The Hypocrite's Archive   作:Xelphyr

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会敵

青い髪の少女と頭を抱え出し本気で心配した後、隆一はリンに聞く。

 

 

 

 

「リン、さっきフィクサーっつってったが…俺をどうするつもりだ?」

 

 

 

 

リンは咳払いと溜息を重ねたうえで、丁寧に説明を始める。

 

 

「シャーレは単なる部活ではなく、一種の超法規的機関です。連邦組織のため、キヴォトスに存在するすべての学園の生徒たちを制限なく加入させることも可能で、各自地区において制限なしの戦闘行為も可能です」

 

 

「………どゆこと?」*1

 

 

「…つまり、貴方は様々な生徒を味方につけて、何時でも何処でも戦えるという意味です」

 

 

「…マジか」(え、俺戦うの?)

 

「先生、でいいんですよね…?」

 

「ああ、『天音先生』でも『隆一先生』でも良いぞ」

 

 

「そういえば、自己紹介がまだでしたね、私はミレニアムサイエンススクール生徒会(セミナー)所属の早瀬(はやせ)ユウカです!」

 

「ゲヘナ学園風紀委員会所属、火宮(ひのみや)チナツです。よろしくお願いします、先生」

 

「トリニティ総合学園正義実現委員会所属、羽川(はねかわ)ハスミです」

 

「同じく、トリニティの自警団の守月(もりづき)スズミです。先生、よろしくお願いします」

 

 

「よろしくなみんな…えっと、色々と大変だと思うんだがな。リンもいきなり上司がいなくなって大変みたいだ。だから──俺が言ったらお節介になるかもしんねぇが、あんまし責めないであげてくれ」

 

「「「「!」」」」」

 

「そ、そんな!隆一先生の事をべ、別に責めているつもりは……」ユウカ

 

「と…とにかく!シャーレの部室は先程もお伝えしたように、ここから約30km離れた外郭地区にあります。そして、連邦生徒会長の命令で、そこの地下に『とある物』を持ち込んでいて、今すぐ先生をそこへお連れしなければなりません。今すぐ屋上のヘリで…」

 

 

リンがそう言いかけた、その時であった。

 

 

「あ、リン先輩?」???

 

 

突然、どこからか通話が繋がる。

 

 

「モモカ、今一体…」リン

 

 

「今ね、矯正局を脱走した生徒が騒ぎを起こしてる。今は部室周りが戦場だよ」

 

 

戦場という言葉に隆一はシンプルに驚き、身体の中で何かが騒ぎ出す*2。そしてリンの顔はどんどん暗く不愉快さを滲ませていく。

 

 

「なんか連邦生徒会に恨みを抱いた生徒が、仕返しを目的に暴れてるんだってさ。どこから引っ張ってきたのか知らないけど、まで手に入れてきたみたい。それで、連邦生徒会の建物であるシャーレを占拠しようとしてるんだって……あ、お昼のデリバリー来た!じゃ、お昼先もらうね〜……あ、念のため言っとくけど今は激戦地区にヘリは出せないからね〜。ま、あんなとこには誰も用はないしいっか。また連絡するね〜」

 

 

 

緊急事態とは思えない相手の緊張感の中、通話が一方的に切られてしまった。

 

「………………」

 

「…ギリ中指立てても許されそうな奴だったな」隆一

 

「いえ………少々問題は発生しましたが、たいしたことではありません。」リン

 

「……丁度よく、暇そうな方々もいらっしゃいますしね。」チラッ

 

「ふぇ?」

 

 


 

 

「痛っ!!アイツらホローポイント弾使ってるじゃない!?」

 

 

 

 

隆一達一行の前には破壊された建物や不良達が銃火器を持ち暴れ回っている…普通ならありえない世紀末な世界に隆一はドン引きしていた。

 

 

 

 

「ユウカ、伏せてください。それにホローポイント弾は違法指定されている弾薬ではありません。」ハスミ

 

