The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
誤字脱字報告も同じく励みになります
ミレニアムサイエンススクール、会議室。
ノアの計らいにより、今日一日丸々借り切る事ができた場所に、ヴェリタス、ゲーム開発部、C&C、そして隆一が一堂に会していた。しかし誰の表情も、決して明るいとは言えない。
「……結局、会長がアリスを連れて行ったんだね」ハレ
「ねぇ、これって結構ヤバいんじゃない……?」マキ
「はい、非常事態です」コタマ
隆一は腕を組んだまま、壁際で静かに一同の会話を聞いていた。爆発の直後には無傷同然だったその姿に、誰も違和感を覚える余裕はない。
「……では、リオ会長が部長以外を呼び出さなかったのは」コタマ
「恐らく、最初からリーダーが裏切ると想定していたのだろう」アカネ
「そして、その虐めた相手が
「アカネちゃんはトキちゃんの事何か知ってる?」ハレ
「……いえ、詳しい事は殆ど。私も、私達以外にもう一人コールサイン持ちがいる、という事くらいしか」アカネ
「リーダーは彼女と戦ってみて、どうですか?」アカネ
「強ぇ。それだけは確かだ。からくりはあるだろうが、それを差し引きしても強ぇ」ネル
ネルは大きな溜息を吐き、悔恨に表情を歪めた。
「……目の前でアイツが連れて行かれるのを……アタシは、ただ見てる事しかできなかった……」ネル
「リーダー……」カリン
「なぁ、どうしてだ」ネル
「あのチビはどうして、ヘイローを壊すなんて話をされたのに、リオに付いて行ったんだ?」ネル
「……取り敢えず、一旦状況を整理してみましょう」コタマ
コタマが大型のタッチディスプレイを持ってくる。
「そうだな……情報共有といこうか。アタシ達には、知らない事が多すぎる」ネル
状況の整理が進む中、隆一は口数少なく、ただ淡々と皆の話に耳を傾けていた。時折挟む相槌、時折向ける視線──そこに滲む感情は、誰にも読み取れない。
「……アリスちゃんは……会長の言う通り、本当に……魔王なんでしょうか?」ハレ
「アリスちゃんの気持ちをちゃんと聞いて、お話したいよ……」コタマ
「アリスの最後の言葉、まともなエンディングですらない! 最悪だよ!だから私はアリスを連れ戻しに行く! 皆、そうじゃないの!?」モモイ
「……うん、そうだね」ハレ
「流石モモ!」マキ
「感謝するぜ、チビ。奪われたものがあるなら奪い返せばいい。単純明快だ」ネル
「ふふ、言葉にする必要がありますか?」アカネ
「それが部長の決定なら」カリン
「勿論付いてくよ~♪」アスナ
──此処に、アリス奪還作戦の決行が決定された。
しかし、奪還作戦の決行が決定したは良いが、決まっただけ。リオの潜伏先とアリスの居場所は闇の中だった。隆一は静かに口を開く。
「……俺も行くか」隆一
「先生……」モモイ
「アリスを、放ってはおけない」隆一
その言葉に一同が頷いた、その時──突然、会議室のドアが音を立てて開いた。
ドアの向こう側に立っていたのは、事実上のセミナーのトップたるノア、そして連れられたコユキ。
「リオ会長がアリスちゃんを連れて行った先が分かりました」ノア
「本当!?」モモイ
「えぇ……モモイちゃんも、起きたのね。無事でよかった」ノア
ノアはそう言って笑みを零す。しかしその瞳が、隆一の姿を捉えた瞬間──ほんの僅かに、色を失った。
「──先生」ノア
「……お疲れ様、ノア。コユキも」隆一
その時、ノアとコユキの声が、まるで示し合わせたかのように綺麗に重なった。ネルがその様子にふと眉を寄せるが、誰もそれ以上気に留めない。ノアの内心には、隆一を見た瞬間に湧き上がる焦燥にも似た熱があった。その衝動は、彼女自身の恋心にしては、いささか性急すぎるものだった。だが、そんな違和感を自覚する間もなく、ノアはタブレットを操作し画面をミラーリングする。
「んで、その潜伏先は何処だ?」ネル
「今画面に映しますね……此処です」ノア
「んだこりゃ……都市、か?」ネル
映し出されたのは無人の未来都市だった。しかし、それは拠点と呼ぶには余りにも大きすぎた。乱立する大小様々なビル、その合間を縫う様に設計されたモノレール、遥か奥に見える山々と比較しても劣らないタワーが中央に聳え立ち、その外周を囲う様に高壁が並んでいるのが辛うじて視認出来る。広さはどれほどか、この画像一枚では全体像が分からず確かな事は云えないが、それでもミレニアムの区画一つに匹敵する程の大きさがある事は確かであった。
「コードネーム、エリドゥ。リオ会長が秘密裏に建設していた、終焉に備えるための要塞都市だそうです」ノア
「そうだがよぉ……こんな規模の都市を秘密裏に建てるなんて、リソースはどうなってんだよ」ネル
「……それが、セミナーの予算を横領してたんです」ノア
「いや、横領には気付けよ。何のための会計兼書記なんだお前は!」ネル
「にはは!ぐうの音も出ないですね!」コユキ
ノアとコユキは示し合わせたように、全く同じ角度で肩を落とした。その所作の一致に、隆一だけが一瞬、静かに目を細める。
「……疲れているだろう。これ、飲むといい」隆一
隆一は懐から小さな水筒を取り出し、二人に手渡した。ノアもコユキも、一切の躊躇なくそれを口にする。まるで、そうする事が当然であるかのように。飲み干した瞬間、二人の瞳が一拍だけ、ひどく凪いだ色を見せた。それは疲労のせいには見えない、奇妙な静けさだった。
「……ありがとうございます、先生」ノア
「──美味しいです!」コユキ
すぐに元の表情へと戻る二人。誰もそれを気に留めなかった──ただ一人、隆一を除いては。彼はその様子を一瞥し、何事もなかったかのように視線を画面へと戻す。
「……ここから先は私達の仕事です。御二方はミレニアムに残ってください」アカネ
「ッ! でも……!ノア先輩がいれば…」モモイ
「お気持ちは分かります。ですが、セミナーが不在となってはミレニアムの行政が麻痺してしまいます。ここは私達にお任せください」アカネ
「承知しました。」
そう言い残し、ノアは会議室を後にした。