The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
誤字脱字報告も同じく励みになります
「きゅ、吸血族……?」ヒフミ
「聞いた事がありません……キヴォトスに、そんな種族は居ない筈です!」レイナ
「そんなグループも、学園も、噂すら聞いた事が無い」アズサ
「ですよね……私も、初めて聞きました」ヒフミ
「ま、まさか、お、お化けの仲間じゃ……」コハル
天幕の隅で、五人は顔を見合わせた。疑問が、一気に広がっていく。
聞き慣れない言葉が、天幕の空気を、ひやりと冷やした。
外では、雨が、ざあざあと音を立てていた。
「当然だ、あくまでも
「キヴォトスの話じゃ、ない……?」ヒフミ
「先生が住んでいた、かつての世界の種族という事ですね?」ハナコ
「ああ、そう考えて貰って良い」隆一
「先生は、どうして、そんな事をご存じなんですか?」ヒフミ
「…膨大な知識の山の中の、ほんの一本の木に過ぎないけどな」隆一
隆一は、それ以上は語らず、小さく息を吐いたようだった。
「少し長くなるが、聞いてくれ」隆一
ハナコが小さく頷き、全員が耳を傾けた。
ハナコの手は、眠る隆一の手を、しっかりと握ったままだった。
ヒフミは無意識に手帳を開き、コハルは無意識に姿勢を正す。
「吸血族の寿命は、千年以上、非常に長い」隆一
「せ、千年!?」ヒフミ
「遥か古代には不老不死だったらしい、これでも遥かに短命になった方だ」隆一
「せ、千年……」コハル
「千年も生きるなんて、想像も、つきません……」レイナ
「千年も生きて、一体何を想うんだ?」アズサ
「千年も、勉強し続けるなんて、私には、無理!」コハル
張り詰めていた空気が、ほんの一瞬だけ、緩んだ。
「私達の十倍以上ですね…」ヒフミ
「適応能力が高いが故に、人類が生存不可能な領域に突入する事も出来る。そうして人類のフロンティア拡大や科学の発展を、支えてきた種族でもある」隆一
「人類の発展を、支えてきた……」ハナコ
「ただ、彼らは基本的に人間や動物の生き血、或いは死後の血を摂らないと、生きられない」隆一
「ち、血を、飲むって、事ですか……?」ヒフミ
「ああ、人間が水を必要とするようなものだ。屠殺場で働きながら血を集めて、仲間に血を売り渡していた奴だっていた。」隆一
コハルは、思わず、自分の首元を押さえた。
その様子を見て、アズサが、小さく息を吐く。
「大丈夫です、コハルちゃん、先生は、必要な分だけだと、仰っています」ハナコ
「わ、分かってるわよ!ちょっと、びっくりしただけ!」コハル
「まあ、動物の血を摂取しないと生きられない特性が故、社会で多数派を占める人族からは『血飲み子』と蔑まれ、差別を受けてきた」隆一
「……ひどい」ヒフミ
「血を飲まなきゃ、生きられないだけなのに、そんな言い方……」コハル
ヒフミは、悲しそうに、眉を下げた。
ペンを走らせる音だけが、天幕の中に、小さく響いている。
手帳を持つ指先に、力が籠もる。
「……言葉の暴力も、立派な迫害です」レイナ
「ええ、私達も、似たような争いを、よく知っていますから」ハナコ
レイナの声は、静かで、けれど、揺るぎなかった。
「そして見た目の特徴になるが、彼ら彼女らは混血を除いて、ほぼ全員が赤い目をしていて、犬歯も発達してる」隆一
「混血、ですか…?」ハナコ
「尚、異なる種族同士との間に生まれた者は、見た目では種族の判別が付かない場合も多い」隆一
隆一の説明は、淡々と、続いていく。
「そして純血の吸血族が持つ発達した犬歯や赤い目など特徴的な身体は、科学が発展する前には『悪魔の胤裔』と呼ばれ、迫害の憂き目に晒された」隆一
「赤い目……」アズサ
アズサは、先程の患者の言葉を、思い出していた。
「真っ赤な目で、私達を、見下ろしてた。」
その言葉が、今のアズサには嫌なほど刺さった。
「……さっきの、証言と、一致します」レイナ
