The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
誤字脱字報告も同じく励みになります
最後の特攻を仕掛けるべく、陽動用の戦力集めが始まった。救護所の外の広場に、動ける生徒が疎らに座り込んでいる。
救護所の天幕からは、治療を受ける生徒のうめき声が、途切れ途切れに漏れてくる。広場の隅では、救護騎士団の生徒が、息を切らしながら包帯を運んでいた。
雨に濡れた包帯、煤けた制服、膝を抱えたまま動かない背中。トリニティもゲヘナもアリウスも、此処では見分けがつかない程に、疲れ切っていた。
最初に声を掛けたのは、ヒフミだった。声が裏返りそうになるのを堪え、地面に座る生徒達の前へ進み出る。
「陽動に、協力して頂けませんか?」ヒフミ
「あの化け物に、また突っ込めって……?」正実モブA
「無理だよ、ハスミ先輩でも一瞬だったのに……」正実モブC
「お願いします、少しの間だけで良いんです、"トフー"の注意を引き付けて頂ければ……」ヒフミ
「その少しの間で、何人やられたと思ってるんだ!?」正実モブB
「ちょっと!あんた達、それでも正義実現委員会なの!?」コハル
「……分かってる、でも、あれを見ると足が動かなくなるんだ」正実モブC
「責める事は出来ません、私達も、同じものを見ましたから」レイナ
「ゲヘナの私達が、トリニティの為に、命を張る義理なんてない!」風紀委員モブB
「これは、トリニティだけの問題ではありません!」ハナコ
「"トフー"を止められなければ、次に踏み潰されるのは、貴女達の自治区かもしれないんです!」ハナコ
「……っ」風紀委員モブB
誰もが、疲れ果てていた。それでも、ヒフミは諦めずに、一人ずつ顔を覗き込み、頭を下げて回る。
「皆さんが戦って下さった事、ちゃんと、分かっています」ヒフミ
「だから、もう一度だけ、力を貸して下さい!」ヒフミ
「……ヒフミ、顔、真っ青だよ…」コハル
「だ、大丈夫です、私より、皆さんの方が……」ヒフミ
それでも、座り込んだ生徒達は、なかなか立ち上がろうとしなかった。
そこへ、ミカが一歩前に出る。
「みんな、聞いて」ミカ
ざわめきが、少しだけ静まった。
短く切り揃えた髪が、雨に濡れて頬に張り付いている。その姿に、驚いた様に目を瞬かせる者もいた。
「私、聖園ミカは、
「そんな私が、頼める立場じゃないのは分かってる」ミカ
「怖いのは、私も同じだよ、でも、これ以上、誰かが倒れていくのを見ているだけなのは、もう嫌なの!」ミカ
「…あの時の私は、自分が正しいと思い込んでた、その結果が、今のこれ」ミカ
「でも、先生を助ける為に、力を貸して」ミカ
ミカは、深く頭を下げた。
雨音だけが、広場に降り続ける。誰かが息を呑む気配がした。
「……ミカ様が、そう仰るなら」パテル分派モブA
「私も、行きます!」パテル分派モブB
「ミカ様を、一人で行かせたりしません!」パテル分派モブA
「みんな……ありがとう」ミカ
「頭を上げて下さい、ミカ様、私達は、貴女の為に戦いたいんです!」パテル分派モブC
「……うん」ミカ
ミカの声が、僅かに震えた。それでも、彼女は顔を上げ、一人一人の目を真っ直ぐに見つめ返す。
ミカを慕う生徒を中心に、一人、また一人と立ち上がる。そこから、波紋のように広がっていった。
「……分かったわ、此処で座ってたって状況は変わらないし」正実モブA
「ヒナ委員長が戦ってるのに、私達が座ってるなんて、格好悪いよね」風紀委員モブD
「そうだな……やるか」正実モブE
一人、また一人と、重い腰を上げていく。誰も口にはしなかったが、その表情には、恐怖よりも先に、意地の様なものが浮かんでいた。
重かった空気が、少しずつ動き出していく。
コハルは、そんなミカの背中を、じっと見つめていた。
「……ミカさん、やっぱり、凄い人なんだ」コハル
「えぇ、あの方は、昔から、人を惹き付ける力を持っていますから」ハナコ
「……なのに、どうして、一人で全部背負おうとするんだろう?」コハル
「それは、私にも、分かりません」ハナコ
「でも、だからこそ、一人にはさせたくありません」ハナコ
「……はい」コハル
日が傾き始めた広場には、先程よりも多くの生徒が集まっていた。それでも、前線で戦い続ける生徒に比べれば十分な人数だった。
「……あんた達、何やってんだ?」イオリ
その時、瓦礫の向こうから、聞き慣れた声が響いた。
「イオリさん!?」ヒフミ
風紀委員会の銀鏡イオリだった。避難誘導を終え、駆け付けて来たらしい。
肩で息をしながら、泥だらけの靴で瓦礫を乗り越えてくる。
「避難誘導は済ませた、残ってた連中は、全員安全な所まで送ったぞ?」イオリ
「そうでしたか、お疲れ様です、本当に助かりました」ハナコ
「それより、此処で何を集めてる?」イオリ
「はい、"トフー"の注意を引き付ける為の戦力を、集めています」レイナ
「……なるほど、で、指揮を執ってるのは、あんたか?」イオリ
イオリの視線が、ミカの顔で止まった。僅かに、眉が寄る。
「……聖園ミカ」イオリ
「久しぶり、イオリちゃん☆」ミカ
