The Hypocrite's Archive   作:Xelphyr

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囮

「銀を、少し分けていただけませんか?」ヒフミ

 

 

「銀……?武器でも弾薬でもなく?」正実モブJ

 

 

「は、はい、銀です。できれば純度が高いものが……」ヒフミ

 

 

「す、すみません。他を当たってください……」正実モブV

 

 

「待ってください。お願いします、一欠片でも構いません!」ヒフミ

 

 

 

答えの代わりに、遠くで切迫した怒号が響いた。ヒフミは深く頭を下げると、次の生徒のもとへ駆け出した。雨に濡れたその背中は、小さく震えていた。

救護所の周囲では、補習授業部とレイナが走り回っていた。だが、武器弾薬ならまだしも、『銀』を求める彼女達の姿は、事情を知らない生徒達の目には、何かおかしな者のように映った。

 

 

 

「銀って、アクセサリーとか?今それどころじゃないでしょ!」風紀委員モブF

 

 

「頭でも打ったのかな……」トリニティモブS

 

 

「ち、違うんです。本当に必要で……!」コハル

 

 

 

誰一人、取り合ってはくれなかった。

 

 

 

「必要だって言うなら、まず弾薬を寄越せって話でしょ。こっちは手一杯なの!」風紀委員モブX

 

 

「ご、ごめんなさい……でも、本当に、大切な事なんです……」ヒフミ

 

 

 

風紀委員の生徒は、その多くが眉をひそめ、足早に立ち去った。仕方がないのだろう。憧れの存在であり、委員長でもあるヒナが切迫した状況である以上、自分達も迂闊に気を抜けない。補習授業部の面々にも、それは嫌というほどわかった。

 

 

 

「銀?知らんな。他を当たれ」万魔殿モブX

 

 

「今、忙しいので……すみません」救護騎士団モブP

 

 

 

どの生徒も、疲れ切った顔で首を横に振るばかり。

 

 

 

「……やっぱり、駄目、ですね」ヒフミ

 

 

「まだ全部回ったわけじゃない。諦めるのは早い」アズサ

 

 

「うん、……そうですよね」ヒフミ

 

 

「何なのよ、もう!こっちは真面目に頼んでるのに!」コハル

 

 

 

コハルは悔しさをこらえるように、唇を強く噛んだ。

 

 

 

「事情を話せない以上、致し方ありません」レイナ

 

 

「でも、先生の事を話したら、混乱を招くかもしれない」アズサ

 

 

「ええ。慎重に進めるしかありません」レイナ

 

 

「公的な要請としてお願いする事はできませんか」ヒフミ

 

 

「上の許可が無いと物資は動かせない。悪いけど」風紀委員モブY

 

 

「……そう、ですよね」ヒフミ

 

 

 

ヒフミは悔しげに、小さく唇を噛んだ。

 

 

 

「公式の手続きだと、時間が掛かり過ぎる」アズサ

 

 

「ええ、……ですが、このままでは時間だけが過ぎていきます」ハナコ

 

 

「先生は、前線ももう持たないと仰っていました」レイナ

 

 

「……分かってる。でも、どうすれば……」アズサ

 

 

 

ハナコは静かに周囲を見回した。そこには、負傷者のうめき声と慌ただしい足音が満ち、誰もが自分の事で精一杯だった。

 

 

 

「……ハナコちゃん、どうしよう」ヒフミ

 

 

「心当たりはあります。ただ、……あまり気は進みませんが」ハナコ

 

 

 

小さく息を吐いてから、ハナコは顔を上げた。

 

 

 

「銀の食器や燭台、聖具なら、あるかもしれません」ハナコ

 

 

「聖具……」アズサ

 

 

「シスターフッドなら、持っているかもしれません!」ヒフミ

 

 

「ええ、聖具や祭具を扱う方々なら、話を聞いてくれる筈です!」ハナコ

 

 

 

ハナコは、ふとある一団の姿を思い浮かべた。

 

 

 


 

 

 

「──銀、ですか」サクラコ

 

 

 

ただ一箇所、シスターフッドの野営地を除いて。簡素な天幕の中で、修道服の生徒達が静かに祈りを捧げていた。淡い蝋燭の光が、濡れた布の壁に揺れる影を落としている。雨音に混じり、低く澄んだ祈りの声が響いていた。

 

 

 

