The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
誤字脱字報告も同じく励みになります
「こちらの動画をご覧の皆さん、こんにちは!クロノス・スクール報道部のアイドルレポーター、川流シノンです!本日は、いよいよ締結を迎えるゲヘナ学園とトリニティ総合学園の『エデン条約』調印式、その現場からお届けしています!」シノン
「いま私は通功の古聖堂の前にいるのですが、すでに現地は熱気に包まれ、互いに一歩も譲らない、ぴんと張りつめた空気になっています!誰かが少しでも判断を誤れば、この場は大惨事になりかねないほどの雰囲気……!この空気感、伝わりますでしょうか!」シノン
「犬猿の仲とでも言いましょうか、呉越同舟とでも言いましょうか!これこそ、私達のよく知るトリニティとゲヘナの姿です!……はい?余計な事を言うな、さっさと進めろ?しかたありませんね、今日も画面の外から飛んでくる言葉が拳に変わる前に、手短にお話を進めましょう!」シノン
「ものすごい圧迫感ですねぇ!こちらが調印式会場、古聖堂の様子です!どうしてここが選ばれたのかという疑問については、どうやらある筋の情報ではゲヘナ首脳部からの提案だったそうです。これは意外!ここがかつてトリニティ第一回公会議の舞台だった歴史的な場所だからでしょうか?」シノン
「いえいえ、そうではないようです。どうやら理由は──「これほど大きな催しなのだから、大きくて権威のある場所がいい」、とのこと。要するに、デカい場所のほうが格好いいだろうが!という話です!なるほど、実に分かりやすいですね!」シノン
「少し話題を変えますが、先ほど触れた第一回公会議、そしてそこで定められた戒律は、当時のユスティナ聖徒会という強力な組織が守り続けたと言われています。これが関係しているのでしょうか?本日はトリニティのシスターフッドも、この調印式に参加していることが確認されています!長いあいだ対外活動を自ら禁じていたシスターフッド──彼女達はなぜここに来て、表舞台に姿を見せたのでしょう?」シノン
「先ほどのユスティナ聖徒会、今では歴史の中に消えたその組織の後継を名乗る、そういう意味が含まれているのか、果たして──はい?難しい話はいい?視聴率とアクセス数が落ちる?政治もやっていられませんが、デスクからの圧力もやっていられませんね!ですが、私達には言論の自由が──」シノン
そこまで言い切ったところで、シノンの映っていた画面が消え、『只今映像が乱れております。復旧まで少々お待ちください』というテロップがカラーバーとともに表示される。
そんな彼女の醜態?勇姿?を画面越しに見つめながら、彼は笑みを浮かべる。
「フンッ…(…これだから正義気取りの民主主義者どもは…)」隆一
しばらくして、カラーバーが消え、再びシノンの姿が画面に映る。
「ごほん、失礼しました──エデン条約が締結されたあと、両学園の首脳部は古聖堂でエデン条約機構の創設に同意することになります!このETOを作れば、長年敵同士だったこの二つの学園は、互いのあいだで起こる紛争を共同で解決する義務を負うのです!」シノン
「さあ、そんな重要な局面で我らが連邦生徒会は、どのような声明を出したのでしょうか?昨日行われた連邦生徒会の緊急記者会見の様子をご覧ください!」シノン
……………………………
「──……以上で会見を終えます」リン
「ちょ、ちょっと待ってください行政官!それってつまり、連邦生徒会長の行方はまだ分かっていないということですか!?外部から来たあの男性に、全権を委任したという認識でよろしいでしょうか!?」記者
「要するにそうです」リン
「要約しなくてもそうでは!?」記者
「独立連邦捜査部が高い評価を上げ続ける一方で、連邦生徒会の能力について、世間の評価は厳しくなっています。その点はどうお考えですか?」記者
「まあ、仕方ないんじゃない?」モモカ
「モモカちゃん……!」リン
「不確定な情報については、現時点でのコメントは差し控えさせていただきます」リン