「ミレニアムではもうすぐ違法になるの!!当たると傷跡が残るでしょ!?」ユウカ

 

「すっげー、お祭りみてぇな煩さだな」隆一

 

「先生…銃を知らないんですか?」ユウカ

 

「銃…持ってるぞ?」隆一

 

「…え?」一同

 

到着するまでの間、生徒達は彼に対して、キヴォトスについて簡単な説明をした。嘗ての世界には魔法や超能力が存在するため、科学技術と混淆する事で一つの「技術」として昇華してきた。一方で、そうした超能力や魔法を持たない、或いは先天的に・後天的に魔力や能力の保持・行使が不可能な人間("持たざる者")も一定数存在しており、そうした人間("持たざる者")の為にも科学技術は蔑ろにされる事はなかった。そうした技術の坩堝で育った彼にとっては、魔法と科学が同時に存在するのはあまりにも日常であり、どちらかが欠けた世界など考えられなかったのだ。だからこそ、科学一辺倒でこれほどまで発達した文化を築いているキヴォトスが、彼の目にはあまりにも異質で仕方がなかったのだ。

 

そして彼は、キヴォトスについて、以下の事を覚えた。

 

 

 

 

・現実世界の国家に学園が該当し、連邦生徒会は国際連盟に該当する。

・首府としてD.U.、ウトナピシュティム地区が該当する。

・キヴォトスでは日用品として銃や弾薬が一般的に販売されており、嘗ての世界のスマホのように基本的に誰でも銃を携行している。

・キヴォトスの生徒や市民は銃撃や爆発に耐える能力を持った体を持ち合わせており、生徒はヘイローがその印となっているが、一方でヘイローがないキヴォトス外の人間にとっては危険が伴う。

・科学によって非常に発達した文明を獲得している。

 

 

 

 

「…やっぱただの綺麗なゴッサムシティじゃねぇか」

 

「私達は体が頑丈なので、被弾しても軽傷を負う程度で済みますが……先生は外の世界から来た方です、たった一発でも、当たれば命の危険があります」

 

「てかさっきから思ってたけど……あいつらなんか纏まりがよくない!?ただのチンピラがあそこまで連携取れるはずないのに!」

 

ユウカが愚痴をこぼしていたその時。

 

「…皆さん、シャーレ付近を占領している不良達の指揮官が判明しました」

 

電話越しに、リンの声が響く。

 

「あ、リンか。つまりアイツらはただのゲリラじゃねぇ、なんらかのカリスマによって率いられた戦闘集団って訳か?その指導者は?」

 

「はい、名前は狐坂(こさか)ワカモ……矯正局から脱走した七囚人の一人、"災厄の狐"の異名を取るほどの戦闘狂です。本人の戦闘力もさることながら指揮能力も高く、不良たちの煽動を得意とすることからキヴォトス各地が被害を受けています。容姿に関しては"狐の面"と"和服"です。この地区では珍しい服装なので、一目で判別可能なはずです」

 

「……見えた、あれか」

 

彼は何処からか取り出したオペラグラスで、それを視認したようだ。

 

「いったいどこからそれを、先生……──それにしても、まさか"災厄の狐"まで脱走しているとは思いませんでしたが。先生はここで……」

 

あ?

 

ワカモを捉えたユウカたち。これから殴り込みに行こうとしたが、彼は半ギレ──

 

その理由は、すぐに分かった。

 

「何馬鹿な事言ってんだ?戦うに決まってんだろ」

 

 

 

 

得意げにリボルバーを取り出しながら、彼はそう口にする。

 

 

 

 

「!?せ、先生!いくら何でも…」ハスミ

 

「そうですよ!貴方はキヴォトスの人間ではない!」ユウカ

 

当然だ。銃弾や爆発の耐性が低いキヴォトス外部の人間は、戦う以前に外に出る事が危険だ。ましてや戦闘が起きてる街区に出るなど、ただの手の込んだ自殺そのものだ。

 

