The Hypocrite's Archive   作:Xelphyr

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足音

「すみません、業者の方ですか?此方からは入れませんので、ご遠慮を」正義実現委員会モブA

 

 

「そこ、こっちは関係者専用だ、見物人は向こうに」風紀委員モブα

 

 

「……はい?」隆一

 

 

「聞こえませんでしたか?業者の方は裏口からお願いします」正義実現委員会モブA

 

 

「いや、俺は──」隆一

 

 

「はいはい、早く下がって、後ろ支えてるんだから」風紀委員モブα

 

 

 

古聖堂の内部は、極彩色にきらめくステンドグラスを見上げる形で、荘重な空気が満ちていた。整然と並ぶ生徒達は、ゲヘナやトリニティで何らかの役職を担う幹部、行政官、委員メンバーばかりで、その周囲には各々の警備担当がぴたりと付いている。そんな中で、本来なら独立連邦捜査部顧問であるはずの隆一は、出入口で足止めを食っていた。シャーレの外套も脱ぎ捨て、腕章も外した彼は、ただの無個性なシャツ姿で、向けられる視線は厳しい。目の前にはトリニティの正義実現委員会と、ゲヘナの風紀委員会。中央を境に、東がゲヘナ、西がトリニティというふうに境界線まで引かれていた。

 

 

 

「……そこの風紀委員の方、今、この線を越えませんでしたか?」正義実現委員会モブA

 

 

「──はぁ?そっちが線を踏んでいたから、どかそうとしたんですけれど?」風紀委員モブα

 

 

 

足元の線を正義実現委員会の生徒が指先で示すと、対する風紀委員はわざとらしく爪先でそこを踏みつけ、睨み返す。

 

 

 

「あらそうでしたか、ゲヘナの方はいつも下地面ばかり見つめていますものね、気付かなくて申し訳ありません」正義実現委員会モブB

 

 

「そっちは上空ばかり見上げているからなぁ、足元が疎かになってるんじゃないか?転んでも助けてはやれんぞ、ん?」風紀委員モブα

 

 

「ご安心を、転んでも折れる角はありませんので」正義実現委員会モブA

 

 

「ははっ、鳥目が何か言っているなぁ!」風紀委員モブα

 

 

「鳥目は結構です、少なくとも暗闇でも大人しく道は譲れます」正義実現委員会モブA

 

 

「おっ、言うねぇ、そっちこそ上から目線が板についてるじゃないか」風紀委員モブβ

 

 

「あら、お褒めに与り光栄です」正義実現委員会モブA

 

 

 

そして同時に、二人の生徒は境界線をまたぎ、ずしりと一歩を踏み出した。

 

 

 

「──喧嘩を売っていらっしゃるのでしょうか?」正義実現委員会モブA

 

 

「──先に売ったのはそっちだろうが」風紀委員モブα

 

 

「はっ!こうなったら話は早い、お前を取り締まってやる!オイッ!」風紀委員モブβ

 

 

「取り締まるのはこちらの台詞です、そちらこそ覚悟して下さい」正義実現委員会モブB

 

 

「へぇ、上等じゃないか、後悔しても知らないぞ!」風紀委員モブα

 

 

「──お前ら流石に発砲はやめろよ?やめろよ!?」隆一

 

 

「なっ、侵入者ですか!?──聖堂に不審者潜入、増援をっ!」正義実現委員会モブC

 

 

 

このままでは雪だるま式に騒ぎが膨らみ、争いへ発展するのは目に見えていた。隆一はその未来を思って、慌てて割って入ろうとして。

 

 

 

「──きひッ!」ツルギ

 

 

 

だが、その必要はなかった。轟音を伴う凄まじい跳躍の末、ツルギが大理石の床へ着地する。風圧で制服をはためかせながら、目を見開く風紀委員の前へ立つ──キヴォトス最強のひとり。

 

 

 

「なっ、せ、正義実現委員会の委員長!?」風紀委員モブα

 

 

「ぞ、増援どころかツルギ先輩……!?」正義実現委員会モブ

 

 

