The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
誤字脱字報告も同じく励みになります
月明かりの下、一行は足を止めたまま、辺りを見回していた。木人形は片付けたものの、"トフー"の姿は、依然として何処にも無い。耳の奥を引っ掻く様な音は、止む気配を見せなかった。
「この音……さっきより、大きくなっていませんか!?」ヒフミ
「近付いている、のか?」風紀委員モブR
「いえ、違います、これは……」レイナ
甲高い悲鳴のような音の正体は何か、そう迷ったそのその刹那、
巨大な光の束が、一行を襲った。
「なっ──」アズサ
──ズドォォォォォンッ!
そう、悲鳴の正体は、彼が月を背にした超遠距離からのアウトレンジ攻撃だった。
アリウスの生徒達が首に下げていた魔石、数百個分の魔力の塊が、一行を瞬く間に呑み込み、消し飛ばす。
視界が、白く塗り潰された。熱と衝撃が、全身を叩き、音という音が、一瞬だけ消え去る。次に聞こえたのは、地面が裂ける轟音と、誰かの悲鳴だった。
「ぐああッ!?」風紀委員モブR
「きゃあああッ!」正実モブK
光が収まった後、地面には抉れた大地と、倒れた生徒達だけが残っていた。
先程まで立っていた場所は、巨大なクレーターへと変わり、細かな瓦礫の欠片が、ぱらぱらと雨の様に降り注いでいる。
あちこちで、生徒達が呻きながら身を起こしていく。吹き飛ばされた瓦礫の陰で、誰かが泣いている声がした。月明かりの下、土煙が薄く立ち込め、視界は驚く程に悪かった。
「う……ぐ……」ミカ
ミカは、土煙の中で、ゆっくりと身を起こした。右腕が痺れ、耳鳴りが止まない。
「み、皆さん、無事ですか……!?」ハナコ
ハナコの声が、掠れていた。彼女自身も、頬に血を滲ませている。
「……何とか、生きてる」アズサ
「アズサさん、肩から血が……」レイナ
「掠っただけだ、問題ない」アズサ
「こちらも、大丈夫です!」レイナ
「ヒフミちゃん!コハルちゃん!」ハナコ
「だ、大丈夫、です……」ヒフミ
「な、何なのよ、今の……!あんなの、反則じゃない!」コハル
「コハルちゃん、落ち着いて下さい、まずは、周囲の確認を!」ハナコ
「わ、分かってる……!」コハル
二人の無事な声に、ハナコは、ほんの少しだけ息を吐いた。しかし、安堵は、すぐに焦りへと変わる。
その時、ハナコの意識に、隆一の声が割り込んだ。
「全員、生きてるか!」隆一
「はい、先生、何とか……ですが、負傷者が!」ハナコ
「分かってる、まずは、自分達の無事を確かめろ、すぐに次が来る!」隆一
「……了解です」ハナコ
「ヒナ委員長!」イオリ
「……平気、少し、掠っただけ」ヒナ
「ヒナ、あれは何だ、あんな攻撃、見た事がないぞ!」マコト
「私も、初めて見た、さっきの鞭とは、桁が違う」ヒナ
「キキッ……!まったく、とんでもない玩具を持っておるなアイツ!」マコト
「玩具で済む話ではありません!」ハナコ
「あの距離から……?まさか、あれだけの射程で、狙って……」ヒナ
「……魔力だ」サオリ
サオリが、呻く様に呟いた。その視線は、光が放たれた先、夜空の彼方を睨んでいる。
「アリウスの生徒が首に下げていた魔石、あれの数百個分は…」サオリ
「そんな事が、出来るのですか!?」レイナ
「普通は、不可能だ、だが、奴なら……」サオリ
「……私の仲間達の魔石が、あんな形で」サオリ
サオリの拳が、小さく震えていた。その横顔に、誰もが声を掛けられずにいる。
「サオリさん……」ミカ
「……今は、構うな、前を見ろ」サオリ
その声は、いつもより、ほんの少しだけ掠れていた。ミカは何も言わず、小さく頷く。
誰もが、言葉を失った。
「こ、こっちにも負傷者が!誰か、手を貸して!」正実モブK
「担架が足りない、とにかく、動ける奴は引っ張り出せ!」風紀委員モブR
「ゲヘナの、そっちの子は無事か!?」正実モブK
「まだ息がある!誰か、救護の人を呼んで!」風紀委員モブR
悲鳴と怒号が、入り乱れる。自分達が奇襲を仕掛ける筈だったのに、気付けば、自分達が、敵の奇襲の術中に嵌っていた。狩る側だった筈の自分達が、いつの間にか、狩られる側になっていた。
「……やられた」アズサ
「ですが、あの攻撃は、連発出来る訳ではない筈です!多分…」レイナ
「チャージに、時間が掛かっていた、だから、次までには、数分の猶予がある!」アズサ
「じゃあその数分で、何が出来るっていうの!?」コハル
「……それを、今から考えます」ハナコ
「奴は、最初から、私達が来るのを待っていたのですね」ハナコ
「私達が負傷者の救出に気を取られている間に、じっくりと、力を溜めていたんだ」アズサ
「……最悪の形で、足元を掬われましたね」レイナ
「それでも、全員が、まだ戦える状態ではあります、立て直しましょう」ハナコ
「立て直す、って言っても、どうやって…」コハル
「まずは、集まり過ぎない事です、固まっていると、次の一撃で、一網打尽にされます」ハナコ
