The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
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──ドォンッ!
一発の銃声が、合図だった。
命懸けの総力戦が、始まった。
「撃てッ!私達に注意を引き付けろ!」風紀委員A
「委員長に近付けさせるな!」風紀委員B
まず動いたのは、ゲヘナの風紀委員達だった。
弾幕が一斉に"トフー"へ殺到する。狙いは撃破ではなく、自身に攻撃を集中させる事だった。
「怯むな!委員長が、見ているぞ!」風紀委員C
「ゲヘナの意地、見せてやる!」万魔殿生徒B
「固まらないで!散って撃って、すぐに位置を変える!」ヒナ
「了解です、委員長!」風紀委員B
ヒナの声が飛ぶ。ヒナ自身も、デストロイヤーを構え、牽制の弾幕を絶え間なく浴びせ続けた。
それでも"トフー"は、眉一つ動かさない。
弾丸は、彼の周囲の空間で、音も無く消えていく。
「着弾を確認!ですが、効果が見られません!」風紀委員モブC
「ヒナ!あれは何だ!弾が、全く効いておらんではないか!」マコト
「見れば分かる、あなたは下がって、指揮に専念して」ヒナ
「キキキ……そう言われて引き下がる私ではないぞ!」マコト
「……避けも、防ぎもしない」ヒナ
ヒナは、唇を噛んだ。
「それでも、続けて、今は、あれの注意を引き付けるのが仕事」ヒナ
「は、はいっ!」風紀委員B
脅威識別継続
"トフー"の周囲を周回する赤い点が、ふっと散る。
「上!来るわ!」ヒナ
次の瞬間、天から光の雨が降り注いだ。
「ぐあッ!?」風紀委員B
「ひ、退け、退けぇッ!」風紀委員A
「ぐぬっ!万魔殿の盾を前に出せ!」マコト
「む、無理です議長、盾ごと溶けて……!」万魔殿生徒X
弾幕が、悲鳴に変わる。
光の雨は、遮蔽物ごと、地面を抉り取っていく。
逃げ遅れた生徒の悲鳴が、轟音に掻き消された。
「救護班!前へ!負傷者を下げろ!」風紀委員B
「だ、駄目です!身動きが……!」風紀委員W
「ヒナ委員長、このままでは、前線が持ちません!」風紀委員D
「……耐えて、あと少しで、側面が動く!」ヒナ
ヒナは、遮蔽の陰から、ほんの一瞬だけ顔を出す。
赤い点は、再び"トフー"の周囲に集まり始めていた。
その奥で、"トフー"の視線が、ゆっくりとヒナの方角へ向く。
「……見られてる」ヒナ
「委員長!?」風紀委員B
「大丈夫、止まらずに動く、ただ、あなた達は、私から離れて」ヒナ
「で、ですが……!」風紀委員C
「命令よ」ヒナ
光の雨が通り過ぎた後には、焼け焦げた地面と、割れた銃身だけが残されていた。
ヒナは、奥歯を噛み締める。ハスミが倒れた理由が、今なら、嫌という程分かった。
「怪我人は下がって!動ける者は、散開して!」ヒナ
「は、はいっ!」風紀委員D
「今ので、何人やられた!?」ヒナ
「分かりません!ですが、まだ、私は動けます!」風紀委員B
「……そう、なら、まだ戦える」ヒナ
ヒナの声は、冷静さを、辛うじて保っていた。
「サオリ、今よ、こちらの引き付けは、十分」ヒナ
「……了解した、巻き込まれるなよ」サオリ
短い無線の交信が、途切れる。
その隙に、側面の瓦礫の影で、青い光が瞬いた。
「全員、魔石を起動しろ」サオリ
サオリの首元で、タンザナイトの宝石が静かに輝く。
その光は、不気味な程に、澄んでいた。
“トフー”が口にした『ヘカテー・アーティファクト』の正体は、アリウスの生徒達が揃って首に吊るしていた、この宝石だった。
