The Hypocrite's Archive 作:Xelphyr
弾丸を受け流しワカモに反撃した彼を前に、呆然と立ち尽くす不良達は逃げられない二者択一を迫られる。
「──最後通告だ。投降して配下になるか…それか肉片にされる、どちらを望む?」
「ヒィィィっ!?」不良達
「こ……こうなったらもうヤケクソでも良い!なんとかしてあいつを──」
せめてもの抵抗を試みた不良の一人が銃を向けて応戦し、彼に弾丸をばら撒こうとする──が、それに対するは7.62mm弾の返礼。ハスミの愛銃・インペイルメントの攻撃だ。
その音で我に返った不良たちも次々と武器を構えるが、続けてユウカとスズミからの射撃を浴びてばたばたと薙ぎ倒されて折り重なる。
「ギャァ!?」不良η
「先生に手出しはさせませんよ」スズミ
「や、やべぇ!?あいつだけじゃなかったんだった!!」不良θ
「どうする!?本当にこのまま…」不良ι
彼の両隣にユウカ、スズミ、チナツ、そしてハスミが並ぶ。ユウカ達は各々の愛銃を、そして隆一はリボルバーを、不良の群れへと突きつけるように向けて見せた。
「血祭りにする?」
実質的な彼の死刑宣告に、チンピラ達は腰を抜かしそのまま武器を手放した。各校の代表といえる面々に、一撃でワカモを屈服させる人外───相手取るには絶望的な5人の姿に、不良たちはたやすく戦意を喪失した。不良たちは程なくして、ヴァルキューレ警察学校の部隊によってお縄にかかることとなった。
「やれやれ…一件落着」
「ええそうですね〜〜〜じゃ、ない、です!!」ユウカ
「いくら先生があんなにも強いとはいえ、あの戦場の前に立つなんて危険すぎます」スズミ
「その通り、当たりどころ次第では本当に危なかったんですよ?」ハスミ
「命知らずにも程がありますよ」チナツ
4人は当然、前線に立った彼に対して正論ラッシュをかます。隆一は独断専行で突っ走ったことについて、素直に謝罪した……が、同時に彼が譲れなかったことについても口にした。
「い、いや〜ね…ホントその通りなんすけど…
「それに?」スズミ
「確かにあんたらキヴォトス人の体は一般人よりも桁違いに頑丈かもしれない…けどさっきのユウカみてぇに、当たればしっかり痛いし、何度もやられちゃったら流石にまずいでしょ?」
「ええ」
「だからこそ、黙って見過ごすなんて俺には出来っこ無い………だからこそ、心配してくれて感謝するよ」
彼が4人に素直な理由を打ち明けると同時、通信を介してリンが声をかけた。
「先生、聞こえますか?」
「…リンか」
「よかった…シャーレはもう直ぐそこです、私もヘリでそこへ向かいます」
「了解」
こうして不良達を制圧した隆一は、シャーレ本部の地下へと向かった。
インフラの復旧が滞っている弊害か、照明も空調も機能せず薄暗いままの地下室。そこに踏み入った隆一の眼前には、先程隆一に銃撃を見舞ったはずのワカモが座っていた。
「またお会いしましたね…先生♡」
「!」
「おっと、おまちになって?」
「……要件なら早めにな」
彼は直ぐに攻撃しようと腰のホルスターに手を伸ばすが、それをワカモは静止する。彼は片手でいつでも銃を撃てるよう構え牽制しながらワカモの目を見つめる。
「うふふっ……そんなに警戒をされてはゆっくりとお話もできませんよ?」
「hahaha、面白い冗談だな。まるでさっき人の顔に発砲した人間に絆されるとはな」
「あれはもう終わったことです…今はもう、あのようなご無礼は絶対に致しません」
「本当か?」
「勿論です」
「まあ…次はないがな」
「うふふッ、助かります」
彼が銃を下げ、ホルスターにリボルバーを戻した後、ワカモは笑いながら問いかける。
「先生は何故あんなことを?」
「あんなこと?」
「命の危険がある戦場のど真ん中に立ち、
「正直悪戯にエネルギーを消費したくなかったのもあるが、それ以前にアンタがやっちゃアカンことしてたからな」
「それです……"災厄の狐"、そう呼ばれている私が、今更その程度で止まるとでも?」
