まれていた」マコト
「どんな物質なんですか?」イロハ
「それが、分からないから厄介なんだ。お陰様でうちの分析班も匙を投げている」マコト
「……未知の、物質」イロハ
「詳しい組成までは、まだ解明出来ていない。だが、少なくとも普通の宝石じゃない事だけは確かだ」マコト
「つまり、採掘された後に、何者かの手によって何らかの加工が施されている、という事だ。自然に出来る代物ではない。生憎キヴォトスのどんな技術を以てしても、こんな物は作れまい」マコト
宝石を指先で摘み、灯りに翳して目を細めるマコト。イロハは黙り込んだまま、その手の中で揺れる青い輝きを見つめていた。
「で」マコト
不意に、マコトは視線を上げる。その口元に、再びいつもの不敵な笑みが戻った。
「この『未知の現象』のトリガーとなっているのは、キヴォトス外部から来たあの男…というのが、私の私見だがね」マコト
「……随分と、根拠が薄い気がしますけど」イロハ
「根拠ならあるさ。あの不審な現象が頻発し始めたのは、丁度あの男がトリニティに現れてからだ。不思議な事に、時期が綺麗に重なっている」マコト
「それだけで、断定するのは早計じゃないですか」イロハ
「断定はしていないさ、あくまで私見だと、最初に言っただろう」マコト
「……先輩の、私見ですよね」イロハ
「あぁ、
「……はぁ、まぁ、否定はしませんけど」イロハ
溜息混じりにそう返すイロハ。その脳裏にも、先程の先生の、あの底の見えない笑顔が過っていた。
「どちらにせよ、エデン条約の調印式までは、大人しくしていた方が良さそうですね」イロハ
「あぁ、それは勿論だ──けれど、な」マコト
宝石を懐へとしまい込み、マコトはゆっくりと立ち上がって、窓辺へと歩み寄る。
「調印式が終わった後の事は、また別の話だ」マコト
「その時になったら、どうするつもりなんです」イロハ
「さぁてな、それは──その時になってみないと、分からんよ」マコト
「──キキキッ、キャハハハハッ!」マコト
高らかな哄笑が、広い議事堂にこだました。
「……正直、話が飛躍しすぎてついていけないんですけど」イロハ
額に手を当て、深々と溜息を吐くイロハ。
「飛躍、結構じゃないか。小さく収まった話など、面白くも何ともない」マコト
「先輩のそういう所、嫌いじゃないですけど、疲れるんですよね」イロハ
「それは重畳」マコト
「でも、まぁ……先輩がそう言うなら、一応、頭の隅には置いておきますよ」イロハ
「うむ、それで良い」マコト
「ただ、本当に何か起きたら、ちゃんと私にも共有して下さいよ。一人で抱え込まれるのは困りますから」イロハ
「心得ているとも」マコト
満足げに頷くマコトを横目に、イロハは窓の外、ゲヘナの夜景を見やる。
先程、議事堂を後にした先生の背中を思い出しながら──彼女は、ほんの僅かな違和感を、胸の奥に抱えていた。
ついに第五章突入…
飽き性の自分でもまさかここまで描けるとは…
更新の頻度はどれぐらいにしてほしい?
-
1日〜2日に1本
-
2日〜3日に1本
-
1週間に1本
-
2週間に1本
-
つべこべ言わず毎日書け♡