The Hypocrite's Archive   作:Xelphyr

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策謀

「着弾確認──効力射!」

 

「歩兵第二小隊、突入。包囲開始」イオリ

 

同じ風紀委員の言葉に頷き、イオリはライフルを肩に担いだまま指示を出す。

 

ラーメン屋・柴関。

 

その“前面”だけが、正確に吹き飛ばされていた。

 

迫撃砲はピンポイントに便利屋の居る席を撃ち抜き、その精度もあって倒壊には至っていない。引き連れた中隊規模の委員、凡そ二百人が列を成して行動を開始し、イオリはその後ろ姿を眺める。

 

 

 

 

「……イオリ、流石にやり過ぎじゃない?」???

 

「ん?」

 

背後からの声。チナツだった。同じ風紀委員に所属する彼女は、以前救急医学部に在籍していた経緯もあり、衛生兵としての役割も兼任している。後方から店を取り囲む委員たちを見つめ、チナツは苦言を呈す。

 

「営業中の店に砲撃なんて……いくら何でも──」チナツ

 

「ここ、なんだっけ。アビドスだろ?」イオリ

 

気怠そうに眼を細めながら、イオリは周囲を見渡した。そこには活気のない街並み、人の消えた建物が並んでいる。廃墟──とまでは行かずとも、幽霊都市(ゴーストタウン)と化しつつあるのは確かであった。

 

 

「もう廃校寸前って話だし、そもそも自治区として成り立っているかも怪しい、こんな廃墟だらけの街で今更建物が一つ崩れたから何だっていうんだ、それに建物一つで便利屋を纏めて葬れるなら安いものだろうに、この程度じゃ生徒会(パンデモニウム)の連中は何も文句しないだろうし、寧ろ便利屋を取り締まった功績でプラスだ」イオリ

 

……でも、民間人の反応がありました

 

チナツの声が、わずかに強くなる。

 

「別の方法でも──」チナツ

 

「店主だろ?」イオリ

 

 

 

 

イオリは即答だった。

 

まるで切り捨てるかの如く。

 

「着弾地点はちゃんと調整したし、便利屋の連中は店の手前の席だった、ドンピシャで落ちたし店も半壊程度──まぁそれでも怒り狂って出て来た時は、邪魔な連中は悉く殲滅する、公務の執行を妨害する奴は全員敵だ」」

 

──空気が、冷える。

 

チナツは口を閉ざす。

 

分かっている。普段は常識人だが命令に対する苛烈、実直、愚直というか──達成する為ならば多少の手段は厭わない性質がある。委員長が居れば止めただろうなと考えつつ、チナツは手元のタブレットに目を落とした。

 

 

 

 

 

(……ヒナ委員長がいれば)

 

小さく、息を吐く。

 

そして──タブレットに目を落とした。

 

 

 

 

「はぁ……兎も角──ん?」

 

ピッ。

 

タブレットから電子音が鳴る。

 

「情報部から……ドローンに反応?便利屋、まだ動けるのか。なら──」イオリ

 

「待ってください!!」チナツ

 

「……何?」イオリ

 

チナツは答えない。

 

 

 

 

 

ただ──

 

 

 

 

 

画面を、睨んでいる。

 

 

 

「……この反応」

 

指が、震える。

 

 

 

「この反応、民間人?生徒ではありません、便利屋と同じ席に、()()()の反応が──便利屋と、同じ席に──

 

「はぁ?」

 

イオリの眉が寄る。

 

 

 

 

 

同席。

 

 

 

 

 

つまり──直撃圏内。

 

 

 

 

 

「運が悪かったな。巻き込まれたら、ありゃしばらくは動けないぞ?」イオリ

 

「違います……そんなレベルじゃ……この反応……おかしい……!」チナツ

 

呼吸が秒を追うごとにどんどん荒くなる。

 

 

 

 

「いえ、違います、そんなんじゃないんですよ……!この反応、嘘でしょう……!?事前観測じゃ反応なんて──もしかして持っているあのタブレット?……でもこんな、あり得ない……!」チナツ

 

チナツの顔色が、焦燥感で肌色から青へ、そして青から白へと切り替わる。

 

「お、おいチナツ……そんなに錯乱して……大丈夫か?」

 

イオリが、初めて動揺する。

 

 

 

 

だが──

 

「やっぱり……嘘だ……!あそこにいるのは────

 

 

シャーレの……先生です!!

 

 

その刹那──空気が、凍った。

 

 

…………なっ!!??

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

…イッテェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ⤴︎!