「トリニティの、あのティーパーティーのホストだった奴が、こんな所で頭を下げてるとはな」イオリ
「あはは、変だよね」ミカ
「でも、今の私に出来るのは、頭を下げる事くらいだから」ミカ
「……謝るなら、全部終わってからにしろ、今は、使える戦力が一人でも多い方が良い」イオリ
「うん、ありがとう」ミカ
「ううん、私はただのお願い係、作戦を考えたのは、此処に居る皆だよ」ミカ
「ふぅん……まぁ、誰が指揮でも関係ない」イオリ
「ヒナ委員長が、まだ前線なんだろ、私も行く」イオリ
「イオリさん、ありがとうございます……!」ハナコ
「べ、別に、あんた達の為じゃないからな、委員長を、これ以上一人にしたくないだけだ」イオリ
「それでも、嬉しいです」ヒフミ
「う、うるさい」イオリ
「ゲヘナの風紀委員長の右腕が来てくれるなんて、心強いじゃない!」コハル
「右腕じゃない、ただの一隊員だ」イオリ
「ヒナさんは、今、どんな状況ですか?」レイナ
「前線で、"トフー"の鞭を捌き続けてる、委員長でも、そろそろ限界に近い筈だ」イオリ
「アコちゃんも後方でずっと走り回ってる、また無茶してないと良いけど」イオリ
「……イオリちゃん、心配なんですね」ヒフミ
「ち、違う!ただ、あいつ、すぐ一人で抱え込むから……」イオリ
「ふふ、ミカさんと、少し似ていますね♡」ハナコ
「え、私?」ミカ
「うるさい、さっさと準備しろ!」イオリ
イオリは顔を背け、銃のスライドを乱暴に引いた。その耳が、僅かに赤い。
「イオリさんが居てくれて、本当に心強いです」ヒフミ
「だ、だから、そういうのは良いって言ってるだろ」イオリ
緊張で強張っていた生徒達の間に、小さな笑いが広がった。
何の奇跡か、貴重な戦力が合流した。
ミカとイオリを中心に、戦力は徐々に整いつつあった。
ただ、本当の作戦は、彼女達には口が裂けても言えなかった。
「……ハナコ」アズサ
「分かっています」ハナコ
ハナコは、集まった生徒達を静かに見渡した。
包帯を巻き直す者、銃の手入れをする者、仲間と肩を寄せ合う者。誰もが、生きて帰る為にここに立っている。
彼女達は、言うなれば『捨て駒』だった。その運命を、敢えて知らせない方が、士気は保てる。
それが、ハナコの下した判断だった。
嘘を吐いている訳ではない。ただ、口に出さないだけだ。そう言い聞かせても、五人の胸の奥に刺さった棘は、消えてくれなかった。
「私達が、今していることは、正しいのでしょうか?」ヒフミ
「正しいかどうかは、結果で決まります、今は、成功させる事だけを考えましょう」レイナ
「……ハナコちゃん」ヒフミ
「分かっています、ヒフミちゃんの気持ちも」ハナコ
「正しいかどうか、私にも、分かりません、ですが、この選択以外に、道はありませんから」ハナコ
「……全員が帰れる保証は、ない」アズサ
「えぇ、だからこそ、成功させなければいけません、彼女達の覚悟を、無駄にしない為にも」ハナコ
「……ごめんなさい」ハナコ
小さな呟きは、雨音に消えた。
「……ハナコ」隆一
隆一の声が、ハナコの意識にだけ、静かに届く。
「その判断は、お前一人で背負うな、俺も、同罪だ」隆一
「……先生」ハナコ
「だから、絶対に、成功させんぞ?」隆一
「……はい」ハナコ
武器弾薬は、十分に揃った。
あとは、前線のヒナやマコトの元へ向かうだけだった。
補給所から運ばれた木箱を、生徒達が手際よく分け合っていく。弾倉を叩く乾いた音と、金具の擦れる音が、天幕の周りに重なり合った。アズサは自分の銃の弾倉を一つずつ確かめ、銀の弾丸を収めた小さな箱を、懐に仕舞い込んだ。
「アズサちゃん、無茶だけは、しないでね…」ヒフミ
「それは、ミカにこそ言うべきだ」アズサ
「あはは、それは、ちょっと約束出来ないかな〜…」ミカ
「……皆、頼む」隆一
皆の意識に、隆一の声が静かに響いた。ミカは僅かに目を細め、それから前を向く。
「…アズサちゃん…」ミカ
「……何だ?」アズサ
「私が突っ込んだら、その後ろは、お願いね」ミカ
「……あぁ、必ず、援護する」アズサ
「うん、アズサちゃんが後ろに居るなら、私、何も怖くない」ミカ
アズサは何も言わず、小さく頷いた。その指先が、銃のグリップを強く握り締めている。
「十分後に出発します!各隊、持ち場と装備を、最終確認して下さい!」レイナ
「了解!」生徒達
レイナの指示で、集まった生徒達が隊列を組み直していく。正義実現委員会、風紀委員会、ミカを慕う者達、所属も立場も異なる彼女達が、いつの間にか、一つの塊になっていた。
「先生の事、絶対に取り戻すわよ!」ヒフミ
「うん、約束する」ミカ
「みんな、準備は良い?」ミカ
「いつでも行けます!」パテル分派モブC
「こっちも、問題ない」風紀委員モブD
「……全員、覚悟は出来てるわ!」正実モブW
疎らだった広場に、確かな足音が重なっていく。雨に濡れた銃口が、一斉に前を向いた。
ミカが銃を握り、前を向く。
「行こう、先生を、取り戻しに」ミカ
その言葉を合図に、『
題名が某吸血鬼漫画だって?ハハッ
更新の頻度はどれぐらいにしてほしい?
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