「きひはぁああアアアアアアッ!」ツルギ

 

 

「落ち着けツルギ敵じゃない!」隆一

 

 

 

両手にしたブラッド&ガンパウダー(二丁ショットガン)を振り回しながら叫ぶ彼女の顔は、もはやホラーそのものだ。思わずその場に屈み、震え上がった風紀委員を責める気にはなれない。味方であるはずの正義実現委員会の生徒ですら怯え、腰を抜かしていたのだから。

 

 

 

「あ、あの、みなさん!此処で喧嘩は駄目ですよ……!折角平和の為にこうして集まったのですから、そうでしょう?ツルギさん!?」ヒナタ

 

 

「………」ツルギ

 

 

 

ツルギはしばらく黙ったまま、あたりを見回す。その視線だけで、場の緊張はさらに張り詰めた。

 

群衆の中から駆け出してきて声を上げたのは、シスターフッド所属の若葉(わかば)ヒナタだった。やけに大きなトランクを抱えたまま、必死に呼びかける彼女を見て、ツルギは動きを止める。ややあって、ぎょろりと目を動かした彼女は、地面に這いつくばったままの正義実現委員会と風紀委員の両名を見下ろし、こう言った。

 

 

 

「……此処にいらっしゃるのは、トリニティの現生徒会長様だ、覚えておけ」ツルギ

 

 

「は、はいッ!」正義実現委員会モブA

 

 

「肝に銘じます!」風紀委員モブα

 

 

 

互いに身を寄せ合いながら大声で返事をした二人は、立ち上がるなり慌ただしく走り去った。逃げたのか、持ち場に戻っただけなのか、隆一には判断できない。ともあれ、自分が介入する前に騒ぎを収めたツルギへ礼を言おうと、隆一は彼女のほうへ向き直る。

 

 

 

「あっぶね〜やっぱ変装って結構見破れないもんなんだな……サンキュー、ツルギ」隆一

 

 

「いえ、会長がいらっしゃると聞いて、念の為見回りに来ていたんです。それが正解だったみたいですね」ツルギ

 

 

「助かったよ、流石ツルギ、頼りになるな」隆一

 

 

「ぅ……い、いえ、とんでもありません、会長」ツルギ

 

 

 

声を掛けられたツルギは、さっきまでの恐ろしい表情を一転させ、頬を赤らめて視線を左右に泳がせる。

 

 

 

「ではその、私は他の任務がありますので……!」ツルギ

 

 

「ああ、ガンバ」隆一

 

 

「は、はい!」ツルギ

 

 

 

そう言うなり、ツルギは踵を返し、再び跳躍してその場を去った。影のように人の間をすり抜けていく彼女を笑顔で見送りながら、隆一はぽつりと漏らす。

 

 

 

「やっぱりツルギは優しいなぁ」隆一

 

 

「はい、そうで……えっ?」ヒナタ

 

 

「?」隆一

 

 

「やさ──しい……?」ヒナタ

 

 

 

偏見を持たず生徒と向き合おうとする彼女だが、それはそれとして、正義実現委員会の委員長であるツルギの噂は耳にしている。残念ながら、彼女の周囲から聞こえてくる情報はどれも血なまぐさく物騒で、とても優しさという言葉とは結びつかない。それでも、隆一があまりに感慨深げにつぶやくので、思わずヒナタは疑問を口にしてしまったのだ。

 

 

 

「そうだ、ヒナタもありがとうね、騒動になる前に止めてくれて」隆一

 

 

「い、いえ、そんな……誰かがやらないと、本当に大変な事になっていたと思いますので」ヒナタ

 

 

「それでも、咄嗟に動けるのは凄い事だよ」隆一

 

 

「あ、ありがとうございます……!」ヒナタ

 

 

 

褒められ慣れていないのか、ヒナタは照れたように両手を振る。

 

 

 

「あっ、はい……それで、その、会長?」ヒナタ

 

 

「ん?」隆一

 

 

「制服の方は、どうなされたのですか?」ヒナタ

 

 

「あー……」隆一

 

 

 

