The Hypocrite's Archive   作:Xelphyr

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絶望

椅子へ腰を掛けようとした、その瞬間だった。

 

 

 

 

ヴウウウウウウウゥゥゥッ!!

 

 

 

 

臨時司令部のテント内に、甲高い警報が轟く。

 

 

 

「っ!?」隆一

 

 

「な、何ですか、この音は!?」ハスミ

 

 

「レ、レーダーに感!」オペレーターモブA

 

 

 

モニタの周りにいた生徒の一人が、悲鳴に近い声を上げた。つい先ほどまで平穏だった画面は一瞬で警告色へと塗り替わり、赤い光点が一つ、古聖堂の方角へ向けて猛烈な勢いで伸びていく。

 

 

 

「何だ、どういう事だ、説明しろッ!」隆一

 

 

「そ、それが、超高速で飛来する物体を捕捉……!方角、3-3-0(さんさんまる)、高度、約15万フィート!」オペレーターモブA

 

 

「……飛行機の類か?それとも別の何かか!」隆一

 

 

「分かりません、識別信号が全く出ていません!」オペレーターモブB

 

 

「進路は、こちらで間違いないか」隆一

 

 

「はい、真っ直ぐ向かっています、ほぼ誤差無しです!」オペレーターモブA

 

 

「……狙い澄ましたような軌道だな」隆一

 

 

「先生、まさか、これは攻撃では……」ハスミ

 

 

「何れにせよ、ここを狙っているのは確かだ。全班に警戒態勢を通達しろ」隆一

 

 

「分かりました、全班に警戒態勢を通達します!」ハスミ

 

 

「速度は!?」隆一

 

 

「ま、待って下さい、計測が追い付かな──こ、こんな数値、有り得ません……!」オペレーターモブA

 

 

「落ち着いて、もう一度、確認し直して下さい!」ハスミ

 

 

「は、はい!……いえ、数値は変わりません、最低でも音速は超えています!」オペレーターモブA

 

 

 

震える指でキーを叩く彼女の顔から、みるみる血の気が引いていく。隆一は椅子に腰を下ろすこともせず、モニタへ身を乗り出した。

 

 

 

「ハスミ」隆一

 

 

「は、はい!」ハスミ

 

 

「何が来ているかは後だ、迎撃システムを起動しろ、周辺の迎撃班に即時展開させる」隆一

 

 

「ですが、所属も目的も不明のまま、迎撃に移って良いのですか?」ハスミ

 

 

「あれが何であれ、あの速度で古聖堂に突っ込めば、ただでは済まない、判断は俺が持つ」隆一

 

 

「……了解しました、迎撃システム、全系統起動!」ハスミ

 

 

 

隆一の命令を受け、オペレーターがすぐさまコンソールへ手を走らせる。古聖堂周辺に据えられていた迎撃設備が、重々しい駆動音を立てながら次々と目を覚ましていった。

 

 

 

「各砲座、起動を確認、順次オンライン!」オペレーターモブA

 

 

「照準はこちらで補助する、全て目標に合わせろ!」隆一

 

 

「了解、照準、連動させます!」オペレーターモブC

 

 

「システムの負荷が、急上昇しています、持ち堪えられるかどうか……!」オペレーターモブD

 

 

「落ちても良い、動き続けさせろ!」隆一

 

 

「り、了解です!」オペレーターモブD

 

 

 

その一方で、警備任務中のドローンたちも一斉に警報を発し、上空には赤い点滅が連なっていく。広場に集まっていた野次馬や報道陣は、突然の空気の変化に騒然となった。

 

 

 

「な、何、この音……?」トリニティモブ 

 

 

「ドローンが鳴っているぞ、訓練じゃないのか?」ゲヘナモブα

 

 

「ちょっと、押さないでよ!」トリニティモブ 

 

 

「皆さん、落ち着いて下さい!指示があるまで動かないで!」風紀委員モブA

 

 

「何が起きているんですか、説明をお願いします!」シノン

 

 

「確認中です、今は係員の指示に従って下さい!」風紀委員モブB

 

 

「早く安全な場所へ!」風紀委員モブC

 

 

「大丈夫です、こちらへどうぞ、慌てないで下さい!」正実モブ1

 

 

「どうして、こんな時に限って……」トリニティモブ 

 

 

「お、おい、あれ見ろよ、空に何か飛んでるぞ!」クロノス報道部モブA

 

 

「カメラを回せ、これは絶対に撮っておけ!」クロノス報道部モブB

 

 

 

困惑のざわめきは波のように広がり、広間はたちまち混乱に呑み込まれていく。そんな中、各所に備えられていた発射システムが一斉に火を噴いた。

 

 

 

──ヒュゴォォォッ!!