 

 

 

 

 

 

 

「──せッ、せ……んせいッ!」ハルカ

 

「ハルカ──

 

 

俺は無事だ!ゴホッゴホッ

 

「全然大丈夫じゃないですぅぅ…」

 

砲撃の直後、彼は爆発でバランスを崩しながらも、少しでも被害を減らす為に、辛うじて視界に入っていたハルカを出口へ向かって蹴り飛ばし、彼女の怪我を最小限に抑える事が出来た。

 

しかしその代償は果てしなく重く、彼は全身にガラス、テーブル含め大小を問わない破片や瓦礫を喰らい、おまけに左腕は他の瓦礫より一回り大きな瓦礫に押し潰され動かせなくなってしまった。

 

 

(クソ…無事とは言ったが何せこの状況だ…タブレット…クソ)

 

 

砂埃で霞んだ視界にある光に向かって、右腕を伸ばす。

 

 

しかしタブレット表面には「 ! Emergency ! 」の文字が点滅。その下には自身の生体モニタが表示され、本来オールグリーンである筈の人体表記が、瓦礫や破片を喰らい所々黄色く、又はオレンジに変色している。そして肝心の左腕は真っ赤に変色している。

 

 

「ハルカ…頼む…瓦礫を…」

 

そう言いかけた、その時だった。

 

「…あ」

 

口の中に、妙に金属の味がする赤い液体が流れ込む。

 

 

「ぁ──あぁ………ッ!」

 

 

ハルカの震える指先が、恐る恐る先生の頬に触れる。がちがちと歯を鳴らすハルカが、何度も何度も噛みながら言葉を紡いだ。

 

「せ、せんせっ、何で、何で私なんか守ッ……わ、わた、わたしっ……!」

 

「何言ってんだ!生徒(仲間)を守らない先生(人間)が、何処に居るってんだ!ハハハ!」隆一

 

とは言えど、このままだとクラッシュ症候群でそれこそ大怪我では済まなくなる。

 

(クソ!瓦礫が全く動かねぇ!かくなる上は…)

 

 

 

 

先生が腹を括ろうと覚悟を決めかけた時──砂塵を裂き、崩れ落ちた天井の残骸を押し退け、カヨコが姿を見せる。

 

「っ、頭部から血が出ている、痛みとか吐き気…」カヨコ

 

「大丈夫だ!()()()は!」隆一

 

「そっち?そっちって…ッ!?」カヨコ

 

カヨコは、彼にそう言われて混乱する。しかし、彼が常にうつ伏せに近い姿勢だった理由、その意味はすぐに理解出来た。

 

 

 

 

50cmはあろう巨大な瓦礫、それに左腕を押し潰されて身動きが取れない先生を見て。

 

「…ん〜っ!んっ!」

 

彼女は瓦礫を退かそうとするが、キヴォトス人の筋力を以てしても、瓦礫はびくともしない。

 

「ハルカ!突っ立ってないで手伝って!」カヨコ

 

「は!はい!」ハルカ

 

しかし、一人で動かないものを、二人で動かそうとしても変わらない。痺れを切らした彼は、遂に強硬策に動く!

 

「あ〜もう!

 

やってらんねぇ!」

 

 

 

 

ブチブチブチィ!

 

 

 

 

「ヒギャァァァァァァァァァァァァァァ!?」

 

 

あろう事か、彼は瓦礫で潰されて動かせなくなっていた左腕を、あろう事か自ら引き千切った

 

そんな三人の前に、アルが手で砂塵を払いながら現れた。

 

「けほッ、ゴッホ! な、何の音!?というか何なの!? 砲撃? 誰よもうッ!──って、せ、先生?」アル

 

「あ、はは、問題はノッシング……」隆一

 

「先生、一回黙って!」アル

 

 

 

 

崩壊した周囲に驚愕し、それから左腕を根こそぎ失っている先生に蒼褪めた表情を浮かべるアル。しかし今は白目を剥いている(あの顔をしている)時でもなければ、お喋りに興じる場合でもない。

 

 

 

 

「う、腕が……こ、これ、お医者さん! 病院に連れて行かないと……!」アル

 

「もう囲まれている、こんな中先生を担いで外には出られない! まずは押し返すなり、包囲網に穴を空けないと──」カヨコ

 

「お、押し返すって、あんな人数相手に……!?」ハルカ

 

「──痛ったぁ……アルちゃん、無事~?」ムツキ

 

 

 

 

アルの背後から瓦礫を押し退け顔を出したムツキは、目の前に立つアルの姿を認めほっと胸を撫で下ろす。それから彼女の向こう側に居るカヨコに目を向け──瓦礫に背を預け凭れ掛かる、左腕を失った先生を見た。

 

 

「……は?」

 

 

ムツキは一瞬、硬直する。自分の視界に映るソレに思考が停止し、砂利と血に染まった先生に、手に持った愛用のバッグを痛い位に握り締めた。

 