彼女達は魔石から流れ出るエネルギーを兵器に転用し、既存の銃火器の威力を大幅に引き上げる。調印式に撃ち込まれたミサイルの推進力と破壊力も、同じ反応によるものだった。
「魔石、起動します!」アリウス生徒A
別の生徒が、震える声で続ける。
「出力、上昇中……!限界値まで、あと僅かです!」アリウス生徒B
別の生徒が、不安げに、サオリを見上げた。
「サオリ姉さん、本当に、これで届くんでしょうか?」アリウス生徒C
「届かせる」サオリ
サオリは、短く、だが揺らぎなく答えた。
「構わない、全て注ぎ込め!」サオリ
サオリは、周囲を見渡し、短く指示を重ねる。
「第二班は右、第三班は左へ回れ、援護は私が引き受ける!」サオリ
「了解!」アリウス生徒達
宝石の輝きが、一層増していく。
かつては、この光に、自分達の命を預けていた。今は、その光に、最後の望みを賭けている。
アリウスの生徒達の足元で、砂利が、微かな振動に揺れ始めた。
「……これが、マダムが私達に与えた力か」サオリ
サオリは、一瞬だけ、自分の首元の宝石を見下ろした。
「皮肉な物だな、これで彼女に一矢報いる事になるとは」サオリ
「プラズマキャノン、発射準備完了!」アリウス生徒B
「よし!全火力を叩き込め!」サオリ
──ズドドドドドッ!
水色のエネルギーの束が、横合いから"トフー"へ殺到した。猛連撃が、轟音と共に砂塵を巻き上げる。
「やった……!」アリウス生徒B
歓声が、小さく上がる。
「すごい、これが、魔法の力……」アリウス生徒C
誰かが、拳を握り締める。
「直撃です、これなら……!」アリウス生徒B
しかし、砂塵が晴れたそこには、傷一つない"トフー"が立っていた。
「傷が……ない……?」アリウス生徒A
「エネルギーが、届く前に消えている……!」アリウス生徒B
絶望が、じわりと広がっていく。
「そんな、魔石の出力は、最大だったのに……」アリウス生徒B
「……吸収、された、か」サオリ
サオリの声が、僅かに揺れた。
「サオリ姉さん、第二射、撃てます!」アリウス生徒A
「無駄撃ちは、するな、あれには、効かない!」サオリ
「……はい」アリウス生徒D
全ての光は、彼の身体に触れる前に吸収されていた。
水色の光は、まるで最初から無かったかのように、跡形も無く消えている。
攻撃元、識別完了
翼が、ゆっくりと広がる。
「……来るぞ!」サオリ
「構えろ!まだ終わりじゃない!」アリウス生徒E
奇襲は失敗に終わり、アリウスは風紀委員の混戦の只中に巻き込まれた。
「くっ……!散開しろ!」サオリ
「サオリ姉さん、囲まれます!」アリウス生徒E
「走れ!足を止めるな!」サオリ
「で、でも、姉さんが……!」アリウス生徒B
「私は良い!お前達は、生き延びろ!」サオリ
地獄の混戦の中、悲鳴と銃声が重なり合う。
「アリウスの子達を、庇って!風紀委員、右翼を広げて!」ヒナ
「は、はいっ!」風紀委員A
「……何故、私達を?」アリウス生徒D
「今は、同じ敵を相手にしてるの、理由はそれだけ」風紀委員B
サオリは、傷付いた脇腹を押さえながらも、仲間の盾となるように前へ出た。
「……マダム、見ているか、私達は、まだ終わっていない」サオリ
「サオリ、無事か!」ツルギ
「……問題無い!背後を、頼む!」サオリ
「任せろ!」ツルギ
互いの背中を預け合うように、二人は、それぞれの敵へと銃口を向けた。
「ヒナ、サオリの奇襲が崩れた、次は私達が行く」ツルギ
「お願い、私も、正面から援護する」ヒナ
ツルギは、無線を切り、瓦礫を蹴って前に出た。
