The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
誤字脱字報告も同じく励みになります
しばらく経ったころ、瓦礫だらけの通りを進んでいた隆一とハスミの前に、見覚えのある人影が姿を見せた。
「せ、先生!ハスミさん!」ヒナタ
「ヒナタ、無事だったか」隆一
「はい、後方で避難誘導を……ご無事で、本当に良かった……」ヒナタ
「怪我はないか?顔に煤が付いてるぞ?」隆一
「あっ、これは、その、瓦礫の近くを何度も往復していたもので……私は大丈夫です!」ヒナタ
「サクラコの方は?」隆一
「それが、爆発の直後にはぐれてしまって……でも、サクラコ様なら、きっとご無事です。そう信じています」ヒナタ
「……そうだな。信じよう」隆一
そしてしばらくすると、今度は別行動を取っていたツルギとも合流した
「ツルギ、無事で何よりだ。怪我はしていないか」隆一
「……問題ない」ツルギ
「問題ない、じゃありません。さっきまで、どこで何をしていたんですか」ハスミ
「……周辺の掃討だ。数名、見慣れない連中と交戦した」ツルギ
「見慣れない連中……」ヒナタ
「ガスマスクを着けた部隊、ですか?」ハスミ
「あぁ。恐らく、そいつらだ」ツルギ
「ともあれ、これで全員揃いましたね」ハスミ
「あぁ、揃ってくれて助かった。ばらばらのままだったら、不安で仕方なかっただろうしな」隆一
「ええ、私もです。先生のお顔を見て、ようやく少し安心しました」ハスミ
「あぁ。まずは、安全な場所まで移動しよう」隆一
「はい。先生、足元にお気を付けて」ヒナタ
「ありがとう。ヒナタこそ、無理はするなよ」隆一
「は、はい。ですが、これくらいは、何ともありません」ヒナタ
「避難の状況は、どうなってる」隆一
「大半の方は、安全な区画まで移動できています。ただ、逃げ遅れた方がいないか、まだ確認が終わっていなくて……」ヒナタ
「分かった。確認が済むまでは、油断出来ないな」隆一
四人がそろい、ようやく一息つけた、その瞬間だった。突然、瓦礫が崩れ落ちる音が鳴り響く。真っ先に動いたのはツルギだ。素早く隆一、ハスミ、ヒナタの前へ出て、両手を低く構える。炎に照らされながら、四人を見下ろす影が現れた。
「作戦地域に到着、正義実現委員会の残党──いや訂正、残党じゃなくて本隊だ……ツルギにハスミを発見、兵力をこっちに回して、これより交戦する」サオリ
「了解。第二、第三分隊、直ぐに合流します」通信
「隊長、対象は四名。その内の一名は、メインターゲットの可能性があります」通信
「あぁ、見えている。包囲を崩すな」サオリ
「っ……アリウス分校!?」ハスミ
炎を突き破るように、真っ黒なローブをまとった集団がなだれ込んできた。ガスマスクで顔を隠した彼女たちの銃口が、一斉に四人へ向けられる。十や二十では済まない数だ。
「何処からこれ程の兵力が……周辺地域は全て警戒態勢だったのに──!」ハスミ
「まさか、地下か……?古聖堂の地下の、カタコンベから──」ツルギ
「カタコンベ……!先程、先生とご覧になった、あの封鎖された通路ですか……?」ヒナタ
「……あぁ。やはり、気のせいじゃなかったな」隆一
「先生、お気付きだったのですか?」ハスミ
「確信は無かった。ただ、嫌な予感はしていた」隆一
「……っ、私達が、もう少し早く気付いていれば」ハスミ
「悔やむのは後だ。今は、目の前の状況を何とかする事が先だ」隆一
「先生、後ろへ!ヒナタさんも、私の後ろに!」ハスミ
