The Hypocrite's Archive   作:Xelphyr

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戦闘不能

アリウスの作戦は、結局、大失敗だった。

不完全な技術で作られた魔石では、偽物の、"トフー"の有する純正魔石に、エネルギー量でも火力でも連射力でも、遠く及ばなかった。

 

光線は、閃光弾に近い形で戦場を白く塗り潰した。

幸いにも即死こそ免れたが、反射的に目と耳を塞いだヒナやサオリ、ツルギなど、ごく一部を除けば、生徒達の視界は白飛びしていた。

耳鳴りが、戦場の音を、全て塗り潰している。

 

 

 

「目が……見えない……!」風紀委員A

 

 

「どこ、どこから撃たれてるの!?」正実モブB

 

 

「み、見えん、何も見えんぞ!一体何が起きているのだ!」マコト

 

 

「議長!落ち着いて下さい!」万魔殿生徒D

 

 

「魔石が、熱い……!首が、焼ける……!」アリウス生徒S

 

 

「外せ!早く、魔石を外せ!」サオリ

 

 

「ヒナ委員長、どこですか!委員長!」風紀委員C

 

 

「目を閉じるな!瞬きを繰り返せ、すぐに視界は戻る!」サオリ

 

 

「視界が戻るまで、持ち堪えて!無理に動かないで!」ヒナ

 

 

「りょ、了解です!」風紀委員B

 

 

「互いの背中を合わせろ!固まって、死角を作るな!」ツルギ

 

 

「ツルギ委員長!どこに……!?」正実モブ

 

 

「ここだ!声の方へ集まれ!」ツルギ

 

 

 

攻撃を避けるどころか、戦闘を続行する事すら不可能な状態だった。

それでも、多くの生徒は退かなかった。視界が戻るまでの数秒から数十秒、感覚だけを頼りに銃を構え、戦う事を選んだ。

 

 

 

「撃て!見えなくても、撃てッ!」風紀委員C

 

 

「前方に、何か居る!撃ち続けろ!」正実モブG

 

 

「待って!味方に当たる!」風紀委員B

 

 

「声を出して!味方の位置を、教えて!」ヒナ

 

 

「ヒナ、無事か!」ツルギ

 

 

「……ええ、耳鳴りが酷いだけ、あなたは?」ヒナ

 

 

「問題無い、……だが、他の連中が」ツルギ

 

 

 

その声は、焦りを帯びていた。

 

 

 

「右です!右にいます!」正実モブB

 

 

 

白い闇の中で、無数の銃声と、必死な声が交錯した。

誰もが、見えない敵に向かって、ただ引き金を引き続けていた。

 

 

 

「魔石が……砕けて……」アリウス生徒C

 

 

「今は、考えるな、顔を上げろ」サオリ

 

 

砕け散った宝石の欠片が、生徒達の足元で、雨に濡れて鈍く光った。

 

 

 


 

 

 

脅威識別継続、『浄化戦』開始

 

 

 

それでも"トフー"は、容赦しなかった。視界をほぼ失った生徒達を、次々と『浄化』していく。

 

 

 

──ドォンッ!

 

 

 

ある一団は爆裂で、意識ごと吹き飛ばされた。

轟音と共に炎が膨れ上がり、数十人が、一瞬で宙へ舞った。

 

 

 

「ぐあッ……!」風紀委員

 

 

 

爆風が、周囲の生徒達を、枯葉のように薙ぎ払う。

赤い点の群れが、生徒達の頭上を、無数に旋回していた。

 

 

 

「あれが、狙ってる……!」風紀委員

 

 

「逃げ場が、無い……」アリウス生徒

 

 

 

浄化、継続

 

 

 

感情の無い声が、淡々と、戦場に響いた。

 

 

 

「全員、後退!負傷者は、引きずってでも下げろ!」ツルギ

 

 

「ツルギ委員長!私達が、盾になります!」正実モブB

 

 

「馬鹿を言うな!盾になど、ならなくていい!」ツルギ

 

 

「は、はいっ!肩を貸して!」正実モブX

 

 

「議長!危ない!」万魔殿生徒C

 

 

「は、離せ!私は、まだ……!」マコト

 

 

 

万魔殿の生徒達が、マコトの腕を掴み、強引に瓦礫の陰へと引きずり込んでいく。

 

 

 

「議長、ここなら、しばらくは安全です」万魔殿生徒C

 

 

「……くっ、私は、ただ見ているだけなのか」マコト

 

 

 