ヒナタは、普段よりラフな装いの隆一を見ながら、そう尋ねた。少なくとも、調印式に出る格好としては少々そぐわない。隆一は首元を指でさすり、気まずそうに答える。

 

 

 

「変に悪目立ちして良からぬ連中にマークされても困るからな」隆一

 

 

「な、成程、そういう理由でしたか」ヒナタ

 

 

「でも、結局こうして会長だってバレてしまったがな」隆一

 

 

「ふふっ、それもそうですね」ヒナタ

 

 

「まぁ、お陰で門前払いを食らいかけたし」隆一

 

 

「ふふっ、それは……なんと言いますか、災難でしたね」ヒナタ

 

 

「あはは、笑い事じゃないよ、本当に」隆一

 

 

「そ、そうでしたか」ヒナタ

 

 

 

よく見ると、隆一の髪はあちこち跳ねていた。おそらく、両学園に呼ばれてあちこち走り回っていたのだろう。そんなふうに勝手に結論づけたヒナタは、分かったと言わんばかりに何度も頷く。

 

 

 

「そう言えば、今日はヒナタ以外にもシスターフッドは参加しているのかい?」隆一

 

 

「あ、はい、サクラコ様の指示で、基本的に主要なメンバーは参加しているかと──前回の事件をきっかけに、方針が少し変わった事もありまして」ヒナタ

 

 

「方針が変わったというと、対外的な活動を増やす……って事かな」隆一

 

 

「はい、これまでの不干渉姿勢が以前の事態を招いた、そうお考えになられたのかもしれません……サクラコ様自身も直ぐご到着されると思います」ヒナタ

 

 

「へぇ、サクラコが自ら表に出て来るのか、それは珍しいな」隆一

 

 

「はい、私も最初は驚きました……でも、きっとサクラコ様なりに、思う所があったのだと思います」ヒナタ

 

 

「そっか、なら今度顔を合わせたら、ちゃんと礼を言わないとな」隆一

 

 

「きっと、サクラコ様も喜ばれると思います」ヒナタ

 

 

「じゃあ、後で挨拶に行ってみるかな」隆一

 

 

「はい、ぜひ」ヒナタ

 

 

「ああ、そうか」隆一

 

 

「そう言えば」ヒナタ

 

 

「ん?」隆一

 

 

「先生の方は体調など崩されていませんか?色々と忙しくされているようですし」ヒナタ

 

 

「あぁ、モーマンタイ、心配してくれてありがとう」隆一

 

 

「そ、それなら良かったです……無理だけは、なさらないで下さいね」ヒナタ

 

 

「あぁ、肝に銘じておくよ」隆一

 

 

 

彼女の言葉に、隆一は小さくうなずく。シスターフッドも参加するこのエデン条約、調印式。各学園の派閥、普段は姿を見せないトップまでもが一斉に顔をそろえる。それだけで、重要性や規模の大きさは十分伝わってくる。言い換えれば、それほどまでにテロには打ってつけの会場であるということでもある。

 

 

 

「私達も基本的には色々と、調印式のお手伝いと言いますか、案内や警備の方を担当させて頂いているのですが……あ、よろしければ先生にも古聖堂の方をご案内いたしましょうか?」ヒナタ

 

 

「それは助かるな、正直、中がどうなってるのかさっぱりだったんだ」隆一

 

 

「はい、見取り図も複雑ですからね、迷われる方も多いんですよ」ヒナタ

 

 

「それじゃあ尚更、ヒナタが案内してくれると助かるな」隆一

 

 

「それなら丁度良かったです、お任せ下さい」ヒナタ

 

 

「ふふっ、頼りにしてんぞ?ヒナタ」隆一

 

 

「は、はい、精一杯務めさせて頂きます!」ヒナタ

 

 

「……そうか、んじゃ、頼むよ」隆一

 

 

「は、はい!では此方へ──」ヒナタ

 

 

ヒナタはふっと表情を明るくし、笑顔を咲かせた。彼女に導かれ、隆一は古聖堂の奥へと歩みを進める。二人の頭上には、ステンドグラス越しの柔らかな光が降り注いでいた。

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