 

 

 

白煙を引き、迎撃ミサイルが青空へと飛び立つ。幾本もの白線が空に描かれ、そのすべてが一点へ向かって収束していった。

 

 

 

「ミサイル、全基発射を確認、目標に向かって飛翔中!」オペレーターモブA

 

 

「命中まで、あとどれくらいだ」隆一

 

 

「秒読みに入ります……二十、十九、十八……!」オペレーターモブA

 

 

「第二射の準備は!」隆一

 

 

「再装填、急いでいます、ですが、間に合うかは……!」オペレーターモブB

 

 

「間に合わせろ、一発でも多く撃て!」隆一

 

 

「あと三十秒ほど掛かります!」オペレーターモブB

 

 

「ハスミ、全市民に緊急避難指示を、古聖堂周辺から最大限、遠ざけろ」隆一

 

 

「ですが、まだ原因が──」ハスミ

 

 

「原因は後回しだ、今は人を逃がす事が最優先!」隆一

 

 

「……っ、了解です!」ハスミ

 

 

 

ハスミは即座に通信機を掴み、各部隊へ立て続けに指示を飛ばす。同時に隆一も、手元の無線で全戦力を迎撃へと振り向けた。

 

 

 

「こちらハスミ、各班、避難誘導を最優先に!古聖堂から離れる方向へ、全員を誘導して下さい!」ハスミ

 

 

「こちら北門、了解!誘導を開始します!」正実モブA

 

 

「こちら東側、風紀委員会と連携して動きます!」正実モブB

 

 

「こちら南門、人が多過ぎて、誘導が追い付きません!」風紀委員モブ1

 

 

「予備の班を向かわせます、もう少しだけ持ち堪えて下さい!」ハスミ

 

 

「お願いします、急いで下さい!」風紀委員モブ2

 

 

「全部隊に告ぐ、市民の避難誘導に当たる者以外は全て迎撃に回れ、持てる火力の全てを注ぎ込め!」隆一

 

 

「りょ、了解!」正実モブD

 

 

 

モニタの中で、光点とミサイルの軌跡が交差する。誰もが祈るように、その画面を見つめていた。

 

 

 

「頼む……当たって……!)」オペレーターA

 

 

「(この数なら、きっと……!)」オペレーターB

 

 

「(お願い、お願い……!)」オペレーターC

 

 

「先生……」ハスミ

 

 

「信じるしかない、今は」隆一

 

 

「ミサイル群、目標との距離、残り僅かです!」オペレーターA

 

 

「(頼む、一発でいい、掠めるだけでもいい……!)」隆一

 

 

 

──だが。

 

 

 

「……!!迎撃ミサイル、目標を捕捉できません!」オペレーターA

 

 

「何だと?」隆一

 

 

「追従できていません!」オペレーターA

 

 

「予備の誘導回路に切り替えろ、手動でも構わない!」隆一

 

 

「予備回路も、同じ結果です!目標を捉えた瞬間に、振り切られます!」オペレーターB

 

 

「先生、まるでこちらの動きを、読まれているみたいです……!」ハスミ

 

 

「……あぁ」隆一

 

 

「他の回路も試しています、ですが、目標の方が速過ぎて……!」オペレーターB

 

 

「軌道予測も、ずれ続けています、こちらの計算が全く追い付きません!」オペレーターA

 

 

「先読みでも構わない、ありったけの弾で壁を作れ!」隆一

 

 

「了解、面制圧に切り替えます!」オペレーターB

 

 

画面では、ミサイルの軌跡がことごとく目標の後方をかすめていた。光点は、そのどれにも触れることなく、悠々と進み続ける。

 

