The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
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アリウス自治区、バシリカ。
限られた者しか存在を知らぬ至聖所、その最奥で、ベアトリーチェはステンドグラスを見上げていた。崩れ落ちた聖堂の向こうには、決して明けない夜が広がっている。
此処は彼女の領域、彼女の運命が結実する場所。あらゆる犠牲を容認し、崇高へと至る祭壇だった。手にした扇子が音を立てて開かれる。口元を隠した彼女は、歪んだ笑みのまま、試練に挑む先生へと告げた。
「未来は改変された、運命は捻じ曲がった──先生……これはあなたが捻り、歪めたのです」ベアトリーチェ
「本来ならば、この日、この時に、あなたが此処に立つ事など、有り得なかった筈なのですから」ベアトリーチェ
「それでも、あなたは抗い、足掻き、此処まで辿り着いた、その執念だけは、賞賛に値しましょう」ベアトリーチェ
「まるで、何度も同じ夜を繰り返し、それでも諦めなかった旅人のように」ベアトリーチェ
「ですが、賞賛と容赦は別の話、私は私の目的の為に、あなたを使い潰すだけ」ベアトリーチェ
既にこの世界は、本来の道筋を大きく外れている。それを為したのはベアトリーチェであり、先生であり、世界そのものだった。
「オブイェークト4202……フェノメノンのお偉いさんは、私を廃品処分業者か何かと勘違いしているようですが」ベアトリーチェ
「技術発展が歪なキヴォトスであれば、博物館に飾る骨董品でも、十分な脅しになり得ます」ベアトリーチェ
「そう、古びた遺物であろうと、使い方次第では、神の鉄槌にすら成り代わるのですよ」ベアトリーチェ
「あの速度、あの威力、キヴォトスの者共では、触れる事すら叶いません」ベアトリーチェ
「あなたがどれほど優れた指揮を執ろうとも、物理の前では、等しく無力」ベアトリーチェ
扇子が閉じられ、乾いた音が木霊する。彼女の幾多の瞳が、再び先生を捉えた。
「──さて、先生…いえ、『
古聖堂周辺には、野次馬を含め何万人もの生徒が集っている。一発抜けただけで、何人が死ぬだろうか。これを全て防ぐなら、相応の代償を払うしかない。
「仲間を守り、その躯を私"達"に捧げますか?それとも仲間を見捨て、また残機を浪費しますか?」ベアトリーチェ
「どちらを選んでも、結末は同じ、あなたに残された道は、初めから一つしか無いのです」ベアトリーチェ
「さぁ、時間はあまり残されていませんよ、悩む姿を、もう少し見せて下さいな」ベアトリーチェ
「その苦悩こそが、私にとって、何よりの甘露なのですから」ベアトリーチェ
「あなたがどれ程、足掻いたところで、物語の筋書きは、既に決まっているのです」ベアトリーチェ
「もう一度、あなたに問いかけましょう……ですが」ベアトリーチェ
「今度こそ生徒の手を取れば、あなたは確実に命を落とす」ベアトリーチェ
全ては、先生を殺す為に。その肉体を手に入れる為に。そしてこのキヴォトスを、"上司達"に手渡す礎とする為に。
「尤も、彼がどちらを選ぶかなど分かり切っていますが──あの実験は、実に有意義な結果を齎してくれました、ですから、こう言い換えましょう」ベアトリーチェ
扇子で虚空をなぞり、彼女は目を閉じる。
「さようなら、先生──そして、こんにちは、私達の『同志』」ベアトリーチェ
「あなたの肉体が、私達の悲願を叶える器となる、その日を、楽しみにしておりますよ」ベアトリーチェ
「ふふ、どうか、恨まないで下さいませ、これも全て、必要な犠牲なのですから」ベアトリーチェ
「──ま、まだ立っているんですねぇ、ヒナさん」ヒヨリ
「ッ……!」ヒナ
「ひ、ヒナさん、ご無事で何よりです……いえ、本当は、無事じゃ困るんですけど……」ヒヨリ
「……あなたは」ヒナ
ヒナの前に立ち並んでいたのは、見た事も無い装備の生徒達だった。巨大なガンケース、黒い帽子に外套、ガスマスク。数は十、二十、いやそれ以上。先頭のヒヨリは、卑屈な笑みを浮かべて続ける。
「どうしましょう、あれを受けてまだ立っているなんて、強いですねぇ……どうして、痛い筈なのに、苦しい筈なのに──」ヒヨリ
「は、はい……っ」ヒヨリ
「き、聞こえています、ちゃんと、やります……!」ヒヨリ
ヒヨリの端末から、低い指示が飛ぶ。周囲の生徒が左右に展開し、一斉に銃口をヒナへ向けた。腕章の校章に、ヒナは見覚えがあった。左を向いた骸骨と、薔薇の花を組み合わせたような徽章…
「アリウス……分校」ヒナ
「そ、そういう事みたいでして、すみませんね……えへへっ」ヒヨリ
「古聖堂を撃ったのも、あなた達なの?」ヒナ
「そ、それは、私は撃ってないです、本当です、私が撃ったのは、この銃だけで……」ヒヨリ
「ヒヨリ、余計な事を話すな」アリウスモブA
「あっ、す、すみません!今のは、聞かなかった事にして下さい!」ヒヨリ
