The Hypocrite's Archive   作:Xelphyr

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豹変

銃撃音が響き渡る。ハスミは破片の陰に身を潜め、ミメシスの一体を撃ち抜いた。吹き飛んだのを確かめると、彼女は声を上げる。

 

 

 

「リロードを行います、援護をッ!」ハスミ

 

 

「はい……っ!」ヒナタ

 

 

 

弾丸が瓦礫を削り取る中、ヒナタは大きく呼びかけた。

 

 

 

「右側から、また来ます!数は三!」ヒナタ

 

 

「分かりました、そちらは私が引き受けます。ヒナタさんは、正面を!」ハスミ

 

 

「了解です……!」ヒナタ

 

 

 

応戦するヒナタの背後で、隆一は無言のまま戦況を見つめていた。包囲はすでに狭まっている。

 

 

 

「っ、残弾が少ない……これでは──」ハスミ

 

 

「ハスミさん、私の残りも、もうあまり……!」ヒナタ

 

 

「分かっています。ですが、ここを抜かれたら、先生が……!」ハスミ

 

 

「ハスミさんっ!私が突破口を開き、殿を務めます!」ヒナタ

 

 

 

その叫びをヒナタが放とうとした瞬間、轟音がそれを掻き消した。神秘を帯びた弾丸の嵐が、瓦礫ごとミメシスを掃き払う。

 

 

 

「ッ、これは……!?」ヒナタ

 

 

 

砂埃の向こうから、血に濡れた髪をなびかせて姿を現したのはヒナだった。

 

 

 

「──先生ッ、無事!?」ヒナ

 

 

「ゲヘナの風紀委員長……!?」ハスミ

 

 

「あぁ、此処にいる」隆一

 

 

「……え?」ヒナ

 

 

 

血まみれの外套こそ纏っていたが、それ以外は他のキヴォトス人と同じく五体満足だ。ヒナは言葉を失う。

 

 

 

「怪我は……?」ヒナ

 

 

「もう治った」隆一

 

 

「治った……?」ヒナ

 

 

「詳しい話は後でしてやる」隆一

 

 

「……分かった。今は、聞かないでおく」ヒナ

 

 

「助かる。……それより、そっちこそ、血だらけじゃないか」隆一

 

 

「これは、ほとんど返り血。心配は要らない」ヒナ

 

 

「そうか、なら良いが」隆一

 

 

 

ハスミは唇を噛み、隆一とヒナを交互に見た。怨敵と呼んでも差し支えないゲヘナ。腸が煮え返る。それでも、今は他に打つ手がない。

 

 

 

「風紀委員長、先生を連れて、お下がり下さい」ハスミ

 

 

「……!」ヒナ

 

 

「トリニティの首脳陣は先生を残して壊滅状態です、先生に万が一があっては、収拾がつかなくなります、先生を失う訳にはいきません!」ハスミ

 

 

「待て、ハスミ、俺も──」隆一

 

 

「お願いします、先生は温存して下さい!」ハスミ

 

 

 

ハスミの瞳に宿る決意に、隆一は言葉を飲み込んだ。ヒナが静かにうなずく。

 

 

 

「……任せて」ヒナ

 

 

「先生を、よろしくお願いしますッ!」ヒナタ

 

 

「あなた達こそ、無理はしないで」ヒナ

 

 

「……先程の援護には、感謝します。ゲヘナの方に助けられる日が来るとは、思いませんでしたが」ハスミ

 

 

「礼は要らない。私は、先生を守りたいだけ」ヒナ

 

 

「お気遣い、感謝します。ですが、私達は此処で食い止めます。それが、正義実現委員会の務めです」ハスミ

 

 

「……そう。なら、先生は私が必ず守る」ヒナ

 

 

 

ヒナは隆一のそばに立ち、退く隙を探った。少し離れた瓦礫の陰では、ハスミが弾薬を確かめている。

 

 

 

「……弾倉は、後幾つですか?」ハスミ

 

 

「の、残りは二つです、私の鞄が見つかれば、まだ戦い様はあったのですが」ヒナタ

 

 

「無いものねだりをしても仕方ありません、最悪は、素手で喰らい付く事になりそうですね」ハスミ

 

 

 

そのとき、横手で瓦礫が崩れ落ちた。

 

 

 

「は、ハスミ先輩……っ!?」正実モブA

 

 

「あなた達、無事だったのですね……!」ハスミ

 

 

「は、はい!爆発の直後、散り散りになってしまいましたが、何とか合流できました!」正実モブA

 

 

「ヒナタさん、ご無事で何よりです……!」シスターフッドモブI

 

 

「皆さんこそ……!本当に、良かった……!」ヒナタ

 

