The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
誤字脱字報告も同じく励みになります
ノアとコユキが会議室を後にしようとする、その間際。
「……先生、無理はなさらないでください」ノア
「お気遣い感謝感謝。そう言うノアもコユキも、セミナーの仕事、無理すんじゃねぇぞ?リオの件できな臭い情勢になってるとはいえ、人間なんだから休息もしろよ?」隆一
「はい、お任せください」ノア
「お任せください!」コユキ
二人はそう言って一礼すると、静かに会議室を後にした。セミナーの職務は山積みだ、ミレニアム全体を預かる立場として、彼女達がこの場に長く留まる訳にはいかない。それにユウカが失脚してからと言うもの、ノアの仕事もどっと増えた上、それを見たコユキの悪ふざけも随分と些細になった。コユキにつまらない思いをさせていないか、苦しませていないか…二つの背中を見送りながら、隆一は思案に耽る──が、それも一瞬の事だった。
「……さて、アリスの居る場所は分かったけれど」ハレ
「問題は、一体どうやってこのエリドゥに潜入するか、という事ですね」コタマ
「う、うーん」マキ
「場所は分かっているんだし、もういっその事、正面から突撃しちゃっても──!」マキ
「──それはお勧めしない」???
勇んで告げるマキの声を遮る様に、部室の入り口から声が響いた。扉が開き、廊下側から差し込む光に、面々が驚きに目を見開く。
「あん?」ネル
「あら……」アカネ
「えっ、あれ!? エンジニア部!?」モモイ
「わわっ……!?」ミドリ
「やぁ、失礼するよ」ウタハ
現れたのはエンジニア部のウタハ、ヒビキ、コトリ。彼女達は訳知り顔で微笑みを零しながら、廊下の光を背に胸を張る。
「立ち聞きですまないが話は聞かせて貰った、全く、何やら学園全体が騒がしいと思えば──随分と大変な事になっている様子だね」ウタハ
「……今回の件は、ちょっと色々やり過ぎたと思う、アリスの事も、先生の事も」ヒビキ
「私としてもリオ会長の行動には疑問が残ります!」コトリ
「エンジニア部が、どうして……?」ユズ
「簡単な事だよ、リオ会長は勝手にエンジニア部最大の発明品を奪って行ったのだろう?」ウタハ
「は、発明品……?」ユズ
「あっ!」ミドリ
「
「御明察」ウタハ
「うちのデータ実測の邪魔をするなんて、それは越権行為に他ならない、事実上エンジニア部に向けた宣戦布告って訳さ……それに先生の件も黙っていられなくてね」ウタハ
「……ウタハ先輩の恥ずかしがり屋」ヒビキ
「んんっ、ヒビキ?」ウタハ
「説明しましょう! 友達を助けに行きたいけれど、それを口にするのはちょっと恥ずかしい! そうだ、いっそ物を奪われた事を口実にして──」コトリ
「ちょっと、コトリ」ウタハ
「もがッ!」コトリ
「しーっ」ウタハ
「ふぐッ、んん、わかりまひた……!」コトリ
「んんッ、兎にも角にも、大事なのはアリスを連れ戻す事だろう? 是非協力させてくれ」ウタハ
「うん、私も手伝うよ」ヒビキ
「分からない事があれば何でも聞いて下さい、はい!」コトリ
作戦の協力を申し出るエンジニア部、その実力を良く知る一同は快く彼女達を迎え入れた。
「それで、えっと、侵入する方法に関して何か策があるんですか?」コタマ
「会長なら恐らく対侵入者用の防御システムを構築しているだろう、馬鹿正直に侵入などしようものなら何故エリドゥが『要塞都市』と呼ばれているのか、身を以て知る事になるだろうね」ウタハ
「防御システムって、具体的には……」ミドリ
「ちょっと、先程の画像を見せて貰っても良いかな?」ヒビキ
「あ、うん」ハレ
ハレが端末を操作し、エリドゥの画像をホログラムで表示する。三人は投影されたそれを凝視し、視線を鋭く変えた。
「これは、外周部分が高壁で覆われているみたい……かなり高い」ハレ
「外部からの攻撃を警戒──いや、この構造、都市のギミックの一部になっているのかな?」ヒビキ
「遠目からでは判断も難しいですが、此処に見えるのはおそらく
「会長はドローンを扱っていたのだろう? ならまず自律ドローンは配備されていると見るべきだ」ウタハ
「この部分、対空設備ですね!