「サナ達を、あんな目に遭わせた奴の正体が、やっと分かった……」コハル
「赤い目、翼、そして、人間とは思えない再生力……全部、繋がりましたね」ハナコ
「だとしたら、先生を、あんな形にした人達を、私は、許せません!」レイナ
レイナは、静かに、けれど、はっきりと言い切った。
「そして寿命が長い分、繁殖には積極的じゃないし数も少ない、世界人口のほんの1000分の1にも満たない」隆一
「たった、1000分の1……」ヒフミ
「それだけ少なければ、噂にもならなかった、という事でしょうか?」ハナコ
「尤も、この世界ではそもそもの吸血族自体、
短い沈黙の後、隆一が、再び口を開く。
「勿論科学や魔術が発達した現代じゃ大半は人間社会に溶け込んでるが、過去の迫害の歴史から人間を憎んだり、或いは文明社会そのものを拒絶したりする者も少なくない」隆一
天幕の中に、静かな沈黙が落ちた。
誰もが、言葉を探すように、視線を落とす。
「もちろん、百人が百人人間の敵という訳じゃない、それだけは誤解しないでくれ」隆一
「はい、……分かっています」ヒフミ
「……人間を恨む吸血族なら、人間である先生を利用しても、不思議ではありませんね」ハナコ
「そんな、酷い事、許せない……!」コハル
「……迫害された側の気持ちは、少し、分かる。私も…そうだったからな」アズサ
アズサは、静かに、自分の掌を見つめた。
「アズサちゃん……」ヒフミ
「大丈夫、私はもう、昔の私じゃない」アズサ
「はい、今は私達が付いていますから!」ヒフミ
コハルは、ぎゅっと拳を握り、唇を噛み締めた。
「あぁ、そこは今は良い」隆一
隆一は、気を取り直すように、声の調子を改めた。
「そして話は戻すが、問題は"トフー"の倒し方だ」隆一
隆一の声が、僅かに低くなる。
五人は、無意識に、息を詰めた。
眠る隆一の身体は、静かな寝息を、立てている。その上に、声だけが、淡々と重なった。
「奴らは生存力も高い、人間なら致命傷、なんなら即死するような傷でも瞬間的に再生する」隆一
「瞬間的に、再生……」アズサ
「先生のその…意識を元に、元の身体に戻す方法は、あるんですか!?」レイナ
「勿論ある……そのためにも、まず、あれを止める必要がある」隆一
「だから、あれだけの攻撃を受けても、傷一つ無かったんですね」ハナコ
「首を刎ねても、再生するのか?」アズサ
「ああ、もし火力でゴリ押すならば、脳味噌と心臓、それと主要な内臓を粗方肉体ごと、そしてそれらを同時に撃ち抜かないと無理ゲーの領域に近い」隆一
アズサは、悔しそうに、唇を噛んだ。
「……それなら、何としても、当てるしかない」アズサ
「そんな奴と、俺の肉体が混淆した、厄介極まりない」隆一
その声には、焦りと、微かな苛立ちが滲んでいた。
「こ、混淆って、ど、どういう事ですか?」ヒフミ
「簡単に言えば、混ざり合って、一つになった状態だ」隆一
「先生の意識は、ご無事、なんですよね?」ハナコ
「ああ、『今のところは』、な」隆一
短い返事に、ハナコは、そっと胸を撫で下ろした。が
「ただ、アイツがどのような生き物かも判別がつかない以上、迂闊に殺すことも出来ない」隆一
「!?どういう事ですか!?それって…」ハナコ
「俺とアイツの関係性を確定させる必要がある」隆一
「関係性?」コハル
疑問そうに首を傾げるコハルに対し、彼は淡々と答える。
「もしアイツが仮に俺と同一個体であった場合、お前らがアイツを討てば、この世界は『補習授業部の生徒が天音隆一を殺害した』と判断する。そうすればお前らは下手人として囚われか流浪の身に成る」
その言葉に、補習授業部の面々の顔がどんどん青ざめて行く。
「或いは俺が"トフー"をブチ殺したとしても、それを『自殺』と判断すれば一方を討つどころか刺し違えてDead Endなんてシナリオも十二分に有り得る」隆一
「そんな……どうすれば……」コハル
