The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
ミレニアムサイエンススクール、屋上
一般の生徒は足を踏み入れる事ができない場に佇む2つの影。片方はスーツのような制服の上にジャケットを羽織っているユウカ、もう一人はクラシカルなメイド服を纏っている。
冷たい風が2人の間を流れた。メイド服のスカートがゆらゆらと揺らめき、布の裏側に仕込んだ爆弾が金属音を奏でる。
「……そのまさかよ」
ドアを背にユウカは語る。その表情はあまり明るくなかった。そりゃそうだ……何せ、ゲーム開発部とヴェリタスがセミナーを襲撃すると知ってしまったのだから。
「なるほど、俄かには信じ難いお話ですね。あんなに可愛らしいのに……セミナーを襲撃しようだなんて、人は見かけによりませんね?」???
そしてユウカの前に立っているのはクラシカルなメイド服を着ている少女、
「純粋な子達よ。そこだけは間違いないわ。でも……いえ、だからこそ、時にはとんでもない悪戯をしたりもする。それに、単騎ならまだしも、今回はヴェリタスも絡んでるの」
「ヴェリタスも、ですか……少々珍しい組み合わせですね」アカネ
「そうでもないわ。大事な物の為に手段は厭わないって点で、ヴェリタスとゲーム開発部はよく似ているもの……はぁ…なんでよりにもよって
「
「ヴェリタスの他に、もう一人協力者がいるのよ……」
ユウカは『はぁぁぁ……』と大きなため息をついてしゃがみ込む。ゲーム開発部とヴェリタスが襲撃してくる、これもかなりの問題だが……一番の問題はもう一人の協力者、それがかなり大問題。
「……独立連邦捜査部顧問天音隆一、あの人が今回の変数よ」
「先生が?……いや、しかしそれはありえないのでは?先生は独立連邦捜査部に属する者、そんな方が自分の立場を危うくするであろう事を行うとは思わないのですが」アカネ
独立連邦捜査部に所属している先生が襲撃なんてすれば、独立連邦捜査部がセミナーを軽視或いは敵視していると思われるのだから絶対に無いだろう。とアカネはそう考えていた。
「ん〜……わかってない、わかってないわね、アカネ」ユウカ
「(何故でしょう、すごくイラっとしますね)」アカネ
「先生は、立場とか権力とかそういうのに関心を見せない。自分の立場が危うくなろうがどうなろうが……いや、むしろ自分の立場が危うくなればなるほど、そんな状況でまるでオーケストラを奏でるように戦い、ゲームのように愉しみ、愉悦に浸る…そんな人よ。もし仮に危ない事がなければ、刺激を求めて自らの立場を危うくする事すら厭わない」
「成程、かなり危険人物というわけですね……しかしご安心を、いくら先生の力があるとはいえ、私達C&Cが敗北することなど」アカネ
「ある……全然ある…」
「……はい?確かに相手の兵力はこちらよりも多いですが?おまけにヴェリタスもゲーム開発部も戦闘力は無も同然。例えその『先生』が強いとはいえど、他が烏合ならば数で押し切れるはずです…」アカネ
「いや、足りない…足りないのよ。先生一人に対してセミナーとC&C、保安部だけじゃ絶対に足りない。たとえエンジニア部、いや、トリニティやゲヘナが束になっても、勝てる確証はないわ」
「………先生は普通の人間なので、そんな心配はいらないのでは?」アカネ
「…………いや、先生は、普通の人間じゃない」
ユウカはアカネに自分のスマホを見せる、そのスマホには初日、彼がワカモの銃撃を真正面から受けながら、吹き飛んだ顔が再生している様子だった。ユウカ自身も、あの場面で盗撮してた事がこんな形で役立つとは思ってもなかった。
「……?」
「しかもこの弾丸、放った相手は災厄の狐。並のキヴォトス人が病院送りになる一撃を敢えて受け、まるで
「……………幻覚ではなくて?」アカネ
「本気よ。正直に言うけど、相手をキヴォトス人だと思っちゃダメ。一回死んだら百回生き返って殺しにかかってくる覚悟で望まないと。そして何より、先生のバックには連邦生徒会がいる。迂闊に先制攻撃をすれば、連邦生徒会に叛逆の意思ありと看做されて、学園ごと取り潰しを喰らう可能性があるから慎重にね。」
「………」アカネ
「とりあえずネル先輩に連絡できない?あの人と先生をぶつける以外には手がないんだけど……保安部も他の部の無力化で忙しくて…」ユウカ
「……ネル先輩、今、不在なんです」アカネ