 

「外の状況は、思わしくありません。ミメシスが、あちこちに出現していて……」正実モブA

 

 

「負傷者の方々は、別の場所に避難して頂いています。ですが、いつまで安全かは……」シスターフッドモブII

 

 

「……分かりました。報告は、後でゆっくり伺います」ハスミ

 

 

黒い制服の正義実現委員会が姿を見せる。数人のシスターフッドも混ざっていた。爆発後、負傷者を助けながら古聖堂から抜けてきたのだという。

 

 

「皆さん、御無事で──!」ヒナタ

 

 

「詳しく説明している暇はありません、まだ戦えますか?」ハスミ

 

 

「は、半分程は……もう半分は、銃を紛失したり、負傷したりしていまして」正実モブB

 

 

「シスターフッドの方は、どうですか」ハスミ

 

 

「私達も、同じ様な状況です。ですが、動ける者は、皆、戦う覚悟でいます」シスターフッドモブI

 

 

「分かりました。では、動ける方は私の後ろに。負傷者は、下がって下さい」ハスミ

 

 

およそ三十人のうち、戦力になるのは十五人ほどしかいない。頼りない。とはいえ、二人きりだった状況を思えば、奇跡に近い増援だった。

 

 

「ハスミ先輩、これを、弾薬です」正実モブC

 

 

「助かります」ハスミ

 

 

「い、いえ!私達の分は、少しずつ分け合って、何とか足りています」正実モブC

 

 

「分かりました。足りなくなったら、遠慮なく言って下さい」ハスミ

 

 

 

そのあいだにも、ミメシスの数は増え続けていた。瓦礫の上から見下ろされ、生徒たちの間に動揺が広がる。ハスミは前へ飛び出した。

 

愛銃のコッキングを済ませ、彼女は皆を奮い立たせるように告げる。

 

 

 

「何としても、先生の退路を守る必要があります、今、此処で……!」ハスミ

 

 

「はいっ!」正実モブB

 

 

「ハスミ先輩に、最後までお供します!」正実モブA

 

 

「皆さん……ありがとうございます。正義実現委員会とシスターフッドが、肩を並べて戦う日が来るとは、思いませんでしたが」ハスミ

 

 

「ふふっ、こんな状況でなければ、もっと素敵な光景だったのでしょうね」ヒナタ

 

 

「ええ、全くです。……では、行きましょう」ハスミ

 

 

 

痛みはあるはずだ。逃げ出したい気持ちもあるだろう。だが、今だけはそれが許されない。

 

 

 

「……」隆一

 

 

 

隆一は何も言わなかった。彼をよく知らない生徒たちでさえ、すでに覚悟を固めた顔をしている。

 

ミメシスが一斉に攻撃へ移った。ハスミは遮蔽物に隠れず前線へ立ち、声を張る。

 

 

 

「来ます!全員、頭を下げて!」ハスミ

 

 

「り、了解です!」正実モブB

 

 

「ひっ……す、凄い数……!」シスターフッドモブII

 

 

「怯えている暇はありません!先生の為にも、此処を守り抜きます!」ヒナタ

 

 

「──先生の退路を死守しますッ!各員、死力を尽くしなさいッ!」ハスミ

 

 

 

そう叫んだ直後。

 

 

 

「ハスミ!」隆一

 

 

「せ、先生…?」ハスミ

 

 

「正義実現委員会の皆も、ここまで守ってくれてありがとう!」隆一

 

 

「先生……?」ハスミ

 

 

「あとは俺がやるぞ!」隆一

 

 

 

そして彼の腰から抜き放たれたのは、二丁のハンドガン(ベレッタ92FS)だった。その銃弾には、対キヴォトス人用の改造が施されている。

 

 

 

「せ、先生!?お下がり下さい、危険です!」ヒナタ

 

 

「危険なのは慣れてる、それに」隆一

 

 

「それに?」ハスミ

 

 

「…これは俺の得(・)意(・)分(・)野(・)だからなぁ!」隆一

 

 

 

両手に一丁ずつ構え、隆一は軽く銃を回す。

 

 

 

──ガシャッ。

 

 

 

瓦礫の上で復活したミメシスが、一斉に銃口を向ける。隆一は口元を吊り上げた。

 

 

 

「イ〜ヤッホ〜イ!」隆一

 

 

「…………え?」ヒナ

 

 

 

全員の声が、揃って止まる。

 

 

次の瞬間、隆一の姿が消えた。

 

 

 

──ドパパパパパパンッ!