しかし、彼はそんな街区に、嬉々として向かおうとしている。

 

 

 

「『兵は神速を貴ぶ』、早めに終わらせるとするよ」

 

そう言いながら、彼は装甲車を降り、ワカモの元に向かった。

 

「…何故でしょうね」ハスミ

 

彼が居なくなった車内に、ハスミの声が響く。

 

「どうしました?」ユウカ

 

「…先生、なんだか勝てそうな気がするんですよ。理由は一切分かりませんが」

 

 


 

 

 

 

「おい」

 

 

 

 

「あ?なんだあいつ?」

 

「せ…先生!!?」

 

 

 

 

彼は、戦場となった都市区画のメインストリートのど真ん中で、遮蔽物も何もない場所でぽつんと立って丸腰の状態で不良たちに話しかけていた。

 

「姉御、なんですかねあいつ?」

 

「さあ、あのような生徒が存在したとの話は聞いたことがありませんでしたが……しかし、なんともまあ──間抜けな表情ですこと」

 

「どうします?あいつ、ヘイローないっぽいですけど」

 

 

 

 

 

 狐面の少女・ワカモは、立っている隆一を見つめている。キヴォトスではほぼ見られない人間の男、それもヘイローを持たない人間を前に、不良たちも攻撃を躊躇っている様子だったが──ワカモだけは、言い知れぬ違和感と興味をもって彼の事を見ていた。

 

 

 

 

 

「…堅気に手ェ出すなとか、最低限の倫理道徳はこの世界に存在しないのか?それか無視していると?」

 

 

 

 

 

「説教……ですか」

 

そう言いながら、ワカモは銃を構える。

 

「あ、姉御!?」不良α

 

「私のことはいいのです、貴女達は後ろに控える装甲車を制圧なさい。あの小童(人間)は私が片付けます」

 

 

彼の言葉に苛立ったワカモが、小銃を構える。

 

 

「い、いいんですか!?流石にまずいっすよ!あいつヘイローないんですよ!?もし姉貴が撃ったらあいつ──」不良β

 

「誰の許可を得て意見しているのですか?

蜂の巣にされたくなければさっさと従いなさい」

 

「──っ!?は、はいぃぃぃっ!」不良α&β

 

 

 

 

「駄目です先生!早く物陰へ隠れてください!!」ハスミ

 

「うるせぇっ!引っ込んでろ正実風情!優等生だからって調子乗ってんじゃねぇぞ!!」不良γ

 

「待ってて下さい、今すぐそっちに──あぁもう、邪魔しないでよ!?」ユウカ

 

「こっちの台詞だ!お前らと連邦生徒会の連中のせいで矯正局にぶち込まれて、こちとら鬱憤溜まってんだ!」不良Δ

 

 

 

 

(撃たれて手出しができない……!このままでは、先生が…!──っ、先生!!)

 

 

 

 

ユウカたちが隆一を助けに走り出すも、その目先に不良たちが銃弾を降り注いで行く手を阻む。その射線は辛うじて隆一の頭上や真横を通り抜けるが、遮蔽物に隠れるしかない彼女たちは彼に近付けなくなってしまった。

 

そうして安全を確保しつつ邪魔が入らないことを確認したワカモが、彼に声を掛ける。

 

 

 

 

「見知らぬ殿方?」

 

「ん…あ…俺?」

 

「私────説教は、大嫌いなんです」

 

 

 

 

ワカモは、愛銃『真紅の災厄』の銃口を彼の顔面に向けた。狐面越しに覗き込むリアサイトから、フロントサイトと彼の頭を一致させ、その引き金に指を伸ばす。周囲の不良たちや、遮蔽物から顔を出す四人は恐怖に震え上がる──が、ワカモは何の躊躇もなく、

 

 

 

 

バンッ!!