「は、はい……っ!」ヒナタ
「ハスミ、焦るな。まずは、相手の出方を見る」隆一
「ですが先生、この数では……!」ハスミ
「分かってる。それでも、慌てた方が負ける」隆一
地下は、手つかずのはずだった。もしそうなら、彼女たちはこの襲撃を事前に仕組んでいたことになる。
「……なるほど、つまり」ハスミ
ハスミは愛銃を強く握りしめた。
「──この状況は、あなた達アリウスの仕業という事ですかッ!?」ハスミ
「ほう……運が良い、もう一人の対象──『トフー』までこの場にいるとは」サオリ
「トフー……?」ヒナタ
その刹那の出来事であった。
「……貴様、俺をその名で呼ぶな」隆一
それは、生徒に向けるような声ではなかった。低く押し殺した声音で、いつもの穏やかさからは想像もつかないほど冷たい。
「せ、先生……?」ヒナタ
「聞こえなかったか?お前の事だ、トフー。わざわざ我々の前に出向いてくれて、手間が省けた」サオリ
「……その名で呼ぶなと言った。聞くだけで虫唾が走る」隆一
「ほう、随分と嫌われたものだ。だが、名前を嫌ったところで、事実は変わらんぞ」サオリ
「……勝手に言ってろ」隆一
サオリは隆一を見下ろし嘲笑う。その挑発で、ハスミの髪が怒気に震えて広がる。
「このッ──!良くも、良くもッ……!」ハスミ
「ハスミ」隆一
「止めないで下さい先生!絶対に許しませんよ、アリウスッ!その代償、今、此処でッ──!」ハスミ
「ハスミ、落ち着け。あの数に一人で突っ込んでも、七面鳥撃ちの的になるだけだ」隆一
「そんな事、分かっています……ですが!あの爆発で、どれだけの生徒が傷付いたと思っているんですか!」ハスミ
「分かっている。だから、俺も怒っているさ」隆一
「先生……」ハスミ
「──ハスミ」ツルギ
駆け出そうとしたハスミを、ツルギの静かな一声が制した。彼女はあくまで自然体のまま、スカートの中から愛銃、
「役割を果たせ──暴れるのは、私の役目だ」ツルギ
「ツルギ……!」ハスミ
「先生に怪我をさせた連中を、このまま帰す訳にはいかないからな」ツルギ
「ですが、いくらツルギでも一人では危険です!せめて、援護を──」ハスミ
「ハスミの役目は、先生を無事に連れて行く事だろう。違うか」ツルギ
「……っ、それは、そうですが」ハスミ
「なら、こいつらは私が引き受ける。先生とヒナタを、頼んだ」ツルギ
「……分かりました。必ず、後から追い付いて下さい」ハスミ
「あぁ。約束する」ツルギ
「怪我だけは、しないで下さいね」ヒナタ
「心配は要らない。お前は、先生を頼む」ツルギ
「……ツルギ、頼んだ」隆一
その一言で、ツルギの口元がわずかに和らいだ。次の瞬間、彼女の姿は掻き消える。足元の石床が砕け、風が一陣、吹き抜けた。
「──殺す」ツルギ
「はッ……」アリウスモブA
最前列へ一息で踏み込んだツルギの回転蹴りが、アリウスの顔面に叩き込まれる。砕ける音とともに、頭部が石床へめり込んだ。
「お前らは皆殺しだ、残らず、生きて帰れると思うな、私の、わ、わたしの、先生、せん、せせせせッ、ころここ殺しか……──きひッ!」ツルギ
「ぅ──」アリウスモブB
「ひ、怯むな!数ではこちらが上だ!」アリウスモブA
「で、でも、あの目……人間のものじゃありません……!」アリウスモブC
「全員、落ち着け。標的を一人に絞って、囲め」サオリ
血の匂いとともににじみ出る狂気に、アリウスの背筋が凍る。限界まで開いた瞳孔が彼女たちを射抜き、銃口が左右に開いた。
──ドォンッ!