 

「馬鹿な……ミサイルが、置いていかれている……?」ハスミ

 

 

「速度、判明しました──マ、マッハ25……!」オペレーターB

 

 

「はぁ!?」隆一

 

 

 

その数字が口にされた瞬間、テント内の空気は凍り付いた。キヴォトスで想定されるあらゆる兵器の速度を、桁違いに上回っている。そもそも、迎撃を前提に作られた物体ではない。

 

 

 

「マッハ25……そんな、キヴォトスにそんな兵器があるなんて、聞いた事がありません!」ハスミ

 

 

「まさかあいつらか……?兎も角、諦める理由にはならない」隆一

 

 

「……はい、先生!私も、最後まで指揮を執ります!」ハスミ

 

 

「頼む、ハスミ」隆一

 

 

「お任せ下さい!」ハスミ

 

 

「近接防空システム(CIWS)を撃て!」隆一

 

 

「射程圏外です!入った時点で──」オペレーターモブA

 

 

「高中高度防空ミサイル(HIMAD)は!?」隆一

 

 

「さっき撃ったのが全弾です!再装填が…間に合いません……!」オペレーターモブA

 

 

「他に、使える装備は無いのですか!」ハスミ

 

 

「ありません、先ほどの迎撃で、発射可能な対空兵器はほとんど撃ち尽くしました!」オペレーターモブB

 

 

「ミレニアムや、他校からの増援は!」隆一

 

 

「要請は出していますが、迎撃には、最低でも数分が……!」オペレーターモブB

 

 

「数分……それでは、遅過ぎます……!」ハスミ

 

 

 

絶望的な報告が、次々に上がる。レーダーの中では、放たれた迎撃ミサイルの群れが、まるで蝿のように舞っていた。そのただ中を、一本の線だけが、ひらひらとすべてをかわすように抜けていく。

射程的にどう足掻いても当たらないにも関わらず、悪足掻きとでも言わんばかりに、一部の生徒は己が持つ銃を空に向けて撃ち始める。

 

 

 

「当たらない……全然、当たらない……!」オペレーターモブA

 

 

「弾が、追い付かないよ……!」オペレーターモブB

 

 

「どうして当たらないの、あんなに撃っているのに!」正実モブ4

 

 

「最後まで撃ち続けて!」正実モブ5

 

 

「諦めるな、撃ち続けろ!残弾がある限り撃て!」隆一

 

 

「は、はい……!」正実モブ4

 

 

「先生の言う通りだ、最後の一発まで、全力で撃つ!」正実モブ5

 

 

 

悲鳴じみた報告が、通信越しに響きわたる。発射しても発射しても迎撃ミサイルはむなしく空を切り、やがて弾切れ警告が点滅し始めた。

 

 

 

「残弾、あと僅かです!」オペレーターモブA

 

 

「補給はまだですか!」ハスミ

 

 

「あと何秒だ、古聖堂まで!」隆一

 

 

「……残り、十秒を切りました!」オペレーターモブA

 

 

「十秒……」ハスミ

 

 

「各員、衝撃に備える準備を!近くの物陰に身を伏せて!」オペレーターモブA

 

 

「ダメです、人が多過ぎて、全員は退避出来ません!」オペレーターモブB

 

 

「分かっている、それでも、一人でも多く守れ!」隆一

 

 

「……はいっ!」ハスミ

 

 

「……っ」隆一

 

 

 

隆一は奥歯を噛み締める。古聖堂まで、もう数秒もない。避難は間に合わない。すべてを止める手立ては、もうここにはなかった。それでも彼は、机上の無線機をつかみ取る。モニタの赤い光点が、古聖堂の中心へ重なろうとしていた。

 

 

 

「先生……!」ハスミ

 

 

「ハスミ、お前も伏せろ、頭を守れ!」隆一

 

 

「で、ですが、先生は……!」ハスミ

 

 

「俺は大丈夫だ、早く!」隆一

 

 

 

隆一は息を吸い込み、その場にいる全員へ届くよう、喉が張り裂けるほどの声で叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全員!衝撃に備えろッ!!」




さらば

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