「分かりました、すぐに、皆さんに伝えます」ヒフミ
ヒフミが走り出し、周囲の生徒達に声を掛けて回る。ツルギは、イオリと救護騎士団の生徒の手によって、瓦礫の陰へと運ばれていった。
「だから、気配が、消えていたんだ」ミカ
ミカは、唇を噛み締めた。月の光が、残酷な程に、明るかった。
「……ごめん、私が、もっと警戒していれば」ミカ
「ミカさんのせいではありません、誰も、あの攻撃は予測出来ませんでした」ハナコ
「そうだ、悔やむ暇があるなら、次の事を考えろ」サオリ
「……うん、そうだね」ミカ
「大丈夫、まだ誰も、倒れてない、まだ戦える」ミカ
ヒナが、ふらつく足で一歩前に出た。月を睨む瞳は、疲れ切っているのに、鋭さだけは失っていない。
「次が来る前に、陣形を崩すわ、固まらず、遮蔽物を使いながら、距離を取って」ヒナ
「了解しました、各隊に、そう伝えます」レイナ
光の束による混乱の最中だった。
「……え?」コハル
コハルは、自分の胸元を見下ろした。
赤い点が、一つ、輝いている。
「何、これ……」コハル
「取れない……!擦っても、消えない!」コハル
「コハルちゃん、落ち着いて」ヒフミ
「だ、だって、これ、絶対にヤバい奴でしょ!?」コハル
「動かないで、コハルちゃん、触っては駄目です」ハナコ
「こ、これ……」ヒフミ
「私の胸にも……」レイナ
生徒達の胸に、次々と赤い点が灯っていく。
点は、一人、また一人と増えていき、夜の荒野に、小さな赤い星座を描いた。
「風紀委員の私にも、付いてる……!」風紀委員モブR
「ゲヘナも、トリニティもアリウスも関係なく、全員か」正実モブK
「……狙いは、最初から、私達全員だったんだ!」風紀委員モブR
「こっちもだ、全員に付いているぞ!」正実モブK
「服の上から消そうとしても、全然取れない……!」風紀委員モブR
「触るな!下手に弄ると、何が起きるか分からない!」正実モブK
「これは、照準……?」ヒナ
「遠くから狙われている、という事ですね」ハナコ
「この点が、標的の位置を、教えているのでしょう…」レイナ
「じゃあ、点が灯っている間は、ずっと追われてるって事?」コハル
「…恐らくは」レイナ
「……最悪ね」ヒナ
「えぇ、あの距離で、全員を同時に」ヒナ
「まさか、全員を、同時に狙っているのか」マコト
敵が、移動を始めたのだ。赤い点は、風に揺れる蛍の様に、彼女達の胸の上で、静かに明滅している。それが、かえって不気味だった。
「……見られている」隆一
隆一の声が、全員の意識に、低く響いた。
「あの赤い点は、レーザーサイトの様な物だ、狙われている間は、必ず、次の一撃が来る」隆一隆一
「だったら、動き続けるしかない、って事ですね」ハナコ
「あぁ、止まったら終わりだ」隆一隆一
「アズサちゃん、光の方向は…」ヒフミ
「ある程度は分かる、だが、遠過ぎる、私の銃では、届かない」アズサ
「でしたら、今は、避ける事を最優先にしましょう」ハナコ
「私が、囮になって、相手の狙いを引き付けるのは」コハル
「駄目です、コハルちゃん、それは、無謀過ぎます」ヒフミ
「で、でも、誰かがやらなきゃ……!」コハル
「その気持ちだけで、十分です、今は、生き残る事だけを考えて下さい」ハナコ
「……分かった」コハル
「ミカさん」ハナコ
「うん、分かってる」ミカ
「ミカ、無茶だけは、するな」アズサ
「大丈夫、私は、そう簡単には、やられないよ」ミカ
「……だと、良いんだが」アズサ
ミカは銃を握り締め、赤い点の灯る自分の胸を、ちらりと見下ろした。恐怖は、確かにある。けれど、不思議と、足は震えていなかった。
自分が一番頑丈だと、先程、そう言った。ならば、その言葉を、此処で証明しなければならない。
その静寂を切り裂く様に、夜空の彼方から、『あの音』が、再び聞こえてくる。
──キィィィィィィンッ!!
再び、甲高い悲鳴のような音が響き始めた。
「また、あの音……!」コハル
「く、来るぞ、全員、身構えろ!」正実モブK
「でも、どこへ逃げれば……!」風紀委員モブR
「止まるな!とにかく、動き続けるんだ!」正実モブK
「チャージが、始まりました!」レイナ
「来る……!全員、離れて!」ミカ
ミカの鋭い声が、夜の荒野に響き渡った。
「全員、動いて!早く!」ハナコ
「散れ!固まるな!」イオリ
「ヒナ委員長、私の後ろへ!」イオリ
「イオリ、私は大丈夫、それより自分の事を」ヒナ
「ふん、こんな所で終わる私ではない!」マコト
「万魔殿の議長が、此処で逃げ回る姿など、見せられるものか!」マコト
「文句を言う暇があるなら、足を動かして」ヒナ
「分かっておる!」マコト
「マコト、あなたも走って」ヒナ
「分かっておるわ……っ、クソッ足が、思う様に動かん」マコト
「肩を貸す、掴まれ」サオリ
「な、貴様、アリウスの分際で……!」マコト
「文句は後で聞く、今は走れ!」サオリ
更新の頻度はどれぐらいにしてほしい?
-
1日〜2日に1本
-
2日〜3日に1本
-
1週間に1本
-
2週間に1本
-
つべこべ言わず毎日書け♡