The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
誤字脱字報告も同じく励みになります
共同戦線は、明らかに疲弊しきっていた。ふと見れば、戦える生徒はもちろん、立っていられる生徒さえほとんどいない。七千人を超えていた治安組織の構成員が、である。降り続く雨は焼け焦げた地面を濡らし、流れ出した血と泥を同じ色へと溶かしていた。
「……もう、三割も、残っていないかもしれません」風紀委員モブJ
「数えないで、数えれば手が止まる」ヒナ
ヒナは、それだけを短く言い捨て、銃を構え直した。
「……っ、はぁ、はぁ……」ヒナ
息をするたび、肺が焼け付くように痛む。雨の中で、ヒナは肩で息をしていた。あれほど火力を叩き込んだというのに、"トフー"の体には傷ひとつ見当たらない。
「撃て!撃ち続けろ!」風紀委員モブH
「弾が、もう……!」正実モブY
「銃身が、焼けて、もう持ちません……!」風紀委員モブY
「持たせろ!持たなければ、素手でも殴れ!」ツルギ
ツルギの怒号が、雨音を切り裂いて戦場に響き渡った。
「こっちも、残弾、僅かです……!」アリウスモブM
「落ちている弾倉を拾え!誰のでもいい!」サオリ
「サオリ、あれの障壁、何か気付いた事は」ヒナ
「……ある、攻撃を受けるたびに再構成されるが、その間に、わずかな隙ができる」サオリ
「つまり、そこを狙えば」ヒナ
「ああ、だが、一瞬だ。外せば、次はない」サオリ
サオリの声は、雨音の向こうから届いた。生徒達は倒れた仲間のそばで弾倉を拾い集め、互いに融通し合う。
「キキキ……万魔殿の底力、まだ、見せ切ってはおらんぞ……」マコト
「議長、もう、お身体が……」万魔殿モブC
「黙れ、私は、まだ立っている」マコト
マコトは血の滲んだ額を拭い、無理に笑って見せた。
「万魔殿の議長が、こんな所で、退けるものか……!」マコト
「……あなたは、本当に、ブレないわね」ヒナ
「当然だ、これが、私の流儀だ」マコト
その軽口が、凍りついた空気をほんの少しだけ和らげる。
「ヒナ!合わせろ!一点に火力を集中させる!」ツルギ
「でも、私の弾薬も、あと僅か……!」ヒナ
「構わん!残り全部、叩き込め!」ツルギ
「……分かった!」ヒナ
「全員、聞こえたな!合図で、一斉射だ!」ツルギ
ツルギは一度だけ目を閉じた。
「ハスミは、まだ病室で戦っている。私達が先に倒れるわけにはいかない」ツルギ
「……そうだな」サオリ
「は、はいっ!」風紀委員モブQ
雨の中、生徒達は震える手で再び銃を構えた。濡れた指先は、引き金の上で何度も滑った。
「落ち着いて、一発ずつ、確実に」風紀委員モブB
「……うん、分かってる」正実モブG
「…………今!」ヒナ
ヒナのデストロイヤーから、紫色の
ドガァ!
反動が骨の髄まで響いた。それでもヒナは、引き金から指を離さなかった。同時に、残るすべての銃口が一点へ向けられる。
ようやく弾幕がシールド外殻を破り、内殻に細い罅が走った。ただ、それだけだった。
外殻、損傷確認
感情のない声が、続けて淡々と告げる。
内殻、軽微損傷、修復開始
「……届いた」ヒナ
「……本当に、届いたのか?」ツルギ
「ええ、確かに、手応えがあった」ヒナ
一瞬、世界から音が消えた。"トフー"の冷たい目が、ゆっくりとヒナへ向けられる。
「委員長、これを!最後の弾倉です!」風紀委員モブI
「……ありがとう、必ず、無駄にはしない」ヒナ
ヒナは受け取った弾倉を、震える手でデストロイヤーに装填した。金属音が、雨の中で異様なほど澄んで響く。
ヒナの瞳に映っていた罅は、みるみる薄れていった。
「そんな……あれだけ撃ち込んで、傷が、消えるなんて……」正実モブQ
「……諦めない」ヒナ
「割れた……!割れましたよ、委員長!」風紀委員モブH
「やはり、再生するか」サオリ
「なら、再生が追い付かなくなるまで、撃ち込むだけだ」ツルギ
小さな歓声が上がった。雨の中ではあまりにも頼りない声だったが、それでも確かな希望を宿していた。
「いける、いけるぞ!諦めるな!」正実モブV
「そうだ、一点だ、あの罅を、広げろ!」風紀委員モブF
「アリウスも、続け!残った銃を、全て向けろ!」サオリ
「了解、サオリ姉さん!」アリウスモブD
誰かが叫ぶたび、倒れかけていた生徒達は再び顔を上げた。
視界は滲み、全身の傷が痛む。それでも、先生への想いだけは揺らがない。
「まだ、いける……!」ヒナ
「はいっ!委員長が、いる限り……!」風紀委員モブZ
「私達も、最後まで、付いて行きます!」万魔殿モブT
「……一緒に、行こう」ヒナ
彼女達は死力を尽くし続けていた。
「……ヒナ」ツルギ
「何?」ヒナ
「お前だけは、最後まで、立っていろ」ツルギ
「……縁起でも無い事、言わないで」ヒナ
「頼む、約束してくれ」ツルギ
「……分かった、約束する」ヒナ
「……ああ、頼んだぞ」ツルギ
その声音には、いつもの荒々しさがなかった。驚くほど穏やかだった。
ツルギは、小さく笑った。その笑みが何を意味するのか、ヒナはまだ知らなかった。
