The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
「ああっ、くそッ…」
轟音の残響が消えぬ空間、粉塵の向こうで隆一は片膝をつき、身体を起こしていた。
爆発に巻き込まれ吹き飛ばされた瞬間、咄嗟に受け身を取っていたのが功を奏したのか、擦り傷程度で済んでいる。落下の衝撃を殺す動き、それはこの手の事態に慣れきった者だけが持つ反射だった。周囲を見渡せば、少し離れた瓦礫の山からヴェリタスの三人が這い出してくるのが見える。
「どうやら部室が爆発して、外に吹き飛ばされた様ですね……」コタマ
「で、でも、光の剣が直撃した割には、そんなに酷い怪我でもない様な……? まだ身体は動くし……」ハレ
「うん、痛みはあるけれど、想定したよりは──……」マキ
隆一は物陰に身を潜めたまま、その様子を伺う。無事なようだ、安堵する間もなく、ハレの顔が青ざめるのが見えた。
「っ、そうだ──先生ッ!?」ハレ
自分達を庇った背中、その後の爆発。同じように吹き飛ばされたはずの隆一を案じ、ハレが弾かれたように立ち上がる。
「さ、探さないと──ッ!」ハレ
そこへ、頭上から影が落ちる。積み重なった瓦礫を押し潰し着地するそれは──光の剣を担いだアリス?だった。アリス?の赤紫の瞳が一行を捉える。
「──対象の生存確認。リロード後、再度プロトコル実行」アリス?
「あ、アリス──ッ!?」ミドリ
「もう一発撃つ気……!?」ハレ
「アリス、ちゃん……お願いだから──ッ!」ユズ
「こんな時に──! マキ、攻撃を!」ハレ
「あ、あたしの銃、瓦礫に埋まっちゃって……!」マキ
「仕方ありません、援護します! マキ、今のうちに再武装を……!」コタマ
「撃ちますッ!」ハレ
発砲。弾丸がアリスの頭部、肩、腕に突き刺さるが、彼女は堪えた様子を見せない。そしてスーパーノヴァが蒸気を噴き、冷却が始まる。
「っ、効いていない……?」ハレ
「私達の銃では、威力が足りないのかもしれません──っ!」コタマ
「ど、どうするのッ!?」マキ
「仕方ありません、突貫します……!」コタマ
「組み付いて、スーパーノヴァを奪う──ッ!」ハレ
「ほ、本気ですか!?」ミドリ
「それ以外に選択肢はありませんッ!」コタマ
「行きますッ!」ハレ
「っ、わ、私も……!」ミドリ
「マキッ!」コタマ
「わっ、分かったよっ!」マキ
「アリスちゃん……ッ!」ユズ
隆一は物陰から動かず、静かに彼女達を見守っていた。手を出そうと思えば出せる、しかし今は──介入すべき時ではない。そう判断し、拳を握り締めたまま息を潜める。
「緊急冷却完了。再充填開始──」アリス?
「おい」???
遮ったのは、力強く無造作な声だった。アリスが目を見開く。
「チビ、そこまでにしておけ」ネル
「ッ──!」アリス?
アリスは背後へ光の剣を薙ぎ払うが、手応えはない。影が懐へ入り込んでいた。
「──悪いが、その攻撃はもう知っている」ネル
膝蹴りが顎に突き刺さり、アリスの視界がブラックアウトする。
「…暫く寝てろ」ネル
両手のSMGがアリスの腹部を連続で叩く。
「ぐ、ぎッ──が、は……」アリス?
「悪いが、加減はナシだ……この距離じゃ、あたしに勝てねぇって言っただろ」ネル
アリスは悔しげに歯を食いしばり、やがて呟く。
「ッ、おう、じょ──……」アリス?
「──あ?」ネル
そのまま倒れ伏し、規則正しい呼吸を繰り返すばかりになったアリス。ネルが眉を顰めた、その時。瓦礫の中から触手めいたケーブルが伸び、紫色の光が漏れる。追跡者が再び蠢き出していた。
「こいつら、
「ね、ネル先輩……! その機械は──!」ハレ
「良い、テメェ等は下がっていろ、コイツ等の相手は慣れている」ネル
その瞬間、Divi:sionの外装甲に叩きつけられる弾丸、それは装甲に穴を穿ち内部深くまで侵入、そのまま小さな爆発を引き起こし、瓦礫に叩きつけられ沈黙した。
「──命中確認、対象沈黙」カリン
「──どうやら、動くロボットはそれで最後のようですね」アカネ
粉塵を割って現れたアカネが、周囲に転がる残骸を一瞥する。ネルは足元のアリスを見下ろした。
「クソ、一体何があったんだ? 部室棟の方が騒がしいと思って来てみりゃ、棟の一部が完全に吹き飛んでンじゃねぇか」ネル
「事故、という感じではありませんね。それにアリスちゃんの、先程の様子……」アカネ
「あぁ」ネル
「チビが
そこまで言いかけたネルの視界に、瓦礫の陰から歩み出る人影が映った。埃を払いながら、平然とした様子で現れたのは隆一だった。ヴェリタスの三人が驚愕の声を上げる。
「先生ッ!? ご無事だったんですか……!?」ハレ
「あぁ、ちょっと埃を被った程度だ。ギリッギリで防御を展開したお陰様で、全員想定よりかなり軽症で済んだし」隆一
「そ、それだけ……!? 私達の方が酷い有様なのに……」マキ
「考えてみろ、あの高さから落ちたんだ。その軽傷で済んでる方が異常だ」隆一
しかし、ネルは訝しげに隆一を睨む。
「アンタ、『
「まあ、ね……それより、アリスは大丈夫かい」隆一
「意識はねぇが、息はしてる。ひとまず、コイツについては後で話がある。それより先生、こっちの状況を説明しろ」ネル
「ああ、それについては──」隆一
言葉を交わす一同から少し離れた場所で、カリンがふと後方に視線をやり、不安げにネルの肩を掴んだ。
「……ネル先輩」カリン
「あ?」ネル
「その、さっきからアスナ先輩の様子が……」カリン
「アスナ?」ネル
振り返れば、皆から離れた場所に立つアスナの姿。顔色は真っ白で、自身の二の腕を摩りながら周囲を忙しなく見渡し、顔は嘔気を堪えているように引き攣っている。
「おいアスナ、一体どうし──……」ネル
問いかけたネルの声が、途中で止まる。アスナの表情を見た瞬間、その態度が一変した。
「──何があった?」ネル
アスナは震える声で、地面を見つめたまま答えた。
「わ、分かんない、分かんないけれど、何か、凄く……
──……嫌な、感じ」
その一言に、その場の空気が重く沈んだ。彼女の勘は、良く当たった──それが喩え良い意味であれ、悪い意味であれ。