「今だ!背後から突き崩す!」ツルギ
「ハスミ先輩の借りです!全員、続いて下さい!」正実生徒A
声が、重なり合って響く。
「はいっ!」正実生徒達
最後に、ツルギ率いるトリニティの部隊が背後から仕掛けた。
瓦礫を蹴って飛び出した正実の生徒達が、横一列に広がっていく。
「右翼を固めて!」正実生徒B
もう一人が、頷いて続ける。
「はい!皆さんは、前を!」正実生徒C
合同生徒会と正義実現委員会が、一斉に引き金を絞る。
だが、その時だった。
一斉射撃が、"トフー"の翼や、背中へと降り注ぐ。
硝煙が立ち込め、視界が白く染まっていく。
だが、弾丸は、一つとして、彼の身体には届かなかった。
「翼に、弾かれている……!?」正実生徒B
「怯むな!撃ち続けろ!」ツルギ
「で、でも、弾が、全部……!」正実生徒B
「それでも撃て!止まれば、全員やられる!」ツルギ
"トフー"の傍らの空間が、歪んだ。
「……何だ、あれは!?」ツルギ
赤黒いレーヴァテインの銃口が、六つ。
六つの銃身が宙に生まれ、それぞれが別の方角を照準した。レールが拡大し、先端にエネルギーが充填されていく。
六つの銃口が、ゆっくりと向きを変え、風紀委員、アリウス、トリニティの陣へと、それぞれ狙いを定めた。
「六つ……!?そんな、あんなものまで……!」正実生徒B
「あれを、撃たせてはいけない……!」ヒナ
「分かっている!」ツルギ
「それぞれ、別の方向を向いている……!」正実生徒A
「あの銃を壊せ!チャージを止めろ!」正実生徒C
「撃て!撃てぇッ!」風紀委員A
「合同生徒会、撃ち方を集中して!一点に絞って!」正実生徒B
一斉に、返事が返る。
「は、はいっ!」正実生徒A
各方面が、レーヴァテインの破壊に注力する。
しかし、火力が全く足りなかった。弾丸は障壁に弾かれ、銃身には傷一つ付かない。
「ちっ、硬すぎる……!」ツルギ
「ツルギ先輩の合図で、一斉射!三、二、一……!」正実生徒B
「な、何だあれは……!聞いていないぞ!」マコト
「議長、ご、ご指示を!」万魔殿生徒A
「マコト、全員を連れて下がって!ここは、私達が支える!」ヒナ
「く、くそっ、仕方あるまい!万魔殿、後退だ!」マコト
ツルギは、歯を食い縛り、自らの銃を銃身へ叩き込んだ。
だが、手応えは、まるで無い。
「ツルギ先輩!無茶です、下がって下さい!」正実生徒B
「下がるものか、ここで退いたら、ハスミに顔向けが出来ない!」ツルギ
「もっと撃て!押し込めッ!」正実生徒A
充填の光は、その間にも、脈打つように強まっていく。
銃口の先で、空気が焼け、揺らいだ。
「……不味い」ツルギ
ツルギの額を、冷たい汗が伝う。
「ツルギ、全員に、退避を!」ヒナ
「分かっている!だが、六方向全部、どこへ逃げれば……!」ツルギ
「駄目だ、通らない……!」正実生徒B
「全員、遮蔽の裏へ!早く……!」ヒナ
ヒナは、無線に向かって声を張り上げる。
「ツルギ、サオリ、聞こえる!?あれは、全部の部隊を、同時に狙ってる!」ヒナ
「……分かっている!だが、逃げ場が……!」サオリ
「間に合いません、チャージが、もう……!」風紀委員C
ヒナは、咄嗟に周囲を見渡した。
どの方向にも、銃口が、冷たく光っている。
不意に、周囲の音が、遠のいた。
「退避を──」ヒナ
──閃光。
六つの銃口から、光線が放たれた。
アリウスのプラズマキャノンの、何十倍もの威力だった。
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