「……そう、分かった」ヒナ
「は、はい、ですから、これ以上は、何も訊かないで頂けると助かります……」ヒヨリ
「答えられないのなら、何故、私の前に立っているの?」ヒナ
「あ、あなたを先に行かせないように言われているので、これも命令でして……」ヒヨリ
「命令……?誰の」ヒナ
「そ、それは、えっと、言えないんです、ごめんなさい……」ヒヨリ
「言えない、という事は、誰かの指示ね」ヒナ
「あ、あぅ……そ、そうとも言えるし、そうじゃないとも言えるし……」ヒヨリ
「はっきりしないのね」ヒナ
「す、すみません、言える事が、とても少なくて……」ヒヨリ
「それなら、言える事だけで良い、先生は、何処にいるの」ヒナ
「そ、それは、わ、私には、分かりません、本当です!」ヒヨリ
「……嘘では、無さそうね」ヒナ
「で、ですよね、私、嘘が下手なので、すぐ顔に出るんです……」ヒヨリ
「そう、確かに、顔に出ているわね」ヒナ
「うぅ、やっぱり……」ヒヨリ
「ヒヨリ、無駄口を叩くな、さっさと撃て」アリウスモブA
「り、了解です、でも、もう少しだけ、時間を……」ヒヨリ
「ならん、命令だ、時間を稼ぐのが任務だ」アリウスモブA
「ひっ、す、すみません、今すぐ!」ヒヨリ
「全員、配置に就け、ゲヘナの風紀委員長だ、油断するな」アリウスモブA
「了解、左翼は私が、右翼は任せた」アリウスモブB
「分かった、挟み撃ちにする、全員、遅れるなよ」アリウスモブC
ヒヨリは巨大なガンケースから愛銃、
「それが、あなたの銃……随分と、重そうね」ヒナ
「は、はい、見た目通りです、運ぶだけで、ちょっとした罰ゲームでして……」ヒヨリ
「それなのに、よく此処まで運んで来たわね」ヒナ
「そ、そうなんです、褒めて頂けると、少し嬉しいです……えへへ」ヒヨリ
「……別に、褒めてはいない」ヒナ
「で、ですよね……」ヒヨリ
「そう、それでも、片手で持てるのね」ヒナ
「え、あ、あの、それは、その、慣れというか……」ヒヨリ
「ならどうして、そんなものを私に向けるの」ヒナ
「そ、それも、命令でして……えへへ」ヒヨリ
トリニティと確執を持つアリウス、その(暫定的なものとは言え)同盟相手のゲヘナ。銃を向ける理由としては十分だ。だが今は、そんな事を考える余裕も、時間もない。ヒナが一歩を踏み出す。その身体から、重い圧力が放たれた。アリウスの生徒達が、無意識に一歩退く。手負いで、数も装備もアリウスが優位。それなのに、瓦礫の上から見下ろす彼女を倒せる未来が見えなかった。
「な、何だ、この圧は……」アリウスモブA
「あれが、ゲヘナの風紀委員長……噂以上だ……」アリウスモブB
「怯えるな、相手は手負いだ、数で押し切れる!」アリウスモブC
「怯むな、数ではこちらが上だ、囲め!」アリウスモブB
「は、はい!」アリウスモブA
「くっ、足が、動かない……!」アリウスモブD
「何なんだ、あの化け物は……!」アリウスモブA
「それでも、あの男の元へは、行かせない」アリウスモブB
「そうだ、ここで足止めするのが、私達の役目だ」アリウスモブA
「足止め、ね……なら、その覚悟は、出来ているのでしょう」ヒナ
「くっ……!」アリウスモブB
「か、覚悟なら、とうに出来ている!」アリウスモブA
「分かっている、だが、あの視線は、まるで……」アリウスモブB
「……今は、何も考えるな、任務を遂行しろ」アリウスモブA
「……一つだけ、言っておく」ヒナ
「は、はい、何でしょうか……」ヒヨリ
「──先生が、危険なの」ヒナ
「え、えへへっ、や、やっぱり、不幸な事ばっかりですよねぇ……」ヒヨリ
「あなた達に構っている暇は、無い」ヒナ
「で、でも、通す訳には、いかなくて……」ヒヨリ
「通さないのなら、力ずくで通るだけ」ヒナ
「ひぃっ、そ、そうですよね、そうなりますよね……」ヒヨリ
「最後にもう一度だけ言う、そこを退いて」ヒナ
「す、すみません、それは、出来ないんです……」ヒヨリ
「そう、残念ね」ヒナ
「わ、私も、残念です……とても……」ヒヨリ
「ヒヨリ!口を動かす前に、手を動かせ!」アリウスモブA
「は、はいぃっ!」ヒヨリ
「ヒヨリ、構えろ、来るぞ!」アリウスモブB
「は、はい、構えます、構えますから……!」ヒヨリ
「……ヒヨリ、本当に、やるのか」アリウスモブB
「ご、ごめんなさい、でも、私達も、引けなくて……」ヒヨリ
「そう、なら、退かせるだけ」ヒナ
「ま、待って下さい、ヒナさん、せめて、一発だけでも、撃たせて下さい……!」ヒヨリ
「……好きにすれば良い、でも、後悔しても知らない」ヒナ
「こ、後悔なら、毎日してますから、慣れっこです……えへへ」ヒヨリ
「ヒヨリ、これ以上は待てない、撃て!」アリウスモブA
「は、はい……!ご、ごめんなさい、ヒナさん!」ヒヨリ
足元の瓦礫が踏み砕かれる。薙ぎ払う様に構えられた愛銃、
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