だが、それをあざ笑うように、"トフー"の攻撃はさらに熱を帯びていく。
脅威識別継続、『執行』続行
「……来る!全員、散開!」ヒナ
「無理です、数が、もう……!」風紀委員モブY
「く、来る……!散れ、散れぇッ!」正実モブZ
「遮蔽を使って!一人で突っ込まないで!」ヒナ
「は、はいっ!」風紀委員モブS
「ヒナ委員長、右翼が、崩れそうです!」万魔殿モブB
「持ち堪えて!すぐに、そちらへ回る!」ヒナ
残ったわずかな生徒を押し潰すかのように、高火力の技が何度も放たれた。穿撃が地面を抉り、光条が雨のように生徒達を貫く。爆風は瓦礫を弾丸のように撒き散らし、立っていた者達を次々と薙ぎ倒していった。
「しっかりして!誰か、救護を!」風紀委員モブI
「駄目だ、救護班も、もう動けない……!」救護騎士団モブH
「うわぁッ!」正実モブC
「議長、伏せて!」万魔殿モブI
「くっ……!無礼者め……!」マコト
「ぐぅッ……!」ハスミの部下の正実モブT
光条が肩口をかすめ、血が雨に混じって流れ落ちる。
「くっ……!」アリウスモブQ
「ハスミ先輩の分まで……!私達が、ここで……!」正実モブF
傷だらけになりながらも、少女は倒れた仲間の銃を拾い上げる。その腕はがくがくと震えていた。
「無理しないで!あなたも、もう、限界でしょう!」ヒナ
「大丈夫です、ヒナさん、まだ、撃てますから……!」正実モブZ
「……分かった、無理だけは、しないで」ヒナ
「もう、無理だよ、あんなの……」トリニティモブM
少女は、その場に膝をついた。
「立って、お願い、一人にしないで!」トリニティモブW
少女は震える声で首を横に振った。
「……ごめん、足が、動かないの……」トリニティモブL
すると、もう一人がその手を強く握った。
「大丈夫、私が肩を貸すから、一緒に行こう!」トリニティモブU
先生が化け物にされたとしても、彼女達は止まらない。いや、止まれなかった。背中には、倒れた仲間と、安全地帯で眠る先生の存在が、重くのしかかっていた。
「全員、下がれ!負傷者を、後方へ!」サオリ
残存対象減少、『浄化』継続
機械的な声が、淡々と生徒達の数を削っていく。
「……あれは、人の声じゃない」風紀委員モブH
「ええ、先生の声に、似ていても、先生じゃない」ヒナ
「くそっ……!ここで、終わって、たまるか……!」ツルギ
ツルギは血のにじむ腕で、散弾銃を撃ち続けた。撃つたびに傷口が裂け、黒い制服は赤く染まっていく。
「ツルギ先輩、もう、お身体が……!」正実モブD
「黙って、撃て!ハスミが、命を張って稼いだ時間を、無駄にするな!」ツルギ
「サオリ姉さん、あなたも、血が……!」アリウスモブB
別の生徒が、力なく首を振る。
「プラズマキャノン、再充填不可能です、魔石が、もう……」アリウスモブO
「ならば、残った銃で、撃つだけだ」サオリ
サオリは脇腹を押さえながらも、前線から目を逸らさなかった。指の隙間から、赤い雫が止めどなく滴り落ちている。
「……お前達を、巻き込んだのは、私だ。せめて、最後まで責任を取る」サオリ
「サオリ……」ヒナ
「勘違いするな、これは、私自身のためだ」サオリ
その時だった。
雨音すら遠ざかるような、ほんの一瞬の静寂が訪れる。
「……っ」ヒナ
膝ががくりと折れた。構え直そうとした腕は痺れ、思うように動かない。疲労は、すでに限界まで溜まっていた。ヒナは攻撃を見切れなかった。視界の端で青白い光が膨れ上がる。極太のビームが、真っ直ぐ彼女へ迫っていた。
「委員長!危な──」風紀委員モブF
青白い光が、ヒナの瞳の奥まで容赦なく染め上げる。
「委員長、下がって!逃げて!」万魔殿モブV
叫びが遠くで反響した。時間はやけにゆっくり流れていく。光の奔流が、雨粒を一つ残らず蒸発させていった。
──死ぬ。
その直感が、全身を凍りつかせた。足が動かない。雨に濡れた地面が、ひどく遠くに感じられる。ここで倒れたら、あの人は本当に戻って来られなくなる。そんな考えが脳裏をよぎった。一瞬だけ、先生の笑顔が浮かぶ。
次の瞬間、横から強い衝撃が走った。
「ッ!?」ヒナ
何が起きたのか、理解が追いつかない。誰かに蹴り飛ばされたのだ。ヒナの身体は宙を舞い、瓦礫の上を転がった。硬い破片が背中を打ち、肺から空気が抜ける。顔を上げたヒナの目に映ったのは、ビームの前に立つ一人の背中だった。見慣れた、血に濡れた背中だった。
「……ツルギ!?」ヒナ
「ツルギ委員長ッ!」正実モブO
悲鳴じみた叫びが重なって響く。
「ツルギ先輩、どうして、そんな……!」風紀委員モブQ
「ツルギ、駄目、戻って!」ヒナ
ヒナの叫びは轟音に掻き消された。その声は、誰の耳にも届かなかった。
ツルギはヒナを振り返らない。口元が、わずかに緩んだように見えた。その横顔は、どこか安堵しているようですらあった。自分の身の安全も、生存の保証さえも引き換えに。
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