 

 

 

 

「「「「先生っっ!!」」」」一同

 

 

 

 

ワカモは迷いなく引き金を引き、深紅の凶弾を放った……防ぐものもない彼の顔面に弾丸が命中し、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グチャッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「…………!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

想定外の事態が起こった。彼に直撃した弾丸は彼を穿ちながら、彼自身の顔の一部が血と火薬の臭いとともに赤く弾け飛び、辺り一体に嘗て彼の一部を成していた"ソレ"が散乱する地獄絵図となっていた。

 

 

 

 

「先生!」

 

 

 

 

ユウカの悲痛な叫び声が、辺り一体に響く。ワカモもここまでとは思わず、顔を顰めて背く。そして不良達は恐怖のあまり持ち場を離れようとする…

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

…な〜に終わった感出してやがんだ?

 

 

 

 

顔の一部を失った彼が、ゆらりと立ち上がる。

 

「へ?ん?え?えぇ?」一同

 

「──す…スズミさん?私…疲れてるんですかね…今、撃たれた先生が…まるで何事もなかったかのように、立ち上がったんですけど……」ハスミ

 

「私も見た……そんなバカな」スズミ

 

 

 

 

 

 

 

困惑する生徒達を尻目に、彼の顔はグジュグジュと血汚い音を立てながら再生を始める。最初に吹き飛んだ右目が顔の下から生えてくるように再生し、次に欠けた脳が元に戻るように再生する。そして最後に千切れた顔の皮膚が彼の顔を模るように修復を始め、10秒もすれば彼は被弾前の傷ひとつない状態になっていた。常軌を逸脱した光景に簡単に不良たちは集団パニックに陥る。だが一番困惑しているのは、撃った張本人であるワカモだった。

 

 

 

 

 

 

 

(―うそ…え?……今…私の…攻撃を…受け流しましたの?え?)*3

 

 

 

 

「九九式短小銃…よく使っていたものよ。"あの日"も大切に持っていたものだ」

 

 

「──っ、喧しいですね……丸腰の貴方なんて怖くありませんわ」

 

「…丸腰か」

 

彼はそう口にしながら、腰のホルスターに手を伸ばす。そして次の瞬間

 

 

 

 

──彼のリボルバーから放たれた銃弾は一切のブレもなく飛翔し、ワカモの耳とコメカミを掠めて空の彼方へと飛び去った。そして、弾丸の衝撃で狐面の右半分が砕ける。しかしこれほどの威力を誇りつつも、彼には反動などによる一切のダメージを感じさせず、尚且つ極めて正確なコントロール───

 

 

この瞬間、ワカモは彼の自身の間にある大きな隔たりを察した。

 

「──そん…なことが……可能、と?…ふ…フフッ、面白いですね貴方は……少し楽しく……楽しく……あれ?

 

「あ、姉御?どうしたんですか?」不良ε

 

なんですか…?これ…は…何故…力が───」ワカモ

 

 

 

 

足に突然力が入らなくなり、ワカモはその場にへたり込んでしまった。そして彼女は、愛銃に添えた自分の手の震えに、その原因に気づく。自分が過去にそこまで経験しなかったもの。ありえないもの……それは──

 

 

 

 

恐怖だった。

 

 

 

「やれやれ…」

 

そう言いながら、彼は腰に差していた何かに手を伸ばす。

 

「な、何を…?」

 

ワカモの悲痛そうな声を無視するように、彼が腰に差すナニカの正体が明らかになっている。

 

「そ、そんな…」ユウカ

 

「…恐ろしい。ただひたすらに…」スズミ

 

黒い柄に黄色い菱形の模様が規則的に並び、その刀身は白金の如く白く、美しく、そして鋭く輝く…

 

日本刀であった。

 

そしてその白金の刀をワカモに突き付け──

 

 

 

 

 

「チェックメイト、だな」

 

 

 

 

 

高らかに勝利を宣言した。

*1
話は理解したが超法規的機関という言葉を聞きそんなのアリなのかよと思い再度聞いている

*2
身体は闘争を求める

*3
こうなるのも無理はない

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