マコトは、爪が食い込む程に、拳を握り締める。

 

 

 

「来る、来るッ!誰か、助け……!」アリウス生徒B

 

 

「下がれ!あれは、私が引き受ける!」ツルギ

 

 

 

ツルギが、霞む視界のまま、地面を蹴って距離を詰めた。

至近距離から放たれた散弾は、だが、見えない障壁に阻まれ、虚しく霧散する。

 

 

 

「……!」ツルギ

 

 

「ツルギ!退いて!」ヒナ

 

 

 

また別の一団は、足元を魔法で凍結され、身動きが取れなくなる。

白い霜が、靴から膝へ、じわじわと這い上がっていく。

 

 

 

「あ、足が、動かな──」正実モブ

 

 

 

そこへ、穿撃が一直線に撃ち込まれ、傷を刻んでいった。

光の槍が、遮蔽物ごと、生徒達を貫いていく。

 

 

 

「三班、応答しろ!……応答、しろ!」風紀委員B

 

 

 

返事は、無かった。

 

 

 

「やだ、やだぁッ!」万魔殿生徒C

 

 

「助け──」アリウス生徒X

 

 

 

悲鳴は、すぐに途切れた。

 

 

 

「みんな……みんなが……」風紀委員B

 

 

「立って!立ちなさい!まだ、終わってない!」ヒナ

 

 

 

ヒナの声は、半ば悲鳴に近かった。

 

 

 

「くっ……!このっ……!」ヒナ

 

 

 

眩暈から戻りかけたヒナが、デストロイヤーの引き金を絞る。

だが、弾丸は、赤い点の群れに阻まれ、奴まで届かない。

 

 

 

「ヒナ、無茶をするな!」サオリ

 

 

「分かってる、でも、このままじゃ、皆が……!」ヒナ

 

 

 

ヒナは、血が滲む程に、唇を噛み締めた。

 

 

 

「委員長、危ない!」風紀委員B

 

 

 

一人の風紀委員が、ヒナの前に飛び出した。

赤い光が、その肩を、容赦なく貫く。

 

 

 

「うッ……!」風紀委員C

 

 

「……やめなさい!盾になんて、ならないで!」ヒナ

 

 

「大丈夫、です、委員長こそ、倒れちゃ……駄目、です……」風紀委員D

 

 

 

そう言い残し、少女は、ゆっくりと崩れ落ちた。

小さな手から、銃が、ころりと零れ落ちた。

ヒナは、その身体を、咄嗟に抱き留める。腕に伝わる重みが、あまりにも軽かった。

サオリは、倒れたアリウスの生徒を庇うように、前に立ち塞がっていた。

 

 

 

「……お前達は、下がれ、ここは、私が持たせる」サオリ

 

 

「で、でも、姉さん……!」アリウス生徒B

 

 

「命令だ」サオリ

 

 

 

サオリの叫びも、ヒナの声も、爆音の中に呑まれていった。

 

 

 


 

 

 

気付けば、動ける生徒は半分になっていた。

"トフー"の言った通り、七千人以上いたはずの正義実現委員会、風紀委員会、万魔殿、そしてアリウスの生徒は、いつの間にか三千人ほどに減っている。

それでいて、"トフー"には疲労も、擦り傷一つ見られなかった。

 

 

 

「……っ、はぁ、はぁ……」ヒナ

 

 

 

ようやく視界を取り戻したヒナが、周囲を見渡す。

地面には、倒れた生徒達が累々と横たわっていた。

空から、冷たい雨が降り始めていた。

雨は、血の匂いを洗い流すように、静かに降り注ぐ。

 

 

 

「……被害、報告を」ヒナ

 

 

「正義実現委員会の残存は、およそ八百名です」正実モブ

 

 

「風紀委員会は、約千二百名、万魔殿は、およそ千名です」風紀委員

 

 

 

別の生徒が、震える声で、数を読み上げる。

 

 

 

「合わせて、動ける者は、およそ三千名、残る四千名以上が、戦闘不能です……」風紀委員

 

 

「……そう」ヒナ

 

 

「……あの化け物、傷一つも無い」風紀委員B

 

 

「それどころか、息も、乱していない……」正実モブC

 

 

 

別の生徒が、力無く呟く。

 

 

 

「アレほど居たのに……」正実モブC

 

 

 

その言葉に、返せる者は居なかった。

降りしきる雨の音だけが、重い沈黙を埋めていく。

 

 

 