「はい、理由は今は申し上げられません。ですが、必要なんです」ハナコ

 

 

 

サクラコは静かに頷いた。祈っていた修道女達も、そっと顔を上げ、二人のやり取りを見守る。

 

 

 

「銀は、私達にとって『聖なる金属』です。尊ぶべきものですから」サクラコ

 

 

「ハナコさんが、意味もなく求めるとは思えません」サクラコ

 

 

「サクラコさん……ありがとうございます」ハナコ

 

 

「私はただ、ハナコさんを信じているだけです」サクラコ

 

 

 

その言葉に、ハナコの胸はわずかに温かくなった。

ハナコは深く頭を下げた。その隣で、ヒフミ達も慌ててそれに倣う。

 

 

 

「先生は、ご無事でしょうか…?」サクラコ

 

 

「……眠っておられます。でも、必ず戻って来て下さると信じています」ハナコ

 

 

「ええ、私もそう信じています」サクラコ

 

 

 

ハナコの答えを聞き、サクラコは安堵したように息を吐いた。

 

 

 

「私達も、毎夜、祈りを捧げています」サクラコ

 

 

 

サクラコは静かに目を伏せ、言葉を続けた。

 

 

 

「ですが、ご存じの通り、シスターフッドも今は多くの負傷者を抱えています」サクラコ

 

 

「無理をお願いしている事は、承知しています」ハナコ

 

 

「いいえ、ハナコさんの頼みであれば、理由は聞かずとも構いません」サクラコ

 

 

「はい、承知しています。ですから、少量でも構いません」ハナコ

 

 

「分かりました。倉庫を確認させましょう」サクラコ

 

 

「かしこまりました、すぐに」シスターフッドモブV

 

 

 

まもなく、数名の修道女が銀の燭台や十字架、小さな皿を布に包んで運んできた。

 

 

 

「こちらが、倉庫にあった銀製の品々です」シスターフッドモブL

 

 

布の間から、銀の燭台が蝋燭の光を鈍く反射している。

 

 

「これだけあれば十分です。本当に、ありがとうございます」ハナコ

 

 

「お、重い……!銀って、こんなに重いのね……」コハル

 

 

「コハルちゃん、無理しないで。私も持ちます」ヒフミ

 

 

 

ハナコはなおも続けた。

 

 

 

「それと、もう一つ。ユスティナ聖徒会の時代に使われていた、銀の弾丸の鋳型はありませんか?」ハナコ

 

 

「銀の、弾丸……?」ヒフミ

 

 

 

サクラコの眉が、ごくわずかに動いた。天幕の中に、一瞬だけ張り詰めた沈黙が落ちる。それでも、サクラコは理由を問い質そうとはしなかった。

 

 

 

「……古い記録にあった筈です。手配しましょう」サクラコ

 

 

「ありがとうございます、サクラコさん」ハナコ

 

 

「礼には及びません。……どうか、皆様に■のご加護がありますように」サクラコ

 

 

 

サクラコはやわらかく微笑んだ。

 

 

 

「過去の遺物が、再び誰かを救う力になるのなら、本望です」サクラコ

 

 

「サクラコ様……」シスターフッドモブK

 

 

 

サクラコは、そばの修道女に静かに頷いてみせた。

 

 

 

「アズサさん、その弾丸が正しき道を貫きますように」サクラコ

 

 

「……ありがとう。必ず役目を果たす」アズサ

 

 

 

ハナコの伝手もあり、鋳型はほどなく届けられた。埃をかぶった木箱の中には、年代も形も異なる鋳型がいくつも収められていた。

 

 

 

「規格はバラバラですね……」レイナ

 

 

「合うものがあれば良いのですが」ヒフミ

 

 

「口径も形状もこれだけ違うと、一つ一つ確かめるしかありませんね」ハナコ

 

 

 

アズサは鋳型を一つずつ手に取り、愛銃と見比べていく。その真剣な眼差しに、誰もが息を潜めて見守った。

 

 

 

「……これは違う」アズサ

 

 

 

アズサは別の鋳型を手に取った。

 

 

 

「こっちも駄目だ」アズサ

 

 

「うう、なかなか見つからないわね……」コハル

 

 

「焦らないで、コハルちゃん」ヒフミ

 

 

「……あった」アズサ

 

 

「これなら、私の銃に合う」アズサ

 

 

