The Hypocrite's Archive   作:Xelphyr

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死

「お待たせしました!皆さん!」レイナ

 

 

 

カフェ二階、窓際の席。手を挙げて入って来たレイナに、補習授業部が顔を向ける。

 

 

 

「あっ、レイナさん!こっちです!」ヒフミ

 

 

「ちょうどケーキが来たところだ」アズサ

 

 

「レイナさんの分も、取っておきましたよ♡」ハナコ

 

 

「ありがとうございます……あの、本当にお邪魔ではありませんか?」レイナ

 

 

「何を今更遠慮してんのよ、あんたも補習授業部でしょ?」コハル

 

 

「……そうですね。ありがとうございます!」レイナ

 

 

「さぁさぁ、座って下さい、レイナちゃんはどのケーキがお好みですか?」ハナコ

 

 

「えっと……では、いちごのタルトで頂いても良いでしょうか?」レイナ

 

 

「もちろんです!そこの苺は、今朝入ったばかりなんだそうですよ」ヒフミ

 

 

「ヒフミ、やけに詳しいな」アズサ

 

 

「は、はい、先に店員さんにお聞きしたんです」ヒフミ

 

 

 

いちごのタルトにフォークを入れ、レイナは小さく笑う。窓の外は、祭りの様な喧騒が続いていた。

 

 

 

「……美味しいです!」レイナ

 

 

「でしょ?私のおすすめなんだから、当然よ」コハル

 

 

「コハルちゃん、さっきまで、普通だって言っていませんでしたか?」ハナコ

 

 

「そ、そんな事言ってない!言ってないってば!」コハル

 

 

「先生も今頃は、大忙しでしょうね」ハナコ

 

 

「そうですね、調印式の準備で、朝から駆け回っていたと聞きました」ヒフミ

 

 

「無理をしていないと良いのですが……」レイナ

 

 

「大丈夫ですよ、先生ですから、また笑ってこっちに来ますって」ハナコ

 

 

「終わったら、先生にも何か差し入れしたい」アズサ

 

 

「アズサちゃん、先生の好きな物、知っているんですか?」ヒフミ

 

 

「うん、甘いものなら、大抵は喜んでくれる」アズサ

 

 

「それなら、ここのケーキをテイクアウトするのも、良いかもしれませんね」ハナコ

 

 

「あ、それ、名案です!後で店員さんに聞いてみましょう」ヒフミ

 

 

「良いですね、それなら、帰りにお菓子買いましょう!」レイナ

 

 

 

その時、窓の外を見ていたアズサの動きが止まった。

 

 

 

「……ミサイルだ」アズサ

 

 

「えっ?」ヒフミ

 

 

「ミサイルって、何を言って……」コハル

 

 

 

アズサに諭され、古聖堂の方角を見ると、確かに青空に幾筋もの白煙が伸びていく。ミサイルが、一斉に撃ち上げられていた。

 

 

 

「あれは祝砲じゃない、何かを撃ち落とそうとしている」アズサ

 

 

「迎撃用……という事は、何かが起こっているという事ですか?」レイナ

 

 

「何かが起こった」アズサ

 

 

 

アズサは立ち上がり、背嚢を掴む。

 

 

 

「皆、直ぐに此処を出よう、嫌な予感がする」アズサ

 

 

「えっ、でもパフェがまだ……」コハル

 

 

「コハル、今は食べている場合じゃない」アズサ

 

 

「わ、分かったわよ、そんな怖い顔しないでよ……」コハル

 

 

「皆さん、荷物を──」レイナ

 

 

 

その瞬間、古聖堂の方角で空が白く瞬いた。凄まじい爆風が通りを駆け抜け、カフェの窓硝子が粉微塵に砕け散る。

 

 

 

「きゃあああっ!?」コハル

 

 

「伏せて下さいッ!」レイナ

 

 

 

レイナがコハルとヒフミの頭を押さえ、テーブルの陰へ滑り込む。轟音が鼓膜を叩き、やがて耳鳴りだけが残った。

 

 

 

「……皆さん、大丈夫ですか……?」レイナ

 

 

「ゲホッ…だ、大丈夫、です……何とか……」ヒフミ

 

 

「皆さん、まだ動かないで下さい、硝子の破片が危険です」ハナコ

 

 

「うぅ……何、今の……耳が、キーンってする……」コハル

 

 

「ハナコさん、アズサさんは……!」レイナ

 

 

「無事ですか、アズサちゃん!」ヒフミ

 