「ふむ」ウタハ
一通り観察を終えたエンジニア部は、改めて皆に向き直る。
「結論から云うと、最低でも真正面から挑むなら自律砲台による砲撃、ドローンによる銃撃、誘導弾、
「じゃ、じゃあどうすれば良いのさ!?」モモイ
「今口にしたのは、あくまで普通に挑んだ場合の話だよ──だろう、コトリ?」ウタハ
「はい! エリドゥ内部に侵入可能なルート、それも比較的安全に……そんなルートに一つ、心当たりがあります!」コトリ
「簡単な事さ、都市建設の人手だけならば会長の生産したドローンや無人機で事足りるかもしれないけれど、資材ばかりはどうしようもない」ウタハ
「……あ」ミドリ
「成程、都市建設資材や物資の搬入ルートですか」アカネ
「そういう事」ヒビキ
ヒビキが端末でミレニアム自治区の全体マップを投影する。郊外より伸びる無数の赤い線──物資運搬用の貨物線だ。ハイランダーが管轄するミレニアム自治区内の幹線から蛸の足のように無数に分かれる線路の筋、そしてそこに浮かび上がる深夜のミレニアムを走る貨物列車の様子。
「ミレニアム自治区郊外には、輸送用の無人列車が沢山ある」ヒビキ
「都市建設資材をミレニアムから調達しているのなら、ミレニアム自治区内に存在する貨物駅から出発する列車のどれかがエリドゥと繋がっている筈です!」コトリ
「問題はどうやって路線を割り出すかだけれど──」ウタハ
「勿論、その事に関しても作戦があります! ちょっとだけ時間は頂きますけれどね……!」コトリ
「す、凄いじゃんエンジニア部!」モモイ
「い、至れり、尽くせり」ユズ
「けれど、潜入してハイ終わり──という訳じゃない」ハレ
エリドゥは要塞都市と呼ばれる程の建築物である以上、内部にも侵入者を撃退する相応の設備や戦力が存在する…それに用心深いリオの性格を鑑みれば、新しいC&Cを陰で作ったりしてもおかしくはないのだ。
「そうだね……仮に侵入出来たとしても、皆の云う通り相応の出迎えがある筈だ」ウタハ
「それに要塞都市の防御システムをどうにかしても、まだ問題が残っている」ヒビキ
「えっ、問題って、まだあるの!?」モモイ
「リオ会長の護衛──あのメイドですね」コタマ
「……コールサイン・ゼロフォーか」ネル
「確かに、あの時の武器、まるで魔法みたいで……」モモイ
「げ、ゲームの、チートプレイヤー、みたいだった」ミドリ
「場所は敵地だし、乗り込んでもこっちが消耗した状態で戦う事になる」ネル
「此方も、真正面から戦うのは得策ではないかもしれません」アカネ
「となると──」アスナ
「連中と一戦交える為に、綿密な作戦が必要だな」ネル
「ね、ネル先輩大丈夫?熱とかない……?」モモイ
「あ?」ネル
「も、もしかして怪我をした反動で──」モモイ
「……一体何の話だ?」ネル
「任務モードの部長だ、心配ない」カリン
「大丈夫、仕事モードになった部長はとっても真面目だから!」アスナ
「えぇ、信頼して下さい」カリン
「当たり前の話だが、要塞都市に侵入出来たとしても隠密行動でチビを救出するのは不可能だ……突っ込んだ時点で正面から撃ち合う想定をしていた方が良い」ネル
「そ、そうなの……?」ミドリ
「あぁ、誰がなんと云おうが、あいつは『ビッグシスター』だからよ」ネル
「ですが部長、そうなるとリオ会長の思うツボでは……」アカネ
「そうだな、だから一層派手に暴れて目を惹き付けてやる」ネル
「──もしかして、陽動?」ハレ
「ビンゴ」ネル
「ど、どういう事?」モモイ
「成程……」アカネ
そもそもの話、この統一戦線(仮称)の目的はあくまでもアリスを救出する事であり、リオ会長を倒す事でも、
「主戦力の部隊が目立つ様に行動して、救出部隊が迂回してアリスを確保する……」コタマ
「……あぁ! 二手に分かれて行動するって訳?」マキ
「そうだ、あっしらC&Cが真正面から突っ込んで騒ぎを起こしてやる、そうしたらリオも、あのトキって奴も、こっちの相手をせざるを得ないだろう? その間にお前達がチビを救出しろ」ネル
「で、でも、実際に可能なの? こんな要塞都市って呼ばれる位の戦力を、C&Cだけで──」モモイ
「あぁ? あっしを誰だと思っていやがる?アイツには一杯食わされたからな、次会ったら倍返してやるって決めてたんだよ!」ネル
「分かりました」アカネ
「オッケー、任せて!」アスナ
「えぇ、いつも通り、敵対者には鉄槌を」カリン
「決まりですね、正面は部長と私達──C&Cが担当致します」アカネ
「ふむ、ならば後方から潜入するのはゲーム開発部と私達エンジニア部……」ウタハ
「私達ヴェリタスは遠隔で支援するよ、防衛システムのクラックには人手が必要だからね」ハレ
「任せて下さい、完璧にやり遂げて見せます」コトリ
「うん……分かった!」モモイ
各々の役割が定まり、C&C、エンジニア部、ヴェリタス、ゲーム開発部の全員が頷きを返す。モモイは仲間達の顔を眺めると、不意に力強く自身の頬を張った。不安はあった、けれどそれ以上に勇気が勝った。
「行こう──絶対に、アリスを助ける!」