「あーそうなの?なら早く………え、不在?」ユウカ
「はい。ミレニアムの外郭地区に用事があるそうでして」アカネ
ネル、C&Cの部長にしてキヴォトスでもトップクラスの戦闘力を持っている人物。その人に頼ればなんとかなると思っていたユウカだったが……今その人は不在だった。
「ご安心を……リーダーが居るときのC&Cが一番強いのは紛れもない事実ですが、防戦であるのならば私達だけの方が良いかもしれません。リーダーは壊す事に特化した人ですから……では、改めまして。依頼はお受けします」アカネ
「そう言ってくれてありがたいわ……あ、それからもう一つ言っておかないとダメなんだけど」ユウカ
「はい」アカネ
「先生は武器を持ってる。近距離戦になれば凶器を投げ、白兵戦になってでも戦う。迂闊に戦うと最悪死ぬわ。あの人はキヴォトス人の弱点を理解している。噂によると彼にカツアゲした不良は首と手首をナイフで切り刻まれた後、謎の薬を飲まされ意識を失ったなんて…黒い噂が絶えない人だから、気をつけた方が良いわ」ユウカ
「ゲーム開発部、そしてヴェリタスを
C&Cのリーダー、ミレニアム最強のネル……彼女の不在。それは一行が勝利を掴む可能性をかなり高めた情報だった。
「けどあの人達はリーダーがいなくても単体で十分強いんだよねぇ…」マキ
「だから正面衝突を避けて、『鏡』だけを奪って逃げる。」ハレ
「メイド部3人のうち一人は私たちでなんとかできる計画を立てた、けど残りの二人は先生に任せたい」コタマ
「分かった」隆一
「けど……本当に大丈夫かなぁ。先生が頑張ってくれるとはいえ、セミナーに喧嘩を売るなんて…」モモイ
「お姉ちゃんがやるって言い出したんでしょ?」ミドリ
「そ、それはそうなんだけどさぁ……やっぱり…」モモイ
そして、ゲーム開発部。彼女達にとって本件は死活問題だ。この作戦が成功するか否かで、部活の未来が大きく左右されてしまう。
先生としても、彼個人としても……その想いには最大限応えてあげたい。
しかし、ゲーム開発部、並びにヴェリタス、エンジニア部の味方をするという事はセミナーと対峙する事を示す。ミレニアムの校則を強引に、しかも秘密裏に改正し、認可非認可を問わない数多くの部活から危険物、と名目をつけた様々な道具を簒奪した彼女達と。
「やってみようよお姉ちゃん……いや、やろうよお姉ちゃん!」ミドリ
「ミドリ…」モモイ
ミドリは銃を持ち今の意気込みを話す。
「
皆で一緒に居るための、大切な場所だから。だから少しでも可能性があるなら、私はそれに賭ける。例えメイド部やセミナーと対峙する事になっても、それがどれだけ危険だとしても……私は、守りたいの。
アリスちゃんの為に、ユズちゃんの為に。私達全員の為に」
自分の居場所を、守りたいものを守る為に、その目はかつてないほどに燃えていた。
そんなミドリに呼応するようにアリスもまた立ち上がり一歩を踏み出す事を決意する。
「私達ならできます。伝説の勇者は……世界の滅亡を食い止めるために魔王を倒します。アリスは数多のRPGをプレイして、勇者達が魔王を倒すために必要な、一番強力な力を知りました………一緒に居る仲間と、そこに在る絆です!」
「アリス……うん、そうだね。確かに、そうだよ」ユズ
モモイは二人の意見に同意すると、ゆっくりとしかし強く頷いた。
「よし、やろう! セミナーの差押品保管所に潜入して、『鏡』を取り戻す!」
こうして、ゲーム開発部の全員がセミナー襲撃の決意を固める。
「先生も、危ない事だけど……お願い!」マキ
「分かった」隆一
「ハレ!」マキ
「計画はもうできるよ」ハレ
「さっすが!!」
「でも、やっぱり……旗印だね」コタマ
隆一はニヤリと笑う。
「こんな事もあろうかと」
そんな事を言いながら、彼は持っていたカバンの中から布を取り出す。
そこには、今回の対セミナーの戦いを象徴する、旗が描かれていた。
ミレニアムの校章、それを囲むように刻まれた「
「ついさっき、ミレニアムの色んな生徒に協力要請をしたが、作戦には十二分の生徒が協力を承諾してくれた。勿論、エンジニア部もだ。」
「えっ!?」
「ホント!?」
「ああ、マジマジ、大マジだ。もう俺らは叛逆者じゃねぇ。
こうして、ゲーム開発部はヴェリタスにエンジニア部、その他数多くの仲間を引き入れる事に成功した……そして
決戦の火蓋が、切って落とされた。