左右にいたアリウスの生徒が吹き飛び、瓦礫へ突っ込む。
「キヒハハハハハアッ!ころすゥッ!殺す殺す殺す殺す殺す殺すぅッ!」ツルギ
「……全体、ツルギに火力を集中」サオリ
「──了解!」アリウスモブA
「側面の班は、足を止めさせろ。正面は絶対に退くな」サオリ
「了解です!」アリウスモブB
「隊長、目標が離れていきます!」アリウスモブC
「構わん。今は、あの化け物を止める事が先決だ。それに…」サオリ
無数の銃口がツルギを狙い、銃声が古聖堂にこだました。弾丸の雨をすり抜ける彼女にも、数が多すぎる。顔面に、胸元に、腹部に、何発もの弾丸が叩き込まれる。だが、それでも彼女は止まらない。
「コイツ、止まらな……ゴッ!?」アリウスモブE
「た、隊長!これ以上は、前線が持ちません!」アリウスモブF
「持たせろ。後続の分隊が、直ぐに合流する」サオリ
「隊長、本当に、増援は間に合うんですか!」アリウスモブE
「あぁ。五分以内に、第三分隊が到着する。それまで、持ち堪えろ」サオリ
「ですが、このままでは──!」アリウスモブB
「無駄口を叩く暇があるなら、引き金を引け!」サオリ
「死ねぇッ!」ツルギ
まるで重戦車のように突き進み、至近距離で撃ち抜き、銃のストックで頭部を殴りつける。額は床に半ばまで沈み込んだ。銃が歪めばためらわず投げ捨て、スカートの中から新しい愛銃を抜き出す。
「お前たちは此処で死ぬッ!当然だろうがッ!先生が血を、血を流したァッ!?なら、同じ分だけ、いやァ、もっと血を流せッ!」ツルギ
「ッ……!」アリウスモブC
血を浴びるほどに、激情はさらに加速していく。アリウスの全員の視線が、ツルギ一人に縫い付けられた。その隙を突いて、ハスミは歯を食いしばりながら隆一へ振り返る。
「先生、行きましょう」ハスミ
「あぁ……ヒナタ、走れるか」隆一
「は、はい……っ」ヒナタ
走りながら、ヒナタが不安げに背後を見やる。
「ツルギさんは、本当に大丈夫なんでしょうか……あの数ですよ……」ヒナタ
「彼女は昔からアレなので、そう簡単に倒れたりしません」ハスミ
「そう、ですよね……」ヒナタ
「ツルギなら大丈夫だ。それに、あいつがあれだけ暴れてくれてるお陰で、俺達は動ける」隆一
「はい……ですから、足を止めてはいけません」ハスミ
「ハスミさん、通信機が……!」ヒナタ
「繋がりましたか?」ハスミ
「──こちら正義実現委員会、第三小隊!ハスミ先輩、ご無事ですか!」正実モブ1
「無事です。そちらの状況は」ハスミ
「北側の回廊でアリウス部隊と交戦中!敵の数が多く、押されています!」正実モブ2
「分かりました。無理に前へ出ず、下がりながら応戦して下さい。直ぐに、そちらへ向かいます」ハスミ
「了解しました!」正実モブ1
「先生、聞いての通りです」ハスミ
「あぁ。ここで足止めを食う訳にはいかないな。急ごう」隆一
「先生、一つだけ、お聞きしてもよろしいでしょうか」ハスミ
「何だ」隆一
「先程、あのアリウスの指揮官は、先生の事を『トフー』と呼んでいました。あれは、一体……」ハスミ
「……その名前を、俺の前で口にするな」隆一
「っ……」ハスミ
「悪い。ハスミに怒っている訳じゃない」隆一
「いえ……ですが、先生が、あれ程までに顔を歪められるのは、初めて見ました」ハスミ
「あれは、俺が一番嫌っている呼び名だ。……思い出すだけで、反吐が出る」隆一
「……分かりました。無理にお聞きするつもりはありません」ハスミ
「助かる。いずれ、話せる時が来たら話す。今は、走ろう」隆一
三人は瓦礫と炎に紛れ、離脱を始めた。誰にも気づかれない。目の前の脅威に、アリウスの注意はすべて奪われていた。背後からは、悲鳴と絶叫、銃声が絶えず鳴り続ける。少しずつ遠のいていくそれを背に、ハスミは厳しい顔つきでつぶやいた。
「頼みましたよ、ツルギ……!」ハスミ
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