 

「大丈夫です、入口の近くで、無事に伏せていたのが見えました」ハナコ

 

 

「……ああ、私は平気だ、皆は?」アズサ

 

 

「皆さん、無事です、幸い、怪我もありません」レイナ

 

 

「そうか、なら良い、外に出よう、状況を確認しないと」アズサ

 

 

「良かった……」ヒフミ

 

 

「怪我は、ありませんか?ヒフミちゃん、コハルちゃん」ハナコ

 

 

「は、はい、私は、どこも……」ヒフミ

 

 

「私も平気よ!レイナが庇ってくれたから!」コハル

 

 

「いえ、大した事ではありません」レイナ

 

 

「でも、レイナさん、背中に硝子が……」ヒフミ

 

 

「これくらい、後で洗えば済みます、気にしないで下さい」レイナ

 

 

 

店を飛び出した一行の前には、逃げ惑う生徒達と、運ばれていく負傷者の群れがあった。頭上ではドローンがアラートを響かせ、遥か向こうでは炎が空を照らしている。

ほんの数分前まで歓声に溢れていた場所が、地獄と化していた。

 

 

 

「な、何ですか、これは……」ヒフミ

 

 

「そんな、こんな事って……」レイナ

 

 

「あ、あれ、本当に、古聖堂の方角……?」コハル

 

 

「そうみたいですね……」ハナコ

 

 

「あの煙の量、ただの事故では、ありません」レイナ

 

 

「事故じゃないなら、誰かが、やったって事……?」コハル

 

 

「断定は出来ませんが、その可能性が高いです」ハナコ

 

 

「そんな……調印式を、狙って……?」ヒフミ

 

 

「分かりません、ですが、備えておくべきでしょう」レイナ

 

 

「通信は、通じますか?先生に連絡を」ヒフミ

 

 

 

ハナコは先生に電話をかけるが、返事はない。

 

 

 

「……ダメです、全然繋がりません」ハナコ

 

 

「そんな……先生、無事なのかな……」コハル

 

 

「信じましょう、先生は、簡単に倒れる方ではありません」レイナ

 

 

「っ……!」アズサ

 

 

 

アズサが愛銃を手に駆け出す。

 

 

 

「あ、アズサちゃん、どこにッ!?」ヒフミ

 

 

「危険です、戻って下さいッ!」ハナコ

 

 

「先に行く、皆は、此処で待っていてくれ!」アズサ

 

 

「待って下さい、一人では危険です!」レイナ

 

 

「大丈夫だ、必ず、戻って来る!」アズサ

 

 

 

小柄な背中は人混みに埋もれ、伸ばした手は届かなかった。最後に見えた横顔は、絶望と焦燥に染まっていた。

 

 

 

「アズサさん……!」レイナ

 

 

「こ、古聖堂が……!」コハル

 

 

 

コハルとヒフミが、古聖堂へ一歩踏み出す。ハナコがその腕を掴んだ。

 

 

 

「待って下さい!状況が分かるまで、動くのは得策ではありません!」ハナコ

 

 

「ですが、アズサちゃんが……!」ヒフミ

 

 

「バラバラに散らばる方が危険です!相手が誰なのか、数すら分からないんですよ!」ハナコ

 

 

「でも……!先生だって、あそこにッ!」コハル

 

 

「──っ!」ハナコ

 

 

 

コハルの涙混じりの声に、ハナコは唇を噛み締める。血が滲む程に強く。

拳が微かに震えているのを、レイナは見ていた。

 

 

 

「……ハナコさん」レイナ

 

 

 

古聖堂には正義実現委員会の幹部も、風紀委員会もいる。その彼女達が倒れたのなら、四人で乗り込んでも犬死にだ。

ハナコは、それを理解していた。

 

 

 

「一度トリニティに戻り、状況を確認して戦力を整えます、今は耐えて下さい」ハナコ

 

 

「レイナさん、ヒフミちゃんをお願いします」ハナコ

 

 

「……はい、分かりました!」レイナ

 

 

「ハナコちゃん、本当に、それしかないんですか……?」ヒフミ

 

 

「えぇ、悔しいですが、今はそれが最善です」ハナコ

 

 

「先生と、アズサちゃんを、置いて行くなんて……」ヒフミ

 

 

「置いて行くのではありません、必ず、助けに戻る為です」ハナコ

 

 

「……約束、ですよ、ハナコちゃん」ヒフミ

 

 

「ヒフミさん、大丈夫です、ハナコさんは、約束を守る方ですから」レイナ

 