「本当ですか!?」コハル

 

 

 

アズサは小さく頷き、鋳型をそっと掌に包み込んだ。冷えた金属の感触が、じわじわと体温に馴染んでいく。

奇跡のような一致だった。ひとまず、弾丸の問題は解決した。

 

 

 

「良かった……本当に、良かったです」ヒフミ

 

 

 

ヒフミは安堵の息を吐き、胸に手を当てた。

 

 

 

「あんなにあっさり協力して貰えるなんて……」コハル

 

 

「それだけ、ハナコちゃんが信頼されているって事ですよ」ヒフミ

 

 

 

ハナコは照れ隠しのように、小さく微笑んだ。

 

 

 

「これも、サクラコさんのお陰ですね」ハナコ

 

 

「……後で、必ずお礼を」レイナ

 

 

 


 

 

 

だが、次の問題が待っていた。救護所の天幕で、隆一の声が低く響く。

 

 

 

「弾が100万発あっても、あの化け物を狙撃するのは、ほぼ不可能だ」隆一

 

 

「……どういう事だ?」アズサ

 

 

「既に"トフー"は、高度な警戒体制に入っている」隆一

 

 

「警戒体制……」アズサ

 

 

「狙撃手の位置を、撃たれる前に割り出せる。そう考えた方が良い」隆一

 

 

「もしかして、マシロが狙撃に失敗したのって…」コハル

 

 

 

それは、運ばれてきた生徒の証言だった。正義実現委員会の狙撃手、マシロは狙撃を試みたものの、逆探知を受けた。そして例の鞭で、一瞬のうちにノックアウトされたという。

 

 

 

「狙撃は、無理ですね」ハナコ

 

 

「逆探知までされてしまうなんて……」ヒフミ

 

 

「撃つ前に見つかるのでは、どれだけ腕が良くても意味が無い」アズサ

 

 

「そうなると、攻撃を当てるには、陽動で隙を作って、そこを撃ち抜いて離脱する。ヒットアンドアウェイしかない」隆一

 

 

「ヒットアンドアウェイ……」ヒフミ

 

 

「そうだ。一発で仕留められなくても、確実に当てて、すぐ離れる。それを繰り返すしかない」隆一

 

 

「撃ち終わったら、すぐ離脱ですね」レイナ

 

 

「ああ。一箇所に留まれば、逆探知で終わる」隆一

 

 

 

天幕の中は静まり返った。

 

 

 

「でも……陽動する戦力が、もう…ほとんど倒れてしまっています……」ヒフミ

 

 

「動ける方々は、皆さん前線に出払っています。残っているのは治療中の方だけです」ハナコ

 

 

「ああ、その通りだ。無理に動かせば死人が出る」隆一

 

 

「……それは、私達にも分かっています」ヒフミ

 

 

 

対"トフー"戦で、現場はほとんどの戦力を使い果たしていた。救護所にあふれる負傷者の数が、その事実を無言で物語っている。それを実行する余力は、ほぼ残っていなかった。

 

 

 

「……っ」アズサ

 

 

 

歯がゆさに、アズサの肩が小さく震えた。

 

 

 

アズサは愛銃のグリップを、白くなるほど強く握り締めた。

 

 

「それでも、諦める訳にはいかない」アズサ

 

 

「ええ、……何か方法があるはずです」ハナコ

 

 

 

そう言いつつも、ハナコの声はわずかに揺れていた。

 

 

 

「弾はある。撃つ人も居る。あと一つ、足りないのは……」レイナ

 

 

 

レイナはそこで言葉を切り、ゆっくり首を振った。

 

 

 

「あれの注意を引き付けてくれる、誰か」ヒフミ

 

 

 

誰も、その続きを口にできなかった。

 

 

 

「だったら、私が囮になる!」コハル

 

 

「駄目です、コハルちゃん」ハナコ

 

 

「それは無謀だ。一瞬で倒される!」アズサ

 

 

「……分かってるわよ、そんな事!」コハル

 

 

 

コハルの声は、悔しさで掠れていた。

 

 

 

「せめて私にも、ハスミ先輩みたいに、もっと力があれば……」コハル

 

 

「コハルちゃん……」ヒフミ

 

 

 

ヒフミはそっとコハルの背中に手を添えた。

五人は、頭を抱えるしかなかった。外では、雨が降り続いていた。

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