「それぞれの自治区で起きているジェントリフィケーションへの対応策はどうなっていますか?」記者
「SRT特殊学園の閉鎖が決まったことと、以前のサンクトゥムタワーでの騒動には何か関係があるのですか?タワーの一部が焼失したという情報もありますが?」記者
「トリニティとゲヘナのエデン条約については、どのようにお考えですか?」記者
「各学園の自治区内で起きた事件については、基本的にそれぞれの学園に対応を任せています。連邦生徒会がむやみに介入するのは、かえって無責任だと考えます」リン
「ま、介入する時間も人手もないし」モモカ
「モモカちゃん……!」リン
……………………………
「はいっ!つまり、『不干渉主義を貫く』ということですね!さすがは連邦生徒会、その大らかさは天をも突き抜けるようです!では次に、このエデン条約に参加する各学園の主要人物について──」シノン
そうシノンが口にしようとしたところで、彼はスマホの電源を切る。単純に時間が近いというのもあるが、それ以上に彼は、大衆を扇動する民間メディアという存在自体が、彼にとって最も邪魔であり、そして何より自分が愚かである事に気づいていない最も愚かな集団である事をまるで理解せず、上辺だけは立派な言葉を並べ余計なノイズを挟み込む彼女のような存在は、生徒云々以前に唾棄するに等しい存在だったからだ
「あれを見てたら頭が変になっちまいそうだ」隆一
そう言い、彼はスマホをカバンにしまうのだった。
「……むぅ、ずいぶん騒がしいな」アズサ
アズサがふいにそう漏らし、店内のスクリーンに映るニュースへ目を向ける。画面にはクロノス・スクール報道部のレポーターが何かをまくしたてており、その背後には荘厳な古聖堂がそびえていた。トリニティ中央区のカフェ二階。その場所でケーキやパフェをつつきながら談笑していた補習授業部は、店の外から届くざわめきに体を揺らした。
「あはは、今日はついにあのエデン条約が締結される日ですからね、しかたありません。特別に学校も休日扱いですし、街も人でいっぱいですから」ハナコ
「……なんだか、お祭りみたい」コハル
ヒフミが頬をかきながらうなずくと、コハルは窓の外に見える大通りを見下ろしてつぶやく。行き交う人の数はあまりにも多く、幅の広い石畳の地面がほとんど見えない。
「……?ハナコちゃん、どうしましたか?」ヒフミ
「──いえ、せっかくのお祭り騒ぎですし、先生も一緒ならよかったのにと思いまして」ハナコ
「そ、そうですね……でもしかたありません。先生は条約のほうで忙しいみたいですし」ヒフミ
「……突然連れて来られてほんと、びっくりしたんだから」コハル
目の前のパフェをスプーンですくいながら、コハルは不満をこぼす。昨日のアズサ復帰パーティーもそうだが、今日もハナコに半ば拉致されるように連れ出されたのは彼女だった。
「ふふっ、昨日のパーティーも楽しかったですが、やはりこういうものはきちんとしておきたいですからね♡今日は実質的に補習授業部の卒業パーティーも兼ねていますので、もう少し付き合ってください、コハルちゃん」ハナコ
「べ、別に嫌とは言ってないじゃん!み、みんなで頑張って乗り越えたわけだし……それに、補習授業部じゃなくなっても、それで全部終わりってわけじゃないし!私はずっと正義実現委員会にいるから、押収品の管理室にでも来てくれたら大抵は──」コハル
「うん、すぐにでも遊びに行くよ、コハル」アズサ
「でしたら私も今度お伺いしますね。いつか押収されてしまった、カーマ・スートラを返していただかないと」ハナコ
「カーマ……?何それ」コハル
「古典文学の作品ですよ。噴水のところで気持ちよく読んでいたのですが、どういうわけか急に押収されてしまって……」ハナコ
「古典文学?ふーん」コハル
「……って、そんなわけないじゃん!あんたが読んでる時点で絶対エッチな奴でしょ!?エッチなのはだめ!焼却!」コハル
「うーん、押収はともかく、古図書館で借りたものなので燃やされるのは困るのですが……」ハナコ
「む、危ない、ジュースが跳ねるところだった」アズサ