 

「……はい、そうですよね、信じます」ヒフミ

 

 

「はい、約束します」ハナコ

 

 

 

レイナがヒフミの肩を支え、ハナコがコハルの腕を引く。四人はトリニティへ向けて駆け出した。

 

 

 

「は、ハナコちゃ……──ッ!」ヒフミ

 

 

「や、やだッ、先生!先生ッ!」コハル

 

 

「ヒフミさん、行きましょう、今は皆さんの無事を最優先に……!」レイナ

 

 

「コハルちゃん、お願いです、走って下さい!」ハナコ

 

 

 

二人の腕を痛い程に掴んだまま、ハナコは古聖堂に背を向ける。

 

 

 

「先生っ──!」コハル

 

 

 

胸に燻る絶望の予感から、顔を背けたまま。

 

 

 


 

 

 

──何が、起きた。

 

 

 

ヒナは自身に圧し掛かっていた瓦礫を押しのけ、立ち上がった。頬を撫でる熱気、立ち昇る砂塵。瞬きの間に、周囲は地獄と化していた。

ミサイルが発射されてアラートが鳴り、厳戒態勢を命じた。そこで頭上が炸裂し、視界が暗転した。覚えているのは、そこまでだ。

一瞬、気を失っていたらしい。

古聖堂の上部は消し飛んでいた。瓦礫の下から風紀委員の呻き声が聞こえる。

 

 

「しっかり……」ヒナ

 

 

「い、委員長……私は、大丈夫、ですから……」風紀委員モブA

 

 

「喋らなくて良い、すぐに出してあげる」ヒナ

 

 

額の血を拭い、瓦礫を蹴り飛ばす。委員は大きく息を吸い、意識こそ失っているが致命傷ではない。

周囲を見渡せば、あちこちから呻き声と悲鳴が響いていた。

風紀委員会は、ほぼ全滅に近い。

 

 

「誰か、動ける人は……!」ヒナ

 

 

「こ、こちらです、委員長……!」風紀委員モブB

 

 

「無事なの?状況は?」ヒナ

 

 

「分かりません、突然、頭上で光って……皆、ばらばらに……」風紀委員モブB

 

 

「分かった、そこを動かないで、必ず戻る」ヒナ

 

 

「委員長、イオリ先輩とチナツ先輩が、見当たりません……!」風紀委員モブA

 

 

「二人なら、きっと大丈夫、あの子達は、そんなに柔じゃない」ヒナ

 

 

「で、ですが……」風紀委員モブA

 

 

「今は、動ける子を集めて、怪我人を安全な所へ、お願い」ヒナ

 

 

「は、はい、承知しました!」風紀委員モブA

 

 

飛来したのは誘導弾頭か何かだろう。迎撃は行われていたが、防ぎ切れなかった。あの防御設備は、ヒナも知らないものだった。

 

 

「普通じゃない、速度も、威力も……」ヒナ

 

 

──一体、どこからが罠だった?

 

 

トリニティの自爆か、内部分裂か。いや、今はそんな事はどうでも良い。

 

 

「──先生ッ……!」ヒナ

 

 

「委員長、先生は、あの近くに……」風紀委員モブA

 

 

「分かってる、だから、行く」ヒナ

 

 

「委員長、危険です、まだ敵が近くにいるかもしれません!」風紀委員モブA

 

 

「それでも、先生を放っては置けない」ヒナ

 

 

「でしたら、せめてこれを、予備の弾薬です」風紀委員モブA

 

 

「助かる、ありがとう」ヒナ

 

 

「……どうか、ご無事で!」風紀委員モブA

 

 

「ありがとう、後は任せた」ヒナ

 

 

「委員長……!どうか、先生を……!」風紀委員モブA

 

 

「分かってる、必ず連れて戻る」ヒナ

 

 

この規模の爆発は、キヴォトスの生徒ですら重傷を負いかねない。そこに巻き込まれた先生がどうなるか、火を見るより明らかだった。

血の気の失せた顔で、ヒナは瓦礫を駆け上がる。

 

 

──その時、銃声が響いた。

 

 

目と鼻の先を、緑色の光線が穿ち抜く。髪がひと房千切れ飛び、ヒナは愛銃を構えて向き直った。

 

 

「──ま、まだ立っているんですねぇ、ヒナさん」???

 

 

「ッ……!」ヒナ

 

 

そこに立っていたのは、見た事も無い装備を身に纏った生徒達だった。

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