The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
「──だ、誰か……ッ!ぃ……!」???
くぐもった声が聞こえた。それは無造作にばら撒かれ、積み上がった瓦礫の残骸──その下から。聞き覚えのあるそれに、ゲーム開発部の二人は素早く反応し、慌てて周辺を見渡す。
「お、お姉ちゃん……? どこ、何処に居るの!?」ミドリ
「も、モモイ!?」ユズ
『……………………? 近くに…………!? こ、此処っ…………ゲホッ』モモイ
ゲーム開発部、ヴェリタス、C&C──全員が声のする場所へと駆け出す。モモイの声が聞こえたのは、一際大きな外壁の残骸に覆われた場所。崩落した際に街路樹を巻き込んだのか、削られ、幾本もの枝が折れ曲がった樹に被さる様にして瓦礫は積み重なっている。
複雑に重なったそれは、辛うじて内部に空間を生んでいるのか、しかし微かに覗く隙間は余りにも狭く、人の通れる大きさではない様に見えた。入り口を塞ぐ様にして横たわったそれを前に、ミドリとユズは真っ先に飛びつく。
「声は、この瓦礫の中から……!?」マキ
「も、もしかして、コレの下敷きに!?」ハレ
「そんなっ……お姉ちゃん!」ミドリ
「はっ、早く、早くこれ持ち上げて、二人を助けよう……ッ! モモッ、今助けるから!」マキ
「み、ミドリッ!」ユズ
「う、うん!」ミドリ
「私達も……!」ハレ
「分かりました──!」コタマ
ヴェリタスの三人、そしてユズとミドリは他に方法は無いと瓦礫に手を掛け、持ち上げようと試みる。積み重なった瓦礫には手を掛けず、穴を塞ぐ残骸だけを退かす。それなら他を崩す心配もない──全員が渾身の力で瓦礫を持ち上げ、退かそうと足掻いていた。しかし相応に巨大なそれは重く、元より肉体派ではない五人が集まっても中々動かす事が出来ない。
「う、ぎッ……っ!」ハレ
「お、おもッ──!?」マキ
「も、もうちょっと、頑張ってよ、先輩……ッ!」ミドリ
「こっ、これでも、精一杯──ッ!」ハレ
「ぐ、ぐッ……!」ユズ
不意に周囲が騒めきだした。爆発を遠目に見ていた生徒が集まり出しているのだ。何処からともなく聞こえて来る警告音アラート、頭上を仰げば警備ドローンが集合しつつある。これ以上野次馬が集まれば、不必要な混乱が起こりかねない
「チッ、おい! 手ぇ貸すぞッ!」ネル
「了解──!」アカネ
「勿論です……!」カリン
ゲーム開発部、ヴェリタス、そこにC&C全員が加わり、総勢九人で巨大な瓦礫を持ち上げる。C&Cが加わった途端、ぐんと瓦礫が揺らめき、同時に徐々にではあるが押し上げられていく。薄暗い闇に覆われ、狭く通れなかった場所に細い隙間が生まれ、陽光が差し込んだ。
そこから、小さく血に塗れた手が這い出る。モモイの腕だ──彼女は外に出ようと狭い隙間を這っていた。
「っく──このまま押し上げ続けろッ!」ネル
「お、お姉ちゃんッ! 早く、早く出てッ!」ミドリ
「も、モモイ、がん、ばって……っ!」ユズ
「マキ、踏ん張って下さい……!」コタマ
「くぅッ……!」マキ
「テメェ等踏ん張れッ! 此処で手を抜いちまったらモモイが押し潰されんぞ!?」ネル
全員の協力で開かれた僅かな隙間に、必死で手を伸ばす。彼女の制服は砂と血に塗れていて、いつも身に着けているヘッドフォンは片耳の装飾が半ばから圧し折れていた。
ずり、ずり、と。少しずつ外へと引っ張り出されるモモイ、暗闇から陽の当たる場所へと連れ出されたモモイの姿を見た時──生徒全員が喉を引き攣らせる。
「ひっ……!?」ハレ
「モ、モモ……っ!?」マキ
「そ、んな──……」コタマ
「おいおい、冗談だろ──……ッ!」ネル
隆一は青ざめたモモイの顔と、力なく投げ出された身体を見つめたまま、その場に立ち尽くしていた。
翌日、シャーレ地下──かのテレスクリーンの部屋。
薄暗い石造りの空間に、隆一の足音だけが響く。壁面のスクリーンは今は沈黙したまま、代わりに部屋の中央、いつもの位置に佇む"老紳士"の姿があった。
「モモイの容体は、聞いているかい」隆一
「ええ。意識不明の重体、とだけ」"老紳士"
「──そうか」隆一
隆一は短く息を吐き、老紳士の隣に立った。仮面の奥から、静かな声が返る。
「先生、一つ、耳に入れておきたい話があります」"老紳士"
「なんだ」隆一
「調月リオが、動きます。今回の一件を口実に──アリスを、確保しに」"老紳士"
「……確保?」隆一
「ええ。表向きは『キヴォトスの脅威を封じるため』。ですが、彼女の本音は違う」"老紳士"
「──破壊、するつもりか」隆一
「そう見ています。あの子は、賢いが故に躊躇わない。危険と断じたものは、根ごと絶つ」"老紳士"
隆一は暫し沈黙する。瞼の裏に過るのは、瓦礫から這い出てきた痛ましいモモイの顔、そしてその奥で普段の空色の瞳のまま立ち尽くすアリスの姿と、赤紫の瞳のまま立ち尽くしていた
「アリスは、モモイ達の仲間だ。あんまし手出しはしたくねぇ」隆一
「ええ、承知しています」"老紳士"
「それにあの子達
仮面の奥で、老紳士がわずかに頭を傾ける。
「貴方らしくない物言いですね」"老紳士"
「俺らしくない、か……アンタほどの人間なら分かるだろ?
「ええ、貴方はそういう人間でしたね──ただ、都合が良いとも言えます。リオを止める大義名分としては、これ以上ないものに他なりません」"老紳士"
隆一は目を細め、口の端をわずかに歪めた。
「ゲーム開発部を守り、アリスを乗っ取ったDivi:sionを撃退する──その名目で、リオを手中に収める」隆一
「結構。表向きの筋書きとしては、申し分ありません」"老紳士"
「エリドゥも、リオも……これで丁度良く片が付く。ジェン、セミナーの末端から幹部に至るまで、全員に例の"アレ"を注ぎ込んでくれ。」隆一
「御意に」"老紳士"
薄暗い部屋の中、二人の間に静かな笑みが交わされた。生徒を守るという清廉な理由の裏で、着々と積み上げられていく打算──それもまた、天音隆一という男のやり方だった。