キヴォトスにおいて悪質な重犯罪を繰り返した生徒を閉じ込めておく矯正施設・連邦矯正局に勾留されては、幾度となく破壊工作と脱獄によって、敵味方問わず大規模な損害を出してきたワカモ。
この地に降り立って碌に時間も経っていない一人の男が説教をしたところで、何も変わらない……ワカモに限らず、誰もがそう思って当然だった。
「止まらなくても、止まるまで説教は続けるさ」
「…どうして?」
「君がやっている事が間違っているから。間違ったことをした人がいるならその人と向き合い、話し合って、自分が間違っていたことを気づかせる…それが本来、人として歩むべき道だからな。間違ったことが間違っていると理解する事ができないのも、それを教えてくれる人がいないのも、嫌だからな」
「…!」
隆一はワカモと目を合わせ、正面から真面目に向き合って理由を語る。
「君が狂気に苛まれているなら俺はそれを止める、それが何度だろうと……な」
「………それは…先生、としてですか?」
「それもあるが…それ以前に──一人の人間としてな。
「────…!」
隆一のその言葉に、ワカモは心臓を射抜かれたような衝撃を感じた。心臓から血管を通じて広がった衝撃で全身が火照り、自分でも分かるほど顔が赤く染まっていく。生まれて初めて抱いたこの衝動に、これまで重ねたような嘘はない……ワカモはこの瞬間、自らの本心を確信した。
「…?──顔赤いぞ?風邪か?」
「──き…今日は、この辺で失礼致します……貴方様、お名前は?」
「天音隆一。隆一で良いさ」
「隆一様、ですね……また、どこかでお会いしましょう。次は、もう少し長くお話できることを願って。──……うふふ」
「ああ」
ワカモは弾かれたように駆け出すと、風のような速さでその場から立ち去り、風に流された煙のように消えていった。
「(おもしれー奴だったな。使ってみる価値はあるかもしれん)」
彼はしばらくワカモの背中を見送りつつ突っ立っていたが、遅れてリンが到着した。
「先生、お待たせいたしました……?先生、何かありましたか?」
「さあな。気のせいだ」
「…まあいいでしょう、ここに連邦生徒会長の残した物が保管されています。幸い、傷一つなく無事ですね」
リンが手渡したのは、電子機器の一種であるタブレット端末。光沢を放つ白色のフレームに黒い液晶画面を備えたソレは、単なるタブレット端末でありながらどこか異様な雰囲気を纏っていた。
「受け取ってください」
「…タブレット?」
「それは連邦生徒会長が先生に残した物……シッテムの箱です」
「シッテムの箱……ただのタブレットじゃないか。箱といえば長持かと思ったが、全然違うな」
「あくまでも通称なので……ただのタブレット端末に見えますが、その実態は不明のままなのです」
「不明……?」
「はい。解析はおろか、パスワードの突破、素材……起動すら叶わない
リンは彼に端末を渡し、連邦生徒会本部との連絡のため地下室を後にした。改めて箱を手にした隆一は、画面を壊さないよう慎重に触れながら、側面の押しボタンなどを触って起動を試みる。
「…」スッ
程なくして電源ボタンに指が触れ、今まで暗いままだった画面が白く光り始めた。
「おお……」
・・・
システム起動パスワードをご入力下さい。
「パスワード……ねぇ…」
彼は思いつく限り、自分の語彙に存在する言葉を次々と入力していく。
鶏鳴狗盗・杞憂・親不孝・名誉の殺人・艱難辛苦・友情・孤高と孤独…
しかし応答はない。
「困ったな……他に思い当たる物なん、て……?」
その時、彼の頭に何かが響く。その言葉を端末に向けて試しに打ち込んでみる。
……。
・・・接続パスワードを承認。
現在の接続者…確認しました。
シッテムの箱へようこそ、天音隆一先生。
生体認証、及び認証書生成のため、メインオペレートシステムA.R.O.N.Aに変換します。
「……え?A.R.O.N.A.?──ちょっ!?」
その文字列が表示された直後、画面から眩い白色光が放たれ、彼は反射的に目を覆った。
──────先生──……────を…