「救護班も、もう、手が足りません!救護班にも負傷者が出始めて…」救護生徒B

 

 

「アリウスは、ほぼ全滅だ、……動けるのは、数人だけだ」サオリ

 

 

 

サオリは、首筋についた魔石の火傷の傷を堪えつつ、自分の首元の割れた宝石を見下ろした。

 

 

 

「サオリ、その傷は?」ツルギ

 

 

「平気だ、それより、お前こそ、腕が震えているぞ」サオリ

 

 

「……気のせいだ」ツルギ

 

 

「キキキ……万魔殿は、まだ、死んではおらんぞ」マコト

 

 

「マコト、その腕」ヒナ

 

 

「かすり傷だ、気にするな」マコト

 

 

 

血の滲む腕を、背中に隠しながら、マコトは強がってみせた。

マコトの声には、いつもの余裕が、無かった。

 

 

 

「議長、もう、弾薬が……」万魔殿生徒B

 

 

「ならば、拾って撃て、……それとも、お前達は、ここで終わるつもりか」マコト

 

 

「……いえ、まだ、戦えます!」万魔殿生徒C

 

 

「よく言った、万魔殿の名にかけて、一歩も退くな」マコト

 

 

「……委員長」風紀委員D

 

 

「……」ヒナ

 

 

 

絶望的な状況だった。

それでも、彼女達は歩みを止められない。

もし退けば、尊敬する先生には(彼女が愛した先生は)、もう二度と会えなくなる(浄化の名の下キヴォトスを滅ぼす)。

 

 

 

「……撤退、という選択肢は?」風紀委員C

 

 

「無い」ヒナ

 

 

 

ヒナは、即座に答えた。

 

 

 

「ここで退いたら、先生を、誰が取り戻すの!?」ヒナ

 

 

「……そう、ですよね」風紀委員V

 

 

 

ヒナは、雨に濡れた前髪を払い、遠くに立つ影を、真っ直ぐに見据えた。

その脳裏に、先生の元気な声が、蘇る。

もしあの人が、この光景を見たら、どんな顔をするのだろう。そう思うだけで、胸が痛んだ。

 

 

 

「先生は、いつも、私達の事を何よりも大事にしてくれた、……今度は、私達の番」ヒナ

 

 

「ああ、同感だ」ツルギ

 

 

 

ツルギは、血の滲む腕で、銃を構え直した。

 

 

 

「……あれは、私達の攻撃を、全て吸収した、正面から撃ち合っても、勝ち目は薄い」ツルギ

 

 

「魔石の出力が、桁違いだ、あちらが純正なら、私達のは、紛い物でしかなかった」サオリ

 

 

「……それでも、弱点は、必ずあるはず」ヒナ

 

 

「根拠は、あるのか」サオリ

 

 

「無い、でも、探す価値はある」ヒナ

 

 

 

ヒナは、雨音の中で、静かに考えを巡らせる。

あれ程の力を、無尽蔵に振るい続けられる筈が無い。そう信じる以外に、道は無かった。

 

 

 

「ならば、私が前に出て、時間を稼ぐ」ツルギ

 

 

「死ぬ気?」ヒナ

 

 

「死ぬ気は無い、……が、倒れるつもりも無い」ツルギ

 

 

「……私も、行く」サオリ

 

 

 

サオリは、役目を終えた魔石の残骸を、首から引き千切り、雨に濡れた地面へと投げ捨てた。

 

 

 

「キキキ……見せ場を、独り占めはさせんぞ」マコト

 

 

「あなたは、後ろ」ヒナ

 

 

「何を言う!ここで下がっては、万魔殿の名折れだ!」マコト

 

 

「……好きにして」ヒナ

 

 

 

ヒナは、小さく溜め息を吐いた。それは、ほんの僅かに、笑みを含んでいた。

 

 

 

「立てる者は、立って、立てない者は、後方へ、……無理は、しなくていい」ヒナ

 

 

「……いえ、私達も、行きます!」風紀委員B

 

 

「委員長一人に、背負わせません!」正実モブ

 

 

「私達だって、先生を、取り戻したいんです!」万魔殿生徒C

 

 

 

倒れた仲間達の傍らで、少女達が、ゆっくりと立ち上がっていく。

落ちていた弾倉を拾い、互いに分け合う。誰も、何も言わなかった。

雨に濡れた銃身が、鈍く光った。

 

 

 

「……行くわよ」ヒナ

 

 

 

ヒナはデストロイヤーを握り直し、雨の中を、一歩踏み出した。

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