The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
【──ispAlnp-isaōoasycIn──】
隆一の視界の端、整備用ハンガーに吊るされた機体──その黒く沈んでいたレンズが、唐突に煌めいた。
「えっ、何!? 電源が入った!?」マキ
「ッ──!?」ハレ
ギギッ、と錆びた金属の擦れる音。撓る主腕と六本の操作糸が空気を切り裂き、隆一は咄嗟に距離を取った。
「あり得ねぇ!いきなり──」
鍵となる存在も、この場にはいない筈だ。一体何がトリガーになった?…そう思考した瞬間、部室の扉が開く音が響いた。廊下からの光を背に立っていたのは、遠ざけた筈のアリスだった。
「……ちょっ!アリスッ!?」隆一
「ご、ごめんなさい先生! アリスちゃんが急に走り出して……!」ミドリ
愕然とする隆一の前で、アリスはただ真っ直ぐ機械を見つめている。胸元で握っていた紙幣が一枚、指先からするりと落ちた。
「アリス、これを……知っています」アリス
誰かが彼女に語りかけている。彼女にしか聞こえない声。優しく、機械的で、内側から何かを引き出そうとする声。
「まさか、外部ネットワーク経由で侵入したのか──ッ!」隆一
その瞬間、部室のモニタという全てのモニタが紫の光に包まれる。『Divi:sion』の文字が明滅し、電灯が落ち、電子機器が異音を発し始めた。
「な、何かモニタが一斉に変な……!?」マキ
「アリスちゃんの様子がおかしいよ……!」モモイ
「待つんだアリス! 触んな──ッ!」隆一
隆一は駆け出し、手を伸ばす。しかし一歩、遅かった。紫電のような光がアリスと機体を繋ぎ、致命的なナニカが彼女を貫いた。
【──起動開始】
轟音と共にハンガーが叩き壊され、五体の機体が一斉に起動する。
「本格的に動き始めた!? コタマ先輩何かした!?」マキ
「違います、私は何も……ッ!」コタマ
「これって、誰かに攻撃されているの……!?」モモイ
ヴェリタスの面々は愛銃を手に身構える。強烈な電磁波がアリスを中心に放たれ、手を伸ばしていた隆一はそれに弾かれ、床を転がった。ユズが辛うじて彼を受け止める。
「アリスッ!」隆一
「コードネーム『AL-1S』起動──プロトコルLIPIT-ISHTARを実行します」アリス?
長い髪を靡かせ、瞼を押し上げるアリス。しかし覗く瞳は澄んだ空の色ではなく、鮮烈な赤。前を見据える表情には、生気がない。
間に合わなかった。隆一が猛烈な後悔に襲われた瞬間、紫色の光線が壁に突き刺さり、破片が飛び散った。
「撃ってきたッ!?」ハレ
「先生、退いて下さいッ!」コタマ
皆はデスクやラックを倒して即席の盾とする。光弾を放つ機体群、そしてその奥で緩やかに歩を進めるアリス。
「な、なにこれ……」モモイ
「一体、どうなって、アリスちゃん……!?」ユズ
「応戦するッ!皆、身を守れ!」隆一
隆一が指示を飛ばそうとした腕を、震える指先が掴んだ。見れば、涙を滲ませたモモイがこちらを見上げている。
「先生、これどうなっているの!?この変なロボットにアリスが操られちゃったの……!?」モモイ
「──ッ!」隆一
五体の機体はアリスを守るように取り囲み、砲口を此方へ向けている。
「モモイ、多分違う。違う、はずだ……!」隆一
ハレは倒したデスクの裏から愛銃を構え、浮遊するアテナ三号の分析結果に目を走らせる。
「周辺ネットワークが遮断された、あのロボットが起動した瞬間に……ロボット達の動きはまるで──」ハレ
「──有機体の生命反応確認、解析開始」アリス?
冷たく平坦な声が、ハレの言葉を遮った。アリスの赤い瞳が、隆一を捉える。
「解析完了……【箱の主】を確認。最優先排除目標に該当」アリス?
「武装検索、該当。プロトコルHARMAGEDON実行」アリス?
背中の巨大な火砲を掲げるアリス。
「スーパーノヴァ──起動」アリス?
本来仲間に向けられる筈のない砲口が、皆を捉えた。ヴェリタスの面々が息を呑む。
「レールガンを使うつもり……!?」ハレ
「こんな閉所で撃たれたら……!」コタマ
「アリス! 此処には先生もいるんだよッ!?」モモイ
「アリスちゃん、正気に戻ってッ!」ミドリ
感情が追いつかず、指先が引き金にかからない。仲間に銃口を向けたくない──それでも。
「充填率八十、八十五、九十──」アリス?
「やめろ、アリスッ!」隆一
「撃つよ先生、耳塞いでッ!」ハレ
ヴェリタスが一斉に射撃を開始する。しかし機体群がアリスを庇うように壁を成し、弾丸は装甲に阻まれた。
「ロボットが邪魔で、弾丸が届かない……ッ!」マキ
「起動と同時に何か機構が変わったのかもしれない……!」ハレ
砲口が青白い光を放ち、放電を始める。過充填を示すスパーク。
「充填率百パーセント」アリス?
「アリスッ!」モモイ
「アリスちゃんッ!」ミドリ
もう、声は届かない。両足を踏み締めたアリスが、無慈悲に宣言する。
「──プロトコル
「クソ──ッ!」隆一
「先生、何してんのッ!?」モモイ
「危険です、私達を盾にして……っ!」ハレ
「皆、下がれッ! 俺の後ろに──防壁展開!」隆一