視線は自然と、柴関を包囲する風紀委員会へと向けられる。ビキリ、と。ムツキの額に青筋が浮かんだ。乱雑に周囲の瓦礫を蹴飛ばした彼女はバッグの中から愛銃を引き抜き、凄まじい形相で風紀委員会を睨みつける。

 

 

「──あいつら……ッ! アルちゃん! 私達で抑えるよッ! 急いでッ!」

 

「えっ!? え、えぇッ! あ、あいつ等って、外の風紀委員会よね……? というか、一体なにがどうなって、先生は──」

 

「風紀委員会が此処に迫撃砲を叩き込んだのッ! そのせいで先生があんなになって、店はぐちゃぐちゃッ! 他に聞きたい事は!? ないよねッ!? ならホラ、行くよッ! まずは連中をぶっ飛ばしてから考えるッ! いつかは戦わなきゃいけない敵が来た、それが今日っ!」

 

「っ──わ、分かった…」

 

そう言いかけた、その時だった。

 

 

 

 

動くな!

 

 

 

 

そう叫んだのは、最重症の先生。

 

「なっ…!?」ハルカ・カヨコ

 

「なんで!?」アル

 

「は!?先生にこんな事したのに?」ムツキ

 

勿論の事、言葉がなかろうと彼女らは理解した。『抵抗するな』。そう、彼は言っている。彼女らの動揺をよそに、彼は口を開く。

 

 

 

 

「君達便利屋68はゲヘナ風紀委員会によって指名手配されている。そんな状況下で抵抗すれば、『風紀委員会(治安組織)に反抗した』として捕まえる口実を奴らに与えるだけだ。しかし…」隆一

 

「「「「しかし?」」」」便利屋68一同

 

「今奴らは、圧倒的に不利な状況下にある」

 

 

「「「「!!??」」」」

 

 

彼の発言に、一同は困惑する。彼女ら(風紀委員会)が不利?二百以上の大兵力で包囲し、数でも質でも、ゲヘナでは風紀委員会の右に出る者は居ない。そんな最強の軍勢に包囲されているというのに、それが圧倒的に不利だと口にする。

 

「先生!ゲヘナはキヴォトスでも…」

 

カヨコの発言を遮り、彼は口を開く。

 

 

「じゃあカヨコ、ここは、()()()()だ?」

 

「そ、そりゃ()()()()自治区…あっ!」

 

「カヨコ?どうしたの?」アル

 

「そっか…そういう…」カヨコ

 

「だからカヨコ…」アル

 

どうやらカヨコは理解したようだ。

 

「今、彼女らは自らの首を絞めている。理由は簡単、ここがアビドス自治区だからだ。」

 

「「「…あっ!」」」

 

漸く他のメンバーも理解する。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

自治権の侵害

 

 

 

 

 

キヴォトスに於けるタブーの一つ。殺人や戦争に並ぶタブー。

 

大小問わない多数の学園が『自治区』を構成し、その枠組みで学園を運営しているキヴォトスに於いて、他の学園の自治区に立ち入るという行為は、場合によっては主権侵害にあたる。それが個人や、部活動で行われるツアーなどなら不都合はないが、風紀委員会のような治安組織や、パンデモニウムのような生徒会、いわゆる『上部組織』が他学園の領地(自治区)()()()侵入するとなれば話は別だ。

 

勿論これらの行為は、現実の国家でも同じように学園の主権を侵害する行為にあたり、今風紀委員会は、その『主権侵害』を現在進行形で行っている。

 

…つまり彼は、これを口実に便利屋68を追及の手から匿い、逆に風紀委員会を『無断でアビドスの領地で軍事行動を行い、アビドス()()()の主権を侵害した』事にして追い返そうとしているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「でも、抵抗しなくたって、私達は指名手配されてるから、どう足掻いても捕まると思うけど?」

 

ムツキの疑問に、彼が答える。

 

「じゃあ何で、さっきアルは便利屋68のシャーレ転属を受理した?」*1

 

「え…そ…それは…」アル

 

「転属を受理してくれたおかげで、『便利屋68』の看板を下し、四人を連邦捜査部orキヴォトス特戦隊の『メンバー』として扱えるようになった。つまりゲヘナ風紀委員会にとっての『指名手配犯(便利屋68)の追跡』という大義名分をチャラにして、むしろ『連邦捜査部構成員に対する奇襲攻撃』としてこちら側が優位に立てるようになったからな」隆一

 

「…アルちゃんさすが〜」ムツキ

 

「…狙ってたの?」カヨコ

 

「え…あ…えぇそうよ!」アル

 

「まあ狙ってたか否かは後にして…

 

 

反撃開始、と行きますか

 

 

 

 

「「「「おー!」」」」

 

 

 

 

四人は、拳を空へ高らかと掲げた。

*1
唐突に巻き込まれる陸八魔アル

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