 

 

 

二丁の銃が同時に火を吹く。左右へ撃ち分けられた弾丸が、前列のミメシス三体をまとめて吹き飛ばした。

 

 

 

「ヒャッハァッ!どんと来いよ!」隆一

 

 

「えっ、えええ……!?」正実モブC

 

 

「せ、先生が、あんなに楽しそうに……」シスターフッドモブII

 

 

「……私の知っている先生と、別人みたいです」ヒナタ

 

 

 

敵の群れのただ中へ、隆一は真正面から突っ込んだ。左右の敵へ銃口を向け、勢いのまま身体をひねる。飛んでくる弾丸を紙一重でかわし、半身で抜けながら、至近距離で引き金を絞る。

 

 

 

──ザシュッ!

 

 

 

肩口を撃ち抜かれ、血が噴き出した。それでも彼は止まらない。次の瞬間には、傷口が脈打つように塞がっていく。

 

 

 

「……っ」ヒナ

 

 

 

「風紀委員長、先生は、いつもあの様な……?」ハスミ

 

 

「……私も、初めて見る」ヒナ

 

 

「そう、ですか……」ハスミ

 

 

 

銃身で顎をはね上げ、跳ねた頭部へ零距離射撃を叩き込む。背後から迫る刃の気配にも振り向かず、左の銃を向けた。

 

 

 

「ゥォオリャァ!」隆一

 

 

 

右腕に弾丸が命中し、肘から先が千切れ飛ぶ。銃が宙へ舞った。隆一は断たれた腕を一瞥もせず、落下してきた銃を左手で受け止める。

 

 

 

「ほら、返すぜ!」隆一

 

 

「う、腕が……!先生の腕が……!」正実モブB

 

 

「落ち着きなさい。先生は、あの程度では倒れません…多分」ハスミ

 

 

「で、ですが……!」正実モブA

 

 

 

切断面が盛り上がり、指が生えそろった右手で、彼は再び銃を握り直した。

 

 

 

「……あの、先生?」ヒナタ

 

 

「あれは、一体……」ハスミ

 

 

 

ハスミの声がかすれる。隆一が駆け抜ける軌跡の先で、ミメシスの影が次々と散っていった。地面を砕く踏み込みの速さは、先ほどのツルギにも劣らない。いや、下手をすればツルギ以上だった。

 

 

目が潰れれば、瞬く間に瞼が開く。足の骨が砕ければ、踏み込むあいだに繋がっていく。彼にとって、目も手も足も使い捨てにすぎなかった。

 

 

 

「おっや〜弾切れだぁ?じゃあ殴る!」隆一

 

 

 

ガンッ!と、半ば身を投げるようにしてユスティナの顔面を殴り飛ばす。その背後から迫る三体を、振り返りざまの二連射で同時に撃ち抜いた。

 

 

──ドガァンッ!

 

 

残った数体には、左右の銃口から放たれた衝撃波が瓦礫ごと叩きつけられ、粉砕された。砂塵が晴れたとき、周囲に立っているミメシスは一体もいなかった。

 

隆一は片手で銃を回し、肩で息をすることもなく振り返る。

 

 

 

「よし、『お掃除』完了〜」隆一

 

 

「………」ヒナ

 

 

「………」ハスミ

 

 

「………」ヒナタ

 

 

「………」正実モブA/B/C

 

 

 

ヒナは愛銃を構えたまま、固まっていた。銃を失った正義実現委員会の生徒たちも、誰ひとりとして声を出せない。ただ黙って、見つめることしかできなかった。

 

 

 

「……先生」ヒナ

 

 

「ん?」隆一

 

 

「…………さっきの、笑い声は」ヒナ

 

 

「気にするな」隆一

 

 

「気になるのだけど」ヒナ

 

 

「私もです」ハスミ

 

 

「は、はい……」ヒナタ

 

 

「俺は、ただ楽しくなると、ちょっと口が滑るだけだ」隆一

 

 

「ちょっと、の範囲を超えているような気がするのだけど」ヒナ

 

 

「あはは、後で全部説明する。約束だ」隆一

 

 

 

隆一はさっぱりした笑顔を浮かべ、銃をホルスターへ収めた。

 

 

 

「……先生」ヒナタ

 

 

「ん?」隆一

 

 

「いえ、その……お怪我が無いなら、それで良いんです。ただ、次からは、先に仰って頂けると」ヒナタ

 

 

「善処する」隆一

 

 

「それ、約束してくれないやつね」ヒナ

 

 

「バレたか」隆一

 

 

「あ、あの、先生は……本当に、人間なんですか……?」正実モブB

 

 

「人間だよ。ち(・)ょ(・)っ(・)と(・)、頑丈なだけだ」隆一

 

 

「ちょ、ちょっとどころでは……」正実モブA

 

 

「それより、先を急ごう」隆一

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