コハルの声は、不安に震えていた。
「ま、まさか、倒す方法無いんじゃ……」コハル
「でも、弱点はある」隆一
「弱点、ですか!?」レイナ
レイナが身を乗り出す。
「銀だ!」隆一
五人が、はっと顔を上げた。
「ぎ、銀……?」ヒフミ
ヒフミは、慌てて、手帳に、その一文字を書き込んだ。
「銀って、アクセサリーとか、食器とかに使われる、『あの』銀?」コハル
「ああ、『その』銀だ。純度が高い程、効果は期待出来る」隆一
「数は、どれくらい要る?」アズサ
「可能な限り多い方が良い。だが、一発でも、確実に当てられなければ意味が無い」隆一
「……分かった、銃撃は、私に任せて!」アズサ
「頼もしいですね、アズサちゃん」ヒフミ
「……ああ、必ず、当てる」アズサ
「元々『穢れている』と差別されていた吸血族には、銀という弱点がある」隆一
皮肉な話だ、と言いたげに、隆一の声が、僅かに沈んだ。
「穢れている、なんて、そんな理由で……」ハナコ
ハナコは、静かに、目を伏せた。
「大昔の迫害の時にも、銀の剣や銀の弾丸で、吸血族が山程殺された」隆一
「銀の、弾丸……」アズサ
「"トフー"に効く、数少ない手段が、それ、という事ですね?」ハナコ
「あぁ、今一番、効く可能性が高いのがそれだ」隆一
隆一の声が、力強く、五人の頭に響いた。
「だが、もう時間が無い、ヒナ達はもう限界に近い、急いでくれ!」隆一
「はい!」ヒフミ
天幕の外では、雨がまだ降り続いている。
遠くで、爆発音が、鈍く響いた。
そのたびに、天幕の布が、微かに震えた。
雷鳴にも似た振動が、足元の地面を、ゆっくりと揺らしていく。
「……ヒナさん達は、今も、戦っているんですよね?」ヒフミ
「はい、だからこそ、一刻も早く、届けないと」ハナコ
「……銀の弾丸を、用意しないと」ヒフミ
ヒフミは、ぐっと拳を握り、自分に言い聞かせるように、頷いた。
「でも、ここに、銀なんて……」コハル
「あるかもしれない、救護所には、いろんな物資が、集まっている」アズサ
「……そ、そうね、探すだけなら、タダだもの!」コハル
「探せば、きっと、見つかります、……諦めるのは、まだ、早いです」ヒフミ
ヒフミの声は、震えていたが、不思議と、力強かった。
「トリニティには、聖具としての銀の燭台があった筈です!」ハナコ
「それなら、正義実現委員会の方々も、協力してくれるかもしれません!」ヒフミ
「ええ、事情を話せば、きっと」ハナコ
ヒフミは、手帳の隅に、改めて大きく「銀」と書き留め、丸で囲んだ。
「ミレニアムからの使節団づてに探せば、きっと加工の方法も、あるでしょう!」レイナ
「だが、ここから、どうやって連携を取る?」アズサ
「通信は、さっきから、ノイズだらけでした、……あの攻撃の影響かもしれません」レイナ
「そこは、俺が何とかする、お前らは一先ず銀の確保を優先してくれ」隆一
「ヒナさん達にも、この事を、伝えられれば、いいんですが……」ヒフミ
「前線への伝達も、俺が何とかする、少しだけ、時間をくれ!」隆一
「では、手分けしましょう、私は、トリニティの救護所に、聞いてみます!」ハナコ
「私は、ミレニアム方面へ、連絡手段を探します!」レイナ
「私とコハルは、ここの正実の人達に、銀製品が無いか、聞いて回る!」アズサ
「わ、分かったわよ!任せなさい!」コハル
「私は、記録を取りながら、皆さんの間を、繋ぎます!」ヒフミ
「ああ、頼んだぞ!」隆一
「先生、……この戦いが終わったら、ちゃんと、全部、話して下さいね!」ハナコ
「……ああ、約束する」隆一
その言葉が、嘘ではない事を、ハナコは、静かに信じた。
「それと、全員、無事で戻って来い、それが条件だ!」隆一
「はい!必ず!」レイナ
五人は、静かに頷いた。
どんどんファンタジーな世界になってきました。
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