「あはは、アズサちゃん、そのぬいぐるみ、ずっと持ち歩いていますね」ハナコ
不意に飛んだジュースの中身が縁ではじかれる。アズサは横に抱えていたぬいぐるみを抱き寄せ、その表面に付かないよう長椅子の端へ移した。ヒフミがプレゼントしてくれたペロロ博士──監禁状態を脱して以来、ヒフミに預けていたそれを彼女はいつも持ち歩いている。もちろん、先生からもらった人形も一緒だ。
「うん、大事なものだから……やっぱり持ち歩かないと」アズサ
「そ、そこまででしたか……いえ、ありがたいのですが!モモフレンズの世界は広いですし、せっかくなら他にもいろいろ集めてみませんか?今度、ぜひモモフレンズを専門に扱っているお店とかにも──」ヒフミ
「うん、楽しみにしている」アズサ
「はい、ぜひ!今度、ペロロ様の冒険アニメも公開されることですし!」ヒフミ
「……アニメ?」アズサ
「そう、そうなんです!仲間達と力を合わせて悪を打ち砕き、共に苦難を乗り越え、最後にはみんな笑顔で終わるという、そのエンディングがすごく感動的だそうで……!」ヒフミ
「……それ、大分ネタバレじゃない?」コハル
「えっ、あ!?い、今のは忘れてください!」ヒフミ
「ふふっ、ヒフミちゃんはそういうハッピーエンドが好きなんですか?」ハナコ
「え?えっと、は、はい、そうですね──やっぱり、普通すぎます……よね?」ヒフミ
「んー、悪いとは言わないけれど……ちょっとありきたりじゃない?最終的にみんなで仲良く大団円とか」コハル
「私も、ハッピーエンドはよく分からないな。頑張ったところで世界はそうそう変わらない、傷はなかったことにならない。それがこの世界の真実だから」アズサ
「あ、あうぅ……みんな、ダーク寄りなんですね……」ヒフミ
思ったより賛同者がいないことにヒフミは肩を落とし、思わずしょんぼりしてしまう。テーブルの上で指先を合わせながら、彼女はおずおずと口を開いた。
「私、そういうのはちょっとつらくて──やっぱりみんなで幸せになれる大団円、ハッピーエンドが好きなんですよね……」ヒフミ
「まあ好みは人それぞれですからね。ちなみに私は、ヒロインが目をとろけさせて、よだれを垂らしながら許しを請うタイプのエンディングが好きです♡」ハナコ
「ばっ!?馬鹿じゃないの!?そんなエンディングがあるわけないじゃん!?」コハル
「そうですか?結構あると思いますが……」ハナコ
「……むぅ、アニメというのは奥が深いんだな」アズサ
「い、いえ、さすがにその、ハナコちゃんの言っているアニメは少し毛色が違うというか……」ヒフミ
「ふむ──とはいえ、ヒフミが好きならハッピーエンドも悪いものだとは思わない。それもそれで良いものなのだと思う。今度、そのアニメも見に行きたい」アズサ
「わっ、分かってくれるんですか、アズサちゃん!?」ヒフミ
「うん、私は知らないことが多いから、実際に見てもいない状態で語ることは──むぐッ」アズサ
「あ、アズサちゃんんん〜ッ!」ヒフミ
「ひっ、ヒフミ、力、つよ……」アズサ
「ふふっ、このまま、すべてが終わったら──」ハナコ
「何よ、何か言った!?」コハル
「……いえ、今日の調印式が終わったら、先生とゆっくりお話がしたいと思いまして」ハナコ
「それはっ、た、確かに……先生、ここにいればよかったのに」コハル
ハナコの言葉で手を止めたコハルは、同意を口にしつつ力なくうなだれる。アズサやヒフミも同じ考えなのか、神妙な顔つきでしっかりとうなずいてみせた。
「うん、私もだ。解放されてからちゃんとお礼も言えていない。一応手紙とかはもらっていたけれど……」アズサ
「そうですね……今、先生は古聖堂にいらっしゃるのでしょうか?たぶん、お忙しくされていると思いますが──」ハナコ
セリフがクッソ長いな
そんなのはどうでも良い。
取り敢えず第五章について軽くネタバレすると(するな)、これまで以上